街に到着
真人とミーシェが森を出てから約40分後、ようやく真人の視界に街らしきものが見えてきた。
「ようやく見えてきた……。あそこが街だよな?」
「そうだよ。あそこはグリーゼ街ってところで、私はあそこに住んでるの」
「へぇ。そうなのか」
「うん。だから、もし街に滞在してるときに何かあったらいつでも頼ってね!」
「わかった。…………女の子に頼ることしか出来ないってのも情けないな……」
真人が最後の方にポツリと溢した本音はミーシェには聞こえていなかったようで、彼女は首をかしげた。
「え? 何か言った?」
「何でもない」
どうにかミーシェに頼らなくても生きていけるようにしよう。そう決意した真人は、街に着いた後にどうするのかを考え始めた。
(とりあえず、これから暮らしていくためにはお金が必要だ。何か金を得る手段は……。あっ)
ここまで考えて、真人は拾った魔封石の存在を思い出してポケットから魔封石を取り出した。
(そういえばそのためにこれを拾ったんだっけ。でも、売ったらどれくらいの金額になるんだ……?)
「……? 突然魔封石なんて取り出してどうしたの?」
ミーシェが不思議そうに真人に尋ねると、真人は魔封石を持った手をミーシェの方にやり。
「これ、売ったらどんくらいになるんだ?」
真人のその発言に、ミーシェは目を見開いた。
「え、え……えええええええええええ!?! う……売っちゃうの!? そんな高価なものを!?」
真人はミーシェの慌てぶりを見て確信した。
「――これは高値で売れる!」
「ちょっと待って一旦落ち着いて!? た、確かに魔封石が売買されるのは珍しくないけど、そんなに強力な魔封石が出回ることなんてまずないし、そもそも変な人が買っちゃったら危険だから強力な魔封石の売買は推奨されてないんだよ! 多分商人さんも買いとってくれないと思うよ!?」
ミーシェの必死さに気圧された真人は、少し後ずさって魔封石をポケットにしまった。。
「わかったわかった! 売るのはやめる! しかし、はぁ……」
価値が無さすぎて売れないのならまだしも、価値がありすぎて売れないということを知った真人は思わず落胆の息を吐いた。
「でも、もしお金に困ってるならギルドで稼げばいいんじゃないかな? そんな強力な魔封石を持ってるなら、魔物の討伐依頼とかでお金を稼げるんじゃないかな?」
「ギルドか……。なるほど、その手があったか」
「じゃあ街に着いたらギルドまで案内するね?」
「ああ、悪いがよろしく頼む」
真人の今後の予定と金策が決まった後、二人は特に変わったことを話すわけでもなく、グリーゼ街に到着するまで他愛のない話をした。
そしてついに二人がグリーゼ街の目の前まで到着すると、門番である中年の男性が手を挙げてミーシェへと話しかけた。
「おう、ミーシェか。依頼はどうだったんだ?」
「シュトルおじさん! 無事達成できましたよ!」
指でピースマークを作りながら報告したミーシェを見て、シュトルと呼ばれた門番はそれは良かったと告げた後、
「で、その変な服を来た怪しい男は誰なんだ?」
「いきなりメンタルにダメージ与えに来るのやめてくれません?」
「不審者って……。まあ、変な服装してるけど……」
「おい二人がかりで来るとか聞いてないぞ」
真人は今、転生前に死んだときと同じ服装である高校の制服を着ていたので、そのような服装に面識の無い二人からしたらもの珍しいと同時に怪しいと思われても仕方の無いことだった。
これはどうしたものかと真人が思ってると、ミーシェが口を開いた。
「で、でも彼は私の命を助けてくれたんです。だから見た目は怪しいかもしれないけど悪い人ってわけじゃなくて……」
「そりゃ本当か? まあ、悪いやつじゃなさそうだが……」
そう言いながらシュトルは真人を凝視し始め、それに気付いた真人は体を少し強張らせた。
彼は門番という仕事柄、街の安全のためにも怪しい者は極力街には入れないようにしていた。
だが、目の前の少年は見た目が怪しいというだけで特に脅威は感じられず、さらに小さい頃から知っているミーシェが命を救われたということを考慮したシュトルは、真人を凝視することをやめて、表情を柔らかくした。
「……ま、ミーシェがそこまで言うなら大丈夫だろう。別に何かしそうなわけでもないし、通っていいぜ」
「! ありがとう! シュトルおじさん!」
「ただし、街に入ったらすぐに服屋で服装を整えろ。住民の人を不安にさせたくないからな」
シュトルがそう言うと、真人はばつの悪そうな顔をした。
「えっと……俺、金持ってなくて……」
「なんだ無一文か。なら仕方ねぇ」
シュトルは小袋を取り出すと、それを下投げで真人に渡した。
「えっ?」
いきなりのことに驚きながらも、真人はその小袋をキャッチし、小袋の中身を確認すると、貨幣のようなものが入っているのが見えた。
「これって……」
「そんくらいあれば安い服くらい買えるだろ」
シュトルの言葉に、真人は口を開いて呆然としていた。
「……どうした坊主、別にそれが俺の有り金全部ってわけじゃねぇし、後でちゃんと返してくれれば大丈夫だぞ?」
「えと、そういう意味ではなくて……」
「? 気になることがあるなら遠慮せずに言ってみろ」
真人は言いずらそうに顔をしかめていたが、シュトルのその言葉を聞いて、ゆっくりと口を開いた。
「その、初対面の人でも怪しければ罵倒してくるタイプの人だと思ってたので予想よりも圧倒的に優しすぎて驚いてました」
「やっぱ金返せガキ」
「すみませんでしたごめんなさい」
瞬時に土下座した真人を見て、シュトルは呆れたように息を吐いた。
「ま、別にいいんだけどよ。……おっと、そういやミーシェ」
「はい?」
「さっきお前の兄ちゃんが帰ってきたぞ」
「え"」
露骨に嫌そうな顔と声をしたミーシェを見て、真人は色々と察したものの、ミーシェに問いかけた。
「兄ちゃんと仲が悪いのか?」
「いや、仲が悪いというか…………」
ミーシェは目を逸らしながら、ぽしょりと呟いた。
「お兄ちゃん……超が付くくらいのシスコンなの」
ミーシェはそう言って死んだ魚のような目をしていた。