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魔力が……

(まさかついに人間かどうか疑われるとは……)


 手で顔を覆って落ち込む真人を見て、受付嬢は頭を下げると。


「すみません口が滑ってしまいました。まさか魔力が無い方が居るとは思いませんでしたので」


「口が滑ったってどういう………………え? 魔力が無い?」


 驚いた様子で顔を上げた真人に、受付嬢は首を縦に振って肯定の意を示し。


「はい、マサトさんには一切魔力がありません。所持している魔力が極端に低い方なら何度か見たことがありますが、マサトさんのような事例は初めてです」


「嘘だろ……」


 真人は渇いた笑いをしながら上を――自称女神が居るであろう方向見上げた。


(……自称女神アンタ、俺に特典をくれるとか言ってなかったか……? 今のところそれらしきものは感じられないし、さらに魔力すら無いとかハードモードにも程があるだろ……)


「あの」


 真人が遠い目をして上を見ていると、急に真剣な表情になった受付嬢が真人に声をかけた。


「あっ、すみません。……えっと、なんですか?」


「この事はあまり言わない方が良いと思います」


 真人は受付嬢の言葉の意味がわからず、首をかしげた。


「え? どうしてですか?」


「先ほど言った通り、魔力を一切持たない方が居るなどという事例は今まで聞いたことがありません。怪しまれたり差別されたりするくらいならまだマシですが、もしも違法研究者たちに貴方の事がバレたら…………」


 受付嬢はその先を言うことはなかったが、それだけでも真人は充分理解できたようで、表情が青ざめていた。


「察していただけたようですね。とりあえずこの書類の方は誤魔化しておきますのでどうかお気をつけください」


「えっと、それはありがたいんですが……。誤魔化しちゃっても良いんですか?」


「大丈夫です。多分。恐らく。きっと」


「不安しかないんですが」


「心配することはありません。バレたら私のクビが飛ぶだけですので」


「余計心配になってきたんですけど」


 淡々と受け答えながら書類に細工をしている受付嬢を見ながら、真人は深くため息を吐き、頭を抱えた。


(身を守る力さえないどころか魔力が無いのがバレたらモルモットにされるとか……どうすりゃいいんだよ……。あの自称女神、まさか不幸になる特典でも与えてくれたんじゃないだろうな……)


 特典はすでに色々と機能しているのだが、それがわからない真人は、特典には期待せず、さらに頼らないことを決意した。


「とりあえず隠蔽しておきました。 最低ランクの"灰色"にしておきましたので、今後魔力量を訪ねられた場合は"灰色"とお答えください」


「わかりました」


「では、あとは登録料を払って頂ければギルドへの登録が完了です」


「…………………………………………え?」


 受付嬢のその言葉を聞いたとき、真人の動きが止まった。

 

「…………登録料なんてあるんですか?」


「ええ、ご存知ありませんでしたか?」


「初耳です。でも、お金なんて持ってな――――あっ」


 真人はポケットの中からシュトルから貰った小袋を取りだして、恐る恐る受付嬢に渡した。


「……これで足ります?」


 受付嬢は真人から受け取った小袋の中身を確認して、顔を上げた。


「足りていますよ。これくらいあれば登録料を払ってもかなり残りますね」


「ならよかった……。……ちなみに、残りの金額でどれくらいのことが出来ますかね……?」


 受付嬢は人差し指を顎に当てて考える素振りを見せ。


「そう……ですね……。3食付きの宿に10泊くらいは出来ると思いますよ」


「そんなに!?」


 真人は見ず知らずの自分にそれほどのお金を貸し与えてくれたシュトルの寛大さに驚いた。


(……ってか、そんくらいあっても全然足りないこの装備を無料でくれたのかよあの人……。今後何か請求されるなんてことないよな……?)


 服屋の店主を思い出して複雑な表情をしている真人に、受付嬢から中身から登録料を差し引いた小袋を返却された。


「それで、この後の話なんですが、これから一時間後に初心者用の講習というものがありまして、参加するかしないかは自由ですので、もし参加したいというのであればどうぞ。場所は地下にある第一訓練所です。内容はとにかくアバウトにアバウトを重ねたアバウトさですが、身の為になるのは確かです」


「その説明が既にアバウトなんですが」


「それともうひとつ」


「当たり前のようにスルーしないでください」


 呆れたように真人が言うが、それを気にせずに受付嬢は口を開いた。


「マサトさんの魔力のことを知っている私の方が他の受付嬢の方々よりも円滑に対応出来るかと思いますので、今後も受付に御用があれば私のところに来ていただければと」


「え″」


「何故そのような微妙そうな顔になるんですか?」


「いや……だって貴女、俺の扱いが酷いじゃないですか……」


 真人がそう言うと、受付嬢は呆れたように溜め息を吐き。 


「本来ならギルドに登録出来るかわからないどころか下手したら国の研究機関から呼び出しを食らうレベルの会ったばかりの貴方に私は自らの首をかけて書類に隠蔽工作をしたんですが」


「ごめんなさい最高の待遇ですありがとうございます」


 真人が土下座する勢いで受付嬢に礼を言うと、受付嬢はニコリと笑みを浮かべ。


「わかっていただければ良いのです。それでは今後ともよろしくお願いいたします」


(……受付嬢って怖いなぁ……)


 礼儀正しく頭を下げる受付嬢を見て、真人は苦笑いしたのだった。

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