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時の果てのゆかぽん【短編版】~見習い魔法少女の舞台裏~

作者: つむじかぜ

【第1話】

「じゃあ、2人に問題ね。私たちのコロニーの外には2つの勢力があります。一つずつ答えて。まずは結花ちゃんから」

「えっと~、『機械の国』と『魔法の国』です~。『機械の国』はぁ、悪いロボットをいっぱい送り込んでくるやつらで、『朽ちた惑星』の地下に住んでるって言われています・・・『魔法の国』はぁ・・・カナちゃんとかカンナさんたちの国だからいい国だと思います!」

 そう言った瞬間、カナちゃんがちょっと微妙な表情をしたんだけど、この時のあたしにはその表情の理由がわからなかった。


「結花ちゃんったら・・・ダメでしょ、2つとも答えちゃったらカナちゃんが答える分がなくなっちゃうじゃない」

 そして、あたしは桃果さんにコツンと軽く指でおでこを小突かれてしまった。

 あっと、そうだった。

 ついうっかり。

 でも、『魔法の国』の方はカナちゃんの出身地だから、詳しくって当たり前なんだけど。


「それじゃあカナちゃんの為に次の問題。私たちの使う魔法には『魔力の半減期』っていうのがあります。①魔力が半分になる期間 ②元気が半分になる期間 どちらが正しいでしょうか」

 カナちゃんの問題、って言われてるけど、思わずあたしが口をはさむ。

「え~、桃果さん、あたしたちまだ2年生だよ~。ハンゲンキなんて言葉、知らないよ~」


 けど、カナちゃんは平気で

「①です」

 って答えてる。

 しかも正解。

 すごい!!

「言葉を知らなくても、選択肢を見ると分かるんだよ」

 とカナちゃん。

 うーん、さすが優等生は言う事が違うなあ。

 え?当たり前?

 そう言わないでよ・・・。


「つまり、私たちの魔力は『魔法の国』の人たちほど大きくはないので、変身して戦う時以外はなるべく魔法を使わずに、このブレスレットにためておく必要があります。だけど無限にためておくことが出来るわけじゃなくて、ためておいた古い魔力はどんどん減っていくことになるんだよ。ためておいた魔力が半分になる期間を『半減期』と言って、約10日ぐらいと言われています。それをグラフにすると・・・」


 桃果さんの説明、難しいよお・・・。

 なんかだんだん眠くなってきちゃった。

「結花ちゃんが座学の時間になると元気がなくなるのは、別の意味で『ハンゲンキ』かもね。漢字で書くと半分の元気で『半元気』」


 カナちゃんに言われて、間違いの方の選択肢がただのダジャレだっていう事に初めて気づく。

 つまりあたしは、桃果さんとカナちゃんの2人がかりでからかわれていたって事だ。

 うーむ・・・。


 あたしの名前は鈴原結花。

 親友のカナちゃんと一緒に桃果さんの元で魔法少女の見習いをやっている。

 今は小学2年生で、もう春休みに入ったから数日すると3年生に進級するところだ。

 これでやっと『小2のくせに中二病』なんていうありがたくないキャッチフレーズともおさらばだね!

 性格は、自分ではあんまり言いたくないけど見てのとおりチョットおっちょこちょいかも。

 カナちゃんが聞いてたら、ちょっとどころじゃないよ!? って言われそうだけど。


 で、今先生をしてくれていた桃果さんはあたしたち女の子みんなの憧れだ。

 なんたって、現役最強の魔法少女だからね。

 このお話の主人公はいちおうあたしなんだけど、桃果さんの方があたしよりも、ずっと主人公っぽいって言うか・・・。

 強いだけじゃなく、カッコイイし可愛いし、しかも優しいっていう、3拍子も4拍子もそろっている。

 うらやましいなあ・・・。


 カナちゃんはあたしの同級生で、フルネームはカナル・レミングスって言うんだ。

 金髪のサラサラヘアーがこれまたうらやましい。

 『魔法の国』からの転校生なんだけど・・・実は、あたしとちがって正式な魔法少女見習いにはなってない。


 カナちゃんにはカンナさんっていうお姉ちゃんがいて、カンナさんは桃果さんよりもっと先代の魔法少女だったりするんだけど、そのお話はまた後で。

 でも、カナちゃんもカンナさんも魔法の国のプリンセスで、これまた主人公っぽい設定だ。

 むしろあたしが一番モブキャラっぽいんだけど!?

 あたしにはそんな気のきいた設定、全くないからね!


