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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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調査結果

寅彦はトイレに行くと言って、休み時間に保健室に現れた。


「大丈夫だったか、きいっちゃん。」


「なんか疑惑の目で見られたけどな。

でも、鸞と唐沢が意外と素直に言う事聞いてくれて助かったよ。」


「良かった。そんで?」


「1人引っかかった。元公安の人間だ。

現在は、総合人間科学研究所って、訳の分かんねえ所に勤めてる。

そいつが、裏門付近をうろついて、監視カメラの範囲から消えた。

でっかいジェラルミンケース持ってる。

時期は、丁度1週間前。

中3ーAで事件が起きた日の前日。」


「流石寅。十中八九当たりだな。

ところで、総合人間科学研究所?

なんだそれは。

公的機関じゃねえよな?」


「確かに民間なんだが、怪しげな金が入ってる。」


「怪しげな金?ヤクザ絡みか?」


「違う。もっとヤバイ感じ。」


「ーまさか…。内閣官房費?」


「そう。増田健治って男から、毎月ガバッと入金があるんだが、その増田って男は、内閣官房長官の第1秘書。」


「うわ…。確かにこれはヤバイ…。

だけど、そんな所に官房費が流れて、俺たちの学校に被害を及ぼすとはどういうこったい。

実験か?

或いは、図書館側への宣戦布告か?」


「今の段階だと、どっちにも取れるな。」


「アッタマ来るな…。なんで子供で試し撃ちすんだ…。」


「だよな。俺も腹立ってしょうがない。

龍が手え引くって言ったって、俺はこのまま調べて暴いてやる。」


「俺だって、このまま引き下がって堪るか。学校は俺たちが守るんだ。」


「ん。」


「で、その総合人間科学研究所とやらだが、どこにあるんだ。所在地は?」


「それがだな…。」


寅彦が答えようとした所で、突然、龍介が寝ているベットのカーテンが、ジャッという音を立てて、なんの前触れも無く開いた。

亀一が立っている。


「きいっちゃん…。」


「それは諏訪湖の(ほとり)にある。」


「なんでそれを…?」


「昨日、あれから変な研究して、学界を追放された科学者を2人思い出した。

1人はロシア人で、現在アメリカに亡命中。

NASAに入ってるし、研究内容が、若干今回の件とはズレてんで、もう1人をよくよく調べてみたら、人間の情動に影響を与え、怒りを抑えられなくなり、攻撃性を高める電波を開発。

学生で人体実験をやり、研究室をボロボロにさせ、重傷者を出した日本人が居る。

足立良純って男だ。

結局、その電波はその1回しか成功させられず、また人道上酷い発明だという事で、大学と学界を追放された。

そいつが、どういう経緯だか知らないが、総合人間科学研究所とやらの所長に、2年前に収まったのを、昨日調べた。

諏訪湖にあるって事と、諏訪湖に移ってから、その研究が成功したってのは、佐々木がやられた電流と無関係じゃねえだろう。」


「きいっちゃん、有難う。もうそこまででいい。」


「龍。お前が今言った通り、学校は俺たちの手で守る。

それに、俺も、まだ純真な中学生を試し撃ちにしたのは、許し難い。

これは、親父になる身として、許せない。

だから、頼むから、外さないでくれ。

無理はしない。お前の指示には従う。」


龍介は、亀一が龍介達よりも、一歩先を歩いている気がした。

親父になる身として許せないというのは、ちょっとかっこいい。


「うん…。分かった。幸い、明日から創立記念日とかで週末明けるまで休みだ。明日出発しよう。」


「ん。」


そこへヌッと現れたのは、担任の貝塚先生。

聞かれていたのかと、龍介達は固まってしまった。


「加納。ダメじゃないか。

お爺さんが迎えに来てるぞ。

今日も来られる状態じゃなかったんだろ?

生徒会長としての責任感は大変立派だが、無理して入院なんて事になったら、話にならんぞ?」


「はい…。すみません…。」


先生は龍介の鞄を持って来ており、コートを着せながら、ボソッと言った。


「あんま危険な事せんようにな。いくら君らが強くても、過信は禁物。」


「えっ…。」


貝塚先生を振り返ると、何事も無かった様に、笑った。


「4日間も休みだから。大人しく寝てなさい。」


貝塚先生は、この学校に15年以上勤めているらしいから、色々深~くご存知なのかもしれない。




「龍、何でまだ嗅ぎ回ってんだい。

寅は恭彦ん所で仕事して、腕上げすぎだな。

加来と同じペースで調べてんじゃねえかよ。」


車に乗るなり、竜朗に叱られる。


「すいません…。俺の指示です…。」


「龍、いいか?

爺ちゃんはな、お前を子供扱いした事は無え。

出来る限り、本当の事を話して来たし、いつも本気で、正直に付き合って来た。

しかし、今回の事は言えねえ。

それ位危ねえって事なんだ。

それで分かって、手え引いてくれ。」


「…。」


「龍!」


「ごめん、爺ちゃん…。出来ません…。」


竜朗は不機嫌そうに煙草を咥え、窓を開けて火を点けると、フッと笑った。


「2度目だなあ。龍が俺の言う事、聞かねえのは…。」


「うん…。」


「瑠璃ちゃんの時と、今度は学校か…。自分の手で守りてえってか。」


「ーはい…。」


「ーなら競争だ。図書館が始末着けんのと、どっちが早えか。手加減無しだ。本気で行くぜ?」


「はい。お願いします。」


「但し、1つ条件がある。」


「何?」


「顧問がタンザワッシーから、新しい葉っぱ貰って来てくれた。

今度は剥がさず、ちゃんと着けて行く事。

それから、顧問付きでやる事。」


「ーへっ!?」


「俺が言ってもダメだったら、許可するって言ったら、あの人はもう…。

たっちゃんの時、あんな過保護じゃなかったんだけどな…。

揉めに揉めて、挙句の果てに、俺じゃなくて、龍の方に着くってよ。

て訳で、顧問と動きな。まあ、車無しじゃフェアじゃねえしな。」


「は…はあ…。」


「麗子さんまで行くっつった時は、どうしようかと思ったぜ。」


「ええ!?」


「全力でお断りしたんで、そっちは大丈夫だ。」


「ああ、びっくりした…。」


「あらかた調べたんなら分かってんだろうが、あの総合人間科学研究所とやらは、軍事要塞みてえな事になってるとも限らねえ。

バックが官邸だからな。」


「やっぱり親分は首相なの?」


「分かんねえ。微妙だ。

官房費ってのは、首相の命令でも動かせるが、官房長官の裁量1つでも動かせる。

未だ調査中って、おい。勝負だろ?

出さねえぞ、これ以上。」


龍介は苦笑して頷いた。

竜朗も笑うと、龍介の頭をいつもの様に、ガシガシと撫でた。



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