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開始地点には殺意の香り

(ここは……?)


 起き上がった真人の目の前に広がっていたのは、見渡す限り木ばかりであった。


(えっと……。確かあの自称女神に落とされて、あまりの恐怖に空中で気を失って……)


 徐々に記憶が鮮明となり、ようやく今の自分の状況を思い出してきた真人は、ひとまず立ち上がった。


「チートもなしに森に落とすとかあの女神殺意高すぎだろ。ワンチャン即死するまであるじゃねぇか」


 不満を言わずには居られない真人であったが、ネガティブになってはいけないと自分を引き締め、前向きに考え始めた。


(いや。でも自由に暮らしてほしいなんて言っておいて早速殺しにかかるなんてことを普通するか? もしかしてチートを付けなかったというだけで、身体を少し強くしてくれてたり、魔法を使えるようにしてくれたのかもしれない……)


 ここまで考えた真人は、とりあえずどこか自分に強くなった(変わった)ところが無いか調べてみた。


 真人はまず走った。だが速度は転生前と変わらず。


 次に木を殴ってみた。真人の拳にジンジンとした痛みが広がった。


 さらにジャンプをしてみた。跳躍力はやはり変わっていなかった。


「最後は魔法の検証か……。これで何も出なかったら本当に即死するまであるから頼むぞ……」


 真人は深呼吸をして、手を前に出した。


「メラ○ーマ!!」


 しかしMPが足りない! という言葉が真人にはどこかから聞こえた気がした。魔法など出るはずがなかったのである。


 転生前と何も変わっていないことに気がついた真人は、その場に膝から崩れ落ちた。 


(……詰んだ。これじゃ森から出る前に魔物とかに襲われて死んじゃうんじゃ……)


 いや、でも誰かと会えればワンチャンあるぞと前向きに考えていると、真人は目の前に様々な色をした石ころを見つけた。


「おお……。こんな綺麗な石が普通に落ちてるとかファンタジーだなぁ……」


 全部で5つあった石を、真人はポケットの中へとしまいこんだ。


(もし魔物が来たらこれをぶん投げて少しでも時間を稼げればいいし、無事にどっかの街に辿り着けたら、価値があるのかはわからないけどこの綺麗な石を売ってみればいいか。もし売れなくても経験になるだろうし)


 真人は立ち上がり、さてどちらへ進もうかと迷っていると――。


「グゲゲ」


「ギギッ!」


「グゲー!」


 なんともファンタジーらしいゴブリン三人衆が真人の視界に映りこんだ。


 三体とも小柄で、右手にはこん棒を持っていた。


 ゲームなどで良く見る最弱な魔物ではあるがここは現実であり、真人の脳裏には自分が三体のゴブリンにリンチされている映像が流れていた。


(いやいやいや! 凶暴だとは限らないし、温厚そうだったら刺激しないように離れよう)


 そう思った真人であったが、ゴブリン達は何やら顔を見合わせて会話していた。


「ヒサビサノエモノダ」


「オナカスイタ」


「タベヨウ」


 ゴブリン達は温厚どころか殺意しかなかった。


「結局こういうパターンかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! ってか喋れたのなら最初から喋ろよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 真人がゴブリン達とは反対方向に逃げ出すと、ゴブリン達も真人を追ってきた。


 小柄ながらも素早いゴブリンから、真人は一向に距離を離せずにいた。


「コラゴハン」


「ニゲルナゴハン」


「マテゴハン」


「いやいやいやいやいや速ぇよお前ら!! 最弱クラスの魔物のはずなのに全然逃げさせてくれないのかよ!? あと普通ご飯は逃げないからね!? もう少し野菜とか果物とかヘルシーでベジタブルな食生活を心がけような!?」


