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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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悲しい未来

大人の龍介は、ここでは、そこそこの地位なのか、他の4人に指示を出すと、ここまで乗って来たらしいジープに5人を乗せて、走らせながら話を始めた。


「先ず、俺。聞いていきなり泣くなよ?」


「ーて事は…。爺ちゃんが死んだ?」


「そう。殺されたんだ。奴らに。」


龍介は泣きはしなかったが、絶句してしまった。


「お前らが居る時代には、爺ちゃんの暗殺までは、想定外だった。安藤達は、爺ちゃんの求心力と、権限が奪えさえすればいいという感じの動きだったからな。

しかし、その後、安藤は強引に日米安保法の改正に踏み切り、その後、憲法9条の改正まで通しちまった。

国民が反対の声をあげだして、支持率も漸く下がり、爺ちゃん達が報道規制を取っ払い始めたら、閣僚や民事党議員のスキャンダルが出始めて、大人しくなって来たと思ったら、ある日突然、爺ちゃんと、父さん、和臣おじさんを暗殺したんだ。」


「うちの親父も、龍の親父まで!?宇宙開発どうする気だったんだよ!」


「自分達が集めた言うなりになる科学者でなんとかなると思ったらしい。しかし、なんともならん。

その上、ISISに呼応する国も出だして、ISISは一大国家になっちまった。

中国はアジア圏の乗っ取りに入り、アメリカなどのG7、中国、ロシア、ISISの四つ巴の戦争に突入した。

日本は憲法9条の改正と、安保の改正で、当然、戦争に参加。

武器も兵器も大量に出した。

つまり、中国、ロシア、ISIS、全てが敵になった。

そして本土に攻撃を受ける様になった。

でも、父さん達は居ない。

科学力で守る事も出来ない。

軍事力も、びっくり箱の父さんが居なけりゃ、大した事は無い上、自衛隊だけじゃ、絶対的に人も物資も少なすぎる。

日本軍が創設され、俺たちは大学を中退して軍人になったが、残った地域を守るのだけで手一杯だ。

きいっちゃんは、父さん達の代わりに蔵に入って、父さん達の研究の続行を開始した。

その内、東京と大阪が集中的に攻撃を受けて、火の海となり、日本全国が焦土と化した。

京都を除いてね。

だから、 安藤達は京都に政府を置いた。絶対に攻撃されないって思ったからだ。」


「そんな状態にしちまったのに、安藤は未だ総理だったのかよ、俺。」


なんだか変な感じだが、17歳の龍介が大人の龍介に聞いた。


「選挙なんか出来る状態じゃなかったんだ。国会議員の半数以上が戦火で死んじまって、国会も成り立たない。

もう国家としての体裁もなくなって、日本は日本じゃなくなってた。だけど、名目上は、安藤が日本の代表だ。

それに、こんなにしたんだから、お前が責任取れって風潮にもなってた。

まあ、もうこんな状況下でなり手が無かったと言った方がいいのかもな。

そんな訳で、安藤の手も回り切らないし、逆に協力を求めて来たんで、爺ちゃん達の事を考えると、その場で絞め殺したかったが、安藤にはそのまま総理をやらせて、蔵も全て明るみにして、海保や警察も纏め、俺たちは日本軍を統括する事にした。

