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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter2:構う理由
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15:逃げている

 穂積君から逃げて、家庭科室に駆け込んだ私は、席に着いて息を整える。友人は訝しげに見てくるがそれどころではない。私はふったのだ。穂積君を。真摯に言ってくれたのに、家でのことを心配してくれたのに、私は何も教えないまま逃げたんだ。



「寺崎、大丈夫?」


「だい、じょうぶ。走ったからちょっと、息切れしただけ」



 嘘は言っていない。保健室を出るとき、私は走っていた。穂積君から逃げるために。彼に言った言葉は私の気持ちであるが、あんな、冷たくなるなんて思わなかった。高揚感とは別のドキドキに冷や汗が出る。ああ、もう顔も見せられない。せっかく友達になれたのに。



「泣きそうなとこ悪いけど、どうしたわけ?」


「穂積君と言い合いになっただけだよ」


「珍しいわね。あんたが言い合うなんて」


「……ちょっといろいろあって」



 訝しげにする友人だけど、追求することはないだろう。この友人は何も言わない私と約一年半、一緒にいてくれたから。結果は伝えるが、今はまだ、何も言えない。

 私は黒の浴衣を縫っていく。ミシンで縫う場所は待ち針を刺して、さっきのように怪我をしないように動かす。今度は集中してるからか、怪我は無かった。やっぱり考え事をしながら作業をしていたから針で刺したみたい。ふと指先を見ると、血が滲んでいた。まだ出てくるらしい。今日は部活、いけないな、と落胆すると同時に安心する。神崎君に会わないで済む。でも会いたい。相反する気持ちは安心と不安。わがままな私の心。

 授業が終わり、各々が片付けていく。ミシンからボビンと糸を抜いて針を降ろし、元の場所に戻して終了だ。まだ出来上がっていない浴衣は先生に預けることになっている。先生に預け、私たちは教室に戻った。

 ホームルームの時間、文化祭の出し物の申請の締め切りが間近だから、どんなたこ焼がいいか話し合うと言われた。文化委員が主だった仕事をするのだが、私は自分が文化委員だということを言われてから気づく。文化委員は文化祭に時にのみ動くから油断していた。先生からの話はそれだけで、解散となる。私と友人は家庭科室までの道のりを戻りながら話をした。どんなのがいいか。妥協案を探さなければならない。シフトだって決めないといけないし、買い出しも決める必用がある。

 話してると割りと楽しかったようで、あっという間に家庭科室に着いた。部長は早々に来ていて、私たちに気づいて笑う。



「早いね」


「早く返してくれたので。部長こそ、早いじゃないですか」


「私もよ。あとは内装をどうするかねえ」


「メイド、ただし寺崎を除く。なら、例年通りでもいいんじゃないですか?」


「ここはちょっと拘りたいけど……服と飲食物で予算も少ないし、仕方ないか」



 落胆した部長をよそに、私はどうやって神崎君を遠ざけようか考え始めた。

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