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序章

辺りは壮絶の一言に尽きる。

元は綺麗に磨かれていたであろう床も今や荒れ果て、穴は空き、床としての役目を果たしていない。

小さなクレーターのような穴はあちこちに空いており、剥き出しになった石は

幾度となく襲い来る、衝撃の度に飛び散り飛礫となっている。

それは床だけではない。

天井も壁も、同じようなクレーターが空いている。

未だかろうじて天井としての機能を保っているが

それでもあとちょっとした刺激で直ぐに崩壊しそうなほど危うい状態だ。

廃墟と思われても不思議ではないほど、その部屋は荒れていた。

先日まで、綺麗に磨かれていて誇り一つない清潔な部屋。

その様子を知る者でさえ、疑いたくなるぐらいの惨状。

瞬間、光が軌跡を描きながら直線距離で、辺りを照らしながら飛んでくる。

更に止めを刺すかのように新たな衝撃と共にその光が床に突き刺さり

爆音と共に、床にまた新たなクレーターが誕生する。

攻撃は今も続いている。

崩壊への歯車を進めるがごとく───────


序章『End Everyday〜日常の終わり〜』


「くそ……なんだって言うんだよ」

思わず悪態を着いてしまう。

状況が分からず、突然攻撃を受けていて俺は不安定だった。

ストレス・緊張・恐怖・不安

それらが俺の心を蝕んでいく。

正直、夢だとも思いたかったが、生憎とこの状態で

現実逃避するほど甘い精神は持っていなかった。

一歩間違えれば、死に繋がる。

たとえ現状を理解できなくても、今をまずは打破しなければいけないと

俺は考えていた。

当然、俺も混乱していないわけではない。

何せ、銃とか科学的な物で攻撃されているならともかく、

今相手にしているのは杖を持った男達。更にその杖から光は迸り

光弾となって襲い来るのだ。

「……いくらなんでも、ファンタジーが過ぎるぜ」

思わず苦笑してしまう。

「……ごめんなさいね」

っと、小さな声が聞こえる。

声のしたほうを向くとそこには元凶であり、そして先ほどのとおり

攻撃を守っている女がいた。

まさに美人と言えるだろう端整な顔。

だがキツイ感じではなく、冷静な雰囲気を持っている。

綺麗な金色をしていて腰の辺りまで伸びている長い髪。

遺伝なのかその髪と相まってこちらを見る眼も金色だった。

身長は俺よりも高く、端整な顔立ちにぴったりなスレンダーな体。

だがそんな完璧なプロポーションを持つ彼女も今は髪は埃や舞い上げられた砂などが付きくすんで見え、

その顔もいまや罪悪感に押しつぶされそうな……今にも壊れそうなそんな沈んだ顔をしていた。

そして自分の失言に気づいた。

「いや……わるい、失言だった。今のはそういう意味じゃないんだ」

おそらくこの状況で一番つらいのは彼女だというのに

「いえ、でも私が……間違えてしまったのですから」

「………」

確かに、はっきり言えば元凶は彼女だ。

だが、かといってここで彼女を責めても何の意味も無い。

「……気にすることはないさ」

「でも私が」

「いや、だから気にしなくていいって」

「………」

「………」

沈黙

「それにしても……すごいな」

先ほどからずっと攻撃を受けている。

それもおそらく半端ない力のを。

他の机や床、椅子をみればわかる。まさに激戦地帯を思われるほどの惨状だった。

銃撃でもあったのかと思われるぐらい。中に手榴弾でも入れこまれたと言われた方が

まだ納得がいく。無論、原型が無くなるぐらい大量にという言葉が追加されるが。

辺りを見回す。

目の前には今のこの場所に不釣り合いなほど綺麗な机が置かれている。

大学で使われているような2,3メートルの長い机だ。

周りは惨状、だがある境界から無傷になっている。

大体俺を中心に半径2Mぐらいだろうか。

円を描くようにして風が吹いている。

竜巻のように激しくではなく、緩やかにそよ風のように流れている。

しかしその力は絶大だった。

破壊の力を持った光がその風に当たるとまるで激流に当たったかのように弾かれる。

それを実証するように、また再び光の矢がこちらに向かって襲い来る。

だが、その風に触れた瞬間。

バチっと電撃が走ったような音が響き、光の矢は弾かれた様に

跳ね飛ばされ、方向を変える。

光の矢は同じ速度で地面に着弾し、爆裂すると共に床をまた再び破壊する。

それほどの威力を持ちながら、この風はまったく寄せ付けなかった。

「いったい何なんだ……この風は」

「これは風の結界よ」

「風の……結界?」

「ええ、触れたものを風の力で弾き飛ばす魔術」

「……結界に風の力に魔術?」

…非常にどう反応するべきか困る。

まるきりゲームや漫画の世界だ。

最も、もう既になんでもありかなと、諦めている自分もいるのだが。

実際、目の前でファンタジーが展開されては信じざるを得ないだろう。

そう、納得した。

「……それは言葉どおりに受け取ってもいいのか?」

「え?どういう意味?」

「いや魔術とか結界とかさ」

「あ……」

しまった!と言わんばかりに驚いた顔になる。

「えっと……まいったなぁ。あの、聞かなかったことにして忘れてもらえません?」

そう言って苦笑いしつつそう言う。

……いや忘れてくださいって言われても。

どうやら、こっちもこっちでパニクってるらしい。

「まぁ……とにかく護ってくれてる……んだよね?」

半信半疑ながらまずは事実を確認する。

「護ってると言うと、少し偉そうですがその通りです。

それに、元は私の所為ですから…本当に申し訳無いと思っています」

律儀に返してくる。しかも頭まで下げて。

「だから気にするなって」

そういって軽く返事を返す。

「さてと……これからどうする?」

「そうですね……」

暫し考えるような仕草をする。

「どうしましょうか」

策無し。絶望的です。

「…あの魔法使いみたいな恰好をした奴らを全部倒すことはできないか?

またはここから移動するような方法」

数の上では相手の方がかなり上だ。

ざっと見たところ十人以上。実際の戦闘では勝ち目はかなり薄い。

だが、ココは現実ではなく、ファンタジーが混じっている。可能性は0ではないと思い

提案してみる。

だが現実は非情だった。

「ごめんなさい……相手を倒すには数が多すぎますしそんな力も無いんです。

近くなら転移できますが、それには結界を解いて数分集中しないといけないの」

「そうか……」

呪文一つでいけると思った俺だがどうやらそんなに甘いもんじゃないらしい。

結界…とはこの俺達の生命線であるこの風の壁だろう。

文字通り俺達の命を握っているのだ。数分どころか少しでも消えたら

その瞬間一斉に光の矢が俺達に襲い来ることはまず、間違いないだろう。

深呼吸をして気を落ち着かせる。

再び頭を冷静にして打開策を考える。

「質問していいかな?」

「え?ええ……私が答えられる範囲なら」

「まず、今攻撃しているあいつ等の事を知ってるか?」

すると少し悩んだ末コクンと首を縦に振った。

「なんでもいい。教えてくれないか?」

どうでも情報かも知れないし、俺に理解できるか不明だが

ただでさえ何もない手探りの状態なのだ。悪い方に転がることはないだろう。

「……彼らはおそらく私たちの対抗勢力。

その中の多分一番中くらいのクラスの魔術師ね」

ゆっくり、反芻するように言葉を紡ぐ。

「そのメイガスってのはアンタより強いのか?」

「普段なら私一人でも大丈夫。……でも何分数が多く、結界で消耗しているので正直突破するのは

厳しいわね。相手に出来ても今の私じゃ2,3人って所」

「なるほど……。この結界は後どれぐらい持つ?」

「このままなら一時間前後…。でもそうすると転移する魔力が足りなくなるわね」

「転移?さっきも出てきたが…ワープみたいなものか?」

「その通りよ。詳しい説明は省くけど、ここから脱出できるぐらいの距離は

転移できるわ。二人だからそれほど遠くには行けないけれど。

もし転移するなら早めにこの状況を打開しないと…」

「もしかして、アンタが結界使い続けるとその距離も短くなるのか?」

首を振って肯定する。

正面突破は無理か、しかも話からすると時間がかかればかかるほどマズイらしい。

「……らです。」

「え?」

「自己紹介もしてませんでしたね。私は神楽かぐらって言うの」

そうか、ずっとどうやって帰るか、逃げるかなどで頭がいっぱいでそんなことも忘れていたらしい。

「悪い、自己紹介が遅れたな。俺は水月みづき ゆうだ」

「分かりました。ええっと、水月…くんでいい?」

「ああ、構わない。俺も神楽…さんでいいのかな?」

「ええ、少しの間だけれどよろしくお願いね」

「此方こそ」

二人で軽く笑う。

まだ攻撃を受けていて刻一刻とピンチになっていくのにそれを忘れるほど

その瞬間は少しだけ和んでいた。

最も、その時間は数秒で終わったが。

「さて、話を戻すけど……さっき近くなら転移できる。でも時間が足りないって言ったな?

