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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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お付き合いに支障がある2人

冬休みの間に、首相が安藤になった。

学校が始まり、行きの電車でネットニュースを見ながら、亀一が責め立てる様に龍介に言った。


「安藤って、俺達拉致った双葉の会長の教え子なんだろ?なんでそんな危ねえ奴が首相になっちまうんだよ。」


「何故、俺を責めるんだ、きいっちゃん…。」


「加納先生が排除してくれると思ってたから!」


「それは、上手く行かなかったらしい。

そもそも教え子って言っても、飽くまで、安保改正、憲法9条の破棄って思想を勉強する会の方に属してたんであって、例の拉致とか、国家転覆に関しては、ノータッチだった。

スキャンダルにして潰そうとしたけど、安藤側に先手打たれて、身動き取れなくなったらしい。」


「加納先生でもダメな事もあんのか…。」


「あるらしいな。俺もびっくりしたが。」


寅彦が他のネットニュースを出しながら聞く。


「安藤政権になってから、偉い勢いで、中国が挑発して来てるのは?」


「それは、実は昔から。

ロシアが領空ギリギリに入って来てスクランブルになるのもそう。

今に始まった事じゃない。

わざと、公表するようになっただけの話。」


鸞が意味深に頷いた。


「布石って訳ね。

こんなに日本は驚異に晒されてます。

戦争放棄とか言って、アメリカにばっかり頼っていたら、中国にやられちゃいますよって、国民の不安を煽って、憲法9条と安保の改正に動こうと。」


「流石鸞ちゃん。そういう事です。」


龍介が褒めると、ニッと笑って、自慢気に言った。


「お父さんの受け売りよお。」


ファザコンは根深いらしく、寅彦の表情が曇っているが、龍介はそれには気付かず、屈託なく言った。


「俺もー。」


そして、お互いの父親自慢。

どよんとした寅彦に、瑠璃が気づく。


「どうしたの、加来君…。」


「鸞は何かというと、お父さん、お父さん…。1に組長。2に組長。3、4が無くて、5に組長…。」


「で、でも、お父さんと加来君は別でしょう?」


亀一もやっと気付き、一緒に慰めを試みる。


「そうだよ。次元が違う話だろ。彼氏と親父なんだし、その親父には加奈ちゃんという愛妻が…。」


「次元が違くても、結局お父さんが1番なの。

何かっちゃあ、『だってお父さんが言ってたもん。』『お父さんに聞いてみてからね。』と…。」


確かに、鸞は亀一達と話していても、瑠璃達女の子同士で話していても、二言目にはお父さんと言う。


「この間なんて…。」


更にドヨドヨが加速する寅彦。

聞きたくない気もするが、行き掛かり上、聞かねばなるまい。


「すんげえいい雰囲気になって、キスしていいって聞いたら、なんて言ったと思う?『お父さんに聞いてみるね。』ってチャットしようとすんだぜ!?」


流石に亀一も瑠璃も青ざめた。


「そ、それお前…。阻止したんだろうな…。」


「全力で阻止したよ!そんでもう、それっきりだあ!どんなにチャンスあったって、忍の一字だぜ!」


「可哀想に…。」


「本とね…。」


瑠璃とはまた別の苦労が、寅彦にもあるらしい。


「なあに?なんの話?寅。」


鸞の輝く様に美しい笑顔が、余計に寅彦を不憫にさせる。


「ーなんでもない…。」


そして、その横では、相変わらず煩悩を失ったままの龍介が、どんな女子でもイチコロになる爽やかな笑顔で瑠璃に言う。


「瑠璃も丹沢湖行きてえ?今度行く?」


恐らく、グランパか大叔父さん付きの、ポチ連れである。

遠出の不便な場所の時は、瑠璃が一緒だと、瑠璃を気遣ってか、龍介は車で連れて行ってくれる人を手配してくれてしまう。

竜朗は流石に遠慮してくれるのだが、それも、どちらかというと、真行寺に対してで、なるべく龍介と出掛ける機会は譲るというだけの話。

で、結局、グランパか大叔父さんとポチと4人で楽しく遊ぶ事になってしまう。

