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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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龍太郎、消える

龍介達の大活躍があった翌々日、大きなプール位の大きさはある水槽の前で、宇宙開発関連の実験をしていた和臣は、それを見た途端、流石に仰け反って、部下達と一緒に素直に驚いてしまった。


「ボゴボゴボゴ!」


それは水の中で、何か言っている。


「これがタンザワッシーかあ。可愛いなあ。おい、加納呼んで来て。」


そう。

それはタンザワッシー。

何故水の中で喋っているかというと、この水槽は重くて頑丈な可動式の蓋がしまっているからなのだが、和臣は全く気付かない。

可愛い、可愛いと言って、写真なんか撮ったり、一緒に撮って貰ったりしている。

龍太郎がそこに来た時、タンザワッシーは涙目になって、ボゴボゴボゴ言いながら、必死に訴えていた。


「長岡!蓋開けてやれよ!泣いてんじゃん!」


「ええ!?そうだったのか!ごめん!ごめん!」


和臣が蓋を開ける装置を作動させている間に、龍太郎は階段を駆け上がり、水面でタンザワッシーを待った。


蓋がゆっくりと開き始めると、タンザワッシーが隙間から顔を出した。


「あおん!あおん!あおん!」


涙目のまま凄い勢いで怒っている。


「ごめんな。水には潜れるけど、長時間はキツイんだよな。申し訳なかった。」


「あおん!」


「まあいいって?有難う。ところで、こんな所までどうしたの?龍の事?」


「あおん!」


「そっかあ…。龍が入院しちゃって、真行寺さんも付きっ切りだから、俺ントコに来てくれたんだね。」


「あおん。」


嬉しそうになるタンザワッシーは、小脇に挟んだ、2種類の葉っぱを出した。


「また持って来てくれたのか。どうも有難う。」


「あおん。」


なんだか嬉しそうなので、龍太郎も自然と笑顔になると、やって来た和臣や部下達も感心している。


「加納、よく分かるなあ。あおんしか言わねえのにさあ。」


「なんか分かるよ?」


「へーえ。にしても、可愛いな。亀一が言ってた通りだ。さっきの写真、栞ちゃんにも見せてあげよう。」


「優子ちゃんじゃないのかよ。」


「優子にはさっき写メった。」


タンザワッシーは、龍太郎に葉っぱを渡したのに、まだ居る。


「タンザワッシー、どうしたんだ。帰らなくていいのか?ここ見学でもする?」


タンザワッシーは首を横にふりつつ、辺りを見回し、龍太郎をジッと見つめた。

純真無垢なつぶらな瞳は胸キュンもの。


「可愛いのう!どしたどした。」


するとタンザワッシー、やおら龍太郎を抱え込んだ。


「んん!?」


そしていきなり潜って、和臣達の目の前で消えてしまった。


「うおおおお!?加納ー!!!」


しかし、呼べど叫べど、龍太郎の姿も、タンザワッシーの姿も水槽の中には無い。

あるのは、龍太郎が居た部分に落ちている龍介用の葉っぱだけ。


「うーん、どうしよう。一応、加納顧問に報告すべきだよな…。安全だろうとはいえ、加納が消えたんだもんな。」


という訳で、和臣は竜朗にメールした。




「あん…?」


竜朗は機嫌が悪かった。

本当は龍介についていたいのに、昨日判明した『日本人浄化計画』の超極秘調査チームを作り、その指揮がある為、仕事に出なければならなかったからである。

その上、今、和臣から来たメール…。


ー加納がタンザワッシーに連れ去られました。


竜朗は不機嫌そうな顔のまま、パソコン画面を見つめていた。


ー龍太郎がタンザワッシーに…?


この忙しい時に、龍太郎の事も考えたくないし、そもそも、竜朗にとっては、タンザワッシーがいくら可愛くて、龍介や真行寺に尽くしてくれても、絵本の中の恐竜が自由に空間を移動しまくって、あおんあおんと、真行寺や龍介と会話しているという事実は、あまり深く考えたくない。


寄って、竜朗はメールを消去した。

例によって、無かった事にしてしまったのである。



ーすげえな!潜水艦もびっくりの急速潜行だな…。

にしても、龍の話だと、行きは水の中じゃなくて、気絶して、帰りが水の中なんじゃなかったっけ?なんで最近水の中なんだろうか…。

あ、そっか。最近は、タンザワッシーの世界へ行って帰ってる訳じゃねえもんな。

そっかそっか。タンザワッシーの世界に行く時だけなんだな。気絶すんのは。

て、事は、俺はタンザワッシーの世界に連れて行かれるんじゃないのか…。どこ行くんだろうな…。




回り回って、龍介は結局、和臣から預かった葉っぱを届けに、病院に見舞いに来た亀一から、龍太郎の行方不明を聞いた。


「そんな事んなってたのか。父さん、今日の夕方は来なくてさ。朝夕、必ず来てくれてたのに、どうしたのかって、爺ちゃんに聞いたけど、知らねえって…。」


「先生お得意の無かった事にしちまったんじゃねえの?親父は先生には連絡したってよ?」


「ああ…。タンザワッシーに関しては、受け入れては無えもんなって、父さんが連れ去られたのに?

