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【前編】

 ある世界に、ジワジワと衰退し続ける国がありました。衰退の原因は、国力の低下による不景気と財政難です。税収の減少と、支出の増加による悪循環に陥り、従来の方法ではどうしようもできない事態にまで陥っている次第でした。


 ……そんなとき、支出の一部である社会保障費に、節約のメスが入りました。まず、その抑制に繋げるべく、出生前診断および強制中絶が義務化されました。胎児が障害持ちの場合には、人工中絶しなければならない法律です……。

 無論、道徳や宗教面から反発が起きました。とはいえ、その国の人々は、利己的かつ無神論的な考えに染まっていたため、反発はすぐ止みました。そういうわけで、この法律は施行されたわけです。


 この法律のおかげで、社会保障費をある程度抑制できました。先天的な障害者が激減したためです。ただ、強制中絶を恐れ、隠れて出産する者もいたものの、その子供は無戸籍扱いになるため、公費の投入はされません。

 障害者人口が減少した関係で、存命の障害者への配慮もおろそかになりました。今まで「活用」していた政治家は、「票田にも利権にもならないから、気にしなくていいや」と、手のひら返しをやったわけです……。


 ……ただそれでも、衰退はなかなか止まりません。今回の法律は、弱いブレーキ程度にしかならなかったのです。強制中絶により、出生数全体が減少したせいもありました。しかし、強制中絶を国としてやっていた手前、今さら法律は撤廃できません。


 そこで、労働人口と税収を少しでも増やすため、障害者にも労働の義務をキッチリ背負わせることにしました。物理的に働けない障害者もいましたが、ゴミ拾いや特殊な入力業務だけでもやらせました。

 無理に働かせ、給料から所得税を天引きする二段重ねという、欲張りな施策です……。


 こうして、障害者全員が働き始めたことにより、労働人口は当然増えたわけですが、社会は大混乱に陥りました……。

 重い軽いも含め、さまざまな種類や事情のある障害者を、お役所仕事的な選別を経て、無理に働かせたためです。杓子定規かつ適当な仕事の割り振り方でした……。

 例えば、視覚障害者にトラック運転手を任せたり、聴覚障害者にコールセンターのオペレーターを任せるといった迷采配は、笑い飛ばせるレベルの事例です。

 酷い事例だと、ADHD(発達障害の一種)持ちの人間を、原子力発電所で働かせていた迷采配も発覚しました。それも、事故が起きた後で……。


 この大混乱により、余計な財政出動が勃発してしまいました。なにしろ、事故に遭った健常者が、障害者デビューを果たしてしまう流れが頻発しましたから……。

 増えた財政出動分も含めて、これをなんとかしようと、国は思い切った法律を思いつきました。


 なんと、十分に働けない障害者を安楽死させるという法律です……。この「十分に」というのは、健常者レベルの仕事ぶりを指します。そのため、発達障害者を始め、障害者全体が、強制的に安楽死させられていくわけです。

 酷く非人道的だと、多くの他国から批判されました。しかし、その国は外圧に強い国だったので、そんな批判は無視です。

 国民からの批判もありましたが、大多数を占める健常者は聞く耳を持ちませんでした。自分と同じように働かないのはズルいという性悪さもあるんでしょう……。

 そして、この強制安楽死の法律は施行されてしまいました。


 障害者を次々に安楽死させたため、全体の人口は減少したものの、効率的な社会へ発展していきました。なにせバリアフリーといった配慮が、今は不要になったわけですから。

 また、障害が残るような事故を起こさないよう、みんな酷く気をつけるようになりました。

 ところが、事故自体が減少したことで、今度は平均寿命が伸びてしまいます。介護費用は増加の一途を辿っています。そこで国は、強制安楽死の対象を、要介護の老人にも広めたのでした……。



 それから10年後。高齢者数が減り、出生数がようやく少し増えました。過程は気にすることなく、その結果を人々は喜んだのでした。子供の育成にかかる教育予算が比例して増えたものの、それは当たり前の事です。

