メデューサ襲来!(民子)
よろしくお願いします。
ナガシマに着いて最初にホワイトサイクロンに乗りに行った。裕紀は不思議なほどイヤがっていたが冴子が腕を組んだまま引っ張って行く。私もこれには乗りたかった。二十分ほど並んで一番前の箱車に乗ることになった。冴子は最前列に乗ったが裕紀は二列目に乗ってしまったので、冴子の隣に座ることとなった。
コースターは最初急こう配を昇って行く。視界一杯に青空が広がり天に向かっている錯覚を起こさせる。そこから一気に急降下だ。私は両手を高く突き上げた。アップダウンを繰り返す一周のコースは、乗車していると本当にあっという間だった。
安全バーを外してもらいコースターから降りると、後ろの裕紀は木村に手を貸してもらって降車していた。続いてメリーゴーランドに向かう時、裕紀の膝が笑っているのがおかしかった。
ゴーカートから観覧車まで一通り乗りこなし、12時になったのでランチタイムにする。天気がいいので屋外の四人掛けテーブルに着いた。
裕紀と木村が焼きそばとタコ焼き、フライドポテトなどを運んで来た。何とも貧しいファーストフードだが、こんな場所でグルメを気取るのはご法度だ。冴子には少し珍しい食べ物かも知れない。
冴子が発泡スチロールの小皿に乗った焼きそばを半分くらい食べた時、私たちのテーブルをつむじ風が襲った。軽い小皿は焼きそばもろとも吹き飛ばされ、風下の冴子の顔面を直撃した!
唖然とした。信じられなかった。これが自然の驚異というやつか。ローカル局なら芸能人レベルの美女が、頭から焼きそばを被ってメデューサの形相を成しているのだ。
いけない!こらえなければ!いくら高ビーな女だって今は悲劇に見舞われたクラスメイトに違いないのだから。
ダメだ!こらえきれない……。私は肩を揺すってプッと笑い出してしまった。おそらく苦悶の表情をしているのだろう。
木村は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。それが大した罪だと思えないほどお嬢様はシュールな姿態を見せていた。
その時裕紀は焼きそば屋に向かって駆け出して行った。直ぐに戻って来ておしぼりを冴子に差し出す。同時にひざまずいて冴子のパンツを拭き始めた。手にしているのはどう見てもテーブルを拭く雑巾だ。こいつ、どさくさに紛れてボディタッチしてるのか!
それは私の邪見だった。涙ぐむ冴子に「大丈夫だよ。こんなの何でもねえよ」と語り掛けながら、靴に着いた刻みキャベツを一生懸命拭き取っている。裕紀っていい奴だなあと思った。
私もバッグからポケットタイプの濡れティッシュを取り出し、ジャケットに着いた焼きそばを払い取ってやった。
そのあと洗面所に連いて行ってやり、入り口で冴子が応急処置するのを待った。十分ほどして冴子が戻って来た。表情を伺うと幾分気持ちは落ち着いたようだ。ただ、塗り直したアイラインがまだ微かに滲んでいた。
そこまででナガシマをあとにし、帰り道羽島市内の喫茶店に立ち寄った。四人掛けのテーブル席で裕紀の隣には冴子が陣取った。必然的に私の隣はデブだ。いったいこれは何の罰ゲームなんだろう?と思った。
「山下君、さっきはありがとう。取り乱しちゃってゴメンね。私、おかしかったでしょ?」
まあ、普通は取り乱すよなあ。なんたってメデューサだもん。
ヤバイッ!脳裏に浮かぶ光景に抗って膝元で組んだ手の甲をつねり、必死に思い出し笑いを抑え込む。話すことが出来ない!口元を緩めた瞬間笑いが吹き出してしまうのがわかる。
たまらず向かいの席のバカップルから目を逸らした。もちろんデブと反対方向にだ。
「ああ、あれくらいどうってことないよ。おかしくもなかったしね。焼きそば被ったって美人がブスに変わるわけじゃないしさ」
あれ?裕紀、サイクロンに乗った時、頭でも打ったのか?いつからお前は権力者に媚びを売るようになったんだ?ロック・スピリッツは何処へ行った?
「嬉しいィ!山下君にそう言ってもらえたらァ、他の人なんてどうでもいいィ!」
オイオイ、どうでもいいはないだろう。私だってしっかり手助けしてやったんだぞ!
「それよりゴメンねェ。私がちゃんとお弁当を作って来てたらァ、あんなことも起こらなかったのにィ。自業自得だよねェ」
違うな。大方家政婦さんが急用か休暇だったくらいのことだろう。絶対こいつは水仕事も料理もしない。指先がキレイ過ぎるもの。白くて細いスラリと伸びた指が羨ましい。
こちとら家業の手伝いで看護補助に駆り出され、アルコール消毒のし過ぎで手がカサカサだよ。毎晩ハンドクリーム塗りまくりだってえのに。
「だったら今度食べさせてよ。作る時間をたっぷり取ってさ」
「うん、そうするゥ!早起きして三段重ねで持ってくるゥ!」
絶対嘘だなと思ったが、口調がバカ女モードに戻ったのは何よりだ。パンクが初めて世の役に立ったのを見た気がする。この二人はもしかして今日変わったのかも?カオスなのは相変わらずだが、もうノーフューチャーじゃないのかも知れない。
喫茶店を出て最初に木村を送って行く。自宅は羽島市内だそうだ。続いて私たち二人を降ろすため岐阜駅の北口へと向かった。裕紀は私に「家まで送ろうか?」と言ってくれたが冴子の視線が許すはずもなく、「一緒に買い物をして帰るから」とお茶を濁した。
岐阜駅の降車場でリヤのドアを開けた時、冴子が裕紀の頬にキスしているのが見えた……。
読んで下さりありがとうございます。




