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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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みんな変!

亀一の赤ちゃんが生まれて一月。

栞と赤ちゃんはとっくに戻って来てはいるが…。


「お前、なんの病気持ってるか分かんねえしな。」


「にゃあ!」


抗議する悟猫。

それに人間に戻った時に、亀一に赤ちゃんや奥さんがいるというのがバレても面倒だ。

亀一の家に連れて行くのは何れにせよ、得策では無い。


「龍、きいっちゃんとグランパ呼ぼうぜ。」


寅彦が言うと、龍介は唸った。


「大丈夫かな、きいっちゃん呼んで。コイツの病原菌、うちに持って帰ったりしねえかな…。」


「ああ、そっか…。」


「それにグランパも年だし、風邪気味だし、変な菌でもくっ付けられたら…。」


「だな。」


雲行きがどんどん悪くなる。

焦ってミーミー叫ぶ悟猫。


「なんか変な菌のせいで猫化してたら大変だぜ。」


「そんな事言ったら、俺たちや先生だってヤベエじゃん。」


「そうね。まあ、菌のせいというのは無いにしろ、なんか病気はありそうだしな。」


「そうだな。」


ぎゃあぎゃあ反論する悟猫だったが、日頃の龍介との仲が反映され、全く聞いて貰えない。


「やっぱ寅次郎さんの研究所持ってって、解剖でもして貰うか。」


「そうだな!」


竜朗が嬉々として返事をし、立ち上がった。

震え上がって泣く悟猫。


そこへ、瑠璃がやって来た。


「龍、昨日の猫…。」


「佐々木って判明した。原因も分かんねえし、変な病気持ってっと困るし、今日は母さん達がイギリス引き上げて帰って来るから、こんなの居たら困るから、寅次郎さんの研究所持ってって、解剖して貰おうかと。」


「解剖!?龍!佐々木君はどうしようもない人だけど、助けてあげないで、解剖だなんてどうしちゃったの!?」


瑠璃はなんだか、龍介の様子がおかしく思えた。

いつもの冷静な判断が丸で出来て居らず、目の前の厄介ごとを遠ざけようとしているだけに見える。


しかし、寅彦も竜朗も同じ様に、冷たい目で、龍介の意見を後押ししている。


ーなんか変だわ…。


瑠璃は龍介の目を覗き込む様にして見つめた。

見た事も無い様な、冷たい目をしている。


ーこれは違う…。いくら佐々木君が嫌いでも、ここまで冷たい目であしらった事は無いもの…。何かのせいで、みんなどうかしちゃったんだわ…。


瑠璃はそう判断すると、やおらゲージを持ち、加納家から飛び出した。


「瑠璃!何やってんだ!それ返せ!」


龍介が聞いた事も無い様な恐ろしい声で怒鳴った。

瑠璃は後ろを振り返らず、涙を堪えて、必死に走った。

そして、耳障りな鈴の音に気が付いた。

悟猫の首には、毛皮に埋もれて、鈴が付いている。

その音は、瑠璃にとっては、とても嫌な音域だった。

聞いているだけで、尚更不安になり、訳も分からず泣き出してしまいそうだ。

瑠璃は龍介が追って来ないのを確認すると、その鈴を外した。

ぎゅっと手の中で握ると、気分が落ち着いて来た。


ーこの鈴の音が原因で、龍達はあんな人が変わった様になっちゃったのかな…。


昨夜は気がつかなかったが、確かにこの悟猫に会った時、なんだか酷く憂鬱な気分になった。

そして龍介は、普段からすると、考えられない様な冷酷な人になっていた。


「佐々木君…。どうしてこんな事に?この鈴は何?」


「にゃーん…。にゃーん、にゃーん…。」


悟猫は、申し訳なさそうに俯いた。

説明している様だが、矢張り瑠璃にも分からない。


「兎に角、この鈴は鳴らさない様にして、あなたをなんとかしなくちゃ…。なんだか凄く危険な感じがするわ。」




瑠璃は、鸞の家に行って、事情を説明した。


「ーへーえ、これがあの小さくて、目が細くて、顔が大きい佐々木君が猫になった所なの…。猫になっても、可愛くないわねえ。」


「にゃああああ!」


悟猫が悲しげに、ショックだと言わんばかりに突っ伏した。


「まあ、それは兎も角。その鈴が精神状態に悪影響をもたらすなんて、確かに異常事態ね…。

この間のマッドサイエンティストの事件を思い出して、背筋が寒くなるわ。」


「でしょう?でも、事情を聞こうにも、この調子だから…。」


「ニャアニャア言われても分からないしね…。そうだわ。書けないかしら?」


鸞はシャープペンと紙を悟猫の前に置いた。


すると悟猫、シャープペンをなんとか持って、文字を書き始めた。


「こういう風にしてると、まあまあ可愛いわね。」


「鸞ちゃん、その言い様…。なんだかいくら佐々木君でもかわいそうになってくるわ…。」


「ところで、龍介君や寅はどうしてるのかしら?まだ冷たい目のまま冷血漢になってるのかな?」


「私は鈴の音を止めたら大丈夫になったんだけど、どうだろう…。ちょっとラインしてみようか。」


瑠璃は龍介にラインを入れた。


ー龍、元佐々木君な猫の事なんだけど、ちょっと分かった事があるの。


と。

ところが龍介の返事で瑠璃も鸞も驚いてしまった。


ーなんだあ?元佐々木な猫って。どうした、瑠璃。なんかあったのか?大丈夫?


「龍介君、全く覚えてないのね…。」


「これは益々怖いものだわ…。」


「そうね…。でも、どうして瑠璃ちゃんは大丈夫なのかしら?記憶もしっかりしてるし。」


「全然分からないわね…。矢張りここは長岡君に相談するしかないのかしら…。」


「きいっちゃん?休みの日ぐらいお父さんさせないと、栞さんとの仲が悪くなっちゃうわよ?」


「ああ、そっかあ…。」


龍介から再度、大丈夫かとラインが来た。


「龍、忘れてるけど、元に戻ってるわ…。どうしようかな…。」


「ニャア!」


悟猫の声に振り返ると、悟猫は事のあらましを書いていた。

しかし、それを読んだ瑠璃と鸞は額然として固まった。

あのマッドサイエンティスト並み、いや、もしかししたら、それ以上かもしれない恐ろしさを感じずには居れなかった。



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