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アラサー男子のカントリーライフ  作者: ねこやま.あおこ
3/3

それなりの理由があるのです。

 人口は横ばいどころか減少して増えていない。新築一軒家、住宅地は農村部に広がった。駅前は寂しく廃れた。飲み屋とビジネスホテルはあるが、ファミレスやファストフード店はない。田舎生活。車社会。ショッピングモールに行くには車が不可欠だ。中高生の集う場所は通学路に皆無に等しい。このままでは未来を担う者たちは都会に流出する。

 魅力的な町づくりね。浩輔は市役所勤務の友人からのメールを読んだ。街コンに強制参加させたヤツだ。はいはい。結果は分かってますけどね。また噛ませ犬的立場かよ。浩輔はメールを返すとひとっ風呂浴びたくなった。


 産直の隣に温泉施設ができた。中高生が喜ぶもの作れよ。おじさんおばさんのたまり場じゃんか。

「こうちゃん、いたの?」

 湯舟につかっていると、産直の名物店員あきおが手を振った。

「こんばんは。」

「隣いいかな?」

「…家で奥さんと2人で入らないんですか?」

「なんだよ。いきなり。」

 あきおは浩輔に肩が触れるくらい近づいた。

「近いです。」

「悪かったな。おっさんで。」

「そういう意味じゃ…」

「いい体してんのになぁ。農作業体使うっしょ。」

「ジロジロ見ないで下さい。」

「ひと仕事終えた後の温泉は気持ちいいねぇ。」

「結婚って大変ですか?」

「興味ある?」

「特に。」

「東京からお嫁さん迎えることもできるよ。」

「テレビで見ました。」

「ご両親と同居になるのかな?」

「軽トラですよ。おれの車。」

「楽しそ」

「外車買った友人いるし。」

「買えばいいじゃん。」

「金かけたくないんですよね。」

「女子受けよさそうに見えるけど。」

「は?」

「泳げる?」

「いえ。」

「マジか。海は好き?」

「キャンプですか?」

「女の子連れてしようよ。」

「さくらなんですよ。」

「桜?花見はとっくに。」

「広樹さんの店で街コンするそうです。おれ、さくらで参加します。」

「彼女作る気ないんだ。」

「テキトーですよ。テキトー。」

 浩輔は湯舟から上がった。

「その体、女の子に見せたらいいのに。」

 あきおは浩輔の後ろ姿にため息をついた。


「自己紹介お願いします。」 

「久世玲於奈。28。」

「イケメンよ。イケメン。」

 女子がざわついた。

「…五十嵐浩輔。29歳。農家の長男。以上。」

「農家の長男だって。大変そう。」

 速攻アウト。分かっていても傷ついた。

「お酒を飲みながら盛り上がりましょう。席の移動は自由です。」


「ふうっ」

 浩輔は端の席に移動した。

「隣いい?」

「はい。」

「なんかすみませんでした。」

 浩輔は玲於奈をチラッと見た。

「イケメンにはかなわないよ。」

「ありがとうございます。」

「自覚してるんだ。」

「男の人に言われると嬉しいです。」

「なんで参加したの?」

「さぁ。」

「さぁって。」

「職場の人が勝手に。」

「おれも似たようなもん。」

「ここの野菜、美味しかったんですよね。キュウリが新鮮で、久しぶり口にしました。」

「おれ作ってんの。」

「え?」



「農家なわけ。女子引くよな。長男だし。何のメリットもない。おまけに軽トラ。」 

「ぼくは免許ないんで。」

「仕事は?」

「研究室。理系。」

「スゲーな。」

「桜、土手に見に行きました。確か去年、全国放送で花火大会の中継があって、浴衣姿の山岡大介が進行役で。」

「あぁ。美咲ちゃんアシスタントで。」

「美咲ちゃん?」

「地元出身で、ローカル局のアナウンサーになって。1度おれんちの畑に取材に来た。」

「ふーん。」

「なに?」

「浩輔さんでしたっけ?」

「おぅ」

「浴衣似合いそう。」

「いやいやいや」

「浴衣デートとかしたんですか?」

「あんな前がはだけそうなやつ着れるか。旅館の浴衣も嫌いだ。」

「…覚えていませんか?」

「初対面だろ?」

「抜けました?」

「は?」

「ここじゃ言えませんね。」

「何の話?」

「抜くってあれしかありませんよ。」

「笑うな。」