「「「オレタチニクショク」」」


「栄養偏って死ね!!」


 焦っているあまり自分が何を言っているのかわからない真人だったが、そのまま走り続けていると段々とゴブリン達の体力が切れてきたのか、徐々に距離が離れてきた。


「よしっ! このまま行けば……!」


 と油断したのが命取りだったのだろう。真人は木の枝に足を引っ掻けてしまい、転倒してしまった。


つぅっ……。やっべ……」


 真人は急いで立ち上がってゴブリンから逃げようとするも、ゴブリン達は真人が転倒したのを見るや、急に速度を上げて迫ってきた。


「くそっ……。こうなったら……」


 真人が立ち上がった瞬間にポケットに入っている石を投げて少しでも時間を稼ごうと思ったそのとき、先程まではわからなかったが、真人は目の前に女の子が立っているのが見えた。


 緑色の髪の毛をしたショートカットの彼女は軽装であったが、剣を所持しており、ゴブリン程度なら倒せそうな武装をしていることに真人は気がついた。


(良かった! 男として女の子に助けを求めるのは情けないけど、ここは恥を忍んで――)


 という真人の考えは、彼女の視線の先を見た瞬間に吹き飛んだ。


「……うっそだろおい」


 視線の先に居たのはまごうことなきドラゴンだった。


 ドラゴンはまるで彼女を追い詰めることを楽しんでいるかのようにゆっくりと歩いてきていた。


(後ろにはゴブリンが居るのに前にはドラゴンかよ……! ……そうだ! ゴブリンを囮に使えば……!!)


 作戦を思い付いた真人は急いで立ち上がり、ゴブリン達の方へと視線を向けた。


 が、ゴブリンはドラゴンの姿を目視した瞬間に逃げ出しており、既にゴブリン達の気配は無かった。


「さっきまで執拗に追いかけてきたくせにこのタイミングで逃げやがったなアイツら!?」


 とは言え、文句ばかりも言ってられないと真人が思っていると、目の前に居た彼女がさっきの真人の叫びでようやく真人の存在に気がついたようで、膝を恐怖で震えさせ、涙目になりながら真人に願った。


「お願い……たす、けて……」


(すまないんだけどむしろ俺が君に助けてもらおうとしてたんだよ!!)


 とは口が裂けても言えなかったが、事実として真人は自分が目の前に居る彼女よりもまったく戦力にならないということは自分でも良くわかっていた。


 真人はふとドラゴンを見てみると、ドラゴンの狙いは彼女だけに注がれており、自分のことなど眼中になさそうなことが読み取れた。それはつまり、真人一人だけでこの場から離れれば簡単にドラゴンを撒けるという事を示していた。


 だが、真人は諦めたように溜め息を吐くと、ポケットに手を突っ込んだ。


(どうせ一人じゃこの森を抜けられる気がしないし、それならいっそ目の前に居る可愛い女の子を助けて死んだ方があの世で自慢できそうだよな)


 真人だって死にたいわけではない。現に恐怖で冷や汗と膝の震えが止まらずにいて、足を前に踏み出せなかった。


 逃げたい気持ちで一杯だが、心の中で自分に言い聞かせ続けた。


(チートどころか魔法も無しじゃ早かれ遅かれ死ぬのが運命だろうし、死ぬのが少し早くなっただけだ。覚悟決めろ、俺……!)


 自分自身を鼓舞して覚悟を決めた真人は、ポケットに入っていたカラフルな石のうち、蒼く煌めいた石をドラゴンに投げつけた。


(ドラゴンはプライドが高いとか聞いたことあるし、石をぶつけられた怒りで狙いが俺にチェンジされればこの子だけは逃がせるはずだ……)


 真人の読み通り、石を顔面にぶつけられたドラゴンは不機嫌そうな顔で真人を睨み――パキンッという音と共に一瞬で凍りついた。


「……………………………………………………は?」


「え?」


 真人の横にいた彼女も何が起こったのかわからないといった様子で呆然としていた。


 氷像と化したドラゴンにはヒビが入っていき、氷もドラゴンも粉々になって消えてしまった。


「……はぁ、さっきの俺の覚悟はどうなるんだよ……」


 と言いながら、真人は力が抜けたように尻餅をついたのだった。

文章量減るとか言っておいてほぼ一話と同じ量になりました()

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