殆ど兵器
「きいっちゃん?」
不安になりながら聞くと、亀一は青ざめた顔のまま答えた。
「これは殆ど兵器だ。
プログラミングの内容は、赤いリボンのカラスに柊木の事を覚えさせ、洗濯物を盗ませる、学校に行って、監視する、鞄を奪う。
で、もう1つ。
犯人が連れ去られたり、怪我をさせられたら、そうした相手と、警察の制服を着た人間、及び、パトカーを攻撃する様に仕向ける超音波の様な物を出してる。
つまり、カラス全てに効くから、赤いリボンのカラスじゃなくても、効いてるし、カラスを呼び寄せる効果まである…。」
龍介も深刻な顔になった。
「ー超音波って言ったな。どっから出てる。」
「今、寅が調べてくれてる…。龍、お前まさか…。」
「その超音波出してる装置、壊すしかねえだろ。
カラスに聞こえて、呼び寄せるって事は、屋外にあるはずだ。
俺が、超音波出してる装置壊してる間に、きいっちゃんは、カラスを元に戻す方法を探しておいてくれ。」
「おい!超音波出してる装置は、要だぞ!
カラスに超音波装置も守らせてる可能性が高い!
襲われたらどうするつもりだ!」
龍介は、その質問には答えず、寅彦に向き直った。
「寅、分かった?」
「分かったけど…。きいっちゃんの言ってんのが正しいかもしれない。
あのアパートの屋上。カラスの一群が居る所にあるっぽい…。」
「よし。行って来る。」
「龍!」
2人がかりで止めるが、龍介は銃の点検をして、行く準備に入ってしまった。
「きいっちゃんは仕事がある。俺が行く。」
寅彦も、龍太郎に渡された銃の点検をし出して言った。
「何を言ってるんだ!俺が行くから、君たちはここに待機!」
とうとう真行寺が2人の腕を掴んで叫ぶ様に言うと、龍介は真行寺を優しい目で見つめながらも、冷静に言った。
「グランパは、マスコミを下がらせて。
俺たちが銃使ってんのを見られたらマズイ。
それに、俺も無策で突入する訳じゃない。
大丈夫だから。」
「んな事は竜朗にやらせるから!」
「爺ちゃんが前に言ってた。
マスコミ規制も、爺ちゃんがやると、ちょっと時間と手間がかかるけど、グランパなら電話何本かで済むって。
爺ちゃんの方も、今は色々と忙しいだろ?
お願いします、グランパ。」
「龍介…。」
尚も心配そうな真行寺に笑いかけて、警察の方を見ながら言った。
「あとさ、バリケード持ってたら、貸して貰う算段付けてくれる?」
真行寺が渋々動き出し、龍介と寅彦は真行寺の車から、防弾ベストと、龍太郎特製の防弾ヘルメットというなかなか重い代物を被り、真行寺から警察のバリケードを借りられると連絡が入ったので、それを借り、屋上に登った。
カラスが一斉にこちらを見る。
「寅、自分の身を守る事だけ考えろ。」
「おい!」
「俺もそうするから。」
ニヤリと笑ってそう言う龍介は、絶対そうしないのを寅彦は知っている。
龍介はそう言いながら、寅彦を中に入れる様にして、バリケードを立てて一緒に中に入り、空を飛び交うテレビ局のヘリコプターを見ながら、真行寺からの連絡を待っていた。
「龍、作戦は?」
「寅はここから攻撃。俺がアレを破壊。」
アレという、超音波を発生している装置がある場所には、カラスがたむろしており、超音波発生装置の形すらよく分からない状態になっている。
「龍、あんたもこっから攻撃すんだろうな?」
「そうだな。」
どうも怪しい。
カラスは話している間にも増え続けている。
ここから2人で銃を撃ち続けたところで、埒があかない感じがした。
「本当だろうな?」
訝しがる寅彦に、龍介はいつもの優しげな笑みを見せるだけ。
空からヘリコプターが飛び去り、真行寺からメッセージが入った。
マスコミ撤退完了だ。
「よし、作戦開始だ。寅、適当に援護頼む。ただし、自分の身を守る事が最優先。」
「龍!」
止める間もなく、龍介はハンマーを左手に持ち、バリケードの中から発砲しながら飛び出した。
仕方なく、寅彦は背後から龍介に襲い掛かるカラスを撃ち始める。
しかし、撃って来る寅彦を、カラスがほおっておくはずもない。
カラスは手分けするかのように、龍介を攻撃する群れ、寅彦を攻撃する群れ、超音波発生器を覆う群れとに分かれ、超音波発生器を守っている。
龍介はカラスを撃ち、避けながら発生器をハンマーで叩き壊そうとするのだが、その度にカラスの攻撃を受けそうになり、それどころではなくなる。
寅彦もそれを助けようとするのだが、バリケードの無い上空から攻撃しようとするカラスを撃ちながらなので、ままならない。
龍介達は苦戦していた。
その頃、亀一は、パソコンのキーボードをガチャガチャ言わせて何かを必死に作っていた。
先ほど瑠璃に電話した件で頑張っている。
「プログラムを書き換えようと思う。先ず、この膨大なパスワードの解除なんだが、俺には出来ない。頼めるか?」
「やってみるわ。」
「じゃあ、その間に書き換えプログラム作ってるから。」
という訳で、プログラミング作業に入っていたのだった。
龍介は、間もなく父親になる亀一を危険な目に逢わせる事は絶対しない。
強引に行くと言っても、殴り合いの喧嘩をしてでも行かせないだろう。
渋々行かせた寅彦の事も、多分出来るだけ安全地帯に行かせ、1人で危険を被っている筈だ。
だったら…。
亀一は亀一の得意分野で、龍介をサポートするしかない。
ー龍、待ってろ…。すぐだからな…。
亀一はもう、警察官が襲われるとか、瑠璃達が家の中から出られないとかはどうでも良くなっていた。
ただ、龍介と寅彦を無事に助けたい、それしか頭になかった。




