◇人類創世ダイジェスト~そして救世の魔女がエキセントリック人類救済を成し遂げるまで~
補足的な世界観設定ダイジェスト。本編は四話からです。
ナルニアやハリー・ポッター読んで育ちました。
「あんな感じの翻訳ものっぽいファンタジーで『小説家になろう』のランキングに入れたらすごいんじゃないか? めちゃカッコ良くないか? 」なんて野望を抱いて始めた作品です。
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※このページは、用語を見返しやすいように一話目に挿入しております。
作品内でやがて説明されることばかりですので、飛ばしてもらっても支障ありません。
むかーしむかし、あるところに。
この世界には、たくさんの神さまがおりましたとさ。
神さまの創った世界に、まだ人間がいなかったころ。
神々の王デウスに『賢い生き物を作りなさい』と依頼された鍛冶の神は、泥と火と黄金と、他にいくつかの材料で、最初の人間を作り上げた。
その新しい生き物は、祝福された黄金の不死の心臓を持ち、『黄金の子』と呼ばれ、神々にとても可愛がられた。
けれど、教えることをどんどん覚えて賢くなっていく『黄金の子』を、面白く思わない神もいた。
叡智を司るその神は、鍛冶の神の炉から火を盗み、きれいな箱に入れて、黄金の子に差し出した。
黄金の子は、まだ『火』を知らなかったから、「箱から透けて見えるこの綺麗な灯りはなんだろう? 」と無防備に触れてしまい、さあ大変!
『黄金の子』は一瞬にして燃え上がり、けれど不死の身体で死ぬに死ねず、三日三晩苦しんだ末に、最期には自らを不死たらしめる『黄金の心臓』を取り上げてほしいと懇願した。
彼を可愛がっていた神々は、とても悲しんで、『黄金の子』の灰を鍛冶の神のもとに持ち込んで、もう一度人間を創ってほしいと頼みこむ。
しかし次に生まれた『銀の子』は、生まれてすぐに大暴れ!
神々の庭から逃げ出してしまった!
なんせ『銀の子』は『黄金の子』の灰を加えて生まれたので、今際のきわの記憶をしっかり持っていた。
産まれてはじめて騙されて裏切られ、あげくに殺された『黄金の子』は、怒りと恐怖という感情を知ってしまっていたのだ。
やがて『銀の子』は、地上でそこそこ繁栄したけれど、それ以上に争いが絶えなかった。
戦うことを覚えた彼らはそればかり。
新しい道具をいくつも作り、獣を見れば殺して、土地を耕した先から荒らしていくので、神々は『銀の子』も処分する判断をくだした。
次に生まれた『銅の子』には、もう少し大人しくしてほしいと思った神々は、彼らに愛の女神たちを送り込んだ。
女神たちはウキウキとはりきって、人間の世に『恋』を普及させることに成功する。
『銅の子』の一族は、今まで以上に繁栄したけれど、今度はその『恋』が原因で、大きな争いが起きた。
ひとりの女を奪い合い、多くの男が争って、さらにその戦いに、いつしか利権や政治が絡み、美女は権力とくっついて勝者のトロフィーに祭り上げられて、神々すらもその戦いに巻き込まれて代理戦争の様相をなしーーーー。
……最後には二つの国に分かれ、血で血を洗う戦乱。
それはお騒がせの美女が死んでしまった後も止まらず、百年も続いて、人類ははじめて自滅というかたちで全滅した。
ーーーそうして四度目の正直として生まれたのが、今代の『鉄の子』だった。
『鉄の子』は、神々の意向もあってスロースタート。
なにせ、すっかり人間は厄ネタになっている。
けれど『鉄の子』は、『黄金』『銀』『銅』の世代の過ちを経て、かなり賢くなっていた。
愚かさというものを深く知り、同じくらい愛も知っていた。
愛により愚かになることも。
つまり、善悪の区別が最初からついていたのである。
そのために彼らはいつになく順調に繁栄していったし、彼らに魅力を感じて人間と夫婦になる神もいたりして、人と神はこれまでに無いほど長い時をともに過ごし、その境界を曖昧にしていったのだ。
それがいけなかったのかもしれない。
やがて人は、神々を甘く見るようになっていった。親しき中にも礼儀ありというけれど、人類はその『礼儀』をポンと忘れてしまったのだ。
目に余るのが、巨神アトラスの娘たちが収める大国アトランティス。
海洋国家として成功したこの国では、長年続けてきた供物を年々けちるくせ、普段使いできない重い服や装飾品、持ち上げられないお飾りの剣、あげくに、誰も住めない芸術的な塔なんかを作ったりする。
アトラスは再三と娘たちを叱ったけれど、聞き入れない。
そしてついに堪忍袋の緒が切れた神の王デウスは、アトランティスを大津波で沈めてしまう。
そこで怒ったのはアトラスだ。