つまり時間があればここから脱出できるってコトか?」

「ええ、出来るわ」

よかった、もしこれでもう出来ませんとか言われた日にはもう終わりかなと思ったがどうやら

最悪の事態は防げたらしい。

まぁ、最悪に近い状況には変わりないのだが。

「このままなら1時間。だけど転移は出来ない。

なら、転移が出来る最大のこの壁が持つ時間は?」

少し目を瞑り、手を顎に当てて考え始める。

「この先にちょっとした平原があるの。

そこからなら、なんとか逃げれると思うわ。そこなら40分は大丈夫。

ただ、そこだと後で追い付かれるかもしれない。

完全に逃げるなら後10分以内には…」

そういって横を指差す。

その先には窓があり、ここから2〜30メートルほど離れているが

外の様子は見ることができた。

木が生い茂っていてよく見えないが、確かに薄らと向こう側に広い平原のようなものが見える気がする。

「集中に時間がかかるってどのぐらい?」

「そうね…大体2分3分ぐらいかしら」

「その間はこの結界は消えると」

コクンと首を縦に振る。

2,3分守りがない。それは相当に厳しい物だ。

銃弾が飛び交う戦場で無防備に立ちつくすのと同じだ。

自殺行為にも等しいが、このままではジリ貧だということも理解していた。

「ふぅん……このままこの結界をやってたら1時間か…」

「ただ維持するだけならそれ位ね。でも……それは今の状況が変わらなければの話」

そこで少し不安の色を落とす。

俺はその理由に思い当たった。

「…部屋の崩壊か?」

さっきと同じようにコクンと頷く。

「この攻撃が続けば、10分もかからず天井から崩れて、やがて連鎖的に部屋全体が

崩れ落ちる可能性が高い。

流石に崩壊する瓦礫などから護り切れるか分からないし、床が崩れたら結界も維持してられないわ」

「なるほどね。どの道時間は無いか」

状況を整理するとこうか。

タイムリミットは部屋の崩壊までの10分あるかないかぐらいか

勝利条件は何らかの手段を用いて相手の攻撃をやめさせるか防ぐかで2〜3分の時間を稼ぐこと

おそらくその際集中が必要だから動けないだろうと思われる。勿論攻撃を食らってもアウト。

敗北条件は約10分を超えて部屋の崩壊、または俺か神楽さんの死亡および両者の戦闘不能。

戦闘不能とは移動、攻撃、防御が困難な状態を言う。

両者と言ったのはたとえば俺が戦闘不能になっても集中するだけなら神楽さんだけでもできる。

逆の場合でも集中は長引くだろうがそのときは何か俺が時間を稼げばできるだろう。

机を集めて盾にするとか背負って逃げるとか、まぁ適当になんでもやって護る……

ドクンと、心臓が跳ね上がる。

───護る?

誰が?俺が?他人を?

───人助けを、するだと?

……っ!

突然心臓といわず、全身が悲鳴を上げるように痛みを訴え出す。

襲い来る激痛が歯を食いしばって耐えるが、心臓がマトモに動かない。

呼吸が出来ない。体が動かない。

呼気は荒くなり、胃がねじ切れるような感覚。頭がクラクラして

五感から何から全てが正常に働かない。

無理矢理引き千切られているような感覚。

皮膚が肉が骨が神経が全て乖離していくような痛み。

体が、いや、心が拒否している。

声を出すこともできない。

痛みで体を動かすこともできない。

大丈夫、大丈夫だ!これは取引だ!

そう言い聞かせる。頭がぐちゃぐちゃになっている中で必死に封をするように

記憶を封印し、押さえつける。

俺の命を助けるための取引だ。…落ち着け。落ち着け。

自分の言い聞かせるようにして何度も何度も自分に答える。

体、頭に染みいるように繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す。

そして、段々と痛みの波が引いていき、全てが正常に戻る。

鼓動するたびに針を突き刺さした様な痛みを発していた心臓も

呼吸することもできなかった肺と喉も。

融解したようにドロドロになったように感じた胃腸も

元に、戻る。

「っは!ぁ…ぐ!」

荒く呼吸をする。

肺に酸素を送り込む。そうして、数秒深呼吸してやっと頭も働き始める。

もう一度深く息を吸って、吐く。

チラリと神楽さんの方を見る。

窓の外と魔術師達に気を取られていて、どうやら醜態は見られなかった様だ。

痛みはとても長く感じたが、時間にしてみれば数秒だったのだろう。

頭を振って思考を切り替える。

と、こっちを向いた神楽さんが何か言おうとして怪訝な顔をする。

「どうしたの?なんだか顔色が悪い見たいだけだけど…」

「いや、何でもない。大丈夫だ」

そう答える。

首を傾げていたが探られる前に先に言葉を発する。

「ところで、何か分かりました?」

「え?いや、何も。ただやはり此処から出るには転移しかないかしらね。

ドアまでは遠いし、何より結界が維持できないもの」

「結界は動きながらは発動できないのか?」

「ええ、空間制御だから移動は不可能なの」

「空間制御式か…移動式の結界は無いのか?」

「移動式?残念だけど発動している暇がないし、私では移動型は使えないの」

っと、そこで神楽さんが言葉を切る。

「何故知ってるの?」

「え?何が」

「制御式と移動式って言ったわよね?」

「あれ、俺そんなこと言ったか…?」

ついさっき言ったばかりなのに、何故か思い出せない。

「……偶然だろ。ゲームか何かの知識をそのまま言っただけだよ」

そう言って結論付ける。

「それよりも、これからの事だ。まずは何とかしてここから脱出しないとな」

「そうね」

神楽さんも深く追求せず、お互い思考を凝らす。

っと、そこで再び光が結界に辺り、弾かれていく。

またタイムリミットが縮まった。軽く舌打ちしながらその様子を苦々しげに見る…?

待てよ。もしかしたら…

思考を張り巡らす。手段、方法を模索。実行可能。結果を想像する。

仮に思った結果通りになった場合のパターン。成らなかった場合のパターンを仮定する。

…行ける、か。

失敗すれば危険だが、時間も無い。

「もしかしたら……いけるかもしれない」

「え?時間を稼ぐ方法が見つかったんですか?」

八方塞がりかと思っていたのか難しい顔で悩んでいた神楽さんが驚いた表情でこっちを見る。

「いや違う」

「?」

「見つけたんだ」

「何をですか?」

ハテナマークが浮かんでいそうな顔で聞いてくる。

それに俺は僅かな希望を託して答えた。

「もう一つの勝利条件をだ」

「もう一つの勝利条件?」

オウム返しをする。

まぁそれも当然だろう。突然言われて説明もないのに理解できるほうがおかしい。

心の中で苦笑する。

「ああ。時間を稼ぐでもなく、ここから転移するわけでも無い。もう一つの逃走経路。

失敗するかもしれないけれど……成功する確率は高いと思う」

一呼吸おく。

「それはな……」

計画を話す。

方法、手段、理論、説明、リスク、対処、メリット、結果。

順序立てて説明した。

まず、どのような方法か説明する。そのために必要な手段を公開し、自分の理論に則り

詳細を説明する。

それが失敗した場合のリスクを付き付け、その場合の対処法を開示する。

成功した場合のメリットを、そしてその場合最終的な結果を話し終える。

神楽さんは最初は頷きながら聞いていたが段々まるで電池が切れていくように

動きが緩慢になりそして話し終わると完全に止まってしまった。

だが残るは、結論だけだ。

「正直、全てを神楽さんに頼る作戦だ。

失敗した場合、今より危険に晒される。だが、これしか方法は無いと思う。

だから問題は行う、行わないじゃない。

───可能か、不可能かだ」

ムシの良い話だと思う。

俺は何も働かず、神楽さんにすべてを任せるのだから。

だが、なんの力もない俺にはせめて、こうやって案を出すしかない。

しかし断られたら、どうすればよいだろう。

考えると不安になってくる。

自分でも突飛な事を言っていると思っていたし成功確立は高いかもしれないが

確実とはいえない。

「……やはり無茶か?」

恐る恐る聞いてみる。

するとぐるっとこっちに顔を向け、まるで射抜くように凝視してきた。

一瞬怒らせたかと本気で不安になった。

だが瞬間。

ぐっと俺の手を包むようにしてぐっと両手で握ってきた。

「その発想は凄いわ!今まで何で考え付かなかったのかしら…きっと効率面からね

こういう状況じゃないと意味無いし…」

「……はい?」

予想外の言葉にしばし唖然とし、間の抜けた声を出してしまう。

そりゃイキナリすごいなんていわれたら誰だって戸惑うよな。

などと自分で自分に言い訳するほど混乱していた。

…てっきりその発想は無かったわ、とか言うかと思っていた。

「一応聞くが……何が凄いんだ?」

すると眼に過剰なまでの威圧をこめて口を開きはじめた。

「何がって勿論そのアイディア!ここから逃げ出す策もそうだけど

長年この結界を使ってきたけれどそんな使い方をするなんて

思いもよらなかったわ!

