それなりの理由があるのです。
よくない別れ方ってあるだろ?互いのエピソードが噛み合わなくなった証拠。例えば、突然傷つけられた言葉を思い出すわけ。たわいも無い言葉だとしても、心のコンディションで矢になるわけ。覚悟していたよ。楽しくやったじゃない。普通じゃないね。それがおれたちの関係だよ。
飛行機で移動できるが、あえて電車で時間をかけて来た。山とか海とか、田園風景が見たかった。乗り換え駅のキオスクで地ビールを買った。東京駅で買った大好きなシウマイ弁当はローカル線に乗るまで食べずにいた。
初めての田舎暮らし。日本海側の生活。米所。日本酒が美味い。これに惹かれた。向こうに着いたら地酒を飲もう。リサーチしている。新しい出会いは期待できないな。久世玲於奈はスマホの写真は消すことにした。
「たまその話。」
五十嵐浩輔は、何十回と聞かされた結婚話に耳を塞いだ。
「トラウマでもあるわけ?」
友人たちと飲み会をしている。昨日は地域の農家の集まりに参加していた。
「早く所帯持てってベテランたちが。」
「そりゃそうだろ。子どもの顔を見たがっている。」
「浩輔は農家の長男だからな。いろいろと期待されるわけ。ま、嫁は黙っていてもこねーけどよ」
「市で主催している街なか出会い場、来いよ」
「通称まちこん。」
「…パス。」
「考えといて。」
「参加したことあるよな?」
「ねーよ。」
「まさか、振られてトラウマ?」
「だからトラウマって何?」
「童貞って噂だから。」
「はぁ?」
「嘘だろ。俺たちアラサーだぜ?妖精になっちまう。」
五十嵐浩輔。29歳。東北のとある市に住む農家の長男。両親と暮らしている。地元の高校を卒業。農家を継いだ。友人の言う通り童貞だ。告白された経験もなく、遊びでつきあった子もいない。この街に風俗があるなんて知らないし、コンパニオンがどうのって話は聞くが、街で会いそうな気配がするので話にのらない。両親や近所の目が怖いと言うか、彼女がいた時期がないのにそういうので捨てたなんて何だか嫌だ。
久世玲於奈28歳。2年契約で東京から来た、大手企業の商品開発研究員。浩輔の市にある大学院研究所で働くことになっている。東京生まれ。仕事がきっかけで田舎まちに来た。電車を降り駅前のテナントビルにある日本酒バーのカウンターで、マスターオススメの日本酒を数杯飲んだ。
「また来て下さいね。」
「はい。」
「女の子も喜びます。」
背の高いクールなイケメン。同じ空間にいた女子たちがニヤけながら玲於奈の方を見ている。
「珍しいですかね?」
「体は鍛えることができても、顔は鍛えられませんからね。持って生まれたものは活かして下さい。」
「…別にモテませんでしたよ。取っつきにくいって。確かに何を考えているか分からないですから。じゃぁ。また。」
玲於奈は支払いを済ませ店を出た。
あーぁ。セッ○スしたい。頭の中でエロいことを考えている。レンタルビデオ店の18禁コーナーに行こう。物色してるヤツを冷たい目で見よう。
地元の産地直売所。出荷するようになってから、浩輔は担当者の高橋曉央と仲良くなった。あきおは子どもが生まれたことがきっかけで、東京からUターンした。父親は会社勤め。嫁の親戚が農家をしていた。
「どう?広樹さんの店。」
「紹介ありがとうございました。」
「若い者同士、話が合うと思ってね。店で食事はした?」
「今度両親を連れて行こうと思ってます。」
「彼女連れて行きなよ。」
「いやぁ…それは。」
「イタリアンなんておしゃれじゃない。」
あきおのつてで、最近オープンした地産地消をうたうイタリアンレストランに野菜を卸している。
「ラーメン屋の方が落ち着きます。」
「そう言えば、近々オープンするらしいよ。」
「マジですか?どこに?」
玲於奈は地産地消をうたうイタリアンレストランにいた。
「ワインは地元ですか?」
「そうだよ。」
「この前菜…キュウリ入ってますね。」
「苦手かな?」
「…食べて欲しいって、ぼくに言ってる。」
「これね。地元の若い農家さんが作ったの。」
「イケメンですか?」
「そうだね…背が高くて…いい体してるよ。」
「へぇ…農作業ってハードですよね。日に焼けるし。あ、でもトラクターかっこいい。」
「君はモテるだろ?」
「仕事以外は無頓着ですよ。食べるのは好きだけど。お酒も。」
「○○の人だろ?田舎暮らしは退屈かもしれないけど楽しんでよ。で、ライングループに入って下さい。」
「いいですよ。喜んで。」