アトラスはアトランティス近海の海の所有者だったから、その海を使って娘たちも暮らす国を滅ぼしたことに大いに憤った。
もともと、アトラスの一族とデウスの一族とは、親の代からの確執があったから、便乗した神々もいたのだろう。
火種はやがて燃え上がり、『神々を統べるべき王は誰か』と問う、全面戦争になった。
まずは人類をどうしても滅ぼしたい一部の神々によって、光を司る太陽や炎の神はまとめて監禁され、飢餓と疫病が蔓延した。
次に、一続きだった海は大地ごと砕かれ、混沌の海で二十に分かたれる島となった。闇に包まれた世界の中、戦の残酷さは増していく。
のちにこの戦禍を、世界創造の混沌になぞらえて、『混沌の夜』と人は呼んだ。
さて、人類はといえば、多くの数を減らしたものの、学び、受け継いできた知恵で、生き残っている者たちがいた。
扇動していたのは一人の賢女。偉大なるその賢女は、魔法に長けた魔女であった。
のちに始祖の魔女と読まれる女は、知恵と魔法でたったひとり神々に挑み、次々と協力者を得ていく。その中には、人類を創った鍛冶神や、言い出しっぺのアトラスの姿もあった。
鍛冶神は、自らの炉から消えた火を求め、アトラスは戦禍の火種となったことに心傷めていた。
彼らの尽力もあって、魔女は炎や太陽の開放に成功する。
光に照らし出された世界は、散々なものだった。魔と病と死が我が物顔で蔓延り、命という命が滅びていた。
戦士たちは驚き、その行いを恥じ、魔女の主張にようやく耳を傾けた。
魔女は、「やがて人々は、ふたたび神の名を忘れることでしょう」と預言した。
いきり立つ戦乱の神々に、魔女はひとつの契約をもちかける。
「もしその時が来たとき、神の皆々様には、人類がこの世に必要かどうか、再度の審判をお願い申し上げます」
のちに人々へ魔女が語った契約の内容とは、いわく以下のとおり。
――――人々が神々の名を忘れたとき、神々は人類の真価を再度試すこととする。
――――そのとき人類には、二十二の勇者があらわれる。
――――勇者とは、世界を変える素質あるもの。星々の預言にさだめられた選ばれしもの。
――――神々は勇者の行いをもって、人類を裁定すべし。
その裁定の儀をなすために、始祖の魔女は鍛冶神に依頼をした。
この世を創りし、万物の原材料。この世がまだ何物も無かった無の時代、唯一この世界にあった『混沌』から取り出したる泥。
それを使って、始祖の魔女と鍛冶神は、二十四枚の美しい絵の入った銅板を作り上げた。
彼らは魔女の呪文で命を宿し、魔女が指名した王のもとに贈られる。
人類のもたらすものの是非を記録し、そして待つのだ。
――――いずれ星がさだめる遠い先のいつかのために。
一のさだめは愚者。やがて真実を知るさだめ。
二のさだめは魔術師。種をまいた流れ者。
三のさだめは女教皇。始まりの女。
四のさだめは女帝。あらゆる愛の母たれや。
五のさだめは我らが皇帝。秩序の守護者。
六のさだめは教皇。知恵を授かりしもの。
七のさだめは恋人たち。自由なる苦悩の奴隷。
八のさだめは戦車。闘争に乾いたもの。
九のさだめは力。力制すもの。
十のさだめは隠者。愚者がやがて至るもの。
十一のさだめは運命の輪。予言に逆らいしもの。
十二のさだめは正義。秤の重きは全の重き。正義の剣は全のために。
十三のさだめは吊るされた男。真実に殉じるもの。
十四のさだめは死神。再生の前の破壊。破壊の前の再生。
十五のさだめは節制。意思なき調整者。
十六のさだめは悪魔。恐れるは死よりも孤独。誘惑を知り、操るもの。
十七のさだめは塔。巡り合わせた罰。楽園からの転落。
十八のさだめは星。希望の予言。賢人の道しるべ。
十九のさだめは月。透明な狂気のヴェール。魔女の後継者。
二十のさだめは太陽。祝福されし生命。
二十一のさだめは審判。神の代官。審判の具現化。
二十二のさだめは宇宙。あらゆるものの根源にして、全きが至るもの。
さて、それから三千五百年の時が経った。
神々は戦禍で荒廃した世界を去り、人々はほんとうに、神の名前を忘れつつある。
世界は二十に分かれたまま、数珠つなぎに、雲海を隔てて縦に並んでいる。
つまり『世界』と『世界』の間には、海と雲海があり、大地と雲海のあいだに空があって、海の底には次の世界の雲海が広がっている。
さいきんの学者先生によれば、『多重海層世界』というのが、この世界の呼び名だそうだ。
さて、そんなこんなで先日、三千五百年の執行猶予は終わった。
おお、実績多数のおろかな人類よ!
たくさん学んだ? 歴史は忘れてない? 先祖が大切に育てたその文明社会、仕上がりについての自信はいかほどだい?
ーーーー預言の時は来た!
ここに人類存亡を賭けた『最後の審判』が始まるってワケさ。