その応用力、発想力、想像力どれも私には考えられなかったわ」

何かとり憑かれたかのように熱弁する神楽さん。

だが当の俺はまるで置いてけぼりでいったい何が凄いのか

やはり言われても理解できなかった。

俺はむしろ頭が悪い低脳な策かなと不安に思っていたからだ。

それに発想力想像力うんぬん言われてもそれほど凄いことを思いついた

とは思えないし

むしろ誰でも思いつきそうなほど簡単なものだと……

「……そんなに凄いことでもないと思うが」

そうポツリと呟く。

「まぁいいや。この作戦は可能なんだな?」

っと、確認する。

「ええ、行けるわ」

なんとも頼もしい返事。

これで不安は解消された。

何せ実際に使っている人が行けると太鼓判を押したのだから

大丈夫だろう。

「っとなると後は出るタイミングか……」

動きながら発動が出来ればとても楽に行けるんだがと思っていたが

移動式じゃないため、少しハードルが上がった。

正直少し残念だ。

「この方法なら、他に何か使えるのはないのか?」

「何かというと?」

「そうだな。相手の目を眩ます何かか、相手の注意を引けるのだな。

閃光とか音とか出る奴だ」

具体的に言えばスタングレネードだが、流石に持ってるわけはないし

知識として知らないと思うため内に秘めておく。

「えっと、それは『すたんぐれねいど』とか言う奴かしら?」

知ってたらしい。

少し、いやかなり驚く。

「…知ってるの?」

「本で読みましたから」

サラリと言う。…どんな本を読んだのだろう。

「……まぁ知ってるなら話は早い。スタングレネードのようなものがあればいい」

少し考える素振りを見せる。

「ダメね。私の使える魔術の中にはないわ…」

申し訳なさそうに顔を伏せる。

「そうか、いや気にするな」

そう言ったものの注意を引ける物がないと危険が多すぎる。

リスクを下げるためにも何か無いかと策を考える。

「そういえば普段の状態なら奴らを倒せるって言ってたな。

相手を攻撃するのがあるのか?」

「あるわ。でも今の私じゃ転移と使う魔術を含めても一発が限度ね」

「威力と範囲、効果は?」

「直接当たれば2〜3人は昏倒出来る威力で範囲は前方横1メートル前後ね。

効果は不可視ってところかしら」

「具体的にはどんなの何だ?」

「風を圧縮して衝撃波みたいに放つの。風だから不可視で威力もそこそこよ」

「発動までの時間は?」

「この術なら一瞬で何とかなるわ」

情報を整理。そして一番的確かつ最大の効果を発揮するのは…

考えて結論

「……でどうだ?」

「───」

絶句している。そして

「…まさかこの状態でそんな方法で使うなんて思わなかったわ」

「ダメか?」

「いえ、確かに普通に放つより効果的ね。それで行きましょう」

お互い頷く。いよいよ、計画開始だ。

息を潜めてタイミングを計る。

「……神楽さん。準備はいい?」

「いつでも大丈夫よ」

準備が完了したことを確認する。

そして俺たちは逃げ出すための作戦を決行した。

「よし!今だ神楽さん!」

「了解!」

目を閉じて集中し始める神楽さん。

それと共に俺たちを包んでいる風が強まり、緩やかだった風が段々と強く吹き荒れていく。

音も比例して大きくなり、台風のようになっていく。

そして更に範囲も広がっていく。

広がっていく結界に机や椅子、壊れた床、天井の破片もまるで弾丸のように

跳ね飛ばされて、または風に巻き込まれていく。

留まる事を知らないように風は勢いを増し続け、領域は更に部屋を侵略していく。

「よし!ここだ!」

「ええ!」

声をかける。

これが作戦の内の一つの開始の合図。

再び目を瞑る神楽さん。

すると今度は範囲拡張が止まり

包む風が今より更に威力が高まっていく。

風は勢いを増し、竜巻のように部屋中に吹き荒れ、触れた物を問答無用で吹き飛ばす。

瓦礫が触れた瞬間、弾丸のようなスピードで跳ね飛ばされ、壁を粉砕した。

この威力には俺もびっくりした。

ここまで威力が高いとは思っていなかったからだ。

木でできているとはいえ机や椅子を触れただけで文字通り粉砕し

破片は跳ね飛ばされ壁に穴を穿つほどの……

まさにこれは竜巻のようだった。

砂塵を巻き上げ触れるもの全てを拒絶し弾く風の結界。

それは魅入ってしまうほどの力を持っていた。

だが頭を振り、それを無理矢理押さえ込む。

「よし……狙い通りだ。」

作戦自体はとても簡単だった。

俺が言ったのは結界を広く強くしてくれという一言。

だがそれこそが逃げるために必要な一手。

そしてそれが成功するとどうなるか……?

風は壊れた破片や椅子を巻き上げだんだん透き通るような風から

荒々しい不可視の風となる。

それにより此方の姿を隠す。

そしてもう一つ。

大きい破片、打ち上げられた机、椅子などは結界に当たり

弾き飛ばされる。

さらに範囲、威力が上がったことによりその比は前とは比べ物にならない。

ランダムに飛ばされるその破片はまさに砲弾のごとく相手に襲い掛かる。

破壊力を持った破片により相手は攻撃をやめ、防がなければならない。

つまり相手の移動と攻撃を封じるのだ。

その二つの要素が揃った時を見計らうと

「今だ!解除を!」

「はい!」

目を開く神楽さん。

「こっちだ!」

言うと共に走り出す。

後から神楽さんも付いて来る。

だが振り返ることもせず、ただひたすら走る。

風の結界を解いてもすぐに消えるわけではない。

弱くなっていくだろうが完全に消えるには誤差がある。

その間が勝負時なのだから一瞬たりとも無駄にはできない。

俺は足元に転がっている破片や壊れた椅子などを避け、あるいは蹴り飛ばし

やがて結界の端まで来た。

今だ猛威を振るう風。

触れたら人間も軽くすっ飛ばすであろう強力な台風。

だが俺にはある確信があった。

だからスピードを落とさず風を潜り抜ける。

強風が横から当たり体勢を崩しそうになるが必死に足を踏ん張らせ

右手で顔の前をガードしながら進んでいく。

足を止めずに一瞬だけチラリと後ろを見る。

しっかり神楽さんが付いてきていることを確認すると少し安堵する。

まだ最後の脱出方法がある。

それには神楽さんの力が必要不可欠だからだ。

俺はさらに歩を進めると横から吹いていた風が急に止まる。

結界を抜けたのだ。

「やはり……」

予想通りだった。

結界というからには何かを守るのだろう。

だが発動中には中から出られないのだろうか……?

確かに出れないかもしれない。守られているのだから。

だが何に?その力か?風か?

ただの風があれほどの力を持つのだろうか。

おそらく何らかの力により強化されているのだろうが

発動をとめればどうなるか。

なるほど力を失うだろう。だが先ほどのとおり完全に消えるまでには誤差がある。

力はなくなっても不可視の風はまだ起きている。

つまり今の状況はその風で姿を隠し、威力を失った風の中を突き進んできたということだ。

そして俺は走り出す。

だが、その姿を目撃した魔術師達が一斉に攻撃を開始しようと杖のようなものを

此方に向けてくる。

結界を抜けたことで姿が見えたのだ。

そして、目的の場所までまだ10メートル前後はある。

短く、それでいて致命的なまでの遠い距離。

そこにたどり着くまでに光が襲い、命を奪わんとしてくるだろう。

だが、その前に俺達は更なる追撃をする。

打ち合わせ通り、神楽さんが手を向けて

「『吹き荒ぶ風!』」

そう言った瞬間、不可視の衝撃が放たれる。

目標は魔術師…ではない。

何か破壊したような轟音が響き、飛んできた光を巨大な瓦礫が立ちふさがり

壁の役目を果たす。

それから更に連鎖のように大量の瓦礫が降ってくる。

瓦礫は俺達の姿を隠すカーテンにもなり、身を守る壁ともなる。

つまり、狙ったのは天井だったのだ。

元々衝撃を加えれば壊れそうなほど危うかった。

それが風の結界でさらにダメージ受け、飛んできた破片などで壁も天井もダメージを受け

それでも何とか耐えてきた。

だが、そこに止めを刺すように衝撃を与えたらどうなるだろうか?

