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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter2:構う理由
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14:彼じゃないと

 神崎君たちに失態を見せてしまった。自己嫌悪。あんなとこ、見せるつもりはなかったのに。帰ってこないって言ってたから入れたのに。上手くいかないときはとことん上手くいかない。



「っ!」



 痛い。

 家庭科の授業中、浴衣を作るために針を扱っていたけど、間違えて自分の指を刺したらしい。指を見ると、ぷっくりと血が出ていた。やってしまった。絆創膏、貰いに行かなきゃ。



「先生、保健室行っていいですか」


「珍しいわね。あんたがそんなミスするなんて」


「ちょっと考え事してて。行ってくる」


「いってらしゃーい」



 友人に見送られ、私は保健室に行く。教室と違って近い場所にあるから、時間はかからない。ノックをして入ると、そこにはくつろいでる穂積君はいるけど、肝心の養護教諭がいない。二人のうち、一人は常駐しているはずなのに珍しい。



「穂積君、養護教諭は?」


「どっちも用事で出てる」


「ふうん。じゃあ穂積君はどうしているの? くつろいでるってことは用事終わったんでしょ」


「美術だったんだけどよ」


「いや保健室なんて体調不良か怪我くらいだから」


「タバコ吸うから外行くってよ」



 あの不良教師、と穂積君は悪態つく。言いたい気持ちはわからないわけじゃない。二人いるうちの一人はタバコは吸うために多々抜け出すことがある。おかげで今日みたいな無人のときもあるくらいだ。



「そか。養護教諭も困った人だね」



 笑って、私は手を洗って勝手知ったる手つきで、手を洗ってちゃんと水気を拭き取る。絆創膏を貼って利用者が何を使ったとか書く紙にしたことを書く。穂積君はじっと私を見ているように思えるけど、自意識過剰かな。用は終わったから、穂積君に挨拶して出ようとした。――はずだった。



「何隠してんの?」


「何が? 何も隠してないよ」



 扉を穂積君に閉められた。ドアノブは彼が掴み、私を逃がさないように囲われる。――彼の熱が、背中から感じる。



「隠し事なんてないよ。私、授業行くから……」



 離して、とはびっくりして言えなかった。後ろからとはいえ、穂積君に抱き締められたから。思いもよらない行動に私はじたばたと動くが、やっぱり男の子には勝てない。諦めて大人しくすると、ぎゅっと力が強くなった気がした。



「言ったよな。俺、お前を狙ってるって」


「……隣のクラスの人以上の感情はないよ。それは変わらない。せいぜい、友達止まり」


「大してアプローチもしてないのに、変わらないって断言できるわけ?」



 できる、できない、と訊かれると、答えは〝できる〟だ。神崎君の言葉、態度で一喜一憂して、笑顔を向けてほしい、笑顔にしたい。私が好きなのは神崎直以外にはいない。



「神崎君が好きだから……」


「なんで……直なんだよ」



 焦ったような声音は少し掠れている。

 なんで、という問いの答えはわからない。ただ、神崎君に惹かれたから。好きになったから。神崎君でなければならない。他の誰でもない――



「どうしてかわからない。ただ、本当に、神崎君じゃないといけないの」



 たぶん、双子以外で初めて、私に踏み込んできたから。

 私の世界は身内と他人だった。家族は身内。他人というカテゴリーの中に友人や先輩、後輩などにカテゴライズされる。その中に初めて入ったのが〝気になる人〟。絆されたと言われたら仕方ないけど、理由はなんでも良かった。気になったら知りたくなった。知ったらいつの間にか好きになっていた。初めての感情をくれたのは神崎君だった。執着に近いのかもしれないと、今気づいた。



「離して。私は――あなたを好きなわけじゃない」



 穂積君の腕は振るえていて、ゆっくりと緩めていく。私は逃げるように扉を開けて家庭科室へと駆けていった。

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