 しかしながら、今度はその教育予算に、節約の矛先が向けられてしまいます。まるでいじめのターゲットみたいな話ですね……。

 対策として、出来の悪い子供を強制安楽死させることに決めました……。知能テストや体力テストを毎年実施し、成績の悪い子供を、障害者だと決めて殺してしまうわけです。安楽死の対象となるのは、1クラス1人程度でした。つまり、クラス1番のバカガキは、永遠に眠り続ける春休みに入るわけです……。


 この新しい強制安楽死の法律が施行されると、みんな必死に勉強し、運動を行なうようになりました。こんな国でも、ほとんどの子供たちは無駄死にしたくありません。特にテスト前など、子供たちは、狂ったように無我夢中で努力しています。

 ただそれでも、ビリの子供は当然出ます。クラスから毎年1人程度消えるわけですが、子供たちは生き残れた事に安堵し、次のテストに備えることで精一杯でした。クラスメートの死を悲しむ余裕なんてありません……。


 この子供向けテストで現れた効果を、大人にも活かそうという流れに広がり始めました。

 ただし、大人向けの場合には、テストではなくノルマという形で課せられました。国が職場ごとにノルマを決め、それを会社が社員に課すわけです。達成できなかった社員は障害者として扱い、強制安楽死が待っています。

 ノルマを達成さえすれば、誰も死なずに済む話ですから、子供よりは比較的優しい仕組みです。国はそういう風に、うまく説き伏せえてしまいました……。


 みんな必死に働きました。与えられたノルマを達成できなければ死なのですから、早朝出勤や深夜残業をしない人は皆無なほどです。有給休暇の取得など、よっぽど余裕のある人しかできなくなりました。週休0日の人も珍しくありません。風邪や鬱病で一度寝こんでしまえば、もはや死は確定路線です……。

 幸いなことに、こういうノルマは、役所の人間にもきちんと課せられました。たらい回しが激減したのは言うまでもありません。処理した案件数がノルマですからね。訪問客の奪い合いが起きるほどです……。


 ところが今度は、過労死が頻発して、労働人口がまた減少してしまいました。それを補うべく、国は老人をまだまだ働かせることに決めました。もちろん、ノルマは付き物のままです。

 ノルマを達成できなければ死、無理して体を壊せば死という理不尽さ……。それでも老人たちは、必死に働き続けました。



 子供にはテスト、大人にはノルマを課したことによる成果は大きなものでした。支出が減り、税収は増えたのですから、国が喜ぶのは当たり前のことです。

 結果、その国は優秀な人々だけが存在するということになりました。


 ……ただ、人々の不満は大きく膨れ上がっています。テストやノルマが好きな人間なんていませんからね。

 そのため国は、膨れ上がった人々の不満を、急いで解消する必要に迫られたわけです。なにしろ、優秀イコール愛国心が備わっているというわけではありません。むしろ、自分中心に考える人間が依然よりも増えたほどです。

 ただ、幸か不幸か、その国はすぐに解決策を思いつきました。保身の方法を思いつけるのも、優秀な人間である証拠だと言えてしまうでしょう……。




「皆さん、よく見ておきましょう!! もし勉強をサボっちゃうと、あんな惨めな暮らしをしなくちゃいけないんですからね~!!」

そこは動物園で、ちょうど小学校の遠足が行なわれています。引率の先生が子供たちに、広いオリの中にいる「ある動物」の説明をしていました……。


「…………」

「…………」

その動物とは、テストやノルマで敗れた人々でした……。オリの看板には、「劣等人種」と記してあります。その人々は、黙って座りこんでいました。

 国は、優秀な人々の不満を解消する方策の1つとして、一部の人々を見世物として起用したのでした……。動物園のオリで展示されるのはまだいいほうで、街中でボールをぶつけられる役もありました。

 とはいえ、はけ口となった人々には、生きることを認めてもらっている事情があるので、ガマンするしかありませんでした。死ぬかはけ口として生き残るかの選択を迫られたわけです……。


「びんぼうくせ~~~!!」

「くさっ!!」

優秀な人々である子供たちは、バカにした表情と口調を、恥ずかしげもなく披露しています。しかも、ストレス解消だけでなく、自分に自信を持たせる効果もありました。「自分はあんな生き物じゃない」といった具合に……。




【つづく】


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