答えを示すように崩れた天井から他の所までヒビが入り、崩れていく。

そして、大量の瓦礫に押しつぶされる床は当然の如く支えきれず、穴と言わず

床、いや部屋が崩壊する。

だがその前に俺たちは目的の場所についていた。

そうそれはガラスが嵌められた窓。

今は衝撃でガラスは粉砕されて床に飛び散って窓から入る光で僅かに輝いている。

窓枠も歪んでいてもう閉めることも開けることもできないだろう。

窓としては既に死んでいる。だが、むしろ今の俺達には好都合だった。

「神楽さん!行くぜ!」

「はい!」

追いついてきた神楽さんと共に飛び降りる。

どこから?勿論窓だ。

窓の外には平原が広がっていることは会話で確認済みだ。

そう、窓があったのだ。

転移を使うのではなく、ドアから行くわけでもなく直接窓を抜け出す。

だが移動する時モロバレだ。

故に不可視の風。強力な風を使い目くらましをする。

そして出た後の隙を天井を破壊し部屋自体を崩壊させることで注意をそらすと共に壁にする。

それがこの作戦だった。

そして飛び降りのときには……

「神楽さん!」

落ちながら叫ぶ。

意外に高かったらしく地面が遠く見える。

風が髪や体を撫でる。

下から吹く風にバサバサと服がなびき、重力のままに落下し地面が加速的に近づいてくる。

「風の護りよ!今一度我らを護る盾と成せ!『守護の風楯!』」

風が舞い起きる。

それは先程の結界に似ているが此方は前方だけに展開させる壁のようなものらしい。

この場合の前方は当然、地面だ。

風で落ちるときのクッションにし、衝撃も受け流すという算段だ。

地面が迫ってくる。

そして轟音と共に砂塵が舞い、衝撃が辺りに響いた。

たしかに衝撃を和らげるといいつつも完全に殺せるわけではなかったようだ。

まるで楯全体が鳴動したように揺れ、落下の衝撃が襲い掛かってきた。

楯に乗っかるような形になっているが、衝撃自体はあまり来ないとはいえ

まったく来ないわけではない。

足もとがグラグラ揺れて自身のような感覚。

しばらくその感覚、衝撃に耐えているとゴゴゴと唸りを上げていた結界や

衝撃で舞い上がった砂塵なども静かになっていく。

それと共にそれらによって防がれていた視界もくっきりと鮮明になっていく。

すると俺たちを風の楯が解け、収束していた風が開放される。

その風は俺の髪を後ろに引っ張り服も体もバサバサと風に撫でられる。

全身をしばらく撫でられていたがその風が止まるとそこには

今まで見たこともない景色が広がっていた。

一面綺麗な平原。

いや、草原だった。

草は視界いっぱいに広がっていて果てが見えないほど広く

自然の風がそよそよと流れそれにあわせて草も踊る。

長さはそれほど長くなく、俺の靴の真ん中あたりまでだろうか。

まさにそれはありのままの自然を思わせる光景だった。

あまり関心のない俺でも見入ってしまうほど平原は美しかった。

それは絵や想像の中にしかないような綺麗な草原だった。

追われて逃げていることも忘れ、そのまま俺は呆然と立ち尽くした。

空は青く、雲ひとつない晴天。

言葉では言い表せない草原と空だった。

叶うのならばこのまま横たわって眠りに尽きたいほどだった。

だが後ろでザッという足音が聞こえると俺は夢の中から覚めたように

意識が覚醒する。

「なんとか……脱出できたわね」

声のしたほうに振り向く。

言うまでもない。

足音の正体は神楽さんだった。

「ええ、作戦成功です」

俺は微笑しながら言う。

正直ここまで完璧に成功するとは思っていなかった。

一つか二つは穴があったりして何かミスをするかと思っていた。

少なくとも俺は多少の怪我は覚悟していた。

いや、最悪失敗して逃げれないことも考えていた。

だが結果は偶然にも二人とも無傷で逃げることにも成功した。

そう、何か不可思議な力が働いたように

「とにかく早く離れよう。危ないしな」

俺は返事も聞かず神楽さんの腕をつかみ建物から離れる。

「そ、そうね。追ってくるかもしれないし」

俺は首を振る。

「いや、多分追ってこれないと思う」

「え?何故?」

「それは……もうそろそろかな。後ろを見てみろよ」

俺たちは足を止め背後を振り返る。

瞬間、タイミングを合わせたように俺たちが飛び降りた部屋が崩壊した。

ここから遠目でも見える。

天井が落ちてきて破片がどんどん落下していき、床は多分穴だらけだろう。

証拠にその下の部屋の窓はすでに割れていてそこからさらに破片が落ちているのが見える。

上へ視線を戻す。

部屋は瓦礫で埋まり始めあの部屋は完全に壊れただろうことが伺える。

「あの状態じゃ逃げるので精一杯で俺たちを追っている時間もないだろうし

もう安心だと思うよ」

「────」

声がないようだ。

まるで電池が切れたってこれは前も言ったか。

まさに絶句らしい。口を半開きでひたすらもう部屋といえない

瓦礫の山となった場所を見ている。

まぁ危険は去ったわけだから大丈夫だろうと思いそのまま放置する。

さて、これからどうしようかと考えていたその時

「崩壊するってわかっていたの?」

ふと神楽さんが声をかけてきた。

俺は神楽さんの後ろの方にいるので表情は見えないが

雰囲気でどうやら真剣に聞いているのがわかった。

スルーするわけにもいかず嘘をつくのもアレなんで

正直に答えることにする。

「ああ、もうあいつ等の攻撃で部屋は崩壊寸前だったのはわかってたからね。

逃げるときにあの作戦……結界を広くすれば天井や床にもダメージ与えるし

破片も吹き飛ばせばもう致命傷と言っても過言でもないだろうし

逃げるときには崩壊するんじゃないかとは思ってたよ。

それに、止めとして風の衝撃を使えば間違いなく崩壊すると思ってたしな」

一歩間違えれば逃げる最中に崩壊する可能性もあったがまぁそのときは

結界で弾けば床は砕けて下にいけるとは思っていたのだが。

「そう……ですか」

すると何か深く考えるように空を見上げる。

「もう一度確認しますけれど……“水月 悠”

この名前であっていますか?」

此方を振り向く。

俺は驚いた。

その目は真剣そのもので……そして何か確認するようなそんな感じで

それでいて……何か物悲しい感じを感じた。

だからだろうか。

そのなんでもない質問に答えるのを躊躇してしまう。

そんな俺を知ってか知らずか何も言わずただ此方を見る神楽さん。

なんでもない質問。

俺はそう言い聞かせて答えた。

「違う。俺の名前は神山満月」

「嘘ですね」

「ごめんなさい」

駄目だったか。

まぁ流石に悪乗りしすぎたか。ネタ分からないと思うし。

…何やってるんだ俺。アイツの性格が移ったか?

