犯人は…
龍介はタンザワッシーの葉っぱのお陰か、龍太郎が行方不明になった翌日の朝には無事退院し、竜朗は忙しいからと、真行寺の住む、麗子の家に連れて行かれていた。
「熱に強過ぎるってのも、困ったもんだね。危ないよ。」
麗子が紅茶を淹れながら言うと、真行寺も頷いた。
「完治するまでここで見張ってるからな。葉っぱも剥がしちゃダメ。」
「はいはい。」
龍介は苦笑しながら庭を見た。
大きなプールがある。
「よく、ここできいっちゃんと遊ばせて貰ったなあ…。」
すると、麗子も懐かしそうに言った。
「そうだったね。しずかちゃんまで浮き輪で浮かんでて、面白かったね。」
「母さんて、泳げないんですか。」
「いや、泳げるはずだよ?英の皆泳行事だって、ちゃんとやり遂げたんだから。若干ズルしたみたいだけど。」
「ズルってなんです…?」
嫌な予感しかしないが、一応聞いておく。
「龍太郎の足に紐付けて、密かに引張って貰ってたって。」
「母さん…。」
「だって、あれは女の子にはしんどいんじゃないのかい?
そん時、更に可哀想な事に、しずかちゃん以外全員生理で、休めちまって、しずかちゃんだけだったしさ。
いいんじゃないのかい、それ位。」
「はあ…。父さん可哀想に…。3倍は消耗しただろうな…。」
そんな懐かしさもあり、ぼんやりプールを眺めていると、プールの水がさざ波立った。
「なんかタンザワッシーが来る時に、似てる様な…。」
龍介が呟いた次の瞬間には、ザッパーンという音と共に、タンザワッシーが現れた。
でも、とても焦った様子だ。
その場から出てしまう事は今まで無かったのに、プールから出て来て、あおんあおん言いながら、誰かを探している様だ。
龍介は真行寺にダウンを着せられながら、急いで庭に出た。
「どうしたんだ、タンザワッシー。父さんは?」
「あおん!あおん!」
必死の形相で訴えるタンザワッシー。
「父さんになんかあったんだな…?」
「あおん!」
タンザワッシーは激しく頷いた。
「父さんに何かあった場所に連れてってくれ。」
真行寺は龍介を必死に止めた。
また冷たい水になんか入ったら、折角良くなったものを振り返してしまう。
しかし、龍介は真行寺を振り切り、勝手にウェットスーツを拝借し、行く気でいる。
仕方がないので、真行寺もウェットスーツに着替え、麗子に竜朗への連絡を頼みつつ、龍介と共に装備を5分で整え、龍介と連れ立ってタンザワッシーに抱えられた。
「んあああああ~!」
竜朗はとうとう頭をかきむしった。
風間が何事かと、腰を浮かしている。
ー龍太郎がタンザワッシーに連れ去られた後、今度は龍太郎になんかあったっぽいから、龍と顧問がタンザワッシーと行っちまっただあ?
もう!本っとに、龍太郎が絡むと、ロクな事になんねえな!
大体なんでタンザワッシーは龍を呼びに行っちまうかなあ!
龍太郎が誰かしらに拉致されたって、アイツは手足ぶった切られたって、情報は出さねえよ!
ほっときゃいいんだあ!
竜朗にとっては、最愛の孫である龍介と、敬愛する真行寺の方が何十倍も大切なのだ。
しかし、一応、あんなキャラでも、龍太郎は、重要人物である。
確かに、彼は情報は何があっても漏らさないだろう。
そこだけは信用出来る。
しかし、龍太郎を失ったら、宇宙開発が滞る上、地球の温存計画も頓挫してしまう。
あれは、龍太郎無しでは成功しない。
竜朗の立場では、龍太郎が拉致されたとしたら、黙ってやり過ごすわけには行かない。
「風間…。」
「は、はい…。」
「龍太郎に何かあったらしく、龍と顧問がタンザワッシーで向かった。
連絡あったら、チーム組んで、龍太郎救出作戦に入れ。
十中八九、龍太郎は殺さねえだろう。
何かあったとしたら、拉致だろうからな。」
「はい。承知しました。しかし、顧問…。」
「なんだ。」
「タンザワッシーは、移動手段に使えるようになったんですか。」
竜朗の眉間の皺が更に深くなり、風間は怒鳴られる前から後ずさった。
「ー知るかあ!あんなびしょ濡れの移動手段、2度と龍にはやらせたくねえっつーの!」
思わず風間に八つ当たり…。
風間は悲しそうに目を伏せ、胃薬を飲みながら指示を出した。
その頃、龍介と真行寺は、もう現場である山梨県の山の中に到着していた。
森の中や其処彼処に、ドライバーなどの工具が転がり、焚き火の跡の上には、龍太郎の作業用の軍服が干してあった。
「ー父さんは、工具投げて応戦したんだ…。」
龍介がベッセルのプラスドライバーを手に言うと、足跡を見ていた真行寺も頷いた。
「そのようだな…。何人か足を引きずっているし、龍太郎君の他に1人、車まで上半身だけ持って、引きずられた跡がある。
1人は工具がいい所に当たったんだろう。
そして、龍太郎君は、ここで倒れて、仰向けにされて、引き摺られて行った…。
血痕が一滴も無い所を見ると、熊とかに使う麻酔銃で眠らされたんだろうな。
車のタイヤ痕は竜朗に写メした。
直ぐに車種は割り出されるだろうが、拉致したとしたら、敵もそう簡単に足がつく物には乗ってねえだろうな。
この辺には、監視カメラも無いのも計算の内だろう。」
「でも、なんで父さんがここに居るって分かったんだろ…。」
「そこだ、龍介。
非常にマズイ事態だ。
龍太郎君の肩には、Gー84ーきが埋め込まれてる。
本人が望んで、居所は、蔵と図書館に繋がってる。
そのGー84ーきが、そこの道端に落ちてた。
血が付いた状態でな。
眠らせて、車に運んだら、直ぐに切開して取り出したんだ。
つまり、この意味が分かるか、龍介。」
龍介の顔付きも、深刻なものに変わった。
「ーGー84ーきは、父さん以外の技術じゃ、探知機を当てても発見出来ない。
Gー84ーきの信号を傍受するのも、特殊な機械だ。
つまり、父さんが肩に発信機入れたのも知ってるし、傍受出来る人間が、父さんの拉致に関わってる…。
スパイが居るんだ、蔵か図書館のどっちかに…。」
「そういう事だ。竜朗には今、秘匿回線で伝えておいた。
スパイも探さなきゃだから、表立っては動きにくいな。」
龍介は、2人を心配そうに、又、申し訳なさそうに見える表情で見守っているタンザワッシーを振り返った。
「タンザワッシー、もしかして、父さんの居る所が分かる?」
「あおん!あおん!」
タンザワッシーは激しく頷いた。
「分かるのか!?」
「あおん!」
「連れてってくれる!?」
「あおん!」
頷くタンザワッシー。
しかし、真行寺はいい顔をしていない。
「龍介、グランパは反対だ。
敵がどんな奴らかもわからない。
どんなドンパチになるかも。
俺は構わんが、龍介を連れて行くのは…。」
「でも、信用できる人は、スパイに見張られてるから、動けない。俺たちが行くのが1番手取り早い。そうだろ?」
真行寺がうんと言う前に、龍介はタンザワッシーに連れて行く様に頼み、タンザワッシーは龍介と、納得の行っていない真行寺を抱え込んだ。




