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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter2:構う理由
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27:告白

 好きだと言うのは簡単なようで実は難しい。不安や緊張、相手の反応。すべて自分に返ってくる。勇気がなければできないこと。それを、彼女はやった。私には無いものを持って、挑んだ。

 学校一の美少女なら、神崎君もまんざらじゃないんじゃないかな。まあ、でも、決めるのは神崎君なんだけど。神崎君が良いと言ったなら、彼女たちは晴れて恋人だし、神崎君が断ったなら、残念なことに恋人ではない。こんなこと考えるくらいなら、告白すればいいのに、今の関係を壊したくないと考えてしまう私にはできないから羨ましい。口にしたら友人がうるさくなりそうだから言わないけど。妹弟に言っても「お姉ちゃんをたぶらかしたのは誰?」と言われそうで笑ってしまった。それを余裕なことと思われたみたいで、「そんな余裕案あんの?」と言われた。説明をすれば納得してくれたが、それでも余裕なんじゃん、と言われたからきっと、私の中ではもう諦めモードに入っているのだろう。



『神崎君! 返事をどうぞ!』


『ありがとうございます。ですが、すみません。付き合うことはできません』



 神崎君の言葉に安堵した私は、どれだけ性格が悪いんだ。私が自己嫌悪に陥ってても、「告白大会」は当たり前だが進んでいく。



『告白失敗! 理由を着てもいいかな? だって美少女だよ?』


『好きな人がいる、ではいけませんか?』


『この学校の人?』


『ええ』


『名前を伺っても?』


『部活の先輩、寺崎さんです』


「……は?」



 私の間抜けな声とほぼ同時に、女子生徒のつんざくような悲鳴、のようなものが聞こえた。いや、間違いなく神崎君に恋する乙女の悲鳴だ。……ちょっと待って。好きって……神崎君が私を? 確かに首筋を舐められたけどさ。あれって好きだからだったの? だからあんなこと……訊いてきたの? なんて恥ずかしい後輩だ。



「恥ずかしが照るとこ悪いけど、寺崎、逃げないの?」


「どうしてですか?」


「神崎が舞台から降りた。たぶん、ここに戻ってくるよ」



 思わず立ち上がって、私は教室から逃げた。あてはない。だって、ここは学校だ。バレルのも時間の問題だ。けれど、私は逃げた。ほぼ本能だ。どうして、神崎君から逃げるのかわかっていない。いやまあ、衆人の注目を浴びたくないのは事実だ。それから逃げることにしよう。学校に何人、寺崎がいるのか知らないけど、料理部の寺崎は私一人だ。これからどんな顔すればいいの。神崎君のばか!

 私はとりあえず、ひと気の少ない場所に逃げた。つまり、放送室。誰も入って来れないように鍵をかける。少し埃っぽいが仕方ない。窓を開ければばれるから開けれないし。なのに、なんでドアをたたく音が聞こえるのかな? なんでばれたのかな? 私の思考回路が単純なだけ? じゃないとおかしいよね。誰にもメールなんてしてないもん。そっとドアを開けると、神崎君じゃなくて穂積君がいた。ドアを持って開けて、閉めると鍵までかけられた。



「どう、したの?」


「神崎は告白した。今、お前を探してる」


「うん」


「逃げるのか?」


「……逃げ、たい」


「逃げんなよ。俺と、直のためにも」


「だって私……」


「好きなら応えてやれよ」



 応えていいの、かな。離れていかないかな。私、本当に面倒くさい女なんだよ。嫉妬はするし、自分だけを見ててほしいんだよ。

 言えば、穂積君は嘆息して、「それでいいんだよ」と言う。



「直なんてお前以上に面倒だぞ。嫉妬深いし、狭量だ。寺崎のはかわいいほうだって」


「……」


「ま、あとはがんばれよ。振られた俺のためにも」



 穂積君は最後にそれだけ言って出て行った。入れ違いに神崎君が入ってくる。なんで穂積君も神崎君も私の居場所を知ってるの。おかしいでしょ。

 緊張した感じで、顔は男の子なのに、恰好がメイド。ちぐはぐで思わず笑ってしまう。「何笑ってるんですか」と不機嫌に言ってくれる。ああ、いつもの神崎君だ。



「聞いてましたか? 『告白大会』の内容」


「うん、聞いてた」


「あれ、全部本心ですから」


「うん」


「先輩は俺のこと、どう思ってますか」



 訊いているのに、言葉は疑問形に聞こえない。これは、答えろ、ということか。だったら、私も真剣に答えよう。穂積君のため、自分のために。



「好きだよ。神崎君が好き」


「それは、どういう……」



 私から近づいて、神崎君の唇近くにキスをする。恥ずかしくてすぐに離れて距離を取ったけど、放送室は狭いから簡単に距離は詰められる。だから、簡単に捕まってしまう。抱きしめられた。神崎君の腕の中で、私は少しだけメイド服を掴む。息を飲む音が聞こえて、強く握る。シワになりそうだけど、お構いなしだ。



「先輩っ」


「何?」



 焦ったような神崎君が珍しくて顔を上げる。顔を真っ赤染める神崎君がいた。どこが赤面するタイミングだったのかわからない。



「先輩が好きです。俺と付き合ってください」


「こちらこそ、よろしくお願いします」



 二人笑って、また抱きしめ合う。人の体温というものはこんなにも、温かいものだったのかと、久しぶりに実感した。

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