「うちで飲みましょう。」

「誰の。」

「ぼくのですよ。」

「…久世さんでしたっけ?」

「はい。」

「おれは敗退でも、久世さんには告白タイムが待っています。」

「今告白します。ぼくとつきあって下さい。」

「しゃぁねーな。って不毛だろ。」

「下の毛、剃ってるんですか?」


「男同士つるんでどうする?明日中西に怒られる。」

「タクシー拾いましょう。」

「久世さん困るでしょ。」

「楽しいです。」

「イケメンお持ち帰り。洒落にならない。」

「ぼくが浩輔さんをお持ち帰りします。」

「こっちに来て、日も浅くて、心細くて寂しいのは分かるけど。」

「寂しいです。マジで。」


「ここに住んでたんだ。」

「1部賃貸なんです。会社が負担しています。」

「田舎に不釣り合いなマンション。どんなヤツが住んでいるのか気になっていた。」

「よかったですね。入れて。」

「…彼女、東京に置いてきたのか?」

「そうきましたか。」

「腹くくった。朝までここにいる。」

「どうぞ。」

 玲於奈は浩輔を中に入れた。

「レンタルビデオ店でぶつかったのはぼくです。」

「あっ。」

「…キュウリはスライスされていても思い出して。そこ座って下さい。ビールでいいですか?」

「キュウリってなんだよ。エロビデオと関係ねーじゃん。」

「突っ込まれました。」

 玲於奈はソファーに座った浩輔に缶ビール渡した。

「逆だろ?」

「入れたやつ、食べたんですよね。指でする時や入れる時はゴムしていたから。あーあ。やっちゃったぁって感じで。それからキュウリが食べれなくなって。」

 玲於奈は浩輔の隣に座りビールを飲んだ。

「何の話?」

「作り手の愛情って伝わるんですね。克服しちゃいました。」

「キュウリ、どこに入れた?」

「ア○ル」

「ア○ル?」

「浩輔さんのあそこって大きいですか?」

「久世さん?」

「ゲイなのにコンパ参加すんなですよね?」

「ゲイなのか?」

「承諾なしで襲ったりしないから。」

「恋人は?」

「ここに来る前に別れました。つか、既婚者ですからね。」

「既婚者って?」

「相手はバイです。男も女も抱ける」

「はぁ。」

「エロビデオでしこったんですよね。」

「…久世さん。」

「かわいかったなぁ。妄想しました。口でしてあげたくなりました。」

「久世さん。正気に戻って下さい。でないと帰りますよ。」

「したい。したいの。させて。させてよぉ。触れたいの。感じたいの。好きだから。口ん中でおっきくなるの好きだからぁ。」

「無理でしょ。久世さんがイケメンでも萎えるでしょ。されたことないし。無理。無理。」

「マジかわいい。」

「おれを怒らせないで。」

「東京から来たばかりで友達いなくて。だから誰でもいいなんて無理でしょ。ぼくだって選びたい。」

「心の準備ができていません。」

「体は?気持ちよくさせる自信がある。」

「冗談でしょ。いくら経験なくてもおれだって遠慮というか、抵抗します。」

「浩輔さん。試してみようよ。」

「無理。無理。無理。」

「触らせて。」

「ダメ。ダメ。ダメ。」

「尊厳ですか?」

「生理的に。」

「経験していないのに。嫌です。そういうの。」

「久世さん…」

「…ぼくが悪いです。浩輔さんはいい人です。嫌な気持ちにさせてすみません。」

「満たされなかった?恋人を恨んでる?」

「仕方ないです。ぼくはバカをみるんです。でもいいです。ブザマでも。ただ、汚れた欲望じゃない。好きになった人にしたいだけ。ある意味、理解できないかもしれませんが、純粋なんです。」

 覚えていない。泣き顔が目の前にあって、崩れ落ちそうな姿にほだされて、自覚がないまま流されて、記憶に刻むことを許さなかった。うらやましほど恵まれた男の本心に触れた時、セピア色の映像に包まれた。

 これほど無機質に、他人ごとに、あぁ、こんなことをされているのか。他人の傷を知ることになるのか。他人の人生に関わることになるのか。夢の後、どんな顔をすればいいのか。疑問の中で時は過ぎた気になった。

 こいつとは一生関わらない。そんな気になれないのは、こいつを見捨てられないと感じたから?破れない殻にひびが入った。

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