「…そう思うと欝になってくるな」

盛大に溜息を吐く。

「確かに俺の名前は水月みづき ゆうだが

それが何か?」

「いえ何でもないですよ。たんなる確認ですから」

「……確認?」

「名前の確認ですよ」

その言葉に眉をひそめる。

何か裏があると俺は直観的に感じた。

「何か知ってるのか?」

問い詰める。

「……本当なんでもわよ」

「本当になんでもないことなら聞きません。

そして何でもないなら言ってもいいだろう」

「……」

口を尖らせて黙る神楽さん。

「どうした?黙ってちゃわからんよ」

「……」

何か言うと逆に墓穴を掘ると思ったらしくうんともすんともいわなくなってしまった。

お互い沈黙。

風の流れる音だけが辺りに囁き、しばらく無言の時が過ぎた。

「……まぁこの話はやめるか。

それよりもここからどうするんだ?」

「……」

「おい、聞いてるのか?」

「あ、ごめんなさいね。

時間はかかるけれど転移で本部に戻るわ」

「本部ねぇ……」

「あ……」

また口を尖らせて黙る神楽さん。

心なしかその視線がやけに痛い。

口を滑らせたのはそっちなんだけどなぁ

そういえば転移ができなかったのは時間が足りなかったからか

時間さえあれば遠くまで転移できるらしいっと予測する。

「……」

「……」

「……」

「あの転移は?」

「……今からやるところよ」

あ、すねちゃったみたいだ。

ちょっとやりすぎたか……

まぁ、何も言わず秘密にしてるんだしこれぐらいは良いだろう。

そう言って自分で納得する。

神楽さんはというと何か目をつぶりながらブツブツ言っている。

既に何をするか知ってる俺はわかるが

もししらない一般人が見れば相当怪しい人だなと心の中で苦笑する。

そしてそんな魔法みたいな現象を見てそれを理解し納得している俺も

相当変なやつだろうと思う。

自分でも不思議だ。

こんな状況なのにまるで普通のことのように驚けない。

異常な事態なのにおかしい位冷静で

なんだか不思議だった。

なんというのだろうか……

そう、あれだ。こんなことを経験したような感じがあるデジャヴというやつに

似ている。

記憶にはないけれど、体が覚えているような妙な既視感。

一陣の風が流れる。

草の香りを俺に運んできて、また興奮している俺の体を冷やしてくれた。

俺はそれが心地よく、ひたすらに目を奪われそうな空を見上げた。

それがとても……気持ちがよかった。

そうやってしばらくぼうっとしているとふと誰かに肩をたたかれる。

俺は空から視線を移し後ろを見る。

勿論それは神楽さんだった。

「詠唱が完了しました。

もう転移できるけど……」

どうやらもう移動できるらしい。

「ああ、じゃあお願いする」

「わかったわ。そうね、私の肩にでも触れていてください。

転移するには私に触れていなければならないから。お願いね」

「了解」

俺は言われたとおり神楽さんの肩に手を置く。

最後に俺は手を置きながら首だけを動かして空と草原を見た。

またいつか来たいと思ったからだ。

ここを離れるのが名残惜しいと思った。

俺は視線を外す。

二度と来れない訳ではないと言い聞かせて。

「行くわよ」

後ろ姿しか見えないが真剣なのはわかる。

返事をしようと思ったがその雰囲気から言わないほうがいいだろうと思い

黙っていた。

「詠唱凍結……解除。

術式開放、鍵“我は風と共に歩む者”」

景色が歪む。

まるで違う色を混ぜたように色彩は変わっていき

粘土をこねるように景色が歪み、ずれていく。

陽炎のように揺らめいているにも見える。

転移と聞くと何か気持ち悪くなったり痛みを感じるのかと思っていたが

杞憂のようでまったくそんな感じはなかった。

やがて草原の色も景色もまったく原形をとどめないほど歪んでいき

色が段々と黒一色に染まっていく。

全部黒くなると歪みも色もわからなくなった。

だが黒くなってすぐに色が戻り始める。

先程の逆回しのように今度は色が元に戻り始め歪みもなくなり始める。

そして全てが元に戻った時そこは草原ではなく

何もない広い部屋の中心に俺たちは立っていた。

そこは無機質な部屋だった。

床、壁、天井全てが鉛色に鈍く光っていた。

だがそれだけだ。

何に使うのかも不明で倉庫のような部屋だった。

「何もないな…」

本当にそこには何もなかった。

机や椅子はおろか本当に何もない部屋だった。

ある意味牢獄と言われれば納得してしまいそうだ。

「ここは転移専用の場所なのよ」

疑問に律儀に答えてくれる神楽さん。

「転移専用?」

「ええ」

いまいち釈然としなかったが深くは聞かないことにした。

どうせ知っても何の意味も無いのだから。

「さて行きましょう」

歩き始めた神楽さんに俺はついていく。

どこに出口があるのかと思ったが歩いていく先の壁をよーくみると

ノブがあったのが見えた。

同じ色をしていたせいだろう、とてもドアがあるようには見えなかった。

だが本部というだけあって迷い無く進んでいく神楽さん。

ドアを開けそのまま廊下をスタスタと歩いていった。

俺はその後姿を追った。

中は広いらしく長く歩いていた。

ところどころドアがあってまるでホテルのようだとおもった。

まぁホテルといっても装飾がほとんど無い簡素なものだったが。

壁はコンクリのような鉄のようなよくわからないもので出来ているようだった。

硬いような柔らかいようなよくわからない物質。

素材には詳しくないが、少なくとも俺の知識には無い。

もしかしたらこの世界独自の物かもしれない。

何度か角を曲がり迷路のような廊下を抜けると俺は驚いた。

そこは広場だった。

それはとても広く、ホテルのロビーのようだった。

だが驚いたのはそれだけではない。

今まで他の人に会わなかったがここには数十人という人がいたのだ。

男の人や女の人

服装もバラバラだが人種もバラバラだった。

明らかに外国人と思われる人もいるし日本人もいる

まさに広場だった。

「こっちよ」

だがゆっくり見る暇も無く神楽さんは進んでいく。

まぁ普段から見慣れた風景だろうと思い気にせずついていった。

今度は先程のような廊下ではなくもっと広かった。

その何か偉い人が通りそうな道を興味深く周りを見ながら歩いていくと

これまた今まで見た扉より立派そうな扉があった。

木の扉だが装飾が施されてありまるでどこかの社長室の扉みたいだった。

この俺みたいな素人でも一目でもわかるほど精巧な彫りのようだったから

おそらくその想像はあっているのだろうと思った。

神楽さんは息を軽く吸い、覚悟を決めるように

その扉を今までに見たいに勝手知ったる風ではなく、緊張したような面持ちでノックをした。

「入りなさい」

渋いような男の声が扉の向こうからした。

「失礼します」

その声を聞き扉を開け中に入る神楽さん。

「戦闘課部長神楽。ただいま帰還いたしました」

「うむ、ご苦労だったね。疲れただろう?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「そうかね、無理はしないようにね」

ここからでもわかるような優しい声。

顔はよくみえないがその声は警戒を解くような優しい感じがする。

初めて会う人でも心を開いてしまいそうな、そんな雰囲気があって

俺は気に入らなかった。

何故だろうか。

非常に、そう俺にとっては何故だか…理由と言われても思いつかないが。

嫌な感じがするのだ。その優しい雰囲気が何故か違和感を覚えて仕方がないのだ。

「ところで……その少年はいったい誰かな?私に紹介してくれないかね」

「はい。水月君、入って」

言われてずっと扉の外で立ち尽くしていた事を思い出した。

俺は慌てて行こうと思ったが一瞬、入るのに躊躇してしまう。

だが、行かないわけにもいかず

ゆっくり歩いて、それでいて少し早めに扉を潜る。

部屋の中は一言で言うなら地味なのだろうか。

置いてあるものは部屋の隅の観葉植物のようなものと大きい机と椅子だけだ。

そしてその椅子には老人というには力に満ち溢れているようで

青年というにはいささか老けすぎているような

それでいて優しい顔を浮かべた人が座っていた。

なんというか、紳士のような人だった。

老人のような老人じゃないような……ああ、口では言い表せない。

だがその雰囲気、物腰が警戒をついつい解いてしまうようなそんな人だった。

…無論、理由のない体が拒否するような感覚を抜かせばだが。

そこまで考えて何も発言しない二人に気づき自己紹介をするんだと

今更ながら俺は気づいた。

「あ……紹介が遅れました。水月悠です」

ペコリと頭を下げ礼をする。

「ふふふ、そんな畏まらなくていいよ。顔を上げて」

言われたとおり顔を上げる。

その老人は俺に柔和な笑顔を向けていた。

「ふむ、私の紹介も必要かね?

私はウォルフ。ウォルフ・レインディア。この魔術協会、通称本部の最高責任者を

させてもらっている。

皆からは所長と呼ばれているよ」

「ウォルフ・レインディア…さん?」

「うむ。

だが名前で呼ばれることにあまり慣れていなくてね。

出来れば所長と呼んで欲しいのだが」

ニッコリと笑う。

「わかりました。所長ですね。

ところで……魔術協会とはいったいなんでしょうか?」

その言葉を聞くと少し眉をひそめる。

視線を神楽さんに移す。

つられて俺も神楽さんを見ると神楽さんは小さく首を振った。

「そうか……となると説明をまったくしていないのかね?」

「はい…」

ふむっと考え始める。

すると机の引き出しを開ける。

何かを探すように中を物色する。

やがて目的の物を見つけたのか手に何かを持って引き出しを閉めた。

「ちょっとこれを持ってみてくれないか?」

机にそれを置く。

見るとそれは小さな銀色をしたカードのようなものだった。

「っ!所長!それは…」

何か言おうとした神楽さんを所長は手で制す。

神楽さんは何かまだ言いたそうだったが、所長が黙って首を振る。

しばらく悩んでいたが諦めたのか黙ってしまう。

だが黙っていても此方を見る目がまるで不安なものを見るようなのが気になった。

「あの…何かあるんですか?危険…とか?」

「危険なものを君に渡したりはしないよ。大丈夫、まったく危害は無いから」

笑顔でそういう。

俺は覚悟を決めて前に進みそのカード(にようなもの)を手に取った。

少しひんやりしていて硬かった。

持ってどうするのかと思っていたその時。

変化は起きた。

「……な!?」

突然銀色のカードが真っ青になったのだ。

とても濃い青。原色と言ってもいいほどの濃い青。

銀色だったカードは瞬く間に青いカードに変貌した。

だが変化はそれだけに留まらない。

亀裂が入り始めたのだ。

それは全体に蜘蛛の巣の様に広がり

瞬間、まるで硝子が割れるような金属音が響き

カードは破片となって砕けた。

突然の変化にまったく反応できない俺だったが

神楽さんも驚いているようだ。

この位置からでは見えないが息を呑む声が聞こえたからだ。

だがウォルフさんはいつもどおりだったが笑顔はなかった。

「これ…は一体何なんですか?」

「テストのようなものだよ」

「テスト…?」

コクリと頷く。

「一体何のテストなんですか?」

「それはね…」

神楽さんが答える。

「潜在魔力検査よ」

「潜在魔力検査?」

頷く。そしてウォルフさんの方に向く。

「所長」

「うむ…さてどうするか」

目を閉じて何か考えているようだ。

俺は何がなんだかわからず蚊帳の外だった。

「神楽君。少し覗かせてもらってもよいかね?」

その言葉に一瞬、怯んだ様に見えたが

「はい、構いません」

何事もないように一歩進み出るそして目を閉じる神楽さん。

それに伴い一緒に目を閉じるウォルフさん。

一体なんだろうと首をかしげる。

ただなんとなく邪魔をするのはよくないと思い音も立てないように俺は

じっと立ち止まっていた。

その内、僅かな違和感を感じた。

神楽さんと署長の間に何かを感じるのだ。

当然、目を凝らしてもそこには何も見えない。

しかし、何か…自分でもよく分からないが有るように感じる。

やがて数十秒するとお互い合わせたように目を開ける。

そして一歩下がる神楽さん。

「なるほど、稀に見る才能…というわけか」

「────」

絶句する神楽さん。

「神楽君?」

「え?あ、すいません…」

珍しく呆けていたようだ。

あのカードが何か重要な意味があったのだろうか。

「…私の答えは決まったよ」

すると真剣な顔をして俺を見るウォルフさん。

「水月君」

「はい」

「魔術協会に入らないかい?」

「……はい?」

言われた意味がわからなかった。

「すいません、今何て?」

多分聞き間違いだろう。いやむしろそうであると信じたい。

「君を魔術協会に迎えたいと言ったのだよ」

だが残念なことに聞き間違いではなかったようだ。

「あー…色々混乱してきましたので

そろそろ色々質問してもよろしいですか?」

半分頭を抱えつつ核心に入る。

「いいだろう。何でも答えよう」

「何でもですか?」

「うむ、私が答えれる範囲ならな」

「では…う〜ん」

いざ聞こうとしても聞きたいことが山ほどあって絞れない。

しばらく考えてまずはこの世界のことを知ることにした。

「この世界は……一体何なんですか?

