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アラサー男子のカントリーライフ  作者: ねこやま.あおこ
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それなりの理由があるのです。

 田植えが終わった清々しい風景が目の前に広がった。風が頬に心地良い。昨夜は地元の友人たちと飲んでいた。いつもの結婚話。少しでも結婚に興味があるなら街コンパに参加しろと言われた。

 どうでもいい。結婚してもしなくても、ここでの生活は繰り返される。農家の長男。受け入れている。ここを抜け出したいとは思わない。家や両親がどうのより、ここ以で外暮らす自信はない。

 遠くに山が見える。5月の青空。大型連休は終わった。自然と温泉を求め都会からわざわざ癒されに来た親戚の面倒をみた。小学生のガキんちょを水族館に連れていき、大人たちを山菜と日本酒でもてなした。田舎は都合よく利用されている。純粋、素ぼく。働き者。水がうまい。空気が美味しい。食べ物が美味しい。優しくもてなしてくれる。イメージとしてはけっこう。だが当たり前のように感じないで欲しい。本音を言うとただ働きに近い。気をつかうし疲れる。

 山の頂きのわずかな残雪。ブナの原生林。熊、カモシカ、猿。そうそう。初夏の赤いかわいい果物。名産地といえばこの県だ。採れたら送ってくれ?簡単に言うな。おあいにく産地は残雪の山を越えた地域が有名だ。ビールのお供、全国区になった枝豆を送って欲しい?作っていません。農家だろ?あぁ。農家の息子です。でも作っていません。田んぼと野菜を少々やっています。

 職業じゃない。人間性だ。

 市役所勤務の一見お堅いヤツが薄ら笑いを浮かべた。何の苦労もなくお見合いした相手と結婚した。街コンパ?合コンみたいなやつ?大学経験はないから分からない。少子高齢化を打開するための苦肉で単純な考えに税金を使う?草食系には関係ない。ガツガツしていません。女の子の扱いには慣れていません。現実を知っています。現状を把握しています。選ばれる男は決まっています。普通で通ってきました。つきあうことに女の子はメリットを感じないようです。

 市街地から少し離れた場所に田んぼと畑を持っている。先祖代々農家だ。浩輔の代になり知り合いのススメで、収穫した野菜を産直とイタリアンレストランに卸している。

 

「昨日の野菜、評判よくってね。キュウリ嫌いの東京のお客さん、これなら食べられるって。」

「ありがとうございます。」

「趣味で育てているって話していたバラの花。薄いピンクがかわいいってお客さんが。」

「お店に飾ってくれたんですね。」

「他にあるかな。買うよ。」

「広樹さんはごひいきだからプレゼントします。バラは次の種類が咲くまて時間が。マーガレットなら明日。」

「ありがとう。」

 広樹さんは街に1軒の映画館そばでイタリアンレストランを開いている。産直のあきおくんの紹介で知り合った。元コンビニの居抜きだ。田舎のコンビニなのて駐車場は確保されている。

「今度中西が街コンの会場にするって。」

「浩輔くんは参加するの?」

「いえ。美味しい料理の手助けができれば。」

「仕事熱心だね。」

「趣味がないというか。」

「タレントでいうと誰がタイプ?」

「広樹さんは?」

「佐久間ななせかな。」

「あぁ…表紙飾っていましたね。」

「浩輔くんも巨乳好き?」

「…しいて言えば…」

「選べないよね。うちの奥さんがね、ほら、さっきキュウリ嫌いって話したお客さんに一目惚れしちゃって。」

「東京のお客さん?」 

「市で誘致した大学院の研究所、東京の会社から派遣されているらしいよ。理系って感じでクールっていうか。ぼそっておもしろいこと言うの。まぁ…都会のイケメン?洗練されている?」

「この街で彼女作るのかな。」

「仕事一筋で興味ないらしい。浩輔くんと一緒だ。」

「そうですかねぇ。」

 都会から来たイケメンと一緒にされた。


 浩輔は配達の帰り、この街にたった1軒のレンタルビデオ店に寄った。仕事一筋。そう言われるとなんだか気持ちが騒いでエロビデオが見たくなる。彼女はいない。憧れの人もいない。おかずってやつ。性欲は自家発電。彼女持ちはうらやましくない。

 18禁ののれんの向こうに抵抗はない。今は店員を通さなくても会員証があればセルフでレンタルできる。目についたタイトル。妄想膨らますジャケット。選ぶには時間はかからなかった。ジャケに期待を込めて借りる。素っ裸でハイヒール、股を広げあそこに作り物のあれを…。

