表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
八節【ファム・ファタール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

212/226

8 不幸あれA③

6/10に、エピソードを分割&加筆して割り込みで投稿をしたため、お話がスライドしています。

それ以前に前話を読了している方は、二話前から読んでくださいませ。


よく読むと伏線回収回というやつです。主人公不在ですみません。後で効いてくる回なので、お赦しください。


 プリムローズは首都に着く前。まさにこの駅で、到着と同時に入手した新聞で、フェルヴィン王家の到来を知った。

 そこに王家の血を引くコネリウスが随行していることは、同時に入手した学院からの情報源からの報告と重ねて、真実だろうとも判断した。


 年末の浮足立つ空気とあわせ、フェルヴィン王家の訪れは、何も知らない民たちからはおおいに歓迎ムードが漂っていた。

 しかし貴族には、このとつぜんの賓客の訪問には緊張がともなう。ライト家の噂もあいまって、そこに『理由』を見出すものが多かったためだ。

 貴族たちは、新たな陽王ともくされる辺境伯夫人の存在を歓迎するか否かの準備を、水面下で進めている。


 彼女は、何も無策で飛び出したわけではない。

 学院で築いた横の繋がり。学閥と呼ばれるそれは、貴族社会に深く食い込んでいる。

 学院内では家の大小を問わず交流ができるため、その伝手をたどれば、それなりに高位の家のものに話を聞くことじたいは難しくない。


 ようは、社交界のパーティーに出まくって、話かければいい。

 そのための布石は、王都へ向かう車中で書き上げた手紙で打ってあった。


 ヴァイオレットとの仲をほのめかせて情報収集の役割を名乗り出れば、本家である()()()()()()()からのゴーサインは一昼夜で出た。


 子だくさんの一族は、多くの分家を抱え、その中から有望な子供を本家に集めることで繁栄してきた。

 そのほとんどが、ラブリュスの学徒となり、家に知恵を還元する役割を課せられている。

 幼少期のプリムローズは、そんな中で補欠の扱いだった。少し計算と文字を覚えるのが早かったという理由で送り出され、一定の学力が認められたから学院に通うことが許された。

 師と仰いだサム・シモンズの研究にも本家の『大おじい様』は興味を示さず、プリムローズという娘がどんな人物なのか、おそらく記憶もされていないだろう。


(……昔は、あの研究の意義を理解しない世間がにくらしかった)


 たしかに、宮廷では役に立たない研究だ。大きな金を生み出せもしない。日々の天候を記録するだけの行為は、遊びの延長線にあるように見えるのかもしれない。

 シモンズ教授の研究の成果が『成る』には、シモンズ教授の寿命だけでは足りないかもしれないし、プリムローズの人生を使ってもだめかもしれない。



 ――――しかし成果は無くとも、意義はあると学院が認め、予算が出ているうちは、なんと言われてもこの研究は正しいことだと世間は信じてくれる。


 卑屈になったプリムローズにそのようなことを言ったのが、ヴァイオレットという娘だ。



 だから今のプリムローズは、柔軟で自由な思考でことに当たることができる。




 許可が出た次の日の昼、さっそく茶会に招かれて、指定された協力者に接触することができた。


 ボイド伯爵夫人は、コリーン公爵家の教育プログラムで見いだされ、本家の養女に迎えられた上で、南部の『陽王派』筆頭の官僚の家に嫁いだ女性である。

 未亡人となっても夫の資産をうまく運用しながら首都で暮らし、社交界では中級から下級貴族のとりまとめを担う、大女貴族だった。


 プリムローズは彼女のお供として連れまわされ、その先で必要な情報を集めるのだ。


 伯爵夫人は、想像していたような美しい容貌の女性ではなかった。

 公爵家の血筋によくいる、鼻が大きく瞼が少し飛び出した顔立ちで、細い金髪を編んで結い、明るい暖色の大きな帽子と、たっぷりとドレープのついたドレスを好んでいた。

 声は高くよく通り、しかし不思議と陽気な笑い声が華やかで心地いい好人物である。

 プリムローズの『仕事』にもよく理解を示し、その采配さいはいに従えば、驚くほどスムーズに会いたい人物に接触することができた。


 そうして、たった一日半。

 茶会と二つのガーデンパーティー、夜会をはしごして分かったのは、誰もが慎重に事に当たっているということ。

 そして、相当な時間をかけなければ、プリムローズが求めるような各家の思惑は探れない、ということだった。


 慣れない飲酒と夜更かしで痛む頭を抱えながら、プリムローズは社交界を戦う貴族たちの体力を讃えた。たしかにこれらを乗り切るには、武装となるドレスは山ほど必要である。


 情報戦はすでに始まっており、伯爵夫人と公爵家の看板を使って参戦しても、シェリー酒をうまくかわせない新兵では一日を生き残ることも難しい。

 伯爵夫人だけでも探れるような情報を聞くのでは、随行する意味がないのだ。



(やっぱり、ヴァイオレット本人に会わないと)


 フェルヴィン王家の王都入りは、その大きなチャンスだった。

 曽祖父を出迎えに、ヴァイオレットが現れる可能性に賭けた。


 王家の出迎えのために駅は封鎖され、官僚や関係者だけが集まっている。そこになんとかプリムローズもねじ込むことができた。今のプリムローズは、伯爵夫人のお墨付きの、身元確かで進路に悩める、ちょっとミーハーな社会見学令嬢である。


 ひしめく人込みの中で、プリムローズは少女の姿を探した。


 プリムローズの他にも、『社会見学』の令嬢の一団はおり、彼女らはホームの先頭に立って歓迎の旗を振る係であった。

 彼女たちは、身目麗しい皇子たちの顔を一目見るために華やかな装いで参戦しており、あえてボンヤリした紺のドレスを着ている年上のプリムローズは、一団から離れても見咎められることはない。


 しかし列車は、いつまでも来なかった。




 ◇




 年内でヴァイオレットに会える最後のチャンスだと思っていただけに、失意の帰宅だった。

 令嬢たちは二時間を超えたあたりで姿を消し、けっきょく夜まで粘ったが、プリムローズは、翌日には再び茶会に随行する予定があった。

 迎えの車も断って帰らせたため、プリムローズは深夜の街を箒で帰ることにした。貴族令嬢の振る舞いとして、いい顔はされない。しかしこういうとき、美しくない、とうのたった女の身分は、身軽に動くために役立つのだった。


 冬の夜風の中、駅の屋根に併設された離陸場から、横乗り用の箒に腰を下ろそうとしたとき、ずいぶんと乱暴に飛び立つ車が目立っていた。


(どうしたのかしら、あれ)


 ちくちくとした都会の冷気が身に染みた。



ボイド伯爵婦人の初登場はこちら。

『諜報訓練』https://ncode.syosetu.com/n2519et/121


あと気になる方はこちらもおさらいすると、いいかもしれません。

『スキャンダルベイビー』https://ncode.syosetu.com/n2519et/184

『扉をあけて②』https://ncode.syosetu.com/n2519et/199



(二日前が誕生日でした。加速するクライマックスに向けての期待と気合もあるので、今月はまだ一回更新があります。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