今まで俺がいた世界…じゃないと思うんですが」

「うむ、そのとおり。ここは君がいた世界とは違う世界。

まぁわかりやすく言うならば異世界ということになるな」

「異世界……ですか?」

頷く。

「君がいた世界を『技界ぎかい』と私達は呼んでいる。

そして今いるこの世界を『魔界まかい』と言う」

「魔界……それは悪魔とかいるそういう世界ですか?」

「そのとおりだ。所謂伝説上の生物と技界で呼ばれている生物が暮らしている世界。

そう思ってくれて構わないよ」

「じゃあ…たとえばドラゴンとかも居るんですか?」

頷く所長。

「ああ、居るとも。更にドラゴンの中でも多種多様な種族がいる。

代表的なのはワイバーンや火蜥蜴サラマンダーだろうね。

他にも人狼やエルフなんて者も居る」

そう言って僅かに笑う。

神楽さんはその言葉に少し反応するが、何事も無かったように再び聞き手に徹する。

「…そう言われても中々実感は湧きません。

ここが今まで俺がいた世界とは違うって言うことは分かりますが…」

「ふぅむ、なら済まないが神楽君。

見せてあげてくれないかね?」

「良いのですか?」

「構わない。私でもよいんだが、見せると色々問題があるだろう」

そう言って悪戯っぽく笑う。

「…わかりました」

そういうとおもむろに耳から髪をかきあげた。

すると、髪に隠れていた耳が姿を見せる。

「あ……」

尖っていた。

神楽さんの耳は普通の耳とは違い、なんというか…そう、ウサギ

とかのあんな感じみたいに尖っていた。

「驚いた?」

「ええ……まぁ」

「あんまり驚かないのね?」

「有る程度は耐性つきましたし」

もうそれぐらいじゃ驚きませんよと心で思った。

こっちはこの魔界とやらに来てから光の攻撃受けるわ結界とやらで防ぐわ

「神楽君はハーフエルフだ。あと事情により私は正体は見せれないが私も人間ではない」

「そうなんですか?……もしかして人間のほうが比率が少ないとか?」

おそるおそる聞いてみる。

「いや、人間がこの世界で一番多い種族だよ。

むしろハーフなどが多かったりする種族もいるし、人の姿をした者もいる。

見た目で言えば人間は数多いだろうな」

「人の姿…?」

「昔色々有ってね。人型の方が魔力節約にもなるし

人に変化する魔術を使ったりしているんだ。

私もそうだからね」

変化っというところが気にかかるが確かに見た目はどうみても人間だ。

人間じゃないようにはまったく見えない。むしろ人間に見えないほうがおかしいぐらいだ。

「確かに人間にしか見えないですね」

「詳しく話すと日が暮れてしまう。もし興味があれば神楽君に聞くか

自分で調べてみると良い

とりあえず我々は見た目的にはなんら問題は無いことを覚えておいてくれ」

「わかりました」

見た目は人間だし中身はどうあれ心は優しいようだから問題はなさそうだ。

…さっきの違和感のような物は本当の所長に反応していたのだろうか?

「さて、次に質問はあるかな?」

「そうですね……神楽さんが使っていた魔術とやらは一体何なんですか?」

「読んで字のごとく。魔力により現象を起こす術と読み魔術と呼ぶ。

そうだな。一から説明しよう」

そこで一度言葉を切り再び語りだす。

「君たちの世界には無かった力がこの世界にはある。それは強力なエネルギーを持っている。

それは万物に宿っており、人間はおろか植物、動物、魔物すべてが持っている。

勿論多寡の違いはあるがね。それが"魔力” 

噛み砕いて言えば君の世界に無い強力なエネルギーを魔力と呼んでいるのだよ。

さらに簡単に言えってしまえば技界の電気などと同じだ。

その魔力を使い、物質などに影響を及ぼし、結果として現象を起こす力のこと。

それを魔力を使った術式という意味で魔術と呼ぶ」

「えーっと……つまり魔力は電力と一緒で。魔力(電力)によって魔術(機械)を使う(起動する)と言うことですね」

「その通りだ。とりあえず、魔力という力が有るということだけ分かってもらえれば

それでいい」

「そうですね、おおまかには理解しました」

「うむ、理解が早くて助かるよ。更に詳しい事を話そうか?」

「いえ、もう魔術については結構です。それより先程魔物とおっしゃられましたね?

魔物とは一体?」

魔物と聞くとまず思い浮かぶのが、ゴブリンやスライムだろう。

即ち人に害をなす物。

「うーむ…境界線を確立させるのは難しいが…一般的には人間またはそれに其れに準ずる者への

攻撃した者、または攻撃性が高く、傷つける恐れがあるもの、知能が低い者…か

明確な魔物というのはいないのだ。極端な話人間と仲が良いか悪いかで決まるのだしな」

「そうですか…あれ?聞いていると人間が主体に聞こえますけれど…?」

そう、疑問に思った。普通の世界なら人間が主だが…この魔界とやらならもっと知的で強い者などがいても

おかしくは無いと思ったのだ。

単純な話、ドラゴンが居て人並以上の知能があれば君臨することも可能ではないかと思ったのだ。

「ふむ、それは主な理由としては

一つ、人間のほうが数が多い

二つ、人間のほうが強い

ということかな。」

「人間のほうが強い?あれ…でも人間なんて非力だし弱いのでは…?」

卑下するわけではない。

だが、現実世界でも道具を使わなければ動物にも勝てない。

人間自体は非常に非力と言うことを俺は知っていた。

「それは…まぁ詳しくは説明できないが数が多ければそれだけ有利だということにしておいてくれ」

「はぁ…」

どうやら詳しいことは説明しにくいらしい。

まぁ確かに元の世界でも何故人間が主なのかと聞かれれば論理的に答えられないのと同じかな…。

と、自分で勝手に結論を出す。

「…先ほど魔術協会に入らないかと言いましたね?

魔術協会とはいったい何なんです?」

「ふむ…少し長くなるが良いかね?勿論多少掻い摘んで話すが」

「構いません」

わかったと言って一度言葉を切る。

言葉を選ぶように口火を切った。

「そうだな。魔術協会とはギルドみたいなものだ。

ギルドは分かるかね?」

「ギルドって言うと…仲間とか集まってる団体みたいなものですか?」

「おおまかに言うならそうだ。

魔術協会ではその名の通り魔術を使える者を集めて仕事をしているのだよ」

「仕事?」

「一般の人の依頼から、危険な仕事、王宮から直々に来るものまで様々だ。

そしてその仕事の内容によってランクに分けている。

まぁこの辺りは君が入ってから詳しく話した方がよいだろう。

ちなみに魔術協会はここだけではない。

他の都市にもあって手広くやっているよ。

そして、仕事を達成するとお金が入る」

「本当に仕事なんですね」

「そう言う意味では君の世界とあまり変わらんよ。

ただ、こちらの世界の方が稼ぎやすく、危険だということだ」

「稼ぎやすく、危険?」

「ここでは実力主義でね。強ければ強いほど困難な仕事に就くことができる。

その分だけ報酬が高くなり、稼ぎやすい反面、危険な仕事が多く

下手をすれば命をも落とすということだ」

「命を…」

「怖いかね?」

「……」

答え、られない。

それはどっちだか分からないのではなく、何と言えばいいか分からない沈黙だった。

色々自分の心境にあった言葉を探すが、やはり見つからない。

僅かな沈黙の後、呼気と共に一つの言葉を投げる。

「別に」

そんな、素気ない言葉だった。

肯定でもなく、否定でもない。

「…別にかね?」

俺は無言を貫く。

しばらく俺を見ていたかと思うとそうか、と言ってあっさりとそれで終わった。

「さて、…君は一番聞きたいことがあるのではないのかね?」

心を見透かしたように問われる。

その問いに応えるべく、一度深呼吸をして、

そしていよいよ一番聞きたい、言いたいことを口にする。

「…では」

「…なんだね?」

真剣な顔をしたからかウォルフさんも真剣な顔になる。

俺はもう一度深呼吸をして…言った。

「魔界とは、一体なんですか?」

根幹にして、最も重要な質問を問いかける。

暫し、瞑想するかのように目を閉じる所長。

そして、ゆっくり目を開く。

「水月君」

「…はい」

「神話や伝承は知っているかね?ゲームや雑誌などでも構わない。

そういう伝説上の生き物等を知っているかね?」

「概要ならある程度は。詳細まではわかりませんが…」

「そのどれもが似たような物であったりしないかね?

例えば今言ったドラゴンだ。翼を持って火を吹いたりする。大まかに言うならこんなところだ」

「…その通りです」

「結論から言おう。それらの話の源流はこの世界。すなわち魔界なのだよ」

「どういう…ことですか?」

突飛な結論に、一瞬理解ができない。

「ドラゴンがこの世界には存在する。それを君の世界。技界の人間が描いたりしているということだ。

そうだな…君の世界には犬がいるだろう?

