生徒会最後事件?
龍介達がタクシーで件のマンションから少し離れた所に停めさせた時、マンションの地下駐車場から、シルバーのレクサスが出て来た。
慎重に身を潜めて、中見ると、目隠しをされた龍太郎が乗っているのが見えた。
「おい、あの車追え。」
真行寺が言うと、運転手はウキウキと車を回転させ、一台別の車両をわざと入れさせ、尾行し始めた。
「慣れてんなあ。」
真行寺が褒めながらそう言うと、運転手は胸を張った。
「この間、旦那の浮気調査してる奥さん乗せたんですよ。そん時に色々考えましてね。いやあ、ワクワクしちゃうな。運転手冥利に尽きますよ。」
少々変わった運転手だが、タンザワッシーを移動に使い、足の無い3人には非常に助かる。
車は多摩川まで行き、龍太郎はそこで目隠しに手枷足枷のまま降ろされた。
龍介達は大分離れた所から見守っている。
「怪我は無さそうだな…。」
心配そうな龍介に言う様に、真行寺は呟き、レクサスが遠く走り去ったのを確認すると、3人で一斉に龍太郎の元に走った。
「父さん!今外す!」
「龍!?。全くもう!寝てなきゃ駄目じゃないか!」
「もう元気だよ。葉っぱも自然と剥がれたし、咳も出ない。」
全て外して貰い、龍太郎は何事もなかったかの様に微笑んだ。
「父さん…。何言われた…?」
「何も。大丈夫だよ、龍は心配しなくて。」
龍太郎は、本当にそれ以上、誰にも言わなかった。
ただ、見た人間全員の顔はしっかり覚えていたから、それは全て竜朗に報告したらしい。
居場所を失くすと言われた事、その事には一切触れなかった。
龍介は心配で堪らない。
真行寺が言っていた、「こちらの動きを掴むだけでなく、他の目的の為にもスパイを入れているのかもしれない。」という事と、「奴らは汚い。汚すぎて分からない。」と、真行寺ですら予想がつかないのが、龍介をより不安にさせていた。
「龍、龍太郎さんが何も言ってくれない以上、どうしてやる事も出来ねえよ。」
寅彦もそう言いながらも、心配そうだった。
その様子を見たら申し訳なくなり、龍介は微笑んだ。
「そうだな。俺が心配したって、何も出来ねえもんな。何か起きた時に、対処するまでか。」
「うん…。」
「ん。ごめんな。」
「いや…。」
龍介が寅彦を心配させまいと、強がっているのは、長年の付き合いで分かる。
でも、これ以上、寅彦が不安そうな、心配そうな顔をしていたら、龍介はもっと感情を奥の方にしまって、無理をするのも知っている。
だから寅彦も、それに応えるべく強がった。
「ーま、そん時は頼りにしてくれ。」
「ああ。してる。よろしくな。」
表面的には日常が戻った。
3学期もそろそろ終わりに近づいて来ている。
4月になったら、新しい生徒会役員が選挙で決まるが、それまでは龍介達が生徒会役員である。
一応最後の役員会になる日だったその日も、目安箱を開ける事から始まる。
「もー、今月は大漁だあ。」
亀一が渋い顔で、ドスンと段ボール箱を2つも、長テーブルの上に置いた。
流石の龍介も驚きを隠せない。
「何、それ全部、目安箱の中身なのか?」
「そ。例のマッドサイエンティスト事件の動画、俺と龍ってすっかりバレててさあ。
まあ、俺は兎も角、お前の目はかなり印象的だからな。
あの動画を配信してから目安箱にファンレターが殺到。
1日で溢れ返る事態となり、先生が段ボール箱を置いといてくれたら、それにドカドカ入り、こういう事に。
一例を挙げよう。『加納生徒会長好きです。お返事ください。ハートマーク。中3ーA岡田大輝。』」
龍介の顔が一瞬にして青ざめた。
「お…男…?」
「まだあるぞ。『加納先輩大好きです。付き合って下さい。中2青木泰斗。』」
「は…はい…?」
「あー、その他諸々、龍がかっこいいだの、凄えだの、トランスポーターですねだのと、学校守って下さって、本当にありがとうございますなどの感謝の言葉で、この2箱と。
で、通常の目安箱の投書がこの3件。」
「な、なんだ…。」
顔色の悪いまま聞く龍介を、みんなして指まで差してゲラゲラと笑っている。
「その1。加納先輩の美の秘訣はなんですか。」
