表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter3:気持ちの先に
30/34

30:噛み締めさせて

 神崎君と恋人になって、しばらく。定期考査も終わり、年末年始を迎え、部長が卒業した。新しい部長は友人で、副部長には神崎君がなった。最初は私という案もあったが、私では纏められないし、裏方仕事のほうが合っている。それに、部長副部長を三年でまとめるよりバランスがいいだろう、という判断から、神崎君が副部長になった。

 クリスマスに年末年始。世の恋人は一緒に出かけたり、プレゼントを交換し合うらしいが、私たちはクリスマスの昼は部活仲間と過ごし、夜は家族と過ごし、年末年始も妹弟と過ごした。もともと、神崎君も家族と過ごすことになってたから、メールのやり取りをしていただけだ。初めて恋人としてのやり取りは先輩後輩のときと変わらなくて安心したのは私だけかな、と思ったけど、神崎君も安心したと言ってくれたから、私たちはどちらも不安だったらしい。

 今日は始業式。入学した一年も含めて新学期が始まる日。今日は無いけど、明日からは六限授業。今日は半日で、部活も大会がある部活以外は明日から神崎君と返ることになっている。送ってくれると言われ断ると、「彼氏らしいことをさせてください」と言われて赤面した。まだそういったことに私は慣れいないのに、神崎君の慣れた様子にちょっとだけ意趣返しがしたくなる。とは言っても、私にそんな度胸と知識があるわけではないから言うだけになるのだが。



「神崎君。お茶、飲んでく?」


「え?」


「時間があったら、だけど。送ってくれたお礼にご飯くらいなら作るよ?」


「……それ、どういう意味で言ってます?」


「ん? どういう意味って?」


「いえ。先輩のことですから何も考えてませんね」


「失礼なこと言わなかったかな」


「本当のことでしょう。で、ご相判いいですか?」


 付き合う前と何ら変わりない会話。それにほっとして「もちろん」と答えた。

 家に自分のお昼ご飯を作る。妹弟は部活でお昼の弁当を持たせている。神崎君を招き入れたことを妹弟に知られたらどうなるか。夏祭りのときに見極めると言ってたから、神崎君のことを根掘り葉掘り聞くことが予想できる。できれば知られたくない。恥ずかしいし。でも、神崎君は恥ずかしげもなく答えるんだろうな。こればかりは想像だから分からないけど、いつもの神崎君なら恥かしげもなく言いそうだ。台所からリビングでくつろぐ神崎君を見遣る。テレビをかけてもらってるが、面白くないのか全く笑っていない。まあ、お昼の番組ってあまり面白くないよね。あまり見ないから余計にそう感じる。



「テレビ、面白くないなら切っていいからね」


「じゃあ、そうします」



 テレビの音が消えた。静かな部屋に、米の炒めている音が響く。

 なんか、だんだんと落ち着かなくなってきた。じっとこちらを見てくる完雑記君に何かと問えば何でもないと返ってくる。だったらそんなまじまじと見ないでほしい。正直恥ずかしい以外のなんにでもない。

 ご飯は簡単に炒飯だ。炒めるだけって楽だよね。味付けは保証しないけど。「いただきます」と言ってから、また会話がない。そういえば、こうやって二人きりになるのも初めてだ。神崎君も気にしてるのかな。だから何も言わないの? そうだといいな。独りよがりだとさびしいもん。



「先輩」


「何?」


「こうやって他の男を入れるの、やめてくださいね」


「愛樹は?」


「弟、なんでしょう。だったら気にしないです」



 どうやら気にしていたのは他の男性についてらしい。入れないのに。愛樹はともかく、あとは男性なんて叔父さんくらいだし。基本的に人を入れるのも気を使うのに、人を簡単に入れない。けれど、こう指摘にしてくれることが嬉しい。ちゃんと、相互なんだって思うえるのが嬉しい。笑っていた私に「何が楽しいんですか」とふてくされたように神崎君がかわいい。「なんでもないよ」と返して、一人だと味気ない昼食を摂っていたと考えると神崎君がいてくれてよかった。楽しくて、幸せで、どこか夢心地。だから、今だけは、噛み締めさせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