で、その日本軍の初代トップは、京極さん。」


「ーえ?うちのお父さん?」


「そう。うちのお父さんと一緒にね。今は夏目さんが引き継いでる。そして、京極さんとお父さんは、早々に夏目さんに任せて引退しちゃって、またスパイに戻ってるよ。」


「あああ…。そうなんだ…。早々に引退してよかったわ…。長引くととんだご迷惑をおかけしそうだもの…。」


鸞の感想に少しだけ笑いが起きた。

ちょっとほっとする。


「そして生き残った日本人の多くは、京都に流れようとした。でも、元々が狭い所だし、そんな人数は住めない。

きいっちゃんが、日本全土を覆うバリアの様な物の開発にかかった所に、大きな事件が起きた。」


大人の龍介は、ジープを停め、天井から潜水艦の水中スコープの様な物に手を掛け、引き下ろすと言った。


「ここから外の様子が見える。絶対に出られねえけどな。」


龍介から順番に覗き見た。

そこに林は無かった。

木もなくなり、なんとか生えている木も、途中から何かで焼き尽くされたかの様に上部が無くなっていた。

そこはまさに荒涼とした、寒々しい風景だった。

鳥や虫も居ない。

生き物と呼べる物は、草木を含め、一切居ない、無機質な世界が広がっていた。


全員が見終えると、大人の龍介は、亀一に聞いた。


「何が起きたか、分かるか?きいっちゃん。」


「核か…?」


「その通り。流石きいっちゃんだな。核が落とされた。中国でも、ロシアでも無い。

中国に頭来たインドが制止も振り切り、ありったけの核爆弾を中国とロシアに向けて放った。

ところが、誤作動でその内の4発が日本本州に落ちた。上手い具合に、東北、関東、中部とね。

威力は、長崎、広島に落とされた物の10倍。

放射能は日本、ロシア、中国、韓国、北朝鮮、一部のアジアの空を覆い、この地域は外に出られなくなった。

日本で生き残ってんのは、ここに居る日本軍の俺たちだけだ。」


「じゃあ、安藤も死んだんだね…。」


悟が聞くと、頷き、悟の頭を撫でて言った。


「佐々木のお父さんは蔵の中に居たから、ご存命だ。会うか?」


「はい。」


「じゃあ、道なりに連れて行くから、順番で。」




大人の龍介は、亀一の所に連れて行った。

びっくりする位、渋みのある、いい男になっている。


「な?きいっちゃんもいい男になってただろ?」


「はあ、良かった…。ところで、俺。」


「なんだ、ガキの俺。」


「ガキじゃねえ。」


「ガキだろうが。のこのこと興味本意でこんな所来るわ、ガキの時から龍に尻拭いばっかさせるわ。

過去に戻ってやり直せるなら、やり直してえぞ。」


自分に言われ、珍しく亀一も二の句が継げない。


「あ、あのさ…。しお…。」


亀一が1番に気になっていたのは、やはり、妻と子供の安否だったが、聞く前に分かった。

大人っぽく美しくなった栞が、嬉しそうに駆け寄って来たからだ。


「うわあ!若いきいっちゃんだ。可愛い。」


「可愛いとか言うな!景虎は?」


「あそこ。苺ちゃんと蜜柑ちゃんの手伝いしてるんだか、邪魔してるんだかって感じよ。」


栞の指差す方を見ると、大人になった苺と蜜柑が研究している横で、大きくなった景虎が何かやっては、苺に突っ込みを入れられていた。


「あ!にいにだあ!ついに来たあ!」


蜜柑が気付き、自分より年上になっている双子に、囲まれ、


「にいに!にいに!」


と言われる龍介の複雑さ。


「ちゃんとした研究してんのか?」


