表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter1:認めたくない気持ち
4/34

04:君と私の相違点

「あの、神崎君。妹弟がごめんね」



 不機嫌にしている神崎君に話しかける。実は怖い。とても近づける雰囲気ではなくて、さっきまで仲良く話していた子ですらも近づいてこない。それほどまでに顔に出ていた。



「今のが妹弟、ですか」


「中三の愛衣と中二の愛樹」


「ああ、だから妹弟なのか」


「そこ? まあ、合ってるけど。妹の下に弟だから妹弟なの」



 一般的に弟妹と呼ぶことが多いが、私は妹弟と呼んでいる。それは神崎君が言った通り、妹の下に弟だから妹弟。どう言われようが妹弟と言っている。



「だいぶ、シスコンですね」


「え?」


「見つからないようにしてるのか」


「何が?」


「……なんでもないです」



 そう?と首を傾げると神崎君はそっぽ向く。「借り物競争に出る選手は入場口にお集まりください」と丁寧なアナウンスが聞こえ、神崎君は走って行った。借り物競争は人気な種目だから二、三年が前に出る。それを見た一年が前に出る。そして憧れの人がチームメイトやクラスメイトを連れて行くのを見て来年同じことをする。それが体育祭の伝統、のようなもの。だと卒業した先輩から聞いた。借り物競争が終わったらお昼だ。今している競技が終わったら借り物競争が始まる。人ならいいが、ものもあるのだ。去年は仮面を付けた実行委員会というものもあった。引いた子は必死に探していたのはあちこちに行っていたから。今年もそういうのを期待している。私は少し離れた場所から座って見ることした。毎回そんな感じだからチームメイトもそういう子として扱ってくれる。私以外にもいるから何も言われたりはしない。なんレースかして神崎君の番になり、チームの歓声が高くなった。主に女子生徒の歓声だ。それまでのレースは生徒会書記や定年そうな教員とかだった。定年の非常勤教諭ではなく、〝定年そうな教員〟がミソらしい。物ならマイクや椅子とか持ち運びやすいものや、それなりに重いものまでさまざまだ。わりと楽しい借り物競争だ。一レース六人で走る借り物競争、神崎君は三番目で生徒会命名お題ボックスに手を入れた。お題ボックスは一つのみで、順番に並んで退いてから開けることになっている。一番目の人は落ち込んだように、二番目の人は小さなガッツポーズをした。神崎君は少し考えるようにお題の紙を見ている。ぱっと顔を上げてチームメイトの方に寄ってきた。



「寺崎先輩、来てください」


「ほふ?」


「お題が部活の先輩兼チームメイトなんです」


「りょーかい」



 簡単で良かったね、と笑いかけると神崎君は目元を赤く染めて「はい」と言った。かわいい後輩の頭を撫でて手を握る。早く、と引っ張るとまた「はい」とだけ言う。どうしたのだろう、と見ようとすると逆に引っ張られる。ちょっと楽しくなったのは誰にも秘密だったり。あと、内心嬉しいと思ったことも誰にも言わない。私の秘密。






 借り物競争の結果を言えば、順位は二位。二番目のガッツポーズをした選手が一位でお題はマイクスタンドだった。マイクを外すだけだから楽だったろう。

 午後の始まりは応援団の応援、そしてその次にスウェーデンリレー。応援団、見たかったが残念だ。おもしろいものもないが、一位を獲得したアンカーとハイタッチをしたけど、思いのほか痛くてヒリヒリした。午後はチーム対抗競技ばかりで、チーム対抗男女混合リレーもその一つだ。それも一番最後。神崎君はアンカーなようで、足が速いのか、と漠然と思う。その漠然と思ったことは正解だった。第一走者から接戦していたチーム対抗男女混合リレー。全員で八人なのだが、一度は第五走者で離された距離を第七走者が縮め、アンカーの神崎君で再度接戦になって外野が盛り上がった。本人たちは必死だったと、インタビューに答えていた。楽しそうなアンカーたちの中に神崎君はいる。私といるときにはしない表情にずきりと胸が痛い。帰ってきても、チームメイトにもみくちゃにされていて話すこともできない。――ああ、私と彼は違うのだ。どれだけ部活が同じで仲が良くても違うのだ。そう、思い知らされた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