しずかちゃん大活躍
鸞は、悟猫が書いた紙を手に。
瑠璃は悟猫を抱いて、加納家に走っていた。
すると、鸞の家から出た、通りに停めてあった黒い国産のバンから、黒いスーツを着た男達が降りて来た。
「嫌な感じね。人通りの多い所へ行きましょう。」
悟猫は訴えるように鳴いている。
「あの人達なの?」
激しく頷く悟猫。
「大変、鸞ちゃん、あの人達だって!」
「やっぱり!瑠璃ちゃん、こっちよ!」
鸞が大通りに出ようと、雑木林を突っ切ろうとした時だった。
男達は他にも居た様で、2人と1匹は男達に挟まれた。
鸞はドサクサに紛れて、悟猫が書いた紙を瑠璃に渡し、瑠璃はその紙を悟猫に咥えさせて、落とすフリをして放した。
悟猫にあの紙を託すつもりだったのだ。
ところが、猫になっても俊足の悟猫だったが、呆気なく男達に捕まってしまい、紙も奪われた。
悟猫はニャアニャア叫んで人を呼びつつ、引っ掻こうとしたが、男達は袋に悟猫を入れてしまった。
駅から離れている鸞の家の周辺には、他に家も無く、平日には通る人影も無い。
叫んでも誰も来てくれそうには無い。
「知られたら仕方ないな。京極鸞、唐沢瑠璃。来て貰おうか。」
鸞が大人しく連行されるフリをしながら、蹴りや肘鉄を入れようとしたが、難なくかわされた。
ープロだわ…。一体何者なの…。
「助けてー!!」
鸞と瑠璃がやけになって叫び出すと、直ぐにガムテープで口を塞がれた。
もう駄目かと思ったその時、黒の超かっこいい、ルノーRV7が急停車し、女性が男達に向かって、サイレンサー付きの銃で、車から降りながら撃ち出した。
しずかである。
しかし、男達は、鸞の思った通り、プロである。
倒れたのは、先制攻撃を受けた3人だけ。後の5人は応戦しながら、ジワジワと、鸞と瑠璃と袋に入った悟猫を、自分達の車の方へ連れて行っている。
しかし、しずかは怯まない。
その銃撃戦の中、片手に持っていた15センチ四方の鉄板の様な物をバンと広げ盾にした。
そして、丸で、男達が撃って来る弾丸の方向が分かっているかの様に、避けつつ、小さな盾の様な物を片手に真っ直ぐに歩きながら撃って来て、1人倒れ、2人倒れと倒して行き、とうとう、黒づくめのスーツの男達は、悟猫を持った男と、瑠璃と鸞を、其々盾にしている男の3人になった。
男達はしずかに向かって発砲しながら、行動を起こし始めた。
瑠璃を盾にしていたリーダー格の男が、悟猫を持っていた男に瑠璃を渡し、その男は瑠璃の鳩尾を殴って気絶させ、瑠璃を担いで走り出した。
しずかはそれを阻止しようと、突進しながら、鸞を盾にしている男の頭を撃ち、驚きの余り、一瞬動きが止まった男を撃って、瑠璃を担いだ男を追いかけた。
だが、瑠璃と悟猫は急発進して行く車に乗せられた後だった。
しかし走って追いかけるしずか。
何をしているんだろうと、鸞でも思ったが、小石の様な物を投げつけると、肩で息を切らせて戻って来た。
「鸞ちゃん、大丈夫?直ぐ応援を呼ぶからね。」
鸞のガムテープを丁寧に剥がし、鸞に付いてしまった射殺された男の血を拭いながら、電話するしずかの横顔からは血が流れている。
「おば様、怪我…。」
しずかは微笑んで、鸞の頭を撫でた。
「大した事無いわ。」
「でも、どうして…?」
「さっきイギリスから着いたら、龍と寅ちゃんが、鸞ちゃんと瑠璃ちゃんの様子がおかしい。こっち来るって言うから、心配だから迎えに行くって言ってたから、だったら私が買い物ついでに行くって出て来たの。
龍の事、うちの双子が離さないもんだから…。でも、ごめんね…。瑠璃ちゃんは…。」
電話の相手が出た様だ。
この状況を説明している。
相手は竜朗で、さっき犯人の車に投げつけた小石は、発信機らしい。
「直ぐに寅ちゃんと加来さんが追跡してくれるって。見た目、虫か小石にしか見えないし、反応もしないから、早々バレないとは思うんだけど、相手次第かな…。」
「相手次第?」
「あの発信機の事を知っている、つまり機密を知っている人間だと、バレてしまうって事。」
しずかは深刻な顔で、倒れている男達を見つめた。
頭を撃ち抜かれた男は即死だが、後のは半死半生でどうにか生きている様だ。
動けなくなる程度に急所は外したらしい。
ー凄い腕…。あの一体六の状況で…。うちのお父さんみたい…。
「公安チックな感じなのよね…。こいつら…。」
「公安て、こっち側じゃないの?」
「と思っていたけど、この間のマッドサイエンティストの一件、首相が黒幕だとしたら、公安も部分的には首相側でもおかしくないわ…。
ところで、どうして鸞ちゃんと瑠璃ちゃんが…。それにあの蠢めく袋はなんだったの?」
「そう!おば様!私達、それを龍介君に言いに…!」
鸞は説明しようとしながら、しずかの左手に握られたままの瑠璃の携帯を見ると、それを取り、1枚の写真を見せた。
「これなの!おば様!」
それは悟猫が書いた、悟猫が猫にされた経緯が書かれた紙を写した物だ。
瑠璃が念の為にと、出る間際に撮影していた。
しずかは目をかっぴらき、そして今度は物凄い勢いで携帯を遠くの方へやって、目を細めたり、またかっぴらいたりしている。
「お…おば様…?」
「ごめん…。老眼でよく見えん…。」
鸞に衝撃が走った。
この見た目どこからどう見ても、三十代前半のしずかが。
下手すると、子供より子供っぽく若々しいしずかが…。
ー老眼なのおおおお~!?
瑠璃が連れ去られたのも一瞬忘れる位の衝撃だった。




