【後編】
――人道的ではなかったものの、優秀な人々のおかげで、その国は財政難の危機を脱することができました。しかも、その勢いは衰えていません。1人当たりのGDPでは、世界の上位を維持できるまでになりました。
ところが、他の国々は、その国の成功を妬みました。「卑怯な手を使って成功している」という具合に。なんとかして足を引っ張ってやろうと、つけこむ隙を伺っているのでした。
強制的な安楽死や中絶をやっているので、他国の人々からの評判も最悪なものです。そんな事情から、同盟国や友好国の関係を取り止める国々が続出しました。
そんなある日。国の首都で厄介な事件が起きてしまいます。その事件は、国の命運を懸ける事態にまで発展しました。
事件概略はこうです。子供の安楽死を避けるために、大使館へ逃げ込もうとした家族がいました。それを警察が拘束し、子供はそのまま強制安楽死です。ところが、母親が外国人で、ハーフの子供は二重国籍の状態でした。つまり、半分外国人を殺してしまったわけです……。
待ってましたと言わんばかりに、大国であるその国は、腰巾着の国々とともに、その国を非難の嵐を吹き起こします。人道的な大義名分と選挙対策のためです。以前から非難は何度も受けていたので、その国は従来通り、適当に対応しました。
しかし、そんな対応が、今回は火に重油を流し込む形にまで燃え上がります……。世界中の偽善深い人々が激怒し、自国に軍を出動させました。あちこちのテレビで、航空母艦や爆撃機の映像が、何度も繰り返し流れます。国旗を掲げた多国籍軍が、その国へ勢いよく雪崩れこんでいきました。「これは正義だ!!」という暑苦しい熱気がたちこめ、その国をすっぽりと包囲します。
いくら優秀な人々の国とはいえ、大国を始めとする国々で構成された多国籍軍に勝つことは、物量的に難しいのが現実でした。無論、その国の上層部もそれはわかっています。優秀な頭脳の人物ばかりですからね。
けれども、無条件降伏を受け入れた場合、人々は激怒することでしょう。上層部を「劣った人々」として扱い、強制安楽死へという流れも十分にありえます……。
「数多のテストやノルマを突破してきた我々が、戦争に負けるはずない!! 我々が優秀な人間であることを、奴らに教えてやろう!!」
無駄に高いプライドも作用し、人々は徹底抗戦の構えでした。いくら頭が良くても、理性と柔軟性が無ければバカという典型例ですね。
こうして、戦争が始まったのでした。少数の天才と大勢の凡人との戦いです。
開戦と同時に、多国籍軍は侵攻を始めました。まず、戦闘機と爆撃機の「群れ」が、最寄りの都市へ向かいます。搭載されたミサイルや爆弾には、「臨時ボーナス在中」といった言葉が記されていました。読む暇があるかはともかく、よくある挨拶文です。
来襲する群れに対して、軍は迎撃態勢を整えました。無駄の無い指示や行動のおかげで、対空ミサイルや迎撃機による歓迎の準備はバッチリです。パイロットや迎撃要員が、隙間なく見張っています。
『差別主義者どもへのプレゼントの用意はできたか?』
『いつでもくれてやれますよ!』
『おい爆弾屋、一番高いビルはオレに残しといてくれよ?』
『よーしお前ら! 思う存分暴れてやれ!』
何十発ものミサイルが、群れから放たれました。1発1発が接触しそうなほど、たくさんの量です。
……ところが、それらのほとんどは撃ち落とされました。優秀なパイロットや迎撃要員が、マシンガンなどを駆使し、次々に狙い撃ったわけです。とはいえ、過酷なテストを勝ち抜いてきた自負から、これぐらい当たり前という調子でした。気を緩ませることなく、次の攻撃に備えます。
『ヒュー! さすがエリートさんだぜ!』
『これは真剣勝負が楽しめそうだ!』
見事な腕前に、多国籍軍のパイロットは感心を隠せません。
それでも群れは、爆弾や銃弾を、目についた建物へブチこんでいきます。火柱や黒煙があちこちで上がり、ガレキがクラッカーのように飛び散りました。縦横無尽に飛び、暴れまわる群れ……。
もちろん、パイロットや迎撃要員は、黙ってそれを見届けているわけではありません。迎撃機や発射台に装備された対空ミサイルを、次々に放ちます。超音速で群れへ飛び込んでいく、何発ものミサイル。
その対空ミサイルは、優秀な技術者によってプログラミングされた最新式でした。高速で舞う機体を確実にロックオンし、命中するまで追跡を続ける白物です。囮のフレアが撒かれたものの、無駄な抵抗で終わりました。
群れから脱落していく、戦闘機や爆撃機。緊急脱出装置で運良く逃げられた者もいれば、運悪く逃げ損ねた者もいます。
群れの仲間たちは、当然激怒し、戦意をさらに高揚させました。後続の機体も加わり、怒り狂うその群れは、一気に大きく膨れ上がります。
そんな群れに発展してもなお、対空ミサイルは次々に飛んでいきます。ですが、いわゆる数の暴力には勝てず、迎撃機や発射台自体が破壊されていきました。役目を果たせなかった対空ミサイルは、虚しく共に誘爆したのでした。
敵が不在になると、多国籍軍の群れは、さらに思う存分暴れました。壊し放題のボーナスタイムに突入できたわけです。これ以上無いほど、最高のストレス解消でしょうね。
一方的に攻撃されている側の人々は、持ち前の俊足を活かし、必死に逃げていきました。しかし、それにも限界があります。攻撃に巻き込まれた人の多くは、原型を留めない姿に変身しました。ハロウィンの仮装に近い姿です……。
