ニャルラトホテプの再解釈 ~言葉という概念より~
至らぬ点は多々あると存じますが、どうか寛大な心でお読みください
あとクトゥルフ神話自信ニキは補完されてない知識ガンガン言ってってもらえると助かります
みんな大好きニャルラトホテプを、いったんウィキペディアより引用します。引用後に要約するので読み飛ばして貰って構いません。
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ナイアーラトテップ (Nyarlathotep) は、クトゥルフ神話などに登場する架空の神。日本語では他にナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなどとも表記される。
この名前は架空のものだが、エジプト語の接尾語「 -ホテップ(-hotep)」は「平和」或いは「満足」を意味する。
概要
初出はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの短編小説『ナイアルラトホテップ(1920年)』。この小説でナイアーラトテップは古代エジプトのファラオのような「背の高い浅黒い男」と表現されている[1]。「クトゥルフ神話」体系におけるナイアーラトテップは旧支配者の一柱にして、アザトースを筆頭とする外なる神に使役されるメッセンジャーでありながら、自身の主で旧支配者中、最強のアザトースと同等の力を有する土の精であり、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けている。
顔がない故に千もの異なる顕現を持ち、特定の眷属を持たず、狂気と混乱をもたらすために自ら暗躍する。彼が与える様々な魔術や秘法、機械などを受け取った人間は大概自滅している。天敵であり唯一恐れるものは火の精と位置づけられる旧支配者クトゥグアのみ。また旧神ノーデンスとも対立している。
旧支配者の中で唯一幽閉を免れ、他の旧支配者と違い自ら人間と接触するなど、クトゥルフ神話において特異な地位を占める神性であり、クトゥルフ神話におけるトリックスターとも言える。アザトースの息子と言われ、妻は、大鹿の女神イホウンデー、従姉妹に[2]影の女悪魔と呼ばれる女神マイノグーラがいる。また配下にシャンタク鳥と忌まわしき狩人が存在する[3]。さらにドリームランドで地球の下級の神々を保護する一団「異形の神」の一柱として活躍する[4]。
神性
設定の流用が比較的自由となっているクトゥルフ神話でもナイアーラトテップの誕生は、ダーレスとラヴクラフトでかなりの違いがある。
ラヴクラフトがその作品や作家仲間への手紙の中で書いた内容は、以下の通りである。
この宇宙の中心、正常な物理法則が通用しない混沌とした世界には、絶対的な力をもった存在アザトース(Azatoth)が存在し、その従者の吹き鳴らすフルートに合わせて絶えず不定形な巨体を蠢かしているとされる。アザトースはとてつもなく巨大で絶対の力をもった存在だが、盲目で白痴なので、自らの分身として三つのものを生んだ。闇からシュブ=ニグラス、無名の霧からヨグ=ソトースそして使者たる這いよる混沌ナイアーラトテップである。ナイアーラトテップは、自らの主人であり創造主であるアザトースら異形の神々に仕え、知性をもたない主人の代行者としてその意思を具現化するべくあらゆる時空に出没する。
別名一覧
「這い寄る混沌 (The Crawling Chaos)」
「無貌の神 (The Faceless God)」
「暗黒神(The Dark Demon)」
「闇に棲むもの (Dweller in Darkness)」
「燃える三眼」
「顔のない黒いスフィンクス」
「ブラックファラオ(The Black Pharaoh)」
「大いなる使者」
「強壮なる使者」
「百万の愛でられしものの父」
「夜(月)に吠ゆるもの (Howler in the Dark)」
「盲目にして無貌のもの」
「魔物の使者」
「暗きもの (Dark One)」
「ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの」
「古ぶるしきもの」
「膨れ女 (Bloated Woman)」
