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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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其々の重圧

龍介は、竜朗に言われたので、学校の帰りに、悟を誘い、亀一以外のXファイル班のメンバーを連れて、朱雀の家に行った。


「あのー…。柏木さんから是非にっていう話だったんだけど、本当に朱雀の本心なのか…?」


朱雀は震えていた。

そして、真っ赤な目をして、目に涙をいっぱいに溜めて、叫ぶように答えた。


「ほ、本心だよ!宜しくお願いしますううう!」


しかし、言い終えて泣き崩れる。


「朱雀…。無理すんなよ…。お前の性格はよく分かってるし、向いてな…。」


龍介が宥めようとしたが、朱雀はガバッと顔を上げ、必死という表現が1番近い状態で、訴えた。


「だって、僕死にたくない!悟だって頑張るって言うし、僕も何かやらないとおお!」


そして、わああーっと泣いて、龍介の膝に突っ伏した。


「あのなあ…。そんな無理してやったって、却って足手まといなんだよ。気持ちは分かるが、あの調子でぎゃあぎゃあピーピーやられたら、俺がお前絞め殺したくなるから、止めといてくれ。」


「それは駄目ええええー!龍に殺される前に、パパに殺されるううううー!!!」


「んじゃ1回殺されろよ〜。知らねえよ、お前ら親子の話し合いが上手く行かねえのなんか〜。」


龍介は珍しくほとほと嫌になっていた。

悟が著しい成長を遂げたせいか、朱雀の成長の無さが余計イライラさせたし、高3にもなって、まだ、


「龍〜!!」


と泣きついて来るのかと思うと、情けなくもあった。

だから、柏木はXファイルに是非と思ったのだろうが、無理に入れた所で、この性格が直るわけで無し、正直いい迷惑だった。


「大体だなあ。お前はいい年して、いつまでそうやって、女の腐ったのみてえな事言ってんだよ。

何でかんでも人任せ。何かっつっちゃあ、直ぐ俺に泣きつく。

ここに居る女性たちの方が、そういう意味ではよっぽど男らしくて、勇気があるぜ。

はっきり言う。

そのままじゃ、Xファイルに入れる訳には行かない。

それなりに危険な事も多々ある仕事だ。

何でも人任せの、勇気も責任感の欠片も無え奴入れたら、他のメンバーの安全が確保出来なくなる。

遊びでこの仕事やってる訳じゃねえんだよ。

お前には無理。

柏木さんには俺から断る。」


それだけ言って、朱雀の家を出てしまった。

帰り道、寅彦が驚いた様子で言う。


「龍にしちゃ珍しいな、朱雀にあんな言い方。」


「そうね。柏木君には、女の子達がやきもち妬くくらい優しかったというか、甘かったのに。」


瑠璃も言うと、意外な事に悟が言った。


「朱雀は、あの状態見てないってのもあるかもしれないけど、覚悟が無さ過ぎるよ。

死にたくない、パパが怒るからってだけで、その為に自分はどう動けばいいのかなんて全然考えてない。

Xファイルの仕事内容は、寅彦師匠から聞いただけだけど、この精鋭チームでは、せめて自分の身は自分で守れなきゃ足手まといだし、加納の言う通り、みんなを危険に晒す。

加納の判断は正しいと思うけどな。」


龍介が驚いた顔をしつつも、少し嬉しそうに言った。


「だからお前、俺に護身術とか、射撃とか教えてくれって言い出したのか。」


悟がそう言うので、龍介は自分の訓練も兼ねて、悟に教え始めていた。

足が速いだけでなく、運動神経そのものがいいらしく、飲み込みは少々遅いが、悟の筋は悪くなかった。


「うん。」


鸞も感心した様子で言う。


「それは素晴らしいわ。佐々木君。本当に変わったのね。あの佐々木君が嘘みたい。

でも、朱雀君に関しては、私も龍介君と佐々木君に同意見よ。

それに、佐々木君の成長が著しい分、幼馴染の龍介君としては、余計に朱雀君が情けなく見えてしまったのかもしれないわね。」


「ーそうなんだ…。今までは別に『龍、助けて。』で良かったんだ。でも、未来を変えるって覚悟も無えのに、ただ不安だからって、幼馴染のよしみで入れてくれってのは…。ちょっとがっかりしちゃってさ…。」


