プロローグ
小学校を舞台にした日常物ですが、活躍するのはPTAや地元の方々です。
道徳ってあまり教科書使ってないし、内容はもっといろいろあってもいいんじゃないというのが、この話の発端です。
なろうのジャンル分けでかなり悩みました。
「今年度で、この学校も廃校ですね。校長先生」
「そうですね、教頭先生」
春なのに湿っぽいここは、一応政令都市にある、とある小学校の校長室。
50年前の開校時には、1000人近い生徒がいたらしいですが、今や全校児童100人足らずになってしまい、とうとう今年度一杯の廃校が決定しました。
「私も今年で定年ですからね。最後の校長として、何かみんなの記憶に残るような、この小学校の楽しい思い出を残してあげたいですね」
「いいですね。例えば大人になっても『小学校で覚えてて良かった』と思い出してもらえるなら幸せですね」
「…教頭先生⁈ それいいですね!」
何がいいのか、校長のテンションが上がります。
今年で赴任3年目になりますが、この人がテンション上がった時には、良くも悪くも大騒ぎになります。
若い時から伝説級の逸話もいくつかあるらしく、言葉は悪いですが『あの校長のお世話係』として、赴任当初から私は知り合いに気の毒そうな目で見られています。
周りはそういいますが、もっと出世に繋がる業績も残しているにも関わらず、こんな小さな学校の校長で終わってしまうのがなんともこの人らしく、巻き込まれても嫌いになれない得な性格です。
後日そんな話を知り合いとしていたら「さすがは『伝説の火消し』! 肝が据わってるね〜」と妙に感心されました。
えぇ、私も感心しました。現場一筋三十数年の私に二つ名があるなんて、その時初めて知りました。
知り合い(現在教育委員会で役職持ち)曰く、実は有名人だったらしいです、私。
癖のある学校や先生のいる所でも、私を赴任させるとトラブルが起きない。または、起きても大事にならない爆弾処理班メンバーだそうです。
特に今回は『あの校長』を定年まで勤めさせる為の『火消し』として、セットで赴任させられたようで…私、バーガーセットのドリンク扱いだったようです(涙)
「……というわけで、いろんな常識に触れて貰おうと思います。例えば交通標識の見方のように、子供達は知らないけど常識だというものはたくさんあるはずです」
あ、途中聴けてなかったけど意外とまともそうですね(笑)
「交通ルールはいいですね。昔は所轄の警察署から2人程来てもらって、新一年生が信号の見方教えてもらったりなんて時代もありましたね〜」
「そうそう、人数少ないからいっそ全学年でやりましょうよ! タテ割りグループ毎に分かれたらそんなに混乱しないでしょう」
タテ割りグループというのは、10のグループの中に全ての学年が最低1人は入るように組み合わせた、学年を超えたグループ活動です。低学年の子が何かあった時に聞きやすいように、月一位で顔合わせを兼ねたレクリエーション等をしていたので、確かにそれなりのまとまりはあります。
「おっ、楽しそうですね! 昔みたいに運動場に道と横断歩道を描いて、大きめのダンボールで車作りましょうか?」
僕、車係やってみたかったんです。とニコニコしながら話しかけて来たのは、二年生担当の土橋先生。
勤務医から小学校教諭という変わり者…もとい、ユニークな経歴の方です。
勉強はものすごくお好きらしく、医師免許を取ったあと研修期間を終えて医師として勤務しながら、教員免許取得に必要な単位を楽勝で取られたそうです。
…なんていうか、凄い方です。その後の冷たい空気をモノともせずにニコニコしているので、土橋先生への先生方の扱いが完全に大きな生徒です。
さすがにご本人も失言に気づいたらしく、新人らしく積極的にいろんな先生方に質問しているので、今はマスコット扱いに格上げされつつあります。
教師の機嫌を直すにはいい質問をして、回答時に教えてもらった事に喜ぶと、大抵大丈夫です。皆さん教えたがりですから(笑)
「土橋先生、それは楽しそうですね。もう少し計画練って頂く事は可能ですか? 今度ラフでいいので計画書見せて下さい」
校長先生の期待してますよの声に、元気に返事して部屋を出て行った土橋先生は、やる気に溢れた顔をしてました。
「さて、一つプランは出来そうですが、時間がかかるので他のプランを考えましょう。毎週の道徳の時間を、常識の時間に代えるので、忙しくなりますよ」
は?毎週ですか?校長先生。
正直、嫌な予感しかしません。
…来年3月迄、私の胃と頭髪(笑)が持つのか心配です。
教頭先生はカツラです(笑)。本人はカツラ着用をオープンにしているので、頭髪ネタは持ちネタになっています。
本人曰く、ヘアスタイルは数パターンあるそうです。