「してるよ!私は宇宙開発。蜜柑は地球を元に戻す方法を探してる。」


「おとたんがね、放射能除去装置の原型みたいなのの設計図残してくれてたんだ。だからそれを完成させんの!」


「そっか…。ありがとう…。」


苺が心配そうに龍介を見上げた。

蜜柑は160近くまで、背は伸びた様だが、苺は龍介の心配が的中してしまったのか、しずかよりも低い背丈で止まってしまった様だ。


「にいに、元気出して。」


「うん。大丈夫。こうなんないようにどうすりゃいいのか、ちゃんと考えるよ。」


亀一の方は、大人の亀一に話し掛けていた。


「俺は何をしておるんだ。」


「全部の開発だよ。お前に残って貰って、手伝って欲しい位だぜ。」


「可能ならそうしてやりたいけどな…。」


「まあ、こうなんねえように、大人になって頑張れ、俺。」


大人になっての所に、妙な力が入っている辺り、大人の亀一は、余程、少年の頃の亀一を恥じているらしい。


「はい…。」


大人の龍介が、肩を落とす亀一の頭を撫でて言った。


「まあ、蔵はこんな感じだ。

陸自の研究所とも全部続いてる。他の部分は畑とか資材を作る工場。

幸い、アメリカの支援で、どうにか資材やら食料やらは、落としてってくれるから、なんとかなってる。

寅。」


急に声を掛けられ、慌てて返事をすると、龍介は笑った。


「寅は鸞ちゃんと子供達連れて、フランス任務だったから、ちゃんと生きてるよ。お父さんと仕事してるから、今イギリスとアメリカを行ったり来たりだけど、ちゃんと家族揃って無事だ。」


「ああ…。良かった…。って、子供達?達って何?」


「まあ、それはお楽しみに取っておけよ。では情報官部屋に行こうか。」


「あ…。瑠璃?」


「そうだ。見て鼻血出すなよ、若い俺。」


「鼻血ってなんじゃい…。」


「ああ、まだ開花してねえんだっけ。こっちだ。」




鼻血の意味は、龍介以外の普通の少年には分かった。

胸は大きいし、綺麗になってるし、なんだか色っぽいし、ものすごい瑠璃になっている。


「わあ!純真無垢だった龍だわ!ドスケベじゃない龍!」


大人の龍介が瑠璃の頬を突いた。


「誰がドスケベだ。」


「だって、ドスケベじゃなーい。」


「カミサンだけにドスケベで何が悪いんだよ。」


「うふふ。そうね。」


瑠璃は17歳の龍介を見上げて微笑んだ。

だが、なんだか寂しそうな悲しそうな目が、とても気になった。


「この俺は幸せにしてねえの?」


大人の龍介を指差して言うと、瑠璃は笑って、首を横に振った。


「とっても大事にしてくれて、幸せにしてくれてるわ。」


「本とに?」


「本とよ。龍、大変だろうけど、この未来を変えて。あなたなら出来るわ。」


大人の龍介も寂しそうで、辛そうな目になっている。


ーでも、なんかあったんだ…。


龍介は心して返事をした。


「ーはい…。」


情報官の部屋には加来も居た。

寅彦との会話が終わり、大人の龍介に言われ、部屋を出ると、大人の龍介はわざとなのか、敢えて淡々と言った。


「俺たちの子供は死んじまった。」


瑠璃の目の理由は分かったが、ショックだった。

龍介が何も言わず、泣きそうな目で大人の龍介を見ると、龍介は困った様な顔で笑って、龍介の頭を撫でた。


「瑠璃は核が落ちる直前、外に居た。一緒に居た数人とここに戻って、被曝は逃れたが、その時のショックで、流産しちまって、もう2度と子供が産めねえ身体になっちまった。」


