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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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にいに登場

しずか達が帰国した1カ月後、龍彦が帰って来た。

龍太郎は休み無く働いているのに、折悪しく、その日は休みで…。


「なんで、てめえがここにいんだよ!!!」


べっチーン!!!


「うるせえ!ここは俺んちだああああ!!!」


べっチーン!!!


恒例の出合頭のべっチーンは、見られないかと思ったが、いいのか悪いのか見れてしまった。

龍彦、今月の6月で47歳。

龍太郎は今年の4月で既に45歳。

中学生の時に出会った瞬間からやり始めて、全く変わっていないというのだから、ある意味凄い。

あまりに、くだらない言い合いを伴ったべっチーンが続くので、とうとう佳吾が2人の頭を同様に引っ叩いて、切れた。


「いい加減にしなさい!いい年してみっともない!」


「叔父さん、何故ここに…。」


頭を抑えながら聞く龍彦に憮然として答える。


「居たらいかんのかね…。お前の帰国パーティーをするからと、龍介君としずかさんにご招待を受けたのだが。」


「い、いや、そうでしたか…。それは失礼致しました…。」


上司と部下という立場もあるのか、どうも龍彦は、いくつになっても、佳吾に頭が上がらない様だ。





龍彦も帰国して、龍彦、龍太郎間では時々ベッチンの応酬で揉めるものの、大方落ち着き、加納家は、しずかと双子が居た頃の賑やかさを取り戻し、皆、ほんわかと幸せだった夏休み直前となったある日の朝、龍介は玄関先で固まっているしずかと双子を見て、道場からの足を止めた。

苺がしょんぼりとしゃがみ、学校に行きたくないと言っている様子で、蜜柑としずかが心配そうながらも、説得に当たっている様だ。

いつもだったら、龍介はもうこの時間に居ないので、知らなかったが、3人の会話からすると、ここ数日毎朝の事の様だ。

龍介が聞く前に、竜朗が言った。


「苺、学校休んじまったら負けちまうだろ。行って戦って来い。」


一緒に稽古をつけてくれていた龍彦が庇う。


「性格的に、苺ちゃんには戦うなんて無理ですよ。やっぱ、ここは俺があいつ締め上げて…。」


「だから、龍彦さん、蜜柑が締め上げたら、余計酷くなったんだから、ダメよ。」


「そんな悪党は再起不能にしてやりゃあいいんだよ。ろくな大人になりゃあしねえ。」


既に戦闘態勢になっている龍彦を抑えながら、龍介がしずかに聞いた。


「どしたんだよ。苺を虐めて来る奴がいんのか?」


「そうなのよ…。靴隠したり物隠したりするもんだから、蜜柑がお仲間と落とし穴に落として、ボコボコにしたら、余計酷くなって、隠した物が出て来たと思ったら、汚されてたり、壊されてたり、机に落書きされたり…。