 ちなみに今あたし達が授業を受けているのはカナちゃんやカンナさんの家だ。

 町の中心からはちょっと離れた位置にあって、かなり大きいその家は、初めからたくさんの魔法少女が合宿して強化することを前提にして建てられている。


 あたしと桃果さんの付けているブレスレットからけたたましいサイレンが鳴り響いたのは、あたしが思わず本日何度目かの大きなあくびをしたその瞬間だった。

 一気に目が覚める。

 音は桃果さんがつけているブレスレットからだ。

 それとほとんど同時に無線でちょっと年上の女の人の声が聞こえる。

 この人こそ、『魔法の国』からあたしたちのコロニーにちゃんとした魔法の技術を伝えた人で、カナちゃんのお姉さんでもあるカンナさんだ。


 ちなみにそれ以前は、コロニーの人が使える魔法は『魔力を単純なエネルギーに変える』タイプの魔法で光を出したり熱を出したり、と言う形でしか使えず、すごく効率が悪かったのだ。

「桃果、聞こえる?敵が現れたわ。今回も機械タイプよ。あなたなら大丈夫と思うけど、念のため、サポート要員を送っておくわ」


 魔法少女はたくさんいる。

 けど、実際に戦闘に参加できるだけの実力を備えている人数はそう多くはない。

 魔法少女といっても、魔法が使えるだけのただの女の子(その意味は後でわかると思うけど)だから、敵に勝てることはもちろんだけど、怪我などの危険を伴うレベル差では戦闘は行えない、というのが基本になっている。


 もちろんあたし達みたいな見習いでは全然実力不足だから、強い人といっしょで守ってもらえるときじゃないと出撃できない事になっている。


 命を懸けて世界を守る、ってよく言うけど、『命を懸けてはダメ』がカンナさんの教えだった。

 あと、カンナさんは先代の魔法少女でもあるけど、今はほぼ出撃することはない。

 このコロニーはこのコロニーの人達で守るべき、って言う理由だ。

 それでもカンナさんが『元祖魔法少女』であり、『魔法少女の伝道師』でもあるすごい人だってことは全く揺らぐことはない。


 ちなみにカナちゃんが魔法少女見習いになっていないのも、カンナさんが引退したのと同じ理由だ。

 カナちゃんも『魔法の国』出身だからね。

 ちなみにカンナさんは今、高3になるところで、桃果さんが小6になるところだ。


 それから、あたしたちの国では、女の子はみんな魔法少女の素質を備えて生まれてくる。

 男子にも一応魔力はあるんだけど、ちゃんと魔力を魔法として使えるレベルに達しているのは女の子だけらしい。

 だけど、女の子でも魔法を使えるのはせいぜい高校生ぐらいまで。

 そして、ある時突然魔法が使えなくなる、と言われている。


 けど、もちろんちっちゃいうちも魔法は使えなくて、クラスの中で小2のうちに魔法が使えるようになったのはあたしだけ。

 つまり、魔法少女が魔法少女でいられる期間が10年を超えるのは極めて稀。

 とても短いのだ。

 もっとも、これは『魔法の国』の人間であるカンナさんには当てはまらないんだけど。


 それからもう一つ、実はこの国は宇宙に浮かぶコロニーで、かなりのポンコツ。

 そして、『機械の国』や『魔法の国』に比べて、このコロニーはあまりにも貧弱な国なのだ。


 あたしたちが小学校で習う歴史でも、『機械の国』と『魔法の国』がお互いに争っているからこそ、奪ってもあまり価値がないと思われているこのコロニーは中立をたもっていられる、っていう事になっていて、もしどちらかに本気で攻められたらひとたまりもない、というのが実際のところだ。


 ただ、国として奪う価値はなくても『機械の国に住む悪人』たちにとってはそうとは限らないらしく、だからたまに悪人たちのロボットがあたしたちのコロニーに来て暴れる、なんてことが起こったりすると言われている。