「血塗れの舌の神(The God of the Bloody Tongue, or the Bloody Tongue)」
など
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以上が引用です。つまりこの外なる神は、以下のような存在であると言えるかと。
1,無貌が故に千もの異なる顕現を有する。
2,異名に『這いよる混沌』『無貌の神』というものがある。
3,クトゥグアが天敵。
4.アザトースを初めとした外なる神に使役されるメッセンジャー。
5.異名に『闇に吠ゆるもの』『血濡れの舌の神』というものがある。
6. 授けた知識の所為で人間は破滅しがち。
この程度でいいですかね? 他にもアザトースに直接生み出されたなどいくらでもいうことはありますが、今回は材料にしないので割愛します。
さて、では論に移っていきますが、まず前提として人間の知性について言及しておきたいと思います。
日本語の話になってしまうのは多少恣意的で申し訳ないのですが、我々は物事を理解するとき「分かる」という言葉を使います。「理解する」とも言います。ここで共通するのは漢字として用いられる「分」「解」という文字からも分かる通り、人間の理解は言葉による分解と定義に基づいていると言えます。
つまり、物事を言葉でもって細分化して「この物事のこの部分切り取ってみたけど、この部分ってこうだよね」って話を積み重ねることで、人間は物事を理解するのです。
少し難しいのでサンドイッチに例えましょう。
サンドイッチ、という言葉を赤ちゃんに教えてサンドイッチをあげたら、赤ちゃんは「この何かごちゃごちゃしたのサンドイッチってんだ。へー」と思います。この段階では、赤ちゃんはサンドイッチが何でサンドイッチなのか分かりません。「いやだってそう教えられたし……」としか言えないのです。
ここで赤ちゃんに「サンドイッチはパンとパンで具を挟んだのを言うんだよ」と説明してあげます。赤ちゃんはここで「パンってなーに?」という疑問を抱きます。そうやって物事を小分けにして説明を積み重ねてやっと、赤ちゃんは「サンドイッチとは麦を粉にして練って発行させた西欧文明を中心に主食として嗜まれるパンというもので、製作者の恣意的に選んだ様々な具材を挟んだ、サンドウィッチ伯爵が考案したお手軽食品」と説明できるようになるのです。
このプロセスを、「言葉による分解と定義」と表現しました。言葉という名の包丁で物事を切り分け、それぞれに言葉でレッテルを貼ることで人間は理解のプロセスを踏む、という感じです。
ここで話をニャルラトホテプに戻します。ニャルラトホテプの特徴の要約で、私は「無貌が故に千もの異なる顕現を有する」「異名に『這いよる混沌』『無貌の神』というものがある」としました。
ここで注目すべきワードは「混沌」です。では、混沌とは何でしょうか? コトバンクより引用します。
「天地がまだ開けず不分明である状態。
すべてが入りまじって区別がつかないさま。」
つまり未分解未定義の何か、ということになります。人間知性でもって理解できないもの。分解されないもの。それが這い寄ってくるのがニャルラトホテプの一面であると言えそうです。『無貌の神』というのも、無いものは分解も定義もできないよね! 的な感じがします。こっちはこじつけです。そんなに意味はないです。
また、要約の中に「クトゥグアが天敵」というものがありました。メタファー的な話ではありますが、クトゥグア=火の神性。そして火とは闇を照らすもの。人間知性にとっての文明の始まりです。クトゥグアがニャルラトホテプの天敵たりえるのは、この為ではないでしょうか。つまり、ニャルラトホテプをニャルラトホテプたらしめる「混沌」=未知、未分解、未定義を破る存在であるから、クトゥグアは旧支配者にしてアザトースに連なるニャルラトホテプの天敵であると。
では、ニャルラトホテプにまつわる次の話に移ります。要約で材料にするのは、「アザトースを初めとした外なる神に使役されるメッセンジャー」「異名に『闇に吠ゆるもの』『血濡れの舌の神』というものがある」の二つです。
そもそもニャルラトホテプ、という名前がどこから来たのか、という話になるのですが、ウィキペディアの引用の初めの方にあるホテップがエジプト語の「平和」を意味する接尾語であると書かれています。