先生もその度にお説教したり、親呼んだりしてくれてるんだけど、全然ダメなの。」


「1人なのか?集団?」


「5人組らしいわ。でも、中心人物は1人。ターゲットを変えながら、いつも誰かを虐めてるらしいの。他の4人は面白がって、つるんで一緒にやってるだけみたい。」


「人虐めて面白えとは、確かにお父さんの言う通り、ろくな大人にはなりそうにねえな…。

苺。にいにがなんとかしてやる。取り敢えず、教室まで付いてってやるから今日は行こう。ネタを作るからしばし待て。ちょっと遅れるから、蜜柑は先に行け。」


龍介は着替えながらレポート用紙に何かを書くとそれを持ち、寅彦に頼み事をし、苺と家を出て、懐かしの小学校に向かった。

苺と一緒に教室に入ると、教室内がざわついた。

それもそのはず。

身長176センチ。俳優よりもかっこいい、美しい大きな目は鋭くて、足も長くてスタイル抜群のお兄さんが苺を伴って入って来たのだから。


「おお!加納!立派になったなあ!」


苺の担任は、龍介が6年生だった時の担任だった。

この先生は、結構いい先生だった。

虐めがクラス内であっても、龍介に協力は仰いではいたものの、無事解決して来ていた。

その先生が解決出来ずに手こずっているのだから、矢張り余程の悪なのだろう。


「苺が虐められているのは聞きました。どいつです?」


「あの子だ…。落合賢治。」


先生は小声でそう言って、窓際の前から二番目の子を顎でしゃくって指した。

龍介は落合賢治の前に立った。


「誰、あんた。」


「加納龍介。苺の兄貴だ。」


その瞬間、教室内から歓声が上がりだした。


「加納龍介!?伝説の男だ!」


「うわあ!本物!?苺、なんでお兄ちゃんだって教えてくれなかったの!?」


「そうだよ!うわあ!凄え!本物だ!」


「サインして下さい!」


「あ、俺も!」


「私も!」


龍介は落合賢治に怒りたいのに、目が点になっている。


ーな…なんだ伝説の男って…。俺はどういう立ち位置になってんだ、この学校で…。


先生が笑いながら横に立って、落合にも言う様に言った。


「お前さんの数々の武勇伝はしっかり語り継がれててさあ。知ってる子には、超ヒーローなんだよ。」


「は…はあ…。」


「落合、このお兄さんだけは、敵に回さん方がいいんだがなあ。こんな綺麗な顔して、やる事凄いからねえ…。」


大きな態度で居た落合の目が、怯えたのを、龍介は見逃さなかった。


「しばらく、居てもいいですか。」


「ああ、いいよ。苺が落ち着いていられるなら。」


苺の席は落合のほぼ対角線上にある。

落合の仲間は、落合の近くには配置していないが、苺の近くでは無い。

なかなか上手い配置だ。

龍介は廊下側の席の、苺の隣に椅子を貰い、座った。


「にいに、いつまで居てくれるの?」


苺が不安そうに聞くが、先生が静めてくれても、他の子は、未だサインだの、伝説の男だの言っている。


「落合がどんな奴なのか分かったら帰る。しっかりしなさい、苺。あんな馬鹿のやる事、間に受けるな。」


「でも…。」


でも、意地悪をされるのは辛い。

苺は優しいから、やられたらやり返すなんて出来ないのだ。

龍介は苺の頭を撫でて、笑いかけた。


「大丈夫だよ。俺たちは味方だから。」


そしてノートと鉛筆を構えている苺の前後の子と、横の子を見た。


「君達はどうなの?」


「えっ?!」


「苺の味方なの?それとも、落合達の味方なの?」


すると、途端に暗い顔になり、声を潜め、後ろの席の男の子が言った。


「落合は俺たちも嫌いです…。馬鹿だし、授業妨害するし、ローテーションみたいに虐めるターゲット探して、みんな次は自分じゃないかって、怖いです…。でも…。」


「でも?」


「刃向かったり、庇ったりしたら、今度は俺たちがターゲットにされます…。」


「だから黙って見てんのか。」


苺の周りの子達は俯いた。

話していた子だけでなく、周りの子全てが、罪悪感を感じている様だった。


「俺は虐めてる奴も嫌いだが、黙って見てる奴も嫌いだ。」


龍介が厳しい口調のきつい目で言うと、もう泣きそうになっている。

集団の中で、上手くやって行く術なのだろうが、龍介はそれが許せない。

とはいえ、彼らも苺同様、弱い立場なのかもしれない。


「お兄さん、ごめんなさい…。苺ちゃん、私の事、落合から庇ってくれたから、ターゲットにされちゃったんです…。」


苺の隣の席の女の子が言った。


「そっか…。苺、偉かったな。」


龍介は苺の頭を撫でつつ、周りの子に言った。


「お前らも落合が嫌なら、あいつを大人しくさせた方が良くねえか。」


さっき、話してくれた男の子の目が輝いた。


「伝説の男の計画ならついていきます!」


「よし。では、これを落合に渡せ。興味をそそる様に。馬鹿を上手く乗せて、行く様に仕向ける。いい?」


龍介は出る直前に書いた物をその子に渡した。


「はい!」




授業中、見ていると、龍介が居るので、最初は大人しくしていた様だが、矢張り、騒ぎ出したり、横の子にちょっかいを出したりして、落合はずっと怒られ、とうとう廊下に出された。

その間、落合の仲間以外の子を見ていると、皆、迷惑そうであり、馬鹿にした顔で見ている子も居た。

だが、それを、落合の仲間が逐一チェックしている様だ。

後で落合に報告し、難癖つけて、虐めるのだろう。


ー腐ってんなあ…。ツー事は、あれだな…。全員で懲らしめるってのはありだな…。でも、直前で怖くなって、裏切る可能性もあるか…。となると、全員に話持ち掛けんのは危険だな…。


休み時間になると、さっき龍介が紙を頼んだ少年、大矢は、早速落合の所へ行き、紙を渡した。


この紙には、龍介達の秘密基地へ行く地図が書いてあり、秘密基地の中に赤いばつ印が付けてある。


「これさ、さっき学校来る途中で拾ったんだ。なんかここにありそうなんだけど、怖いからどうしようかと思ってさ…。」


「へえ…。どこにあんの?」


「ほら、この赤いばつ印の所。宝の地図とかでよくあるじゃん。」


「ああ、そっか。ふーん。お前、怖いんだ。」


「だから、落合君、行ってみてよ。中学生だって泣かしたんだろ?」


「まあな。しょうがねえな。行ってやるよ。でも、宝物があったって、お前にはやらねえからな。」


「う、うん。」





大矢はコソコソと戻って来て、サインだの握手だのと集られている龍介に報告した。


「上手く乗せられました。」


「よーし。よくやった。」


「あの…。俺も入れて下さい。」


すると、苺に庇って貰ったという子も言った。


「私も…。」


真剣な様子で、他にも手を挙げた子が何人も居る。

落合達は、遠巻きに龍介達を見ている。

つまり、ここで龍介側につくというのは、既に落合達を敵に回したという事になる。


「いいんだな?落合に反旗を翻す事になるんだぞ?」


「はい。」


「よし。では放課後、1回家に帰って、苺の家に行くと、ちゃんと親御さんに言ってから、うちに来なさい。

で、君たち。」


「はい。」


「苺の事はお願いしていいかな?」


龍介がニヤリと笑って聞くと、子供達は胸を張って、頼もしく、はいと言ってくれた。


「苺、じゃあ、にいに、帰って大丈夫だな?」


「うん。ありがと。にいに。」


苺の顔も明るくなったので、龍介はひとまず安心しつつ、早速物資調達をしながら家に帰った。










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