 これについては真相は分からないんだけどね・・・。


 でも、奪う価値のない国にこんな風にロボットが単発でちょくちょく現れる、ってことはきっとそういう事なんだろう。

 本気で占領するつもりだったら一気に戦力を投入してくるはずだもん。


「結花ちゃんはついてきて。カナルちゃんはいつも通り、お留守番ね」

 実は魔法少女見習いとして認められているのはあたしだけで、カナルちゃんは一緒に授業を受けているだけだ。

 それでもここに来て魔法少女の心得とかを勉強しているのは、先代魔法少女のカンナさんの妹っていうのと、友達だからあたしに付き合ってくれているっていう理由だ。


 実際、あたしよりカナちゃんの方がずっと優秀な気がするし。

 まあ、ずっとちっちゃい頃からカンナさんの事をそばで見てきたからっていうのが大きいとは思うんだけど・・・。

 あ、でも魔法少女としてだけじゃなくて学校の成績とかも体育以外は全部カナルちゃんの方が優秀だから、これは単なるあたしの言い訳かも・・・。


「ほら、結花ちゃん、急いで!緊急事態よ!!」

 また桃果さんにおこられちゃった。

「すいません、すぐ行きます!」

 うーん、あたし愚図だなあ。

 自分で愚図なのはわかってるから、返事だけでも元気よく返すようにしてるんだ。

 あと、こんな風に急かされた時にはあたしの場合大抵なにか失敗するからいつもより慎重に・・・。


「結花ちゃん、頑張って♪」

 こうやって、ちょっとあたしが凹んだタイミングで声をかけてくれるカナちゃん。

 お留守番なんてつまんないはずなのにそんなことは少しも感じさせない笑顔。

 こういうのは見習わないとなあ・・・。

 そして出撃。


「結花ちゃん、変身いくよっ!」

 あんまり敵と近づいちゃうと残念ながら敵は変身を待っててくれないから、距離があるうちに余裕を持って変身する。


「マジカルゲージファイナルランク!プロモーション!!魔法少女ミラクル桃果参上!!!」

「ミニももか参上!」

(そして2人でタイミングを合わせて)

「「宇宙の歴史の行く末は悪の手には渡しません!」」


 そして、ももかさんと一緒にポーズを決める。

(ももかさんの方をちらっと見て、ちょっと姿勢を修正!)


ちなみに、今のでわかったと思うけど、あたしの『結花』って名前はどこにも出てこない。

任務の時はあくまでも『ミニももか』として、桃果さんのサポートをするのだ。

「ミニももか、敵に近づいたらダメよ。遠距離からの援護射撃をお願い!」


 本当は、あたしは接近戦の方が得意なのだ。

 だけど実力のないあたしが敵に近づいたらそれを守らなきゃならない桃果さんの負担が増えるだけだから、遠距離にいなきゃならないのは仕方ない。


 あと、桃果さんは万能タイプで接近戦もこなすし遠距離でも戦えるんだけど、ももかさんが遠距離射撃で片付けちゃったらあたしがやることがないから、わざわざあたしの出番を作ってくれているのだ。

「ミニももかハートフルアロー!」

 あたしが必殺技を放つ。

 見た目はコミカルでかわいらしい技だけど、あたしの魔法の威力はちゃんと反映されている。

 つまり、これで倒せないってことは技が悪いんじゃなくてあたしの修行がまだまだ足りないってことだ。

 むう・・・。


 けどそれでも、桃果さんは

「ナイスよ!ミニももか!!」

 ってフォローをいれてくれた。

 敵はひるんだようにすら見えないんだけど・・・。

 そこまでわかっているだけに、ちょっと凹む。


「ももかファイナルクラッシャー!」

 ももかさんが地面に向けて魔力を放つと、ピンクのハート型の磁場が発生する。

 敵をそこに捕らえたからもう勝負ありだ。

 ロボットタイプの敵はもがいているみたいだけとももかさんの技から逃れることはできない。

 そのまま、ピンクの光が弱まるのと共に、敵の姿もかき消えていった・・・。


「んべえっ!あんなポンコツで桃果さんに勝てるわけないでしょっ!おととし来なさいよ!!」

(こういうときは『おととい来なさいよ』が正しいと言うことを後から知った)

