一方、龍介達は
瑠璃がトイレで苦しんでいる頃、寅彦は、村田が言う2人組の特徴から、モンタージュを作っていた。
出来上がった写真を見て、龍介が首を傾げた。
「どっかで見た顔だな。」
亀一は情けなさそうな顔で、龍介を見る。
「お前、それは無えだろ。うちのクラスの渡部と板垣じゃねえかよ。」
「はあ…。」
そう言っても、全くピンと来ない様子に、寅彦は笑いだしている。
亀一は更に呆れ顔になって、幼い子に教えるような口調になった。
「ほらぁ。何かにつけ、嫌味ったらしい言い方してくるから、お前、頭来て『そんなに気に入らねえなら、相手になってやる。表出ろ。』っつったろ?
そしたら、途端に謝り出して、逃げたって、お前しばらく怒ってたじゃねえかよ。
お前のそのどうでもいい事すぐ忘れ去る性格は、ほんと羨ましいけどさあ。」
「あ…、ああ!思い出した!彼奴らな!
で!寅、彼奴らの住所は?」
「なんと都合のいい事に、ここから2区画先と3区画先だ。」
「よし、呼び出そう。」
という訳で、2人を呼び出す為、龍介が、先ず渡部に電話をかける。
「加納だ。」
「え?なんで俺の携帯番号…。」
「んな事はどうだっていい。てめえ、ちょっと話がある。今から出て来い。」
完全に喧嘩腰なので、当然渡部は怯んだ。
「な、何…。嫌だなぁ…。生徒会長自ら何の用だよ…。」
「身に覚えが無いとは言わせねぇぞ。
てめえが汚ねえ、卑怯なマネしやがるから、学校同士の大問題に発展しちまったんじゃねえか。
原因作ったてめえがオトシマエつけろ。
いいから早く、3丁目みどり公園に来い。」
亀一が龍介の制服の袖を引っ張り続けたが、怒りに燃える龍介のヤクザ口調は直る事なく、結局、亀一の予想通り、ヤクザ口調に恐れをなした渡部は、どもった早口の、上ずった声で龍介の言葉を遮るように言った。
「ご、ごめん!用があるんだ!また今度にして!」
そして切れた。
渡部から話が行ったのか、板倉に関しては、電話にすら出ない。
家にもかけたが、母親に居留守を使わせている。
龍介は、申し訳なさそうに、村田を見つめて、頭を下げた。
「な、なんだよ、どした。」
「ごめんな。
ほんと汚ねえ奴らで、引っ張り出す事も出来ない。
直接話して謝らせたかったんだが、申し訳ない。」
「い、いや、いいって、そんな。
あんたが謝る事じゃねえよ。
考えてみたらさ、俺も電車ん中でデッカい声で喋って、迷惑はかけてたしさ。」
「それはそうかもしれない。
でも、2人がかりで襲い、その上逃げたってのが俺は1番許せない。
確かにお前らは、うるさかったのかもしれない。
でも、だったら、直接その件に関して文句を言うべきであって、貶めるような事は言うべきじゃない。」
「オトシメルって何?オトシマエ?」
「い…?いや、んー、恥をかかせるって事かな。」
「ああ、成る程。うん…。そうだな…。でも、そうしてくれても、素直に聞けなかったかもな、俺。」
「お前もそういう所直せ。結局は、自分が損するだけだ。」
「うん。そうかもな。」
「渡部と板倉のオトシマエは、俺に任せてくれないか。
彼奴らが一番困る方法で、懲らしめとく。」
「分かった。あんたなら信用出来る。」
「でも、その代わり。」
龍介は少し笑って、村田を悪戯っぽい様な目で見つめた。
龍介本人は全く気付いていないが、龍介のこの表情はかなり魅惑的で、女の子なら、速攻で恋に落ちるし、男でも、ぐらっと来そうな顔である。
「な、何?」
「お前さん達も、車内や路上で他の人達の迷惑になるような行動は慎むように。無駄なトラブルの元だ。」
「うん。分かった。」
亀一達は、取り敢えずの一件落着にホッとしつつも、ある一点が気になって仕方がない。
龍介を見つめる村田の頬が赤くなっていたのだ。
目つきも、うっとりと表現してもいいような感じだし、駅に向かう今でも、なんだかやけに嬉しそうに龍介と話している。
「きいっちゃん、村田の奴さあ…。」
「寅よ、それ以上言わんでくれ。拓也だけで十分だというか、俺は未だに拓也が龍をというのが昇華出来てない。」
「そ、そうだよな。ごめん。でも、村田が龍にフォールインラブって、ややこしいなと思ってさ。」
「言えてんな。どうしたもんか。」
村田達と別れ、逆方向の電車に乗り込むと、龍介が不安そうな顔で言った。
「なんか胸騒ぎがすんだよな。瑠璃と鸞ちゃん、大丈夫かな。」
寅彦の眉間に皺が寄っている。
「実は俺も。全く報告が無えのが気になって、LINEだの電話だの入れてんだが、LINEは既読にならんし、電話も出ない。」
「んん…?それはいかん。あ、柊木に聞いてみよう。」
龍介がまりもに連絡をしようとすると、その手を寅彦が掴んだ。
「たった今既読になった。ん?」
いきなり、ムンクの叫びスタンプ。
そしてこう続く。
ー今、ストーカー犯の家で、ストーカーを誘拐未遂で警察に引き渡し、柊木さんは無事なんだけど、ストーカーの家で変な物見つけたの。それに、カラスの大群が家の周りに居て、出たら襲われそうな感じ。警察も、カラスを追い払おうとしたら、襲われちゃって、手出し出来ない。どうしよう。
一緒に読んだ龍介は、早口に指示を出した。
「鸞ちゃんに、そこ動くなって言え。ストーカーの詳しい住所を瑠璃に送らせて、速攻で向かう。」
寅彦が忙しなく連絡を取り始めた横で、亀一が不可解そうな顔をした。
「速攻って、このラッシュアワーにどうすんだ、龍。」
龍介は誰かにメッセージで連絡を取りながら、冷静な声で答えた。
「奥の手だ。一か八かだけどな。」




