09:認めてしまう
家庭科室に行くと、思案顔の三人が肩を並べていた。どうやらまだできていないようだ。すぐにできると思ってはいなかったから、私たちは「こんにちは」と声をかける。顔上げた三人は返事をしてちょいちょいと手招きする。私たちは首を傾げながら近づいた。
「買い出し頼める?」
「三人で、ですか?」
「私たちも行くけど、荷物があるから三つに分かれたいの」
荷物が多いから、その話もしていたらしい。つまり私たちは荷物持ち。別にいいけど、どうやって分けるんだ。とか思ったらじゃんけんで同じ組になった者同士で買い出しが決まるとかなんとか。
じゃんけんをして、どこのゲームかと問いたくなったのは、神崎君と組むことになったからだ。これだけなら普通に運がいいと思うけど、体育祭でも神崎君に来てほしいと言われたから、ゲームかと言いたくなった。
手分けしての買い出しは行くところは同じだが、三つ作るから三班に分けたと当然だと言うように道中、聞かされた。大型で、いろいろ種類もたくさんあるスーパーは料理をする人御用達だ。イメージと実際の作りは違うからこその試作。すぐに終わるとは限らない。
スーパーに着いて各々に別れ、いつかの帰路のように隣を歩く。
「神崎君は何を作るの?」
「俺はラズベリーとかのフルーツ系です」
「そか。パンケーキだとフルーツは王道だね」
「今年は王道ですよ」
「三つとも?」
「はい」
王道攻めか。確かに、たまには王道のパンケーキも食べたくなるからいいかもしれない。フルーツ系統なら女子受けもいいし。そこまで考えたなら怖いな、友人たち。
「コスプレは決まったんですか?」
果物を見利きしながら、神崎君に訊かれた。メイドだと答えると「俺もですか?」とまた訊いてくる。
「神崎君たちがメイドで私がバトラー。つまり、女装ないし男装組だね、私たち」
なんでそんな話になったんですか、と神崎君は項垂れるが、決まったことは仕方ない。というか、私も訊きたい側だ。女装は満場一致だが、男装については話の流れだったから。まあ、楽しいならいいかなって思うからいいけど。神崎君は納得いかない様子だ。
「かわいいと思うんだけどな、メイド服の神崎君。流行りのフリフリなミニスカートじゃなくて本格的なシンプルでロングスカートのメイド服」
「先輩。俺は男です。かわいいは誉め言葉になりません」
「だよねー。でも、似合いそう」
「似合いたくないです」
「ん。今以上に人気出るよね」
そうなるときっと、遠く感じるんだろう。そうして認めかけたこの想いも、残っていくんだろう。
「先輩?」
怪訝な神崎君の表情がちょっと嬉しい。私の言葉一つで表情を変えてくれることがとても嬉しい。ああ、だめだ。溢れてくる。彼が好きだと、心が叫ぶ。――後戻りが、できなくなった。