説教
捕まっていた人達が見つかってからは早かった。
ギルドの人々が人を運び出す班と書類を調査する班の二組に分かれて作業を進め、さらに伝令が街へと届いたことで新たな援軍が到着し、作業は予想以上に早く終わりを告げた。。
研究所の主である男はまだ捕まえた人には手を出していなかったらしく、奇跡的にも全員が無事だったのは不幸中の幸いと言ったところだろう。
また、発見された書類から違法研究の証拠が次々と発覚し、男はあえなく御用となった。
そして翌日、真人はギルドの受付の前に立っていた。
「マサトさん。私、申し上げましたよね? 危ないから森には近づかないようにと」
真人の前にはニコニコした笑みを浮かべるアイリが居たが、その笑みは決して良い意味のものではなかった。
「い、いやぁ……。た、確かにそうですけど……」
「ミーシェさんが解決してくださったから良かったものの、もし何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「うぐ……」
実際は真人が解決したようなものなのだが、力が目覚めなければ酷い目にあっていたかもしれなかった真人の行動は早計と言うしかなく、それは真人本人も理解していた。
故に真人はアイリの言葉には何も言い返せず、言葉を詰まらせてしまった。
そんな真人を見てアイリは溜め息をつくと、
「…………まあ、次からは気をつけてください。ひとまずマサトさんが無事で安心しました。何事も無くてなによりです」
「……はい。心配かけてすみません」
アイリはその言葉にクスリと笑うと、
「マサトさんのようなからかい甲斐のある方は滅多にいらっしゃいませんから、本当に気を付けてくださいね?」
「本音出ちゃってますけど!?」
「何の事でしょうか? 私はただからかいたいだけですよ?」
「絶対わかってますよね!?」
「申し訳ありませんが私にはわかりかねます」
あからさまにとぼけたような表情で言ったアイリに、真人は勝てないことを確信してこれ以上の言及は諦めた。
「……ところで、マサトさんは何の用で私のところへ来たんですか?」
そう、今日ギルドに真人が来たのは、アイリに話したいことがあったからであった。
しかし、いざアイリに話しかけた瞬間に説教されてしまい、話を出すタイミングを見失ってしまっていた。
「あー……そのことなんですが……」
真人が話すつもりなのは自身の力のことだ。
アイリは真人に魔力が無いことを知っており、ギルド加入の際にそれを隠蔽してくれた人物でもある。
故に、アイリにはこの力について伝えておきたいと真人は考えていた。
もっとも、もしかしたらまた助言が貰えるかもしれないという邪心も少なからずはあったのだが。
「ちょっと……ここじゃ話せないですね」
だが、真人はこの話をアイリ以外には聞かれるわけにはいかなかった。
魔力が無いことを聞かれたくないのはもちろん、空気中の魔力を操れる力を知られることも避けたかった。
「だから、人気の無いところに行って話したいんですが……」
真人の言葉を聞いて、アイリはその意味を考えた。そして――。
「ごめんなさい。今は誰とも付き合うつもりはありません」
「告白じゃ無いですよ!?」
「えっ? 違うんですか? てっきりそういう意味だとばっかり……」
「当たり前じゃないですか!! もし好きだとしても出会って二日目で告白とか無謀にも程があるでしょう!?」
「……居るんですよ」
「え?」
視線を逸らし、暗い表情をしながらアイリは呟いた。
「あんまり話してもないのに告白してきたり、出会って数分で告白してきたり。そういう人、居るんですよ……」
「あぁ……。アイリさん美人ですもんね……」
「……もしかして口説いてます? ですがごめんなさい。さっき言った通り私は――」
「だから何でそっちに繋げるんですか!? 別件ですよ別件!」
「別件ですか? しかし、告白以外に人気の無いところで話すことなんて――」
「……俺の魔力に関係する話なんです」
その言葉で、アイリは急に真剣な表情になった。
「わかりました。ではギルドの個室があるのでそこを利用しましょうか。上の方から昨日のことについてマサトさんから聞いておくようにも言われてますし、それを聞くという名目で借りれば周囲から怪しまれることはないと思います」
「……手際良すぎでは……?」
「これでも事務能力を買われてここの受付嬢をやらせて頂いてますからね。では、行きましょうか」
「は、はい……」
二人が個室へと向かい始めると、それを見ていた隣の受付嬢が呆然としていた。
「……どうしたの? 手が止まってるけど……」
同期の受付嬢に声をかけられた彼女は、珍しいものを見たと言いたげな顔をしながら、
「私、今までアイリさんが男の人とあんなに話してるところを見たの初めてで……」
「中々レアよね。私も昨日初めて見たわ」
「それにアイリさん、去り際にちょっとだけ笑ってたの。あの男の人には見えないようにだけど」
「……あの男の人、何者なんでしょうね」
モヤモヤとした疑問だけが、彼女たちに残ったのだった。




