爺ちゃんの悩み事
「お父さん、この間のミサイル事件のunknownは分かったの?」
ミサイル事件に関しては、マスコミやネットは勿論、寅彦と瑠璃が全精力を傾けても分からないままである。
竜朗に聞いても、言葉を濁すし、龍太郎は遅いだけでなく、殆ど帰宅しないようになってしまったから、龍太郎にも聞けない。
真行寺は知ってはいるのだろうが、複雑なんだと言ったきり黙ってしまう。
それで龍彦に聞いたのだが、龍彦は困った顔で笑い、まじまじと龍介を見た。
「大人全員に聞いて教えて貰えなかったからって、なんで俺に聞くんだよ。」
「お父さんなら教えてくれるかと。」
「なんで。」
「だってお父さん、俺と同じでバカ正直だから。」
「まぁねえ。」
龍彦は怒りもせずに笑うと、煙草を咥えて話し始めた。
「unknown自体は、中東の最近台頭してきた国を名乗ったテロ組織だ。
が、それを裏でけしかけた国がある。
それを今、俺達は探ってる訳なんだが、それ掴んだってだけでかなり危険。
という訳で、誰も教えてくれねえの。」
「ああ、なるほど。じゃ、そのけしかけた国があるってのは、宇宙開発絡みで?」
「と、もう一つは、そういった攻撃にどう対応してくるのかって、出方を見たんだろうな。」
「分かったのかな、クラリスシステム。」
「どうかな。あれは画像分析したって、精々ミサイル発射した側の誤作動にしか見えねえ。
クラリスシステムなんて、あの世界でも、荒唐無稽な話だった。
でもまぁ、全部の戦闘機と潜水艦のミサイルが誤作動ってのは、あり得ねえから、なんかあるとは思ってるって感じかな。」
「そうなんだ。」
「しかし、問題は、なんでアメリカとイギリスに並んで日本も標的にしたのかって事。」
「ー父さんが色々作ってるってばれた…?」
「あのバカがってのは微妙だが、日本は何かやってるんじゃねえかという疑惑は持たれてはいる。相変わらず、そういう細かいもん作らせたら群を抜いてるしな。」
「なるほど…。」
「龍介も気をつけなさいよ?」
「うん。分かってる。」
「イギリス来れば楽なものを。お前も楽じゃない道、楽じゃない道、選ぶ男だな。」
「お父さんの子だから。」
龍介はそう言って笑うと、労わる様に龍彦を見つめた。
龍彦も、何も考えず、出て来てしまえば良かったのに、1人で我慢して、龍介にも、しずかにも会わずに生きて来た。
「変なトコ似るもんだな。俺が育てた訳でも無えのにさ。」
「育てて貰ってるよ。」
「そうかなあ。」
「ーそうだ。爺ちゃんは結構大変なはずだ。怪しい国と腹の探り合いなんかもやってるからな。労ってあげて。」
「はい。」
その頃、本当は凄い人な筈の竜朗は自分の寝室でポチを見つめて、ため息を吐いていた。
ポチは龍介がイギリスに行ってしまうのが、相当寂しいらしい。
それはそうだろうとは思う。
龍介が帰宅すれば、ポチはずっと龍介と一緒に居るーというか、くっ付いている。
勉強している時も、テレビを見ている時も、竜朗と話している時も。
龍介の足にくっ付いているか、膝に乗っているかという感じ。
トイレや風呂に行ってしまうと、くうんくんと寂しげな声を出して、扉にビッタリくっ付いて待っており、出て来ると長の別れでもあったかの様な喜び様である。
そして寝る時も当然の様に、龍介のベットの上に乗って、冬場などは、腕枕をして貰って寝ているらしい。
もう当初の予定の番犬の意味は全く無いというのは、諦めるにしても、1番困るのは、龍介の留守中である。
昼間は、普段も龍介は居ないので、ポチの方も仕方がないと思っているのか、寝てばかりいるらしいが、問題は龍介が学校から帰宅する時間からである。
玄関でちょっとでも人の気配がすると、飛んで行き、龍介でないと、ガックリ。
可哀想になるほどの落胆ぶりで玄関に溜息(鼻息?)を吐いて、寝そべる。
散歩に連れて行けば、同じ年頃の少年を見かける度にダッシュで近付き、何事かという顔をされる。
そして、1番不安なのは夜らしく、龍介の部屋を何回か往復した後消える。
どこへ行ってしまったのかと思えば、竜朗が寝室に入ると、竜朗のベットの上のど真ん中で竜朗を待っている。
「ポチ、下降りなさい。」
言っても絶対退かない。
仕方がないのと、可哀想なのもあり、ポチをぐいぐい押して、隣に寝ると、ポチは暫く落ち着かない様子で、あっち向いたりこっち向いたりしている。
その間竜朗も落ち着かないので、寝られない。
そして、突然寝る。
しかも犬のくせに、仰向けになって、思い切り腹を出して、人間で言うなら大の字である。
いくら竜朗のベットがセミダブルでも、ポチは立派な大型犬だ。
あまりに邪魔で、何故か竜朗が小さくなって寝る羽目に。
その上、犬のくせにすごいいびき。
どっか悪いんじゃないかと医者に連れて行ったら、特に悪い所は無く、仰向けで寝るせいだろうと言われてしまった。
寄って竜朗は、今日も溜息を吐きながらポチと寝ている。
「龍、早く帰って来てくれえ…。」
双子が居なくなっても、龍介が居ないと、必ず何かで悩まされる事になる様だ。
世界を相手にしている極秘の国防長官の悩みは、案外小さい。




