講習
一時間後、真人は地下の第一訓練場で、講習の開始を待っていた。
真人の他にも参加者はおり、彼らも講習の開始を待ちわびていた。
「いやー!! 遅れてすまんな!! 色々あって遅れてしまった!!」
入り口の方から突然聞こえてきた大声に、その場の全員が一斉に振り向いた。
その声を発したのはガタイの良い中年の男で、参加者の方へと向かってきていた。
見るからに熱血タイプのその男は、参加者全員を見渡して満足げに頷いた。
「ほう、今日の参加者は8人か! 教え甲斐があるな! 私は教官のゴロズだ! 今日はよろしく頼む!」
あからさまに熱血教官タイプのゴロズに、参加者全員はうわぁ……という表情を浮かべたが、それに構わず……というよりも気づかずに教官は続けた。
「まずはある程度魔物について話しておこうと思う! ギルドに登録して依頼を遂行するのであれば何度も出くわすことになるだろうからしっかり聞いておくように! 返事は!?」
「「「「「「「「は、はい!」」」」」」」」」
声が若干小さかったことにゴロズは少し不満を感じたが、軍隊でもないのに大声を出すことを強いるのも酷だと思い、そのことについては何も言わずに話し始めた。
「まずはスライムだ。こいつは森でも草原でも至るところに居る。特徴はかなりヌルヌルでプニプニしているところだ。どれくらいヌルヌルでプニプニかというとスライムと同じくらいヌルヌルでプニプニだ」
(スライムの比較対照にスライム出すのかよ……)
受付嬢が言っていた講習がアバウトすぎるという言葉の意味を理解し、真人はため息をついた。
「わかっているかと思うが、このスライムには物理的な攻撃はあまり効果がない。だが、魔法に対してはほぼ耐性を持っていないから、魔法さえ使えば子供でも簡単にスライムを倒すことが出来る。なので、スライムには魔法で応戦するように」
(なるほど、つまり俺にはスライムに勝ち目はないと……。スライム以下かよ、俺……)
「次にゴブリンだが、奴等には魔法も武器も効く、好きな方を使うといい。正直に言ってゴブリンくらいなら誰でも倒せるだろうから説明は省こう」
(俺は倒せないから省かないでくれ)
「次にウルフだがすばしっこいから冷静に対応しろ、以上だ」
(説明アバウトすぎない?)
「次、ラビット。じっくり焼いてやると美味いぞ」
(それ調理法じゃねぇか。スライムのときの丁寧な説明はどこいった)
このあとも似たような話が続いたが、一時間もするとようやく教官は説明を終えた。
「――さて、説明は以上だ。話を聞くのに疲れただろうし、15分ほど休憩を取る」
教官の言葉に、参加者達はやっと終わったと言わんばかりに喜んでおり、早速休憩に入ろうとした。……が。
「ただし、休憩中は他の参加者と会話をしておくように。依頼によっては知らないやつと依頼を遂行することになんて事も有りうる。その時に備えて初めて会った人と話すことに慣れておけ」
そう言って教官は訓練場から出ていき、参加者達はどうしたものかと顔を合わせた。
ほぼ全員が何を話したら良いのかわからずに黙っていたが、一人だけ口角を上げてニヤリと笑っていた。
「おいおい皆、男だけが8人も居るなら話す内容なんて決まってるだろ?」
(……? 異世界における男同士の鉄板の会話ネタでもあるのか?)
真人がそう考えていると、その男はこう言い放った。
「ここのギルドの受付嬢達って皆可愛くてレベル高いよな!」
「え」
いきなり女性の話が始まると思っていなかった真人は動揺したが、それ以外の参加者達は、頷いていた。
「確かにそうだな」
「皆可愛かったな」
「俺、実はここの受付嬢のレベルが高いって噂を聞いてここに入ったんだ」
「俺も! やっぱり受付してくれる人が可愛いと癒されるよなぁ~!」
段々とその場の雰囲気が良くなっていくなか、真人は一人だけ蚊屋の外に居た。
(受付嬢のレベルが高いとか言われても正直全然気にしてなかったから俺の受付をしてくれたあの人しかわからないんだよな……。いや、あの人もかなり美人さんだったけど……)
真人が一人寂しく考えていると、この話題を出した男が真人に声をかけた。
「なあ君! 君もそう思わないか!?」
「え? あぁ、そうだな。俺は受付嬢が可愛いかなんてあんまり気にしてなかったけど、今になって考えてみたら俺の受付をしてくれた人はかなり美人さんだったと思う」
「やっぱりそうだよな! ちなみに受付をしてくれたのは誰だったんだ!?」
詰めよって興奮気味に聞いてくる男に、真人は少し後退りつつ答えた。
「誰って言われても名前がわからないしな……一番左端のところで受付してもらったことは覚えてるが……」
「一番左端……アイリさんか!!」
(何でわかるんだよ)
「アイリさんと言えばこのギルドで一番人気の受付嬢だな! クールで美人だし! ……まあ、必要以上に喋ってくれないドライな面もあるんだけどな……」
「そ、そうなのか……?」
彼のリサーチ力に驚きつつも、真人はだんだんと会話に馴染んでいった。