ここでクトゥルフ神話TRPGのP134より引用します。え? ログインテーブルトークシリーズのクトゥルフ神話TRPGを持っていないですって? 今すぐ買いましょう。おぞましく冒涜的ながら、耽美な世界があなたを待っています……ちなみに一緒に遊ぶ友達は別売りです。
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クトゥルフ神話の名前の中で、古代エジプトまでその名前が遡れるのは、ニャルラトホテップだけである。この名前はNY HAR RUT HOTEPが縮まってできた言葉で、意味は「門のところに平和(安息、休息)はない」である。このタイトルの意味は、外なる神のメッセンジャーであるニャルラトテップは「門」である、すなわち、ある平面と別の平面との間にある「門」であるということだろう。少なくとも古代エジプトの崇拝者たちはそう考えていた。
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ニャルラトホテプとは神々のメッセンジャーです。外なる神々は基本的に知性も魂もないのですが、ニャルラトホテプは知性も魂も兼ね備えた唯一の外なる神らしく、いろんなところに現れては人間に余計な知恵を与えて破滅させては嗤っています。この与える知識が危険とかそういう話は最後に回します。
以上より、ニャルラトホテプは「外なる神々の意思の代弁者」であると言えます。
さて、ここで「意思を代弁する」という行為が「言葉」によってなされる、ということを再確認しておきます。その性質故か、異名の中には『闇に“吠ゆる”もの』『血濡れの“舌”の神』と、「吠え」たり「舌」だったり意思疎通を連想させるものがいくつか存在します。なるほどやはりニャルラトホテプはメッセンジャーに違いないのだな、と事実を補強してくれる材料として認識できますが、ここで齟齬が起きます。
ニャルラトホテプは『這いよる混沌』です。混沌なのです。そして混沌は理解不能なもの。理解が前提となるメッセージとはきわめて相性が悪いのです。最悪と言ってもいいですし、いっそ矛盾しているとも言えるでしょう。これはいけません。
――と、思いましたでしょうか?
そう思ったのなら、あなたは見事ニャルラトホテプの術中にハマっています。何故なら、ニャルラトホテプはその存在がクトゥルフ神話の中にある外なる神というトップレベルの邪神です。虚弱貧弱無知無能な人間にその存在が理解可能であると認識することそのものがおこがましい。
つまり、これでいいのです。ニャルラトホテプは「理解不能な情報のメッセンジャー」であり、その本質は「言語的理解の破綻」そのもの。人間の姿を化身として多々有しながら、その全てが囁く内容は人間には高尚すぎて理解できません。何故ならその情報は人間の理解のプロセスから外れた、「混沌を混沌のまま受け入れねばならない情報」だからです。故に人間は理解を投げ出して愚かさゆえに破滅するか、理解しようと試みて知性的破綻による破滅を迎えるかどちらかしかありません。
「授けた知識の所為で人間は破滅しがち」なのは、こういう理由だった訳ですね。ではここまでの内容を総括しましょう。
ニャルラトホテプは理解不可能な混沌であり、同時に相手の理解を求めるメッセンジャーです。その知性プロセスは「言葉による分解と定義」という方法を採用した人類とは真逆で、彼との接触は人間的な言語野による知性の破壊につながります。
つまり「言葉をつかさどる、言葉を拒絶する神」。それこそがニャルラトホテプなのだと言えるでしょう。さて、この辺りで読者の皆様は気づいてしまわれた頃かと思います。
ここまであなたは、ニャルラトホテプをどうやって理解しようとしましたか?
この問いの意味を理解してしまったあなたはSANチェックです。0/1D2を振ってください。
引用元
クトゥルフ神話TRPG 2004/9/22 初版
2011/7/26 初版6刷発行 サンディ・ピーターセン/リン・ウィリスほか
ナイアーラトテップ(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%97
混沌(コトバンク)
https://kotobank.jp/word/%E6%B7%B7%E6%B2%8C-506488