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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter1:認めたくない気持ち
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02:少し先の予定

 高校生活は一度限り。部活は二年半ちょっとしかいられない。だから、やりたいことに対してはいつも全力だ。部活に文化祭、ついでに体育祭。勉強はあまり本気ではない。気づかないふりをしているが、恋は消極的。あまり彼氏にしたい欲求はない。今のままで充分だ。気のせいにしているからだ、と友人によく言われるが、私はそのあたりにとても淡白である。強がりでも先輩後輩の関係を崩したくないというわけでもなく、本当に彼氏にしたいとは思っていない。欲しいわけでもない。なんというか、別にいいかと思えるんだ。今が楽しいから。友達と笑って、部活して、後輩からかって。だから別に、神崎君が好きと認めても恋人になりたいという欲がでないと思う。それに、神崎君は優良物件だ。一、二年だけでなく三年のお姉様まで参戦していて競争率が凄まじい。

 六月――夏。わが校では体育祭の季節。一年から三年の各クラスが三組合同でチームを作る。体育祭のだいたいは走る競技だが、その中でメインとなるのがチーム対抗男女混合リレーと借り物競争だ。チーム対抗男女混合リレーは、各学年から最低一人を選出して各チーム八人で行うリレーだ。花形であるアンカーはだいたい三年の運動部。毎年接戦をしているらしく、去年も陸上部とラグビー部の三年が熱戦していた。借り物競争はクラスや委員会などの人物指定、もしくは学内にあるものを借りてくるという内容だ。体育祭は一人二つ、必ず出場しないといけなくて、この二つに出る生徒は多い。出させられた、とも間違いはない人も中にはいるけど。

 部活でも体育祭の話で持ちきりである。神崎君とは別クラスの子しかおらず、ぐいぐい聞いている。チーム対抗男女混合リレーと借り物競争に出るの?という質問にわからないと言っていた。

 それを横目に私は神崎君作俵型おにぎりを食べている。塩がいい塩梅だ。持って帰ろう。ほくほくとしていると、友人が呆れたように私を見ていた。その目は「あんたは行かないの?」と言っている気がする。気がするだけだからわからないが、言葉にされていないから何も言わない。神崎君は困ったように対応しながら、結局はチームとクラス次第だと答えていた。そらそーだ。



「体育祭でこれなら、文化祭はもっとすごいだろうね」


「見た目だけならかわいいからね。メイド服か燕尾服とか着せたりなんかして」


「あ、人呼べそう。じゃあ今年はメイドカフェにする?」


「部長に訊いてみないとなぁ。使えるものは使う主義だから、飲食店と決めたら権利奪いそう」


 そう、料理部三年のお姉様――部長ともいう――は使えるものは男でも女でも使う。神崎君もそのかわいらしい顔を使われることだろう。そして、そのためなら飲食店の権利さえ奪うだろう。飲食店なら今流行りの執事やメイドもいいが、軍服も捨てがたい。制服で給仕をするのもおもしろそうだ。いっそコスプレにして対応はメイド喫茶や執事喫茶と同じにすればいい。例年カフェだからコスプレカフェか? これは一度、先輩と話し合おう。わりと楽しんで話していたら、神崎君が逃げてきた。お疲れのようだ。


「おつかれー」


「大変だったね」


「助けてくださいよ」


「やだよ。めんどくさい」


 けっこう薄情ですね、となんとも言えないことを言う。話を変えたのは意外にも神崎君自身で、「笑い声が聞こえてきましたけど、なんの話してたんですか?」と訊かれた。文化祭というと、中学時代に話は移る。私の中学では、文化部と各クラス、美術の課題の展示と舞台を一日目に見て回り、あとは三年と文化部の舞台を見るだけだった。神崎君のところは、中高一貫で食べ物も扱っていたようだ。なんだ私立か。友人は私と同じだと言っていた。高校生になって初めての文化祭。興味がなさそうだったから興味ないのか訊くと、「楽しみではあります」と返ってきた。


「意外だわ。神崎が楽しみだなんて」


「けっこう好きですよ。祭とか」


「寺崎もなのよ」


「意外ですね」



 驚いた、と言わんばかりの震え声に「失礼な」と返す。すると「見た目が大人しいのが悪いんです」と言われる。


「染めてもない黒の長髪、教室では読書か談話。大人しいって思われても仕方ないわ」



 友人はからから笑う。私はむっと顔を作り、おにぎりを包む。拗ねたふりなのはバレているため、二人は何も言わない。



「一緒のチームになれるといいですね、先輩方」


「上手いんだから」



 そんなこと言われたら期待してしまう。それを隠すように手に付いた米のぬめりを洗い落とす。片付けは終わっているから、もう帰っても問題はない。そろそろ家に帰る時間でもある。荷物を持って「お先に失礼します」と家庭科室、もとい学校をあとにした。妹弟たちは中学生だし、ガスコンロではないから「使うな」と言っていない。それでも妹弟たちはご飯を作らない。――否、使えないのだ。料理ができないから。だから私は部活終わり、早々に帰るのだ。家は電気が点いていて、すでに二人が帰ってきていることを示している。妹弟は陸上部に所属しているが、なぜか帰りは運動部にしては早い。私が帰るまでには高確率でリビングにいることは少なくない。服を着替えるてリビングに行くと茶色の頭が二人。妹弟だ。すぐ下の妹とその年子の弟。妹弟は私を見るなり「お腹空いたー」とかわいげのないことを言ってくた。もう慣れたからいいけど、と内心拗ねたくなる。「はいはい。ただいま」と言って「おかえり」と帰返ってきた。順番が逆とだけ注意してご飯を作る。私は少し食べたので、部活から帰ってきた妹弟の分に盛り付ける。ついでに貰ったおにぎりを出そう。今日は昨日にハンバーグが食べたいと言われたから、焼くだけの状態にしていたタネを焼く。あとはサラダと汁物だ。妹弟をテーブルに呼んで、いただきます。父さんと母さんが仕事でいないことが多く、妹弟の世話はしてきたつもりだ。こういった小さなマナーも教えてきた。だからか、基本的に素直な子に育ったと思う。

 テレビをかけながら食事をしていると、弟に呼ばれた。体育祭はいつかと訊かれたから素直に答えると二人して「じゃあその日、行くね」と言われた。気にしていないふうを装っているが、二人とも両親がいない日が多いことを気にしているようだ。そういうところも、かわいいと思っている。言ったら怒られるから内心のみだ。



「このおにぎり、誰が作ったの?」



 妹がテーブルに出したおにぎりを頬張りながら訊いてきた。塩梅が良いおにぎりは神崎君作だ。後輩がくれたと言うと、「女?」となんとも不穏に訊かれる。悪いことをしているわけでもないのに悪いことをした気になるのはなぜだ。「神崎君は男だよ」言った瞬間、剣呑な目付きで相槌を打った妹弟に恐怖を感じた。



「……危険なことはだめだよ?」



 そういうことじゃないのはわかっているが、それしか言えなかった。二人はにこりと笑って頷いたけど、恐怖は拭えなかった。

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