まあ、タンザワッシーなら危険は無えだろうけど…。」


「龍はあんま気にせんと、葉っぱ着けて、看護婦さんと医者の言う事聞いて大人しくしてろ。」


「うん…。」




龍太郎はその頃、陸地に放り投げられて、受身を取りつつ、凍りつく様な寒さに震えながら、女の子に叫ばれていた。


「んにゃあああ!コウタ!?そしてこの人は誰!?なんで自衛隊の人攫って来ちゃったの!?」


「あおん!あおん!」


タンザワッシーが一生懸命何か言っているが、アイコは全く分からない様子で、なんで!?どうして!?を繰り返している。


龍太郎は寒いのを我慢しながら目前の状況を整理しつつ、言った。


「タンザワッシーをコウタと呼ぶという事は、さしずめあなたは、作者のアイコさん。

隣の金髪に皮のパンツは、タンザワッシーのモデルのギタリストのロッカー、コウタ君。

そして、必死にバイクをいじっている所を見ると、こんな山奥で、誰も来てくれない所なのに、バイクが故障。

で、タンザワッシーとしては、龍の葉っぱを俺に届けに来た所、メカに強そうだと判断して、ここに連れて来たと。

そんな所では?

因みに俺は、加納龍介の父です。」


「あおん!あおん!」


タンザワッシーはご機嫌で頷いている。


「うわあ、凄いですね…。龍介君のお父さんも頭いいんだ…。」


「ていうか、アイコさん、死にそうに寒いんですが…。」


「あ!そうですよね!コウタ、どうしよう!?」


人間のコウタは、龍太郎が言う前に、ガサゴソと荷物を漁って、寝巻きっぽいトレーナー上下を出して、龍太郎に渡しながら言った。


「これ、入りますかね?パンツも要ります?」


「パンツもあれば…。」


「じゃ、これ…。新品じゃないけど、洗濯はしてありますんで。着替えてて下さい。俺、焚き火作ってます。」


「あ、有難う…。」


「いえ。こちらこそこんな所まで有難うございます。


ーこの子は随分落ち着いてるんだな…。

まあ、龍より大分年は上みたいだけど、普通はアイコさんの反応で終わりだよな…。


ブツブツ考えながら着替えて戻ると、コウタがタバコを吸いながら、焚き火を作ってくれていた。

若干試行錯誤だった様で、火がつかないとか、小枝じゃなくて、枯葉じゃないのか、持ってこいとか言う声は聞こえていたが。


アイコが龍太郎の服を干しながら、話し始めた。


「私達、新婚旅行だったんです。

ダムが見えて、綺麗だねとか言って、走ってたら、突然バイクが止まっちゃって。

本当にすみません、いきなり…。

なんというか、コウタがご迷惑おかけしまして…。」


「俺が連れて来ちまった訳じゃねえじゃん!」


「違うわよ!恐竜のコウタの事よ!」


「ややこしいから、お前もタンザワッシーって呼べよ!」


「分かったわよ!ごめんね!」


でも…と、アイコはタンザワッシーを見詰めた。


「あなたは、コウタって名前なのよ?」


「あおん?」


首を横に捻るタンザワッシー…。

アイコが試しにタンザワッシーと呼んでみると…。


「あおん!」


ご機嫌でお返事。


「定着しちゃってるしいい~!作者より、龍介君の方が影響力大なのね!?そうなのね!?まあ、分かる気もするけど!?」


龍太郎は、笑いながら、バイクの調子が悪くなった経緯を人間のコウタから聞いていた。


「ああ、大体分かるよ。やってみよう。」


龍太郎は、来る時そのまま着けていた腰から下げる工具袋から工具を出し、バイクを直し始めた。


「結婚したんだね。おめでとう。」


コウタは照れくさそうに笑った。


「龍介君にも知らせようと思ったんですけど、アイコのヤツ、住所とか連絡先も聞いてないっつーんで…。」


「聞いても、あの子は言わなかったよ。親の職業がこんななんでね…。ん…?」


龍太郎が急に真顔になったので、コウタは不安気に龍太郎を見詰めた。


「どうかしたんすか…。直る気配無し…?」


「いや…。バイクは大丈夫。」


龍太郎は、先ほどよりもっと早くバイクを修理すると、エンジンを掛けた。


「早く行って。ここから出来るだけ離れるんだ。いいね?」


お礼を言わせるのも急き立て、2人を行かせると、龍太郎はタンザワッシーに言った。


「タンザワッシー、直ぐ帰りなさい。」


「あお…?」


龍太郎の異変を感じとって、心配そうに見詰めるタンザワッシー。


「いいから、早く。

これは、俺達の世界の問題なんだから。

タンザワッシーになんかあったら、龍が泣く。

早く行きなさい。」


タンザワッシーは龍太郎の強い口調に、渋々ダムの中に戻った。


龍太郎は、タンザワッシーを行かせると、腰に手を当てた。

残念ながら武器は無い。

タンザワッシーが来たと聞いて、タンザワッシーを怖がらせてはいけないと、わざわざ置いてきてしまった。

あるのは、ペンチやドライバー等だけだ。


龍太郎は数人の人の気配を感じていた。

この人里離れた、車も滅多に通らない様な道ではあり得ない人数だった。


ー5人…。いや、6人か…。


人の気配が動いた。

それと同時に、龍太郎は森の中にドライバーを投げつけた。

当たったらしく、『うっ。』という苦しげな声と同時に、ガサガサっと倒れる音がした。


人の気配の動きが慌ただしくなり、龍太郎はドライバーやペンチを投げつけながら、ダムの方へ走ったが、足を撃たれた。

見ると、針が刺さっている。


ー麻酔銃かよ…。これ、クマ用じゃん…。俺はクマか…。


遠のく意識の中、龍太郎は水から目だけ出して、心配そうに自分を見詰めるタンザワッシーを見ていた。


ー龍に知らせないでくれよ…?って、知らせちまうのかなあ、この子は…。









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