 あたしは自分の攻撃が全然効かなかったことを棚にあげてアッカンベーをする。

 けど、ももかさんがちょっと苦笑いしてるのが見えたんで、あわてて真顔に戻す。


 それから、あたしもこっそりももかさんに苦笑いを返すと、ももかさんはあたしのおでこをちょいと突っついた。

 とにもかくにも、今回も無事、世界コロニー平和は守られたのだった・・・。



【第2話】

「お疲れさまでした~!」

 桃果さんを笑顔で迎えるカナちゃん。

 それから

「結花ちゃんもね」

 と、実のところ全然活躍してないあたしにも声をかけてくれる。


 なんか、見習いとして認められてるのはあたしなのに、カナちゃんの方がしっかりサポートしてるなぁ、ってかんじがする。

「あぁん、今日もダメだったぁ・・・」

 と嘆くと、

「まあまあ、結花ちゃんはこれからだから・・・」

 と、慰めてくれる。


「じゃあ、私は今日のレポートまとめておくから、2人は・・・」

「はぁい。カナちゃんと反省会しておきます」

 桃果さんはいろいろ大変なので、手を煩わせないように、反省会はあたしとカナちゃんでやる。


 ハッキリ言って、いろいろダメなところがあるのは自分でもわかってるんだ。

 けど、そのダメなところをカナちゃんと一緒に映像で見て確認して次に生かす。

 生かせればいいなあ・・・。


「ねえ結花ちゃん、早速だけど、まずは変身前の着地のところから見ていくよ」

 やっぱりそこ、指摘来るよねぇ・・・。

 鋭いカナちゃんが見逃してくれるはずはない。


「まずはお手本の桃果さんの着地から」

 カナちゃんがリモコンを操作すると、桃果さんのカッコいい着地が再生される。

 擬音にすると『シュタッ!』て感じ。

 こんな風に着地できたらいいなあ、とは思ってるんだけどね・・・。


「じゃあ次、結花ちゃんの着地ね」

 カナちゃんがもう一度リモコンを操作。

 あぁ、見たくない。

 見たくないけど、見ないと次も同じ失敗しちゃう。


「ほら!特にここ!」

 カナちゃんは容赦なく、一番ダメなシーンで一時停止のボタンを押した。

 擬音にすると、ドスンって感じの着地。

 なんというか、がに股でカッコ悪い。

 しかも、パンツ丸見えだ。


 チラッと見えるだけならまだしも、左前にプリントされたイチゴ、その上のワンポイントのリボン、それどころかおヘソまでが全部見えているのだ。

 ひ~やめて~!

 これ、もうパンチラってレベルじゃないよ・・・。

 完全に羞恥プレイだ。


 だけど、カナちゃんはこの後も容赦ない。

「ほら、よくみて、ここからさらに・・・」

 なんと、そのシーンから先をスローモーションで再生。

 さっきは一番カッコ悪いと思ったところからさらに足が開いて、致命的にカッコ悪くなって行く。

 ひどいとは思ってたけど、それ以上にひどいっ!


 これじゃ、『ドスン!』どころか『ドスコイ!!』って感じだよ。

「あーん、もう許してよう・・・着地の衝撃が強かったから仕方なかったんだってばぁ」

 桃果さんとスカートの長さは同じはずなのに、なんでこんなに違うんだろう。

 ホントに桃果さんの着地はカンペキだ。

 『シャタッ!』と、『ドスコイ!!』の差は果てしなく大きい。


 ああ、ホントどこまでも落ちて行きそうな気分。

 桃果さんの活躍は将来の魔法少女を担うちっちゃい女の子たちのためにアニメ化されているんだけど、あたしのパンツはちゃんとカットしといてもらわないとちっちゃい子たちには見せられない・・・。

 あとカナちゃん、お願いだからそこを繰り返しスロー再生するのやめて・・・。


 そんなところへ、

「さすが桃果、もうやっつけちゃったか~、また無駄足だったなぁ」

 なんていいながら、に入ってきたのは、桃果さんの相棒、朝霧美空さん。

 変身後のコスチュームの色は名前の通り空色だ。


 そんなことはどうでもいいか・・・。

 学年も桃果さんと同じ6年生で、本当は滅びた別のコロニーの生き残りらしい。

 この人もまた、あたしよりもずーっと主人公っぽい素質がありそうな人だ。

 なんであたしだけ、こんなに主人公っぽくないんだろう。

 ホントは主人公なのに・・・。


「桃果さんならさっきの敵のレポート書いてますよ」

 と、カナちゃんがていねいに対応するけど、美空さんは

「いやあ、邪魔しちゃ悪いし・・・それにカンナさんの指示で万一の時の援軍にきただけだから用事があるってわけじゃないんだ」

 って言って、桃果さんの部屋には行かず、あたしとカナちゃんのいる方の部屋に入ってきた。


「ふうん、反省会かあ。結花ちゃんとカナルちゃんは真面目でいいね」

 最初は美空さんも、そんな風に言っていたのだ。

 でも、あたしのカッコ悪いシーンのスロー再生を見て、(汗)みたいになってる。


「これは・・・結花ちゃん、可愛いとは思うけど、女の子的にはアウトだね・・・」

 なんか、言葉を選んでくれてるのが余計にショック。

「カナちゃん、お願いだからもう再生やめてよお」

 あたしが言うとカナちゃんはストップさせてくれたんだけと、なんと一時停止。

 それ、余計ヒドイよ。


 パンツがモロに映ったところで画面が止まってる。

 しかもPKまで・・・。


 しかもカナちゃんには悪気はなさそうだからたちが悪い。

 あーん、ひどぃよぉ・・・。

「まあでも、あんなカンペキな着地ができるのは桃果だけだよ。なんたってコスチュームがアレだからね」

美空さんは慰めてくれるつもりで言ってるのかな?