一同爆発するかの様な大爆笑。
読み上げた亀一まで笑っているので、とうとう龍介は切れた。
「きいっちゃん!あんた、喧嘩売ってんのかあ!それ、そっちの段ボール系の話だろ!?」
「そうかあ?」
「そうだよ!」
「ではその2。毎日同じカラスが教室の窓にやって来て、睨まれている様な気がします。怖いです。なんとかして貰えませんか。高2柊木。」
鸞が首を傾げた。
「それって、生徒会の仕事なのかしら…?」
龍介が頬杖をつきながら答えた。
「ーまあ、通常で考えれば、目安箱に入れる前に担任に訴えるだろうし、そしたら担任は、事務所に言うだろう。
そうすりゃ、普通はカラス避け対策は講じるはずだな。
それでもダメだったから目安箱にという風に考えるなら、俺たちの仕事だろうが、そのプロセスを踏まずにだと、ちょっと違う気もするが、まあ、一応調べて、俺たちから事務所に依頼してもバチは当たらねえだろう。」
「はーい。」
「じゃ、次は?」
「3カ月前から横浜北高校の生徒が、何故かやたら絡んで来る。
睨みつけて来たり、電車の揺れに乗じて、ぶつかって来たり、足を踏んで来たり。
今の所、取り合わず、無視しており、問題は起きていないが、囃し立てたり、せせら笑ったりと、どんどん挑発がエスカレートして来ている。
本校の先生に訴え、横浜北高校の生徒にも指導して貰った様だが、全く改善されない。
うちの生徒に会うと、誰かれ構わず絡んで来て、一触即発の状態になって来ている。
生徒会の方で動いて貰えないだろうか。高3ーB菱川。」
龍介の眉間に、機嫌が悪くなった時の皺が寄った。
「なんだそれ…。なんで喧嘩売って来てんだ。そもそも横浜北高校とはなんだ。」
瑠璃が遠慮がちに、鸞に小声で言った。
「あの…、この間私達ナンパして来て、なんか凄いガラが悪くて、鸞ちゃんが撃退した人じゃない?」
一瞬にして寅彦の顔色が変わる。
「なんで言わねえんだよ。聞いてねえぞ、そんな事。」
鸞はバツが悪そうに目を逸らした。
「あ~、そんな大した事無かったのよ…。
やかましいって言って、一応暗いからと護身用持って出た竹刀出して、ちょっと脅したら、逃げてったから…。」
「いつだよ。」
「一昨日だっけ?瑠璃ちゃん。」
「そうね…。」
瑠璃も俯いて、消え入りそうな声で答えた。
龍介が機嫌の悪い顔のまま、瑠璃をジッと見つめていたからだ。
「瑠璃。」
「は…はいっ。」
「そういう事はちゃんと言う様に。
一昨日っていうと、俺が退院した日だろ。
心配させたくないって気持ちは嬉しいが、相手が逆恨みして、何か仕掛けて来るとも限らない。」
「はい…。ごめんなさい…。」
一昨日、龍介が退院した日と言えば、龍太郎が拉致され、寅彦を学校から呼び出した日だ。
寅彦が居ないので、鸞が危険な目にと思うと、申し訳なくなり、龍介は寅彦に謝ろうとしたが、それより先に亀一が首を捻った。
「んん~?学校から帰ってからの話か?
お前らになんかあったら俺が殺されるからと、ちゃんと家まで送ってったろ?」
「ごめんなさい、きいっちゃん。
それが、帰って来て直ぐ、2人して忘れ物した事に気付いたのよ…。
今日提出期限の進路調査票…。
それで取りに、また制服着て戻ったの。」
「んなら言ってくれりゃついてってやったのに。日も暮れちまってるし、あんたら相当可愛いんだから、危ねえだろ。」
龍介と寅彦の代わりに亀一が怒ってくれたので、2人が黙って頷くと、鸞と瑠璃は小さくなって謝った。
「まあ、2人が抜きん出て可愛いからなのか、それともうちの制服を着てたからなのかは定かでないが、ターゲットは男だけでなく、女の子もという風に考えた方が良さそうだな。
これは捨て置けない。早速調査に入ろう。
寅と瑠璃はなんでもいいから、横浜北高について調べて。
俺は、菱川さんに話聞いてみる。
鸞ちゃんときいっちゃんは、菱川さんの担任から事情を聞いてみてくれ。
カラスの件は明日、柊木に話聞いてみて、事務所に話通してるのか確認。
してもダメという事だったら、2ーBのクラスにカメラを設置。対策を練ろう。」