もはやデートのデの字も無い。


「う…うん…。行く…。」


亀一はそっと、憐れみのため息を吐いた。




その日の体育の時間、女子だけなので、瑠璃は剣道の授業が終わった後で、鸞に話し始めた。


「キスしていいって聞いたら、お父さんに聞いてみるって言われたって、加来君、凄い落ち込んでたよ?」


「えっ!?本と!?そうなんだ…。」


聞いていたまりも心の声が、間髪を容れず響き渡る。


「京極さん、お父さんに言っちゃったの!?」


心の声はダダ漏れなので、鸞は律儀に答える。


「言ってないわ。

寅が『俺の命が少しでも惜しいと思ってくれるなら、絶対聞くなあああ!』って、涙ぐんで必死に言うから。」


「そりゃそうよ…。加来君、可哀想だわ…。なんでお父さんに聞くなんて言っちゃったの?」


「だって、まだ早いんじゃないのかなあとか思ったし、取り立てて私、したいとも思わなかったから…。」


「そ、そうなんだ…。でも、お父さんに聞くはいかんのでは?まだ、したくないとか、嫌の方がマシなのでは?」


まりもも頷く。


「いや、無下に断ってもまずいのかなと思って、そういう意味でも、お父さんに聞きたかったんだけど…。」


まりもが珍しくマトモな事を言い始める。


「でも、それで断って、不機嫌になったりする様な男はやめた方がいいって言われてるよ?だから、加来君を見極めるチャンスなのよ。」


「あ、そっか。じゃあ、今度からそうするわ。」


でも、多分、寅彦は暫く聞かない気がするが。


「それと、何かにつけ、お父さんはやめた方がいいよ、鸞ちゃん。ただでさえ、加来君は京極さんには勝てっこないって思ってるんだから。」


「そりゃ、うちのお父さんよりかっこいい人なんて、世の中に居ないわよ。」


踏ん反り返る鸞を、呆れ顔で眺める女子陣。


「だから鸞ちゃん、それがまずいんだってえ…。」


龍介の失われし煩悩問題も深刻だが、鸞のファザコンもかなり深刻である。


「男の子とお付き合いしてると、色々面倒ね。長岡君はとんでもないスケベみたいだし、私、何事も無くて良かったわ。」


亀一のスケベは、学校で知らぬ者は居ない状態になってしまっている。

あれだけ人目も憚らず、栞とチューチューやっているのだから、それも当然の事と言えよう。

すずは無表情にそう言うと、まりもを見た。


「ねえ、相談してみたら?」


「ん?あ、ああ、アレ?」


「そう。アレ。」


「なあに?」


鸞が聞くと、まりもは言い辛そうに話し始めた。


「うちね、猫飼ってるの。キャサリンて言うんだけど。

その子がね、あのー、こんな事言うと、おかしな奴って思われそうなんだけど、ある日突然、子猫なっちゃって…。」


「ん?」


聞き返すと、更に困り果てながら説明する。


「私もよく分からないのよ…。

一晩経って、起きて、なんかミーミー言ってると思う方向を見たら、キャサリンが子猫になっちゃって、自分でもびっくりしてるのか、泣き叫んでるみたいになっちゃって…。

どうしちゃったんだか、もう…。」


すずが話を引き取る。


「で、不思議な事件でも解決しちゃうあなた達に相談してみればと言った訳よ。」


そういう事ならと、副組長である鸞が、腕組みしながら質問を開始。


「失礼だけど、本当にキャサリンちゃんなのね?他の猫という事は無い?」


「無いと思う。キャサリンの首輪してるし、キャサリンて呼ぶとこっち向くし、赤ちゃんて事以外はキャサリンそのままなの。」


「うーん、飼い主が言うんだから、間違いなさそうね。じゃあ、龍介組長に話通してみるわ。」


龍介と聞いて、矢張りまりもの心の声は爆走する。


「加納君!?。加納君とまた関われるのね!?もしかしてうち来るかな!?そうよね!キャサリン見ないと、捜査出来ないもんね!」


瑠璃は目を伏せ、更衣室を出ながら言った。


「そうね…。部屋でも片付けといて…。」


「うん!そうするね!」


まりもの目的は迷子になりつつあるが、こうして龍介の元にまた仕事が舞い込んだ。









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