 でも、この際だから聞いちゃおっと。


「美空さんはパンツが見えちゃうの、なんか対策してるんですか?」

「ん~、ホントは秘密なんだけど、ほかならぬ結花ちゃんだから教えちゃうか。実はねえ・・・」

 なんと、ソラさんがこっそり教えてくれた方法とは、スカートと全く同じ色の下着を選ぶことだった。


 あたしの変身後のコスチュームのスカートはかなり濃い赤。

 だから、真っ白なパンツに絵がプリントされてるやつだとすぐにわかってしまうのだ。

 まあ確かに、スカートがめくれてパンチラが見えたとしても、スカートと全く同じ色だったら見えたかどうかは気がつきにくいよね。


「見えても見えない。魔法じゃないのに魔法みたいだろ?」

 とは美空さんの言葉。

 まあ、確かにそうなんだけどねぇ・・・。

 魔法少女の魔法じゃない魔法。


 でも、あたしには実は決定的に高いハードルがある。

 確かに美空さんの場合は、空色のスカートだから空色のパンツを選んだらいい。

 ライトブルーだったらいくらでも可愛い下着売ってるもんね。

 だけど、あたしの場合真っ赤なパンツを履かなきゃならないってことだ。


「真っ赤なパンツなんて、真冬に履く毛糸のパンツぐらいしか持ってないよ・・・」

 あたしが呟くと・・・あ、一瞬美空さん吹いた。

 今笑ったよね!?

 ひどいよぉ・・・。


「でも、そもそも結花ちゃんにはその方法じゃダメかも。だって結花ちゃんのは、チラッと見えるだけじゃなくて、全部見えておヘソまで見えちゃってるからねえ」

 今度はカナちゃんに追い打ちをかけられる。

 うう、そう言われるとつらいなあ。

『ドスコイ!!』だから何も言い返せないんだけど。


「ん~、とはいえさすがに白地に真っ赤なイチゴのワンポイントは目立ち過ぎだと思うよ」

 あ、美空さんちょっと捨て鉢になってきてる。

 画面にはまだ、さっきカナちゃんが止めたところでフロントプリントのイチゴが大きく映っていた。

 そしてPKも・・・。


 もう、これ完全に羞恥プレイすぎだよ・・・。

「パンツの話はこのぐらいで勘弁して・・・」

 あたしが半泣きになったところでやっとカナちゃんはこの話題から解放してくれた。

 お気に入りのパンツだったけど、もう履けないかも・・・。


「じゃあ、着地の次はポーズを取るところね!」

 すかさず、カナちゃんの次の指摘が入る。

 本当は、桃果さんとあたしが左右対称のポーズを決めるはずのところだ。

 あたしは一瞬、足だけ左右を間違えて、桃果さんのポーズをチラッと見てからそれを修正したんだけど、 その慌て方がまたカッコワルイ。


「こういうの、ちっちゃい子たちが見たらどう思うかなぁ・・・」

 カナちゃんちょっとジト目。

「カナちゃん、意外と厳しいね・・・」

 ソラさんの反応もそんな感じだった。


「だって、私たちの後も、その後も、ずっと魔法少女になってくれる女の子がいてくれないと困るじゃないですか。小っちゃい女の子がちゃんとした魔法少女になってくれるためには、魔法少女にあこがれてくれないとダメなんだよ。でも、ちっちゃい子は『どすこい!!』にはあこがれないよ!」


 あたしはもちろん、美空さんですら反論できない勢いでカナちゃんがまくし立てる。

「はぁい。次から気をつけますぅ・・・」

 ここまできたら、こう言う他はない。

 その後は戦闘に入るシーンだけど、桃果さんがあっさり倒しちゃったから特に何もなかった。


 あたしとしては、必殺技が全然きかなかったんでいろいろその点も突っ込まれるかもって思ってたんだけど、今の時点ではちゃんと命中させたんだから十分、っていうのがカナちゃんの分析だった。