それがこの世界では居ないとする。だが、君の世界に行ったものが犬を目撃して

この世界で絵として、或いは文章として書き遺せばどうなる?」

「…この世界には犬はいない。すなわち、伝説上の生き物となる…そう言うわけですか?」

「頭の回転が速くて助かるよ。その通りだ。

魔界に存在する生物や出来事、または英雄譚を書き記したものが

向こうでは神話になっていたりするわけだよ」

「確かに、筋は通りますけど…」

「信じられないかね?だがエルフは君の目の前に存在するのだよ。

受け入れたまえ。童話、神話こそが現実だと」

戸惑う。

だが、同時に納得できてしまい、そして受け入れてしまう自分がいる。

異常なほど、冷静に。

「そうだな。例を上げてみよう。

例えばオーディーンは知っているかね?」

「確か、老人の神でしたね。神々の中でも有名で、強い。

投げれば百発百中の槍『グングニル』を持つ大神」

「ああ。だがこの世界では少し違うのだよ。

遙か昔、魔術を究めたとされる老人が生み出した最強の武器。

それは魔力を込めればあらゆるものを貫き、そして相手を貫いたという話だ」

「…それは」

「同じだろう?無論、この老人は神では無いがね。

例えば竜殺しの武器とされるドラゴンスレイヤーもこの世界では存在している」

「本当に、ゲームや漫画の世界ですね…」

「本当は逆なのだがな。まぁどちらでも構わんよ。

真偽はともあれ、この世界はその漫画やゲームの世界と変わらんと言うことだ」

「……本当、信じられない話ばかりですよ」

「信じるかどうかは君の自由。だが真偽だけははっきりしているだろう。

今まで君が見た事実から鑑みれば分かるはずだ。

私も言葉が真実であることを。

信じるかどうか。そんなものに価値はない。

世界が存在する現実が総てだ」

確かに、信じがたい話ではあるが現実には変わりない。

そして、違和感が無い。

「…最後に一つ聞きたいことがあります。

これはウォルフさんへじゃなく神楽さんへですが」

「私?」

首をかしげる。

思い当たる節がないような素振りだ。

俺は軽く溜息を吐きながら

「…ここにつれて来られた理由ですよ」

「あ…」

あ、じゃない。本当に忘れていたのか。

何の説明もなくこの世界に連れてこられたのに

忘れていた思うと不満を隠せない。

「それについては私が説明しよう」

「…?あれ、ウォルフさんわかるんですか?」

頷く。

「実はな、神楽君は詳しいことは話せないがとある理由で技界に行ったのだが

本当はパートナーがいてその人と組む予定だったのだが…

実は神楽君が顔も知らずに技界に行ってしまってな」

目を伏せて溜め息を吐くウォルフさん。

その溜め息は仕方ないなと言うよりまたかと言ったような

やや諦め気味の溜め息のような気がする。

「あれほどしっかり確認しておくようにといったのだが…」

チラリと神楽さんを見る。

目をそらしてウォルフさんの方を見ないようにしている。

ややバツの悪そうな顔をして、子供みたいに。

ウォルフさんの苦労がなんとなくわかるような気がした。

「それでも待ち合わせ場所にしっかりいっていれば何の問題もなかったのだが…」

そこで神楽さんの方を向いた。

「待ち合わせ場所はどこかわかるかね?」

聞かれて神楽さんは目線をウォルフさんに戻した。

「ええっと…東京のXXXの2丁目ですよね?」

「……3丁目だ」

はぁっと大きな溜め息を吐く。

「…っというわけで待ち合わせ場所も間違えていたんだ」

「そういえば俺がいたところも3丁目でした」

ちょっと歩いて遠出したせいで少し疲れたからそこらへんで軽く休んでた記憶がある。

丁度どこら辺なのか確認するために電柱に書いてあった3丁目というプレートが

記憶に残っている。

「後は言わなくてもわかるだろうが…君をその相棒と間違えて連れて来てしまったという

わけでな」

「それは…なんというか」

救いようがない。

俺にはまったく非はなくただの勘違いで連れて来られたんじゃ

正直フォローも弁護もできないだろう。

あえて、直接的な表現をするなら馬鹿…としか言いようがない。

「水月君?今失礼な事を考えなかった?」

「気のせいですよ」

鋭い。

「まぁそれだけではないようだがな…」

ポツリとウォルフが呟く。

「え?何かいいました?」

「いや、なんでもないよ」

「そうですか?」

「さて、質問はそれぐらいでよいかな?」

「……はい」

コクリと頷く。

大体聞きたいことは終わった。

「では再度問おう」

再び真剣な目になる。

「魔術協会に入る気はないかね?」

「…正直迷ってます」

「迷うとは?」

「この世界に入ったのは確かに偶然かもしれませんけれど…

こんな世界があるのならもっと知りたいし実感してみたいです。

ですがここに来るまで危険な目にあったのも事実ですし

一概に入るとは言えません。

才能があるといわれても実感もありませんし」

「そうか…」

しばらく考える様子を見せたが不意に

「ならば一ヶ月ぐらい体験してみないか?」

と、提案してきた。

「体験ですか?」

「うむ、確かにこの世界のことについてもあまり知らない君に急に入れというのは

流石に性急だ。ならこの世界を知り、どんな事をするのかなどを体験してみたらどうかね?」

「それは…良いかもしれません」

いいかもしれないと思った。

こんな世界なら見所もたくさんあるし向こうに戻ったところで退屈な日々だ。

ちなみに今は7月30日。

当然学生の俺は夏休み中だ。

それを見越して言っているのならまさに名案といえる。

そして俺の覚悟を強力に後押ししてくれる言葉がウォルフさんの口から出た。

「ああ、一応体験中と言ってもこっちも仕事だからね。給料は出すよ、勿論

技界のお金でね。

この世界を見て回ってもらうし魔術も教えよう。どうかね?」

「…わかりました。体験させていただきます」

やや迷うがお金が貰え、魔術も教えてもらえるなら

これ以上の待遇はないだろう。

何より、夏休みの間は暇をしていたところだ。

返事を聞くとウォルフさんはニッコリ笑った。

「そうか、それはよかった。

おっとそうだ。

すまないが水月君、少し席を外してもらえないか?

神楽君の報告を聞かねばならんのでな」

「あ、わかりました」

「うん、いい機会だし本部の中でも適当に見ていったらどうかな?」

「そうですね……そうさせていただきます」

俺は失礼しますと言って部屋から出た。

正直ワクワクする。この本部の中を探検というのは子供みたいだが

本当に面白そうなのだから仕方ない。

普通では見れないものにお目にかかるいいチャンスだと思い

俺は足早に部屋を後にした。

─────

───

─水月 FadeOut

水月君が部屋を出たのを確認したあとも私は慎重に気配を探った。

これからの話は水月君にとってはまだ知らないほうがいいと思ったから…。

そして完全に気配がなくなり声が聞こえる心配がなくなった頃に私は話を切り出した。

「所長……!いったいどういうつもりですか?」

「さて…いったいどういうつもりなのかとは、それは魔術協会に入れるという事についてかな?

それとも潜在魔力を計ったことについてかな?」

「全部です」

「ふむ…答えてもよいがその代わり私からも質問させてもらおう。

────何故彼を連れて来たのだね?」

「ッ!それは…間違いでつれてきてしまったので元の世界に返すためにも

記憶を消すにしても本部につれてくるのが一番だと思ったからです」

「本当にそれだけかね?」

「それは……」

「君が間違えた理由、潜在魔力が強すぎて発現魔力と勘違いしたのだろう?」

「……はい」

この人に嘘は通じない。

それがわかっている私はそう言うのに抵抗はあったが嘘なく答える。

「そして…名前を聞いてから君は迷ったのだろう?

