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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter2:構う理由
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24:安心できるもの

 文化祭二日目。一日目と同じく、友人に髪を結ってもらう。たこ焼き屋のほうは調理班の時間の確認をして、私はテントの中に入った。仲の良い子がいなくて、話をしていても私は聞き役になっているだけだ。それも、面白くないと言われる原因だろう。だとしても、話題が無いのだからどうしても聞き役になってしまうのも事実だ。今は誰と誰が付き合っているとか、好きな人の話をしている。正直、好きな人がいることを隠しているから、あまり話したくない話題だ。



「ねえ、寺崎さん。寺崎さんは好きな人いたりする?」


「え?」



 どうやら話題は私に回ってきたようだ。どうやって答えようか悩んでいると、「寺崎さんって一年の神崎君と仲良いようね」と追われた。そりゃ、同じ部活だから仲良いとは思う、実際、一年女子に睨まれたり、運動会の時には帰宅女子から宣戦布告のようなものまで受けた。一般的にも仲良く見えるし、部活があるのだから仲は良い方がいい。



「それあたしも思った! 昨日なんて手、繋いでたよね?」


「み、見てたんだ」


「そりゃあ、見るでしょ。美少女メイドと男装執事が手を繋いでたんだから。きっと、神崎君ファンに睨まれるよ」


「もう睨まれてるから、一緒だと思うけど」



伝えると、それの比じゃないって、と返ってくる。それ以上になったら私どうすればいいの。逃げ場ないじゃん。



「でも今日は一緒じゃないんだね」


「うん。クラスがあるから完雑記君が『先輩はクラスを優先してください』って言ってくれて。でもほら、午前って人も少ないし、時間も短いでしょ?」



 だから、終わったらまた一緒に回ってくださいって言われてるの。

 続けると一人が「何その甘酸っぱい会話」と言い、みんな同調する。甘酸っぱいのかな? 自分じゃよくわからないけど、端から見たら甘酸っぱいらしい。

 話を変えるように、「今日の目玉は何と言っても告白大会だよね!」と聞こえた。『告白大会』とは、名前の通り告白するのだ。なんでもいい。テストで求めている結果が出せなかったから次はがんばるでも、過去には天候が決まっていて、クラスメイトと別れるのが辛いと言っていた人もいた。でも、圧倒的に多いのは愛の告白だ。その場合、好きな人と一緒に参加する決まりになっているから、観客はどっちが連れてこられた側かわからない。でも、女の子が告白するにしても男の子が告白するにしても、みんなが期待しているから、断れない空気になっていることもあると思う。まあ、断る場合はだいたい参加前に断ってるよね。文化祭前に応募するのではなく、二日目が初まってから『告白大会』が始まる直前十分までの応募だ。観客もかなりの人数が毎年集まるらしい。私は興味が無くて去年は観に行かなかったが、周りが楽しそうに、告白もだけど、見てる人も多かったと聞いたことがある。その時間帯、去年はクラスにいたけど、今年は部活のほうにいるだろうから楽だ。一種の休憩時間になる。まあ、お客さんが来ないわけでもないけど。

 ちょくちょくとお客さんが来るけど、朝の時間は少ないから、話に興じることができるのだ。



「神崎君、呼ばれそうだよね」


「神崎君を好きな子いっぱいだもんね」


「みんなは神崎君、好きじゃないの?」



 じっと、見られ、落ち着きなく「へ、変なこと言ったかな?」と言う。



「寺崎さん、神崎君が好きなの?」



 どきりとする。悟られないように困った表情を作って「だって後輩だよ? 嫌われてほしくないでしょ」と返した。嘘ではないけど、こういうときの女子は勘が鋭い。恋愛感情は奥に沈め。隠し通さなければならない。決して、悟られてはいけない。



「それもそうだね」


「あたしらは鑑賞って感じだよね」


「鑑賞? そういう見方もあるんだね」


「まあ、直属の後輩だとちょっとわかんないよね」


「そうだね」



 うまくごまかせただろうか。それなら問題はない。

昼に近づくにつれて人が多くなっていくから、たこ焼きを求めてくる人も多くなっていく。それでも、わりとクラスがあるから大忙しと言うわけでもない。たまに、お客さんが執事のコスプレに興味を示して料理部へ言葉で説明するくらいだ。



「男装の寺崎さんもなかなかいいね。制服しか見ないからとても新鮮」


「そう? けっこうズボンとか穿くよ」


「ええ! イメージつかないよ!」


「私、家でスカート穿いてそう?」


「うん!」



 みんなに頷かれてしまった。ここで、このメンツでいるのが終わった。ここからはクラスの休憩時間だ。まだ、部活のほうまで時間がある。神崎君にメールを入れて、私は本部に向かった。と言っても、本部とたこ焼き屋のテントはほど近い距離にあるから時間はかからない。むしろ、クラスのほうにいる神崎君のほうが時間がかかりそうだ。そわそわとしながら人の波を見つめる。制服は在校生だけだけだから、誰が地域住民で誰が中学生かもわからない。しばらくすると、近づいてくる男性の集団が見えた。他の人同様、過ぎていくだろうと思っていると、足は私の前で止まった。



「うっわ。執事コスじゃん」


「髪長いね? 女の子?」


「え……」



 どうやら、たちの悪いのに引っかかったようだ。どうやって抜け出そう。



「宣伝? 学校案内してよ」


「こ、後輩を待ってるんで無理です!」


「じゃあその後輩も一緒でいいからさ。一緒に回ろうよ」


「だから無理ですって。やめ、離してください!」



 強引に連れて行こうと私の手首を掴まれる。昨日、神崎君には感じなかった嫌悪感が身体をかける。連れて行こうと引っ張られ、踏ん張る。



「嫌です、離してください!」


「そういわずにさ、一緒に行こう」


「いやだって言ってるじゃないですか!」



 本部の人が立ち上がり、出て行ったのがわかる。きっと先生を呼んできてくれるんだ。そう思ったらほっとして、油断した。足に力が抜けて、男の胸に飛び込んでしまった。すぐにはなれようとしたけど、後ろから押さえつけられて動けない。



「離して! 離れてください!」


「君から飛び込んできたんでしょ?」


「単に足に力が抜けただけです! 本当に離してください」


「あなた、先輩に何してるんですか」



 腰に腕を回され、強引に男から離れた。腰に回された腕は回したままで、助けてくれた人は続けた。



「先生。見てないでどうにか彼らをどうにかしてくださいよ」


「いや、珍しい神崎が見れたもんでな。はあ、こっちは面倒事かよ」



 助けてくれたのは神崎君らしい、先生より早く来たのかな。でも、いいかげん、離してほしい。これは恥ずかしい。



「神崎君、恥ずかしいから離して」


「逃げませんか?」


「に、逃げない。逃げないよ!?」


「よかった」


 ほっとしたような声音に、私も安堵した。思った以上に気持ち悪かったようだ。神崎君に離してもらったのに、真正面から抱きついていた。



「せ、先輩?」


「ごめん。もうちょっとだけ。思ったより怖かったみたい。今、すごく安心してるんだ」



 神崎君は少し震えると、私をはがして手首を掴まれる。ずんずんと引っ張られるようにして、私は神崎君に着いていくしかなかった。

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