「それで…。」


「惚れた女のああいう目はしんどいぜ。」


大人の龍介は全てを掻き消す様に微笑むと、不意にニヤリと笑った。


「じゃ、次行くぞ。」


「次って、まさか…。」


亀一の顔色が悪くなり、察した寅彦の顔色も急降下し出した。

すると、大人の龍介は、面白そうに更に笑った。


「超〜お楽しみの、夏目総理兼元帥の所だよ。」


「や、やっぱり!」


亀一が言い、2人は後ずさったが、大人の龍介に腕を掴まれ、ジープに放り投げられる様に乗せられ、強引に連れて行かれてしまった。




大人の龍介がノックをすると、聞き慣れたドスの効いたダミ声で、「入れ」と聞こえた。


「失礼します。」


恐る恐る大人の龍介について入った龍介達は、デスクでタバコを吸っていた夏目を見て、言葉を失った。

相変わらず、いや、もっとカッコ良くなっているが、驚いたのは、それでは無い。

夏目は龍介よりも、7才年上だから、まだ34歳の筈だ。

その夏目の髪が、丸で、銀色に染めたかの様に、真っ白になってしまっていたからだ。


「驚いてんな。これか。」


夏目は自分の髪を引っ張り、笑った。


「まあ、どうしてこうなったかは、後で大人の龍介に聞け。

大人の長岡の話では、未来に行って、何かすんのはマズイが、過去から来た人間が、未来から戻って、なんかすんのは問題無えらしい。

そこでお前らに命令する。」


いきなり命令と来たが、これが夏目だから、大して驚かない。


「加納先生、加納龍太郎、長岡の親父。この3人、絶対死なすな。

戻ったら、俺にも言っておけ。

そして、安藤を早い所、総理の座から引きずり下ろせ。

9条改正させんな。」


それが、途方も無く難しい命令なのは、よく分かっていた。

だが、龍介達は力強く、「はい」と返事をした。

恐らく、夏目のこの白髪も、信じられない位、辛い出来事を経験したからだろうというのは、少年の龍介達にも、容易に察しがついた。

こんな世界に絶対にしてはならない。

夏目にした返事は、そのまま、誓いでもあった。




大人の龍介は、夏目の部屋を出ると、今度はまた違う研究所の様な、工場の様な所に連れて行った。


そこには悟の父が居て、ありとあらゆる車両を作っていた。

悟の父は、悟を見ると、泣いてしまった。

この世界で死んでしまった我が子と、今、目の前に居る我が子を重ね合わせてしまい、家族全員を亡くし、ずっと1人でここで奮闘して来た苦労や辛さが、一気に出てしまったのかもしれない。


「お父さん…。こんな事にならないよう、頑張るからね…。」


「うん…。うん…。でも、無理するなよ?な?」


2人のやり取りを見ていて、龍介達も涙が出そうになっていた。

悟の父がやっと手を離し、別れが終わると、大人の龍介は、タイムマシンの着いた場所にジープを走らせながら話し始めた。


「夏目さんは、美雨ちゃんを原爆で亡くした。親父さんも一緒にな。

防護服着て、俺も一緒に行って、美雨ちゃんと、親父さんを探した。

核が落ちたのは本当に前触れも無く、突然だったからあの親父さんといえども、どうする事も出来なかったんだろう。

元夏目さんちの瓦礫の下に、真っ黒焦げになって、親父さんが美雨ちゃんに覆い被さって守ってた。

美雨ちゃんは亡くなってたけど、親父さんのお陰で、顔は綺麗なままだったよ…。

夏目さんは何にも言わなかった。

ショック過ぎて、涙も出なかったんだと思う。

ずっと2人の遺体を抱いて、そこに居た。

その日1日で、夏目さんの髪は真っ白になっちまったんだ。一晩でな…。

夏目さんが泣いたのは、それから3日後の事だった。

悲しいっていうより、怒ってたに近いかもしれない。

元帥室でガラスが割れる音がして、行ったら、夏目さんが酒ビン投げつけて泣いてた。

悔しい、なんでこうなった、なんで何にもしてねえ美雨や普通の国民があんな無残な死に方しなきゃならねえんだって…。

俺も、心からそう思った。」


話が終わると同時に、ジープはタイムマシンの横に着いた。

全員が暗い顔のまま、何も言えずに乗り込むと、大人の龍介は、目を真っ赤にして、泣くのを耐えている全員の頭を、揉みくちゃに撫でて、笑った。


「しけたツラしてんじゃねえ!お前らにかかってんだ!頼んだぜ!?」


龍介は、大人になっても変わらず、悲しみを押し殺して、人を励ますキャラらしい。

17歳の龍介も精一杯の強がりで笑って答えた。


「任せとけ。爺ちゃん達は死なせない。瑠璃もあんな目にさせない。夏目さんも白髪にしねえよ。」


「よし。頼りにしてるぜ。俺。」


「ー辛い思いさせてごめん、俺…。」


大人の龍介は微笑むと、タイムマシンから離れた。


「早く行け。俺は仕事が山積みなんだ。こう見えても、空軍大将だからな。」


亀一達も精一杯微笑んだが、泣き笑いの様な顔になってしまった。

そして大人の龍介に手を振りながら消えた。










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