 あと、ホントはあたしの得意なのは射撃じゃないし・・・。

 というわけで、この辺で反省会はお開きだよ。

 ああ、今日もめちゃめちゃきつかったあ(精神的に)。



【第3話】

※このお話は桃果視点です。


「ねえねえ、桃果さんが初めて一人で敵をやっつけたのっていつ?」

 そんな風に、無邪気に聞いてきたのは私の可愛い後輩、結花ちゃんだ。

 結花ちゃんは今、私の見習いとして『ミニももか』として修行をしてもらっているけれど、私にも、先輩 魔法少女のカンナさんのところで見習いをしていたことがある。

 それもつい、3年前のことだ。


「私の初勝利は、ちょうど私が今の結花ちゃんと同じ、3年生のときだよ」

 私は正直にそういうと、結花ちゃんは

「やっぱり桃果さんはすごいなぁ・・・。その時の話、聞きたいなぁ・・・」

 可愛い結花ちゃんの好奇心旺盛な瞳には、つい答えてあげたくなっちゃう。

 だけと、私は少し考えてから、

「ん~、その話は結花ちゃんが一人前になってからしてあげる」

 と言ってはぐらかした。

 その初勝利は、結花ちゃんに自慢できるようなものではなかったからだ。

 あれは、3年前のある日・・・。


 その日、私達の小学校は急遽、集団下校になった。

 敵が現れて、町で人が襲われているっていう連絡が小学校に入ったからだ。

 学校の校庭で家の近い人同士でグループになって下校して、それぞれの家の近くで解散して帰宅する。解 散地点から、更に家の方向が一緒だったのは、鈴原裕太さん。結花ちゃんのお兄さんだ。


 私が裕太さんのことを『ゆうたん』って呼んでいたのは、私がすごく小さくて言葉もうまく回らない頃からよく遊んでもらっていて、本当は『裕太さん』って言いたかったのが『ゆうたん』って言ってしまった頃の名残りだった。