民間人である人々が、攻撃による犠牲となったわけですが、それに涙する人間は、誰一人いませんでした。なにしろ、彼らの母国では、その国の人々は皆、差別主義者であるという話で満ち足りていましたから……。
かくして、多国籍軍は、この緒戦で勝利を果たせました。群れを構成する兵士たちは、歓喜の声を上げつつ、攻撃跡をスマホで記念撮影しました。その写真は、当然母国のSNSで舞い、勝利の宴に花を添えたわけです。
一方、この敗北を受けた国の上層部は、緊急会議を開きました。軍のメンバーは、将軍や参謀長たちで、テストやノルマで勝ち抜き続けた優秀な人々です。
彼らが一番に考えた事は、避けられない持久戦に、どう対応していくかでした。数や物量で優る多国籍軍が相手のため、持久戦では不利です。そこで、さまざまな解決策が、矢継ぎ早に上がっていきます。
けれども、解決策が上がる度に、必ず誰かが反対論を繰り出し、却下になりました。利権が絡んでいるわけではなく、デメリットがどうしても思いつかれてしまうからです……。どんな小さいデメリットとはいえ、彼らはそれを恐れました。テストやノルマに勝ち続けてきた身なので、酷く強迫的なメンタルになっているわけです……。
会議は長引き、その間に多国籍軍は、大規模な上陸作戦を始めていました。
上陸を果たした多国籍軍は、首都を目指し進軍していきます。とても大規模な軍勢なので、道中で渋滞が発生するほどでした。
その国の軍隊は、進軍を阻むべく、再び準備を整えます。今回もまた、ハイテク兵器や優秀な兵士たちが揃っていました。ただ、開発されたばかりの兵器が多く、どれも使い方が高度で複雑でした。そのため、十分理解する前に、その兵器を任された兵士も少なからずいました。なにせ、「わからない」なんて言えば最後、「劣った人々」扱いされるかもしれませんので……。
その一方で、多国籍軍の兵器は対照的でした。ハイテクではないものの、脳筋の兵士でも使えるほどシンプルです。そのおかげで、どの兵士にも同じぐらいの戦力がありました。
この兵器による差は、多国籍軍の平凡な兵士と、その国の優秀な兵士との能力差を埋めるしかなくなりました。確かに、その能力差は大きなものです。
しかし、数の暴力は強烈です。優秀な兵士は必死に戦い続けましたが、やがて疲労にやつれていき、銃弾に止めを差されたのです。
多国籍軍は、敵の死体やその地に、足跡や旗を残しながら、進軍を続けます。無惨に残された死体は、ハエやらカラスやらが、ご馳走として丁重に扱いました……。
各地でそんな一幕が、繰り返し繰り返し上演されたわけです。その国が悲しい結末を迎えることは、もはや避けようの無い現実でした。
敗北を重ねていたわけですが、国の上層部は、人々にウソの情報を流していました。真実を知られれば、「劣った人々」として追放されることは確実な雰囲気でしたから……。
優秀な兵士たちの活躍のおかげで、我が軍は勝利に勝利を重ねているという真っ赤なウソを流すしかなかったわけです……。
多くの人々が真実に気づけたのは、多国籍軍の兵士たちが、我が物顔で首都へやってきた時でした。自分たちが騙されていたことは理解できたものの、もはや唖然と見届けるしかありませんでした……。
――ようやく、国の上層部は、無条件降伏を受け入れました。勇ましく徹底抗戦しようと、降伏して人々から強制安楽死されようと、身の破滅は避けられない状況ですので……。
それから、多国籍軍の手により、「劣った人々」は解放されました。感動されるべきその光景を、従軍記者は更なる美談に仕上げます。「あと少しで殺されるところだった弱者を救う我が軍兵士」という記事は、母国の人々を感動の嵐に見舞わせました。
大国側の上層部が、次の選挙結果を楽しみに心待ちしたのは、言うまでもありません。また、参戦していた国々は、その国の利権を獲得すべく、大国の足元へすり寄ります……。
そして、その敗戦国の「優秀な人々」は、「まな板の上の鯉」に成り果てていました。大国や他の国々は、彼らをどう料理してやろうかと、考えを巡らせます。
自分たちが「優秀な人々」やその国に、少なからず嫉妬していた事は確かです。とはいえ、それを公式に認めるわけにはいきません。本音とはいえメンツに関わりますからね。
そこで彼らを、優性思想を崇拝する「劣った人々」とする事に決めました……。シンプルに言えば、「優秀な人々」ではなく「劣った人々」だったという話です。
そんなわけで、彼らは世界中から、「劣った人々」として扱われるようになりました。世界中の人々が嫉妬し、嫌っていましたので、彼らを擁護する者は現れませんでした。まあ、擁護なんてすれば、自分自身が「劣った人々」だという扱いをされかねません……。
「皆さん、よく見ておくんですよ~!! 優性主義に染まると、あんな惨めな暮らしをしなくちゃいけないんですからね~!!」
そこは超大国の動物園で、ちょうど小学校の遠足が行なわれています。引率の先生が子供たちに、広いオリの中にいる「ある動物」の説明をしていました……。
「びんぼうくせ~~~!!」
「くさっ!!」
子供たちは、バカにした表情と口調で、そこにいる「劣った人々」を観察していました……。
【完】




