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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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一体何がしたいのか

目安箱に投書をした菱川は、剣道部の前主将なので、龍介は菱川のメルアドなども聞いている。

早速メールで、帰りに自宅に寄って話を聞いていいかコンタクトを取ると、いいと言うので、龍介だけ別行動で、菱川の自宅に向かう。

瑠璃と寅彦は反対方向の電車なので、そこで別れたが、それで気が付いた。

龍介達とは反対方向の電車には、やたらガラの悪いバカそうな高校生が多い。

制服も原型を留めて居らず、本当はどんな制服なのかも分からない程、着崩してしまっている。

その一団が、龍介が乗ると、一斉にこちらを見た。

かろうじて揃いで持っているビニール製の鞄には、ローマ字で、横浜北と書いてある。


ーこいつらが横浜北高の奴らか…。横浜北高は、この駅の1つ手前にあるんだったな…。


龍介が1人でドア付近に立っていると、早速あからさまにこちら見て、バカにした様に笑ったりを始めた。


無視して本を読んでいると、5人位が龍介を囲む様に立って、電車の揺れに合わせて、足を踏んだ。

龍介が睨みつけると、一瞬怯えた様な目をしたが、直ぐに、


「あ、すいませ~ん。」


と、いやらしい、全くそうは思っていない口調で言うと、次々に埃だらけの汚いヨレヨレの靴で龍介の足を踏み出した。


「なんのマネだ。」


龍介が低い声で冷静に咎めると、へらへらと笑っている。


「電車の揺れだよ。」


「ああ、そうだな。」


言い終える間もなく、龍介は続けざまに思い切り5人の足を踏んだ。


「悪いな、こっちも揺れだ。」


5人がアクションを起こす前に、菱川の家のある駅に着き、龍介は降りたが、追っては来なかった。


ー喧嘩したいのか…?


