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隠して恋情  作者: 崎村祐
chapter2:構う理由
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13:花火のあとに

 花火の準備が終わった、と言ってもバケツに水を溜めるだけだから、そんなに時間をかけなかったようだ。ただ、料理ができていないから私と神崎君は手を離せないから、先に始めてもらうことにした。すると、三人は待ってくれるという。クラッカーがあったから、おやつ感覚で食べれるように準備している。



「こうしてると、仲の良いきょうだいか恋人みたいですね」


「こ、恋人は言い過ぎじゃないかな」



 そんな使い古された恥ずかしいセリフ、よく言えるね。私には無理だよ。そんな言葉。無心にはなれないけど、必死にチーズを切ると、ぼそりと神崎君が呟いた。



「嫌、ですか?」



 包丁を持つ私の手が一瞬だけ止まった。何事もないように動かすと、くすりと笑われた気がした。私は試されているの? 何を試されているの?



「なに、が?」


「俺と恋人に見られるのは嫌ですか?」


「神崎、君?」


「先輩、俺――」



 この先を聞いたら、きっと自惚れてしまう。先輩後輩の関係ではなくなるのだと思ってしまう。彼氏への欲求はなくても〝もっと〟と望んでしまう。それだけは嫌。求めたくない。離れていってしまう。あの人たちみたいに。

 私は顔を上げないまま、聞くのだろうか。考えたとき、愛樹の声が響いた。私達は振り向いて、いつの間にか来ていた愛樹を見た。



「姉さん。穂積さんも愛衣も始めたがってるからもう料理はいいよ」


「……愛樹」


「姉さん、聞いてる? ぼーっとして包丁持たないでね」


「ごめん」



 まったく、と愛樹は呆れている。でも料理はまだ途中だ。神崎君もそれが気になっているようで、愛樹から台所に視線を移した。



「準備しているものだけでも作って行きますから、先に始めていてください」


「でも……」


「構いませんから」


「……わかった。待ってるね。お皿はそこの食器棚に入ってるから」



 私が名残惜しいだけのようだ。神崎君の有無を言わさない言葉に私は従った。明日から、話せなくなりそう。線香花火の儚さが、今だけは心細ものに感じた。

 きっと、大した時間は経っていないのだろう。料理を運んできた神崎君が来たのは、三本目の線香花火が終わったときだった。穂積君に「おせーぞ」と言われた神崎君はそれを否定して皿をテーブルに置く。我が寺崎家のベランダがそれなりに広いのもあり、お茶ができるようにテーブルが置おかれている。三人の休みが合えばお昼を食べることもあるくらいだから使用頻度は少ない。掃除はしてあるし、使う際にはテーブルクロスも使ってるから問題はない……と思う。今回もテーブルクロスは使っているから大丈夫だろう。

 神崎君にお礼を言って花火を渡す。普通に渡せているだろうか。私以外、人の機微に聡いからちょっと心配になる。たぶん、何も言われないから大丈夫だろう。せっかくの花火だし、台無しにはしたくない。

 花火の火を点けて再開する。軽くご飯を摘まみながら楽しくしていた。ドタドタと階段を登ってくる音に肩をあげた。心配げな妹弟が見えた気がする。そのうちに扉は開かれて、叔母さんが見えた。叔母さんはベランダにあるサンダルを履いて私の前の前まで来ると口を開いた。



「愛弥さん。家に人をあげたのですか」


「……はい」



 返事のち、パシンと乾いた音が鳴る。私が頬をはたかれた音だ。さすがに神崎君と穂積君も驚いたようで息を飲む。何も言わないまま、私は叔母さんを見上げる。



「あんたを引き取らなければ良かった!」



 何回言われたかわからない。幼い頃から言われている言葉に、今は何も感じなくなっていた。ただただ、痛みに我慢するだけの戯れ言。彼女はそのまま部屋を出た。きっと、自室に戻ったのだ。

 さすがに、もう花火どころではないだろう。妹弟も落ち込んでるし、神崎君も穂積君も驚きで花火どころではない。せっかく、料理まで作って楽しくしていたのにあたしのせいで……



「今日はもうおしまいにして、別日にしよっか」


「お前、大丈夫じゃないだろ」



 私の言葉が気に入らなかったのか、穂積君が突っかかる。神崎君も似たような感じだ。言葉にしないだけで顔が「なんだ今のは」って感じになっている。――なんでもないのに。どうってことないのに。私の周りは私に甘すぎる。

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