泣く2人に、無かった事にしたい2人
龍太郎は繁みの陰で、和臣ではなく、優子とランチャーを構えて待機していた。
「ーあらヤダ。出てこないじゃないの。龍君達。」
「うーん、終わったら、出て来るだろうから、龍達が出たら、ドカーンとやるつもりだったのに…。
あれえ?親父達入っちまったよ!?」
「駄目じゃないのよお!どうしてそうなっちゃうのお!?」
「これは、俺が何かしない様に、敢えて味方はあの建物から居なくならない様にしたんだな…。
龍ってば…。」
「んもおおお!
私だって、子供ターゲットにしたり、母校に侵入して、おかしな実験したなんて許せないのよ!?
これでもぶち込まなきゃ、気が収まらないじゃない!」
「うんうん。ほんとほんと…。
この間1000ー10ーきでやった時、親父に凄え怒られたから、ランチャーって、ちょっと控えめにしたのにさあ。」
軽い感じで同意する龍太郎を、優子が疑惑の目で見始めた。
「ー龍太郎君…。あなたまさかバレバレの態度とったんじゃ…?」
「ーえっ!?」
暫く考えた龍太郎は、思いっきり笑って誤魔化し始めた。
「あ、真行寺さんには凄い勢いでバレちゃってたかもなあ。あはははは!」
「あなた本当に幕僚監部なの!?なんなのそれはあ!」
「優子ちゃん、そうカッカしないで。お婆ちゃんになるんでしょ?」
「誰がお婆ちゃんなんて呼ばせますかあ!私はまだあなた達と同じ、44なのよ!」
「ご…ごめんなさい…。ま、ほ、ほら。仕方ないじゃん、もう。撤収しよ?」
優子はランチャーを放り投げる様に龍太郎に渡すと、スクッと立ち上がった。
「今日は栞ちゃんの検診なので、私は帰ります。」
「は、はい…。お疲れ様です…。」
優子が帰ると、龍太郎はホッとした様な溜息を吐き、そしてYouTubeの画像を再生して、龍介が、『ルール2。名は明かさない。』とノリノリで決め台詞を言っている所で止めて、微笑んだ。
「龍、なかなかいい作戦だったね。俺はこういう方が好きだな。」
乗り込んだ竜朗は、物陰に潜んで待っていた真行寺に声をかけられた。
「もー、顧問。」
「文句はこれ見てからにしてくれ。」
真行寺は分厚い書類を渡した。
竜朗は、表紙のタイトルを見て、眉間の皺を更に濃くした。
「『日本浄化計画』…?なんか嫌な感じしかしませんね。」
「その通り。研究室の棚の裏側の壁の中に隠してあった。中見てみろ。」
竜朗は読み進んで、顔色を変えた。
「同士討ちシステム実験場所…ハートフルケア療養施設…って、これ、去年老人が立て続けに死んで、職員の虐待があったとかで閉鎖になった施設じゃないですか。
でも、犯人は見つかってない…。」
「そうだ。なんで犯人も、真相の究明もされてないんだか、ここ見りゃ分かる。」
「ーこのメンバーですね…。現政権閣僚の3分2がメンバーだ。中には法相も居る…。」
「その通り。原因は足立の機械の実験だったから、警察に圧力かけたんだろう。」
「そういう事ですか…。
次の実験場所は英学園…。
上手く行ったら、中華街、コリアンストリート、歌舞伎町…。
そして俺たちか…。
マズイな。読み通りだ…。」
「そうだな。恐らく実験データは浅水にも、このメンバーにも渡っているだろうから、ここを破壊しても、また作れる。」
「ーそうですね…。読めました…。
武器輸出3原則の撤廃。安保改正法案。憲法9条改正。
その先にあるのは、この日本浄化計画…。」
「うん。」
「これ、龍には?」
「あの子が知ったら、正面切って戦いを挑む。
そしたらどうなる?
安藤に消されてしまうだろう。見せしめとしてな。」
「はい…。そうですね…。有難うございます。」
「んじゃ、龍介の所行こう。連れて帰るよ。葉っぱがあるとはいえ、寝ていてこそ効くもんだろうから、あの大立ち回りは悪化してないか心配だ。」
「そうですね。」
移動しながら、竜朗は苦笑して真行寺を見つめた。
「顧問。ありゃ、龍の作戦ですか。YouTubeに流すとか。」
「全部龍介の作戦だよ。俺は竜朗の動きを予想してやっただけだ。」
「はあ。全く、末恐ろしい。たっちゃんそっくりだ。」
「いや、龍彦より凄いんじゃないか?お前が先生だから。」
「顧問…?持ち上げても、今回の件は水に流しませんよ?。
龍の味方するなんて。
立場上、俺の方に付いてくれて然るべきでしょうに。」
「そう言うなよ。だから埋め合わせにコレ見つけてやったんじゃないか。」
竜朗は快活に笑った。
「確かに。有難うございます。」
「龍介の事、褒めてやってくれ。爺ちゃんに褒められんのがやっぱり1番なんだから。」
「ーはい。負けを認めて、褒めます。
確かに今回のもなかなかです。
龍らしい。
参りました。
なんかね…。本当に大事な事は何かって、思い出させて貰った気がすんですよ。」
真行寺も微笑んだ。
「そうだな。そのまんま言ってやってくれ。」
「はい。」
しんみりと、そしてなんとなく、ほんわかと幸せな気分になって、足立の部屋に入った竜朗と真行寺だったが、その光景に度肝を抜かれ、言葉も無い。
龍介は、殆ど泣きながら、薬を飲め、葉っぱを替えろと言う亀一と寅彦から逃げ回り、時々、意識を戻す男達の頭を蹴り飛ばして、また気絶させるという仕事はしつつも、『ヤーダぴょん』という謎の言葉を発しながら、5歳児の様にケラケラと楽しそうに笑っていた。
陰の元国防長官と、現国防長官が言葉を失い、立ち尽くすのだから、その光景の異様さは推して知るべし。
熱のせいのハイテンションと聞き、漸く我に返った竜朗は、龍介を押さえ込み、真行寺は葉っぱを貼り付け、2人で上半身と下半身を持ち、走る様に出て行った。
その間、全くの無言。
かなりの衝撃だったらしいが、2人の例の癖、無かった事にしたい行動だったのかもしれない。