「僕もがっかりだから、よく分かるよ。加納。」


悟が言うと、龍介は苦笑しながら、悟の肩に手を置いた。


「佐々木が理解者ってのも不思議な気がするけど、ありがと。」


瑠璃は納得した様だが、珍しく寅彦が食い下がった。


「けどアイツ、腹くくったら凄えんじゃねえの?あの怒った時の人の変わり様から行くとさ…。」


「寅。だからって、常に、オカマって言って、怒らせとく訳には行かねえだろ?」


「まあ、そうなんだけど…。うーん、そうだな…。まあ、俺はどっちでもいいし、人手は足りてるしな。」





帰宅後、竜朗に報告すると、竜朗はうんうんと言って聞いた後、少し笑って、龍介を見つめた。


「うん。龍の判断は正しいな。全く龍の言う通りだ。落ち度は一つもねえ。」


だが何か言いたそうに見えた。


「ー爺ちゃん…。俺は朱雀を受け入れて、育てるべきだったのか?」


「ははは。育てろとは言わねえさ。ただ、1回連れてって、朱雀にこれ位の覚悟も無えなら入れねえぞって言っても遅くはねえかなと思っただけ。」


「でも、爺ちゃん。俺はグランパから指揮任されてる。他の奴らの安全は確保しなきゃなんねえじゃん。」


「うん。そうだよ。だから龍は正しいって言ってる。これが軍隊やうちみてえな組織ならな。」


「ーん?」


「朱雀はそんな頭の悪い子かい?龍。」


「ーいや…。」


「多分、想像を絶する覚悟を背負って、未来を変えるって責任を、朱雀は押しつぶされそうな位分かってんじゃねえのかね。

みんな押しつぶされそうだと思う。

だから、しずかちゃんや優子ちゃん、達也は訓練に勤しみ、龍太郎や和臣は家に余計帰って来なくなり、亀一は、赤ちゃん居るのに、休みや放課後返上して蔵に行ってる。

寅は今まで以上に腕を磨きつつ、悟に教えて、悟は必死になってそれについて行って、射撃や格闘まで頑張ってる。

みんなそうやってんのは、動いてねえと、潰されそうに重てえ事だからだ。

龍だってそうだろう。

剣道も射撃訓練も相当やってるよな。

急いで日本を守れる男になろうとしてる。

だけど、そういう不安を、行動に昇華出来ねえ奴も居る。

朱雀は頭じゃ分かってんじゃねえのかね。

ただ、それを行動で昇華出来ねえから、龍に頼って泣いちまうんじゃねえかなとね。」


「………。」


「柏木には明日俺から言っておくよ。」


龍介は暫く考えていたが、竜朗が縁側から部屋に戻ろうとしたところで呼び止めた。


「爺ちゃん、待って。明日もう一回朱雀と話してみる。

俺…、ちょっと焦ってて、ちゃんと見て判断出来てなかったのかもしれない…。」


竜朗は嬉しそうに笑い、龍介の頭を撫でて、何も言わずに部屋に入って行った。




「昨日はごめん。ちゃんと話に来た。」


翌日、龍介は1人で朱雀の家を訪ねた。


「龍…。」


「朱雀、どう考えて、Xファイル入りたいって言い出したのか、ちゃんと聞かせてくれ。」


「僕ね…。パパから龍達が見て来た未来の話を聞いて、本当に落ち込んだ。怖くて、悲しくて、みんなが可哀想で。

それに、僕の事一つも出て来なかったろ?

多分、一般庶民してて、訳がわからない内に、原爆にやられて死んだんだと思う。

死ぬのは嫌だ。

でも、僕は何もしないで死んだ。

そんなのもっと嫌だと思った。

せめて、何か…。どうせ死ぬにしても、ずっとお世話になり続けてた龍の役に立ってからって思ったんだ。

僕は狙撃には自信がある。

だったら、それで龍や頑張るみんなを助けられないかと思って…。

でも、そういう覚悟、いざとなったら、信じられない位重くて、どうしようもなくなっちゃって、龍の顔見たら、また泣いちゃったんだ…。

ごめんなさい…。」


「そうだったのか…。やっぱ、爺ちゃんの言う通りだったな…。」


「ん?」


「ああ、いや…。俺こそ、そういう気持ちに気付かなくてごめんな。

じゃあ、取り敢えず、1回来てみるか。

それで騒いだら、落として、もう今後は無しにするけど、それでどうだ?」


「はい。それでいいです。遠慮なく落として下さい。」


「いや、遠慮した事は無い。」


「そ、そうだね…。」


「うん…。あのさ、朱雀。」


「ん?」


「俺だって無性に不安になる事や、重圧に耐えられなくなる時はある。」


「うん…。そうだよね…。」


なんと言っても、龍介は、未来の龍介に名指しで頼まれて来たのだ。

いくら夏目が一緒に背負ってくれるにしても、余りに重い重圧だろう。


「そういう時は動いちまうんだよ。訓練てのは、いくらやったって、無駄って事は無い。そうすると、少し安心できる。今度やってみな。」


「はい。」





という訳で、Xファイルに朱雀もお試しで入る事が決まった。



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