訳が分からない。

この間壊した、電流の様なものの類いで攻撃的になっているのかとも思ったが、奴らの目はあの電流の影響下にある時の様な、行っちゃっている様な目つきではなかった。


そもそも、龍介達が知らない位だから、英学園と横浜北高との関わりは一切無いはずだ。

それが何故急に、喧嘩を売って来る様になったのか。

それに、龍介達はそんな事をされた事は無いという事は、仕掛けて来るのは、この方向の電車に乗っている人間だけという事になる。

しかし、瑠璃と鸞は、この電車とは別方向の電車なのにも関わらず、絡まれた。


ー時間帯か…。或いは、仕掛ける人間が増えて行ってるのか…。


龍介は、さっき絡んで来た奴らを隠し撮りした写真を寅彦と瑠璃に送りながら、菱川の家に向かった。


「悪いな、わざわざ。」


「いえ。こちらこそ、お忙しい時に申し訳ないです。」


「いや、俺は私大だから、もう終わってるし、あとは発表待つだけだから。」


菱川と挨拶の後、菱川らしい、シンプルで、無駄な物が一切無い、菱川の部屋に通され、話を聞く。


「1番初めは俺じゃなくて、角田だったんだ。

大体一緒に帰る事が多かったんだけど、その日は角田に用事があって、後から帰った。

丁度この時間かな。

そん時にわざとらしく足を踏んできたらしいんだ。」


「角田さん、お一人だった時という事ですね。」


「そう。2人以上でいる時は、ガンつけて来るだけで、1人だと、必ずやって来る。」


「それはこいつらですか。」


龍介はさっきの奴らの写真を見せた。


「ああ、こいつらも居るが、あいつら、組織でやってるんだ。全部の車両に5人づつ位の人数で乗って、待ち構えてる。」


「じゃあ、誰かをターゲットにしているとかでは無いんですね。」


「俺が見た感じ、無いな。

こっち方向の電車に乗る、全ての英の生徒がターゲットな気がする。

この間は、ええーっと…。

お前の学年の…、凄いうるせえ女の子と、無表情の女の子がナンパされそうになって、助けようとしたら、無表情の女の子が無表情のまんま論破してたぜ。

お前のクラスはまだ被害者は出てないのか。」


凄えうるせえ女の子はまりもで、常に無表情な女の子とは、すずの事だろう。


「無い様です。少なくとも俺たちは聞いてません。

ただ、もし、この時間帯に限られるとするなら、うちのクラスは、丁度、誰も下校してない時刻かもしれません。」


この時間帯とは、午後5時半前後である。

龍介達のクラスは、ラグビー部か剣道部しかいないので、部活がある時は、それよりも下校時間が遅く、無い時は、もっと早い。

あとは、何も入って居ないので、もっと早い時間に下校する。

偶々ではあるが、この方向の電車を使う者の中に、丁度この時間帯に動く人間は居ないのだ。


「菱川さんはどう思われますか。原因としては…。」


「分かんねえな…。だって、横浜北なんて、県内でも、超下位グループの1番下かもっていう様な学力んとこだろ?

剣道部だって無えし、ラグビー部も多分無い。

うちとの接点は、聖ガブリエル以上に無い。

向こうは公立、こっちは私立だしな。

地理的には近いけど、正直、あのガラの悪さで、初めてそんな学校があるのかって知った位だ。」


「そうなんですか…。確かにバカそうだなとは思いましたが…。」


「お前も会ったんなら分かるだろ?面白がってやってる風もあるが、あれはなんか目的があるぜ。」


「そうですね…。それは感じました。喧嘩に持って行きたい様な…。」


「そう。殴り合いにしたい感じだよな。なんで殴り合いたいんだか…。」


「うん…。」


「俺たちは、国立の結果が出るまで、もう学校には行かないが、お前達はな…。

それに、中学生にまで手え出してこなきゃいいんだが…。」


「そうですね。そこは俺も気になってました。」


「うん。宜しくな。トランスポーター生徒会長。」


ニヤッと笑って言われ、龍介も言葉に詰まる。


「う…。」


「でもお前、歴代の生徒会長の中でも、夏目さんと同レベルの最強生徒会長なんじゃねえか?」


「夏目さん…。」


夏目が生徒会長もやっていたというのは、龍介も生徒会長になって、生徒会室の写真を見て、初めて知った。

矢張り、夏目達也というネームプレートの横に、「鬼」と赤い字で足してあるのが気になって、夏目本人に聞いてみたのだが、その当時の事は全く教えてくれなかった。


「本人、全然教えてくれないんですが、どんな生徒会長だったんですかね。」


「俺もよく知らねえけど、お前の様だったって、貝塚先生が仰ってたぜ?」


「貝塚先生が?じゃあ、聞いてみます。」


「うん。」




龍介が菱川の家を辞した頃、亀一と鸞も先生からの聞き込みを終え、学校の駅で待ち合わせをし、報告を兼ねながら帰宅の途についていた。


「横浜北高への対応は、菱川さんの担任の阪本先生と、副校長がやってる様で、2人から手分けして話を聞いた。

横浜北は、そういう苦情ばっからしく、きっちり対応してくれる様子が無えと踏んだ副校長は、『うちの生徒はヤワに出来てない。もし殴り合いの喧嘩にでもなったら、怪我をするのはそっちの生徒だが!』と脅したらしい。」


「流石、副校長。」


龍介が苦笑した。

副校長は、剣道部顧問を買って出ている武闘派で、剣道だけでなく、実践的な体術まで教えてくれている。

話を聞いている鸞も、苦笑しながら続いて言った。


「それで漸く、調査を始めたらしいんだけど、なんかあそこの先生達、生徒とちっともコミュニケーションが取れていないみたいで、何が原因なのか、誰が始めたのかも一切分からないままなんですって。