「『機械の国』のロボットが町に現れて、人を襲ってるみたいだから、気をつけようね」

 ゆうたんは私のことを気遣ってくれていたんだと思うけど、私はこの時、ちょっと自信過剰になっていた。

「ロボットなんてこわくないもん。もし出てきても、私がゆうたんのこと守ってあげる」


 もちろん、私はこの時大真面目だった。

 私はこのころから・・・いや、本当はもっとずっと前からゆうたんのことが大好きで、魔法少女が大好きな人のことを守るのは当たり前だって思っていたのだ。


 それと、これを言うとちょっと恥ずかしいけど、ゆうたんにほめてもらいたいって思ってもいた。

「はは・・・ももかは勇ましいな。でも、カンナさんと一緒じゃない時は、ももかだってにげないといけないよ」 

 そう言ってゆうたんは私の頭をそっと撫でてくれた。

「はあぃ」


 私はなんの疑いもなく素直に答えた。

 ゆうたんはいつも誰よりも私のことを考えてくれていて、何て言うか、何もかもゆだねてしまった方が心地がよかった。


 そして、まさか本当にこんなタイミングで私達の前に敵が現れるなんてこれっぽっちも思っていなかったのだった。

 だから、いきなりゆうたんが

「ももか、逃げて!」

 って叫んだときは、つい今言ったばかりのことを再確認するだけなのに、なんでこんなに大きな声を出すんだろうっておもっちゃったぐらいだ。


 だから、気がついた時には敵はほんの数メートル先まで迫っていた。

 私は最初、ゆうたんに言われていた通り、逃げようと思ったんだけと、その時ゆうたんの様子がおかしいことに気がついた。


 足がもつれて転んでものすごく怯えていたのだ。

 だけど、それはゆうたんが特別臆病だったわけじゃなくて、だれたって初めての時はそうなる。

 ただ、私は勝手に『ゆうたんだけはそうじゃない』って思い込んじゃっていたから、ちょっとショックだった。


 もちろん、私だって初めての時は怖すぎて、泣いていることしかできなかった。

 カンナさんと一緒に戦ううちに、少しずつ平気になっていった。

 だけどそれは、私が強くなったわけじゃない。

 強かったのはカンナさんてあって、私じゃなかった。


 その時の私は、勇気のある人になれたんじゃなくて、怖いっていう感覚が麻痺していただけだったのだ。


 でも今は、怖いかどうかじゃない。

 自分の意思で決めた。

 私は、逃げない。

「ゆうたんを置いて、逃げらんないよ!」

 私はその時、初めてゆうたんの言うことに逆らった。

 大好きなゆうたんをまもりたかったから。


「マジカルゲージファイナルランク!プロモーション!!魔法少女ミラクルミニかんな参上っ!!!」

 その頃私はまだ、ミニかんなだった。

 自分だけの力で敵を倒したことはなかったし、カンナさん抜きで一人で変身するのも初めてだった。

 けど、一人でちゃんと変身できた。

 あのロボットだって、きっとやっつけられるはず、って思った。


 つかまれて、地面に叩き付けられたり、ビームみたいな攻撃をうけたり。

 それでも私はなんとかガードして、ボロボロになりながらもその敵をやっつけた。

 夢中だったから、どうやってやっつけたのかだってよく覚えていないぐらいだ。


 けど、そんなことはその時の私にはどうでもよかったのだ。

「ゆうたん!」

 私は心配になって、しゃがみこんだままのゆうたんに急いで駆け寄った。


「あはは・・・ももか・・・カッコ悪いところ、見せちゃったね」

 ゆうたんはそう、私に声をかけてくれたけど、その声はまだ震えていた。

 怯えている人を安心させるのに、一番だいじなのは笑顔だ。

 だから私だってボロボロだったけど、その時できる目一杯の笑顔を作ってみた。


「敵はもうやっつけたから、もう安心だよ!」

 ゆうたんは口では

「ありがとう、ももかは勇気があってえらいな」

 ってほめてくれたけど、ちょっと複雑そうな顔をしていた。

 なんでだろう。

 その時の私は子供すぎて理解できなかった。

 そして、その日を境にゆうたんは私を避けるようになったのだった・・・。


 私はすごく悩んだ。

 悩んで、悩んで、それでもどうしたらいいかわからなくて、時にはどうしようもなく悲しくなってしまって一人で泣いたりした。

 こんな時にいつも元気付けてくれていたゆうたんが、今はいなかった。

 そう思うともっと悲しくなって、また泣いた。


「ももかちゃん、最近元気ないけどどうしたの?」

 そんな風に心配してくれたのは、同級生の美空ちゃんだった。

 私はその悲しさを、一人で抱え込むことに耐えられなくなって、事情を美空ちゃんに話した。

 自分では答えが出せなくても、美空ちゃんだったら何かいい答えを持っているかもしれない。

 それがダメでも、二人でだったら答えを見つけられるかもしれない。

 私のそんな思惑は、半分だけ当たって・・・だけどそれは大きな失敗だった。


「それはたぶん、男の子のプライドだよ。自分より年下の女の子のももかが守ってあげる、なんて言ったもんだから、傷ついちゃったんだよ。でもさあ、それはももかが悪いわけじゃないよ。そんなプライドなんてくだらないよ。だって、ももかの方が強かったんだから、しょうがないじゃん。そんなことでももかと話してくれなくなるような男の子なら、どうせくだらない人だから、ももかの方から絶交しちゃいなよ」