何せ…"水月家”の人間なのかもしれないのだから…な」

「───」

目を伏せた。

確かに私は彼の名前を聞いて"水月家”を連想せずにいられなかった。

それを確かめるためわざわざ本部に連れて来たという事も

否定はできなかった。

「まぁいいだろう、質問に答えよう。

まず潜在魔力を測ったことについてだが別に大した意味はない。

潜在魔力が強いのでな、気になって調べたのだよ」

嘘だと思った。

あのカードは潜在魔力を調べるものでもあるが本来は"覚醒”してから

渡して測るものなのだからわざわざここで調べる理由は無い。

けれど残念なことに私には嘘と断定することも見極める事もできない。

だから仕方なく話を進めるほか無かった。

「そう…ですか、では魔術協会に入れるというのはどういう意図ですか?」

「此方も至極簡単だ。あの稀有な才能を埋もれさせるにはあまりに惜しい。

それに最近“アンチ"によって人員が不足しているしな。

ちょうどいい人材じゃないかと思ったのだが?」

「……」

嘘は言ってないと思う…が、真実も言っていない。

私と所長はそれほど短い期間付き合っていたわけではないからか

なんとなく相手の意図をわかるようになっている。

ただその長年所長の本当の目的を見破れたことは今まで一度も無かった。

そんなむずがゆいとわかっていながら糾弾できないのがまた悔しかった。

「まぁ安心したまえ。

まずは“覚醒”させずに訓練をさせる」

「“覚醒”させずに……?」

聞いたことが無い。

何せ“覚醒”させないと訓練のしようが無いのだからそんなことは

今まで一度も無かった。

「彼の魔力なら発現させずとも多少なら魔術は使えるだろう。

問題は無い。

…そうそう、訓練官としてクリフをあてがう事にした」

「クリフ…クリフ・ハワードですか?」

「そうだ。彼なら適任だろう」

クリフ・ハワード、あまり面識はないが聞いたことはあった。

確かに実力はよいだろう。

しかし相性の点では…適任とはいえないような気がした。

クリフは炎属性だが、水月家と関係があるのならば適正としては不適切だ。

「クリフ君が大体5日程訓練させた後任務試験を与えようと考えている」

「な…待ってください!5日って早すぎます!」

いったい何を考えているのだろうか。

何も知らない水月君がいくら才能があるとはいえ5日で任務試験など

無謀にもほどがある。

だがその言葉を無視して先を進めはじめた。

「相手は…そうだな、四ノ宮君にしよう」

「な!」

今度こそ言葉を疑う。

四ノ宮といえばまだ入って数年しか経っていない若手でありながら

その実力は高いといわれる期待のエースではないか。

彼の実力を知るものならわずか5日で彼に勝つのは無謀を通り越して

自殺行為としか言いようがない。

「いくらなんでも無茶です!」

すると目を細め威圧するような眼光を放つ。

そして有無を言わさぬ口調でこういった。

「これは決定事項だ。変更は無い」

「!…………わかりました」

こう言われてしまっては私には何の力も無いことを長年の経験から

知っていた。

一体私は彼に何をしてあげれるのだろうか…

「では、報告を」

「ああ、報告は良い。

あの時ついでに詠ませてもらった」

抜かりがない。が、自分の知らないところで詠まれていると思うと

少し気分は良くない。

「しばらく仕事も無い。少しの間休むといい」

「わかりました」

「以上だ。下がりたまえ」

「それでは、失礼します」

頭を下げ、扉を開ける。

更に一礼をしてから扉を閉める。

「…ふう」

所長の前だとやはり緊張する。

軽く肩を揉む。最近は任務が多くて疲れていたところだ。

この休みの間に少し休養しようよ思うが

「水月君大丈夫かしら」

確かに魔力は高かった。

だが、それでもクリフとの相性もあるだろうし

何より試験の相手が四ノ宮君だ。

才能があったとしても勝てる見込みは殆ど0。

幾らなんでも本気、特に『アレ』は出さないとは思うけれど

所長の事だ。万が一と言うこともあるかもしれない。

「仕方ないか。私にも責任はあるしね」

出来るだけ協力することにしよう。

「…その前にお腹が減ったわね。

食堂行ってから後で会いに行こうかしらね」

クルリと踊るように半回転し、やや嬉しそうに水月が行った方向と逆に歩き始めた。

─────

───

─神楽 FadeOut

「うーん……」

まいった。まさか部屋を出て僅か数分もしないうちにこんな状態になるとは

予想だにしていなかった。

あの後俺は部屋を出てから、対してやることがない事に気づいた。

案内は全部神楽さんが着き添いだったし来たばかりで中を知るわけもなかった。

だが、ウォルフさんに言われたこともあり

興味もあり本部を見て回ることにした。

勿論部屋の中に入ることはしなかったが。

いや、もしかしたら頼めば入れてもらえたかもしれないがまだ

ここの人間じゃないし、知らない人にいきなりあっても戸惑うだけだろう。

それに中を見ずとも中々面白かったし、すれ違う人も色んな人種の人だったりと

こういうのはなんだが飽きなかった。

ウォルフさんが言った通り、所々耳が尖っていたり、色がちょっと違ったり

体毛のような鱗のようなものがついた人も居てまさに千差万別だった。

俺はと言うと、それらを多少興味深く見るがやがて順応してしまった。

っが、そうやって色々見ている間に周りが見えなくなり

そして本部が広いせいもあっていつの間にやら見知らぬ場所に出てしまったのだ。

見渡せば同じような景色が広がって、道案内するようなガイドマップなんて気の利いたものも

当然無く。

…つまりは、迷ってしまったわけだが。

「さて……どうしようかなぁ」

とりあえず当てもなく歩く。

もしかしたら見知った場所に出るかもという一縷の希望を抱いて。

「同じような扉とか多いし、初見じゃ厳しい物があったな…

とは言っても人に合わないし。所長室がどこかなんて分からないし」

そんな感じで困っていたが、まぁなんとかなるだろうという楽観的な意識を持っていた。

「あ、あっちのほう行って無いな。…ちょっと行ってみるか」

それに見れば見るほど興味を魅かれる。

『魔具開発室』なんて書かれたプレートなんて、とても好奇心をそそる。

まずは本部を把握する意味も込めて、あちこち歩き回るという行動に出る。

テクテクと歩いていくと不意に風が頬を撫でた。

俺は首を傾げる。

ここは室内なのになぜ風が入ってきているのは不思議だからだ。

ついでに何故かさわやかな風だった気もしないでもない。

俺はそのまま風の吹く方へ歩を進めた。

そして角を曲がる。

まず光が見えた、次に緑が見えた。

そして風がまた俺を軽く撫でた。

足を進める。

カツコツという無機質な床音がサクサクという草を踏んだ軽快な音に変わる。

そこは…多分表現で言うなら森林公園だろうか。

あえて言うならばサバンナの草原みたいな感じだった(TVでしか見てないが)

芝生で覆われており、所々に樹が生えており森みたいになっているところもある。

よくある木でできた椅子もあった。

空を見上げる。

そこに天井は勿論なく、ただ眩しい太陽が輝いていた。

雲は無い晴天で風が緑を運ぶ場所。

俺はそれが心地よくてここの魔界に来てから安らぎを得た気がした。

このまま寝転がろうかなと思い始めるぐらい気持ちがよかった。

周りを見渡す。

人は殆ど居ない。目に見える範囲だと数人いるぐらいだ。

そんな中、俺は一人の男に気がつき、そしてしばらく見ていた。

興味を引かれたからだ。

その男は木陰で樹に寄りかかりながら何か本を読んでいた。

俺から見てもその男は絵になっていた。

木陰を本を読む仕草から文字を追う目線まで

そのまま切り取って絵にしても良いぐらい似合っていた。

だが興味を引かれたのはそれではない。

俺と同じなのだったのだ。

ここに来て、今まで数々の人とすれ違ったりしていたが

他の人は髪が金色だったり銀だったり赤色だったりと様々で

よくよく見れば何所かが普通の人間とは違っていた。

だが、それは紛れも無く日本人だった。

黒髪に眼鏡をかけていて、服装は至って普通。

だがその普通は俺の世界での普通だった。

ジーパンに白いシャツ、よくいそうな人。

年齢は多分俺と同じぐらいか、少し上ぐらいに見える。

そうやってしばらく彼を見ていると彼は俺の視線に気づいたのか本から

目線をはずし俺に向ける。

そして訪れる沈黙と静寂。

俺は気恥ずかしくてさりとて目が合っているのにそらすのもどうかと思い

しばらく立ち尽くしていたし。

彼は彼で多分誰何だろうかとか考えるだろうし、むしろずっと見ていた俺は

ある意味なんか危ない人なんじゃないかとか考えてるんじゃないかとか

表面には出さなかったものの少し混乱してたせいで喋る事もできなかったのだ。

「君ここの人じゃないよね?」

「え?あ、はい。ついさっきここに来ました」

「やっぱり。ここでは僕以外に日本人のような人はいないからね」

「日本人のようなって?」

「ああ、ゴメン。君は日本を知らないよね」

「いえ…確かに俺は日本人ですけど」

「え?あ、ああそうだったのか。すまない。

…あれ?じゃあ君は技界から来たのかな?」

「ええまぁ。…あ、すいません!じっと見てたりして!」

「いやいや、来たばかりなんだろう?色んな人の中で同じような僕を見て

気になったんだろう?僕もそうだったからね」

と、ニッコリ笑う。

「そうなんです。あ、俺自己紹介が遅れました。水月 悠って言います」

「水月君か。僕は 四ノしのみや きょう よろしくね」

手を差し出す四ノ宮さん。

それが握手だと気づき俺も手を出して握手をした。

「ところで水月君、こんなところに何の用かな?」

「水月君ってそんな、俺の方が(多分)年下で後輩になるなんですから水月って呼び捨てでよいですよ」

「そうかい?まだこれでも22だしそんな年上でもないと思うんだけど…」

「に、22!?」

「うん、やっぱりもっと老けて見えるかい?」

「いや…むしろ若く見えます」

しかも俺とタメぐらいとは思えないくらいの姿でありながら

落ち着いていて大人の雰囲気を醸し出してる。

さらに美男子。

まさに天は二物を与えたと言わんばかりだ。

「そうかい?」

本人はそういう自覚がないせいか傲慢さもなく性格もかなり良い。

だがまだあったばかりだがその優しそうな性格が一役買っているのだろうか

それほどの完璧人間でも不思議と嫉妬とかの感情は生まれなかった。

「まぁあらゆる点で負けてますので呼び捨てで結構ですので」

「?そういうのなら呼び捨てにさせてもらうよ、水月」

「はい」

「それでどうしたんだい?ここは見るものもなく、休むなら自室の方が良いと思うのだけど・・・」

まぁ僕はここの雰囲気が好きでよく来るんだけどねと付け加える。

「ええ、実は…」

マズイ、なんて言おう。

実は迷いましたとか言ったらかなり恥ずかしい。

実はなんでもないんですとか言っても神楽さんの所に戻れないし。

そうやって色々考え葛藤した結果

「実はここに来たばかりで色々見てこいと言われたのであちこち見て回っているんです」

と、現状を説明する。

「そうだったのか、なるほどねー」

「はい、でもここは広くてどこを見ればよいのか」

「確かにここは結構広いからね。そうだ、もし良かったら僕が案内しようか?」

「え?いいんですか?」

「うん。さしあたってやることもないし、ここで会ったのも何かの縁。案内するよ」

「ありがとうございます。助かります」

と、まぁこんな感じで俺は案内をしてもらうことにした。

当然頃合を見て所長室を聞くつもりだ。

でもいつごろ戻ればよいんだろうか。

やや内心で首をかしげたがしばらく見ている間にいつか神楽さんを見つけるんじゃないかと

いう安楽的な考えでいくことにした。

「じゃあさっそく行こうか」

「わかりました、お願いします四ノ宮さん」

だが突然四ノ宮さんは何か考えるように唸ってしまった。

「うーん…」

その顔はなんだかやりきれないみたいな表情を浮かべているように見える。

「どうしたんですか?」

「水月君」

「はい?」

「僕に敬語を使わないでくれるかな?なんというか…ちょっと恥ずかしいというか

むずかゆいような」

「でも年上ですし」

「そんな年も離れてないし、敬語を使われるとこっちまで気を使っちゃうんだ。

もっとくだけた言い方で良いよ。僕のことも呼び捨てでいい」

「そうですか…いやそうか。うん、わかったよ四ノ宮」

するとニッコリ笑う四ノ宮。

「うん。じゃあ行こうか」

「了解」

そう言って俺は先に進む四ノ宮の後を少し心を躍らせながら追っていった。


初めまして。

この度はわざわざ読んで頂きありがとうございました。

蒼き空、どうでしたでしょうか?

まだまだ拙い文章ですが、少しでも面白いと思っていただけたら満足です。

初の投稿と言うことで少し緊張しておりますが

どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

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