先生が電車に乗って、見張ったりしてるらしいんだけど、生徒達の方が一枚上手の様ね。

現行犯逮捕も出来ないし、一向に進展しないって、先生方も俺たちが現行犯逮捕してやるかって、かなり頭に来ていた所なんですって。」


「なるほどな。俺も犯行グループの1部と思われる奴らに会ったが、菱川さんの話でも、あいつらは、こっちが1人じゃない限りやらないらしい。

寅と瑠璃の調べの結果次第では、直接対決した方が早いかもしれねえな。」


言ってる側から2人から報告メールが届いた。

先ず寅彦から。


ー横浜北高校の評判はネットの世界でも、頗る悪い。

馬鹿でも行ける学校と有名で、中学の通知表がオール1でも入れるそうで、入試の最高得点を調べて見ると、5教科で100点が過去最高得点といった具合だな。

それだけなら別にいいと思うが、県警の端末に侵入して調べたら、補導者数でも、他の追随を許さないと言えるかもしれない。

なんと、年間168人補導されている。

在校生は300人。半数以上が補導されているし、注意まで入れたら、警察と関わりが無い人間を探した方が早いかもしれない。

電車などの交通機関内での態度も悪く、交通機関の方に行く苦情の数も、相当数に昇る。

部活動も、目立った成績の物は見当たらない。

あるにはあるが、どれもおざなりの活動をしているに過ぎず、実績はない様だ。

尚、龍から送られて来た奴らに関しては唐沢が調べている。以上。


お次は瑠璃から。


ー聞き込み、お疲れ様でした。

龍に因縁つけて来た人達は、

村田健太、梶原晴翔、長田丈、大崎旬、竹下薫という名前。

全員、高2で、警察での補導歴がありました。

内容は、飲酒と喫煙。その上、コンビニ前で騒ぎ、店側から通報があった様です。

どうも、1度や2度では無いらしく、同じ様な、他校の高校生ヤンキーと路上で喧嘩という内容でも、補導されています。

校内での成績は下から数えた方が早い感じ。

部活動にも、入っていない模様。

以上です。

瑠璃


「やっぱ直接対決だな。明日、向こう方面の電車に乗って、喧嘩に乗ってみる。」


「まあ、龍なら大丈夫だろうが…。」


「俺1人で大丈夫だから、きいっちゃんと寅は女性陣と一緒に帰ってくれ。」


「んー、そしたら、送ったらその足で帰って来る。どうせ、5時半前後って、何故かあいつらは決めてんだろ?」


「そこだ。なんでその時間帯って決めてんのか…。

確かに札付きのワルの様だが、もしかしたら、原因は、英の生徒なのかもしれない。」


「へ?俺たちがあんなの相手にしたと?」


「きいっちゃん、そこだ。」


「どこだ。」


「そういう学校の生徒。増して電車内での態度も悪い。自ずと俺たちは馬鹿にした目で見てしまうかもしれない。」


「まあ、そうかもな。あんま会った事無えから分からんが。」


「こっちのそういった態度で、向こうのプライドを傷付けたのかも。」


「はああ…。そうかなあ…。」


「まあ、可能性の問題だ。あり得ん話じゃねえかもなとね。」


ずっと黙って話を聞いていた鸞も、考え込みながら言った。


「私達は、英の生徒って事に誇りを持ってる。

それがともすれば、特権意識になっている事はあるかもしれないわ。

そういった学校の生徒の事を、下に見てしまうというのは、あるかも。」


「うん。」


龍介は頷いたが、亀一はまだ腑に落ちない感じで首を捻っている。


「きいっちゃん?」


龍介が苦笑して聞くと、不満気に言った。


「だってさあ。俺たちはなんの苦労も無く、英に入った訳じゃねえじゃん。

少なくとも、横浜北の奴らよりは相当勉強してるし、努力はしてる。

その努力もなく、毎日無為に過ごして、人様に迷惑かけてる奴らを馬鹿にしたり、ゴミ見る様な目で見て、何が悪いんだよ。

実際、苦情が行く程、他の乗客に不快な思いさせてんだろ?

元々は横浜北の奴らが悪いんじゃないのか?」


「それはそうなんだけど…。それでも、そうされれば傷つくし、不愉快にも思うんじゃねえのかな。」


「はあ。分かってやりたくもない。」


鸞も龍介と一緒に苦笑しながら言った。


「まあ、わかりたくない気持ちも分かるわ。

私も龍介君程優しくないから。

で、それとは別件で、私と瑠璃ちゃんは、私のお爺様に迎えに来て頂く様にするから、きいっちゃんと寅は、龍介君と一緒に作戦に参加して。」


「え、大丈夫なのか、鸞ちゃん…。」


鸞の祖父の運転が、人を乗せて走る運転では無いというのは、寅彦経由で、加来から聞いているので、心配そうに龍介が聞くと、鸞は何故か得意気にニヤリと笑った。


「あの運転は酷すぎるので、私が猛特訓したから大丈夫よ。」


一頻り笑った後、楽し気に龍介は言った。


「じゃ、それでお願いします。では、きいっちゃん、作戦に入ろう。」























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