 美空ちゃんは一気にまくし立てた。

 私と同じように、このころは美空ちゃんもちょっと天狗になっちゃっていた。

 美空ちゃんがゆうたんの悪口を言うたびに私は胸の中から熱いものが込み上げてきて、どうしても美空ちゃんのことが許せなくなって・・・。

 気が付くと、私は美空ちゃんのほっぺたを思い切りひっぱたいていた。

「ゆうたんはくだらない人なんかじゃないもん!」


 私はこの時以外、美空ちゃんとけんかしたことなんてなかった。

 もちろん、私が手を上げたのもこの一度きりだ。

 美空ちゃんは一瞬、信じられないと言うような表情をして、それからギャン泣きしてカンナさんに私のことを言いつけた。

「ももかちゃん、なんで美空ちゃんをぶったの!?暴力はダメでしょ!」

 カンナさんはいつになく、すごい剣幕だった。


 でも・・・私は謝らなかった。

 私は、悪くない。

 私が悪いって認めちゃったら、まるでゆうたんがくだらない人だって認めちゃうことのような気がして・・・それは絶対に嫌だった。


 それを、ちゃんとカンナさんにも説明してわかってもらいたかったけど、考えがまとまらなくて、それに次から次へと嗚咽が出てきて話すことが出来なかった。

 だけど、ゆうたんがすごく傷ついているのに、それをくだらないなんて言っちゃうんだったら・・・。

 それが、『魔法少女』の考え方なのなら・・・。

 だから、私は決断した。


「カンナさん、私もう、魔法少女やめる」

 そう言ってから、私はすぐに駆け出した。

「ちょっと、ももかちゃん!?」

 カンナさんが私を引き止める声が聞こえたけど、私は構わず走った。

 魔法少女をやめて、普通の人になって・・・。

 そしたらゆうたんと同じになるから仲直りしてもらえる。

 一分でも、一秒でも早くそうしたかった。

 それ以外のことは何も考えられなかった。


 私は、ゆうたんの家の呼び鈴を押した。

 ほんの少しの待ち時間がものすごく長く感じられて、泣きながら玄関のドアを叩いた。

「ゆうたん、ゆうたん、お願い。出てきて!」

 出てきてくれなかったらどうしよう。

 ゆうたんに嫌われてたらどうしよう。

 私はそんな気持ちでいっぱいだった。

 だから玄関のドアが開いてゆうたんが出てきてくれた時は、私は思わずゆうたんの胸に飛び込んでいた。


 大声で泣きながら、

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 って何度も謝った。

「ももか、どうしたの?なんでももかが謝るの?」

 ゆうたんは、すごく優しくしてくれた。

 自分も、とっても傷ついてるに違いないのに。

「えっと・・・えっと・・・」

 私が何度もしゃくりあげて、なかなか話をできないのをみると、ゆうたんは

「慌てないでいいからね。ゆっくり、落ち着いて話して」

 って言ってくれて、たどたどしかった私の話を、一つ一つていねいに聞いてくれた。


 ゆうたんを傷つけちゃったことを謝りたいこと。

 ゆうたんにお話してもらえなくなってとっても悲しかったこと。

 それを美空ちゃんに話したら美空ちゃんがゆうたんのことを悪く言ったこと。

 それが許せなくて美空ちゃんをぶったこと。

 そして・・・私が魔法少女をやめること。


「だけど、それは美空ちゃんが言ってたのが正しいのかもしれないね。だって僕は、ももかを守る力のない自分が情けなくて、悔しくて、勝手に落ち込んでいただけだから・・・それはきっと、すごくつまらないことなんだって自分でも思うから・・・」

「そんな風に言わないで!ゆうたんが自分でそんなこと言ったら私も悲しくなっちゃうよ。ゆうたんの気持ちはつまらないことなんかじゃないもん!」


 私はそれまで以上に涙が込み上げてきた。

 ゆうたんの服の胸のところを、きっとグショグショに濡らしていた。

 ゆうたんはそれでも私をとがめたりはせずに、しばらく間をあけてから私の背中に手を回し、軽くポンポンとしてくれた。


「ももかは優しいね」

 ゆうたんは私を落ちつかせようと、ゆっくりと言った。

 私は何も答えなかった。

 答えられなかった。

 そんな私を見て、ゆうたんはこう、付け加えた。


「だけど僕は、そんなももかこそ、魔法少女にふさわしいと思う。だから、ももかは魔法少女をやめたらダメだよ」

 魔法少女になることは私の夢。

 だけどそれよりも、もっとゆうたんのことが大事だから私はそれをあきらめることを決めた。

 だから、他のだれが、何を言ってもきっと私の決意は変わらなかった。

 そして、ゆうたんはそれがわかっているから、自らこんな風に言ってくれたのだ。


 ゆうたん本人に言われて私の決意は氷解していく。

 それでも私が迷っていると、ゆうたんは

「大丈夫。僕は、絶対にももかのことを嫌いになったりしないから」

 それは、私が一番聞きたかった言葉。

 でも・・・。

「私、もうカンナさんにやめるって言っちゃった・・・それに、美空ちゃんも叩いちゃったし・・・だからもう、無理だよ・・・」


 ゆうたんの言葉は嬉しかったんだけど、後悔もしていた。

 もう取り返しはつかないと思っていた。

 でも、

「あきらめないで」

 と、ゆうたんは言った。


「カンナさんには僕も一緒にお話してあげる。美空ちゃんにも、一緒に謝ってあげる。だから、夢をあきらめないで」

 そう、重ねて言ってくれた。

 カンナさんはともかく、美空ちゃんはゆうたんのことを悪く言ったのに、どうして私のためにそこまでできるのか、私の理解の範囲を遥かに超えていた。


 もっと小さな頃は、泣いている時でも嬉しいことがあったらすぐに笑顔になれたのに、この時は涙を止めることが出来なかった。

 もう、とっくに渇れてもいいぐらい、涙を流したはずなのに。

「ゆうたん、ゆうたん、大好き。大好きだよぉ・・・」

 多分その時の私は、涙どころか鼻水まで出てみっともない顔だったに違いない。

 だけど、ゆうたんはちょっとだけ力を込めてギュッとしてくれた。

 あったかくて、心地よくて、ずっとこのままでいたかった。

 だから、私はずっと泣き続けた。


「ももかはとっても強いのに、泣き虫さんだなぁ・・・でもね、好きなだけ泣いてていいよ。泣いて、泣いて、泣き止んだら、また歩き始める・・・」

「泣いて、泣いて、泣き止んだら、また歩き始める?」

 私はゆうたんの言ったことをそのまま繰り返した。

「そう。ももかにはきっと、それができると思うんだ・・・」


 私は、ずっと大好きだったゆうたんを、それまでよりももっと大好きになった。

 こんな素敵な人が、すぐそばにいてくれる。

 私はとても幸せな女の子だって、思った。

 そしてその気持ちは、今でも変わらない。


「こんな話、結花ちゃんにしたらまたヤキモチ焼かれちゃうなあ・・・結花ちゃんもお兄ちゃん大好きっ娘だし。当分は内緒にしておかないと・・・ね」

 気が付くと私は、誰もいないのにそんな風につぶやいていた。


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