「あっ、すみません。」

 18禁を出ると誰かとぶつかった。

「…落としましたよ。」

 背の高い男に手渡しされた。

「意外ですね。」

 苦笑された気がした。

「ぼくは大きい胸はちょっと。」

 浩輔の顔は赤くなった。

「趣味をとやかく言うつもりはありません。それ、通販で買えますよね。動くやつあるんですよ。そんなおっきいのなんて思うでしょ?実際いるんですよね」

「何が?」

「なにがデカイ人。あっ、ごめんなさい。」

「別に…」

「ぼくは久世って言います。」

 逃げた。

「…っ…かわいい。」

 玲於奈は浩輔の後ろ姿を見送り、口元を手で押さえた。


 なんだよ。あいつ。バカにしやがって。自分も借りたかったんだろ?ふざけんな。

 浩輔は帰りの運転が少々荒くなった。



「で、街コン参加。」

「うっせーな。」

「ネットで買え。」

「おもちゃってやつ?」

「使ってないのか?」

「使う?」

「彼女いないだろ?道具使わねーの?」

「だからビデオとか。」

「しこるだけ?」

「お前は?」

「使うっしよ。」

「…彼女いるだろ。」

「田舎はやることねーからな、セッ⚪スばかりしてるわけじゃねーぞ。」

「田んぼ道にラブホ。どうよ?」

「いいんじゃね?意外と地元のもの食わせんの」

「かぁちゃんの知り合いが食事作ったり掃除してるって」

「狭いな」

「街コン、パスな」

「この間彼女と広樹さんの店行ったの。浩輔くん彼女いないの?だって。心配されてるぞ」

「理系のイケメンが来るらしい。」

「広樹さんの奥さん言ってた。めちゃめちゃかっこいいらしい。そう言えば中学の時のモテ男。髪の毛が薄くなった。」

「みんな苦労してんだよ。」

「だな。浩輔は童貞のまま。」

「…童貞じゃねーよ。」

「ともかく、街コン頼むな。数合わせだからさくらだよ。テキトーテキトー。」

「できるか。」

「邪険に扱えないよな。田舎は狭いからな。誰が見ているか分からない。噂話怖いよな。」

「…エロビデオのこと、バラすなよ。」

「了解。街コン。参加決定。」

 中学からの友人に愚痴のように話してしまった。別にいいか。男なんだし。ビクビクするな。女子に引かれて上等。気にしない。


「久世玲於奈って言うんだ。都会っぽいね。」

「キラキラネームですかね。」

「いくつだっけ?」

「28です」

「こっちの生活はどう?」

「…特に。」

「実家に帰ってるの?」

「こっち来てまだ1ヶ月くらいですよ?」

「何もないだろ?」

「…滝…ありますかね?」

「行きたいの?」

「車…乗らないんですよね。」

「産直のあきおくんに話してみるよ。」

「あきおくん?」

「子どもが生まれたのをきっかけに、東京からUターンしたの。気さくで明るくて楽しい人だよ。」

「既婚者か…」

「知り合い多いし。仲間連れてキャンプとかするんじゃない?」

「大勢でつるむの好きじゃないです。」

「産直、野菜買いに行くんだ。気軽に相談に乗ってくれるよ。」

 玲於奈はレンタルビデオ店でぶつかった純情そうな背の高い男のことを思い出した。タイプだった。指輪を確認するのを忘れた。

「2年契約だっけ?」

「和泉さんは大学院に何年?」

「大学院と企業を結ぶ仕事をしてるけど、本当はね、ここで嫁を見つけて暮らしたい。」

「大阪でしたっけ?関西弁ありませんね。」

「イントネーションでバレる時があるよ。」

「ここの人は気にするのかな。」

「人によるよ。」

「本屋にささやかながらBlコーナーがありました。」

「腐女子ってやつ?」

「いますよね?」

「女の子は妄想するのかな。」

「しますよ。」

「久世くんかわいい子、見つけた?」

「ぼちぼちですね。」

「教えてあげなよ。うまいんでしょ?」

「好きになれば当然いろんなことをしてあげます。」

「東京の人は後腐れなくできるの?」

「人の気持ちは複雑です。理解したくないこともある。ぼくの気持ちが相手を求めたら理屈なしに突っ走りたい。それは難しいし面倒くさい。」

「東京に彼女置いてきた?」

「遠距離は性に合いません。顔を見て楽しく2人きりの時間を過ごしたい。」

「確かに。」

「この街は嫌いじゃないですよ。」

 玲於奈は1度会っただけの浩輔を思い浮かべた。

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