英学園の秘密
龍介達は、その足で、高等部の建物内にある、警備室と続き部屋の配電室に行って調べたが、予想通り機械は無かった。
龍介は学校の外側の出入り口に設置してある、全ての監視カメラの映像が保存されているDVDを借り受け、そのまま龍太郎の所へ、例の機械3つを持って行った。
「んん?コレ成功させた奴がいるのか…。」
龍太郎は、知っているかの様な反応をした。
「父さん、これがなんなのか知ってるのか?」
「うん。人の情動や神経に悪影響をもたらす電流っていうか、電波というか、耳には聞こえない超音波っていうか、今の所、自然界では勿論、人工でも、発見されていないし、作り出されてもいないはずのもの。
ただ、出来るんじゃないかという説だけはあった。
当然、兵器目的だけどな。」
「ーじゃあ、素人には無理って事だな…。」
「て事になるね。俺が知ってる限り、これが出来んのは、世界に1人か2人…。
それもちょっとヤバ目かも…。
龍、この件、親父に預けて、手え引きな。」
いつになく、龍太郎の目が真剣なものになっている。
「うーん…。引けそうなら引くけど…。て事は、俺目当てって事?」
「いや。俺関係で、龍だけ狙ってるにしては、遠回り過ぎるな。」
「俺だけじゃねえって、どういう事だよ。」
龍太郎は真意を隠す様にニヤっと笑った。
「おっと。喋り過ぎたかな。
いいね?これ以上調べんなよ?
つーか、龍。酷い顔色してるぞ。咳も酷いし、あの謎の葉っぱ着けて大人しくしてなさいよ?
龍になんかあったりしたら、俺が真行寺に殺されちまうよ。」
龍介は蔵を出ると、一緒に来ていた寅彦に小声で言い掛けた。
「寅、学校の奴らの…。」
「素性調べんだろ。承知してますよ、会長。」
「流石。きいっちゃんには内密に進めよう。つーか、これ調べたら寅も引け。」
「嫌だね。きいっちゃんはともかく、俺はフリーですから。」
「だって、なんかヤバそうだぜ?鸞ちゃんがいるくせに…。」
「あんたもだろ。龍。いよいよ持ってヤバそうだと思ったら、いっせーのせで手え引こう。」
「そうしよう。」
帰宅して、寅彦は直ぐ龍介に葉っぱを貼り、熱を測った。
「んがあ!40度近いぞ!寝なさい!」
「んじゃ、寅、俺の部屋でやって…。」
「そうするから、早く寝る!」
お手伝いさんに氷枕を持って来て貰い、寝かせると、早速作業にかかった。
「ははーん…。こりゃ、誰が狙われたっておかしくねえや。」
「赤松の他に、政界関係者が居る?」
「そうだな。政界関係者の他に、自衛隊でも、幕僚監部が殆ど。
それに、非常に怪しい警察関係。」
「ーつーと、公安か?」
「その通り。恐らく、図書館関係も居そうだし、内調じゃねえかなってのも。
普通の家の人間の方が少ないぜ。」
「なんでだ…?そういう子弟用の学校なのか?」
「もしかしたら、秘密裏にそういう事になってんのかも。」
「ーちょっと創始者の分倍河原さん調べてみてくれないか。現理事長も。
考えてみたら、なんか妙だ。
いくらグランパと東大の同期とはいえ、グランパが今付き合いある人は、全員、図書館の存在を知る立場にあった人ばっか。
なのに、分倍河原理事長だけが、普通の企業の会長ってだけってのも、不思議な気はしてた。」
「だよな。分かった。いいから龍は寝なさい。」
「うん。」
とか言いながら、大きな目を開いたまま、何か考えながら天井を見ている。
「龍、いい?」
「うん。どした?」
「創始者の分倍河原理事長のお父さんて人、警視庁に居たんだ。
同期の人は、先生のお父さん。
先生のお父さんは…。」
「図書館の初代顧問。ひょっとして、分倍河原さんは、うちのひいお爺さんが図書館司書になると同時に辞めてるとか?」
「その通り。直ぐに資金を集めて、英の土地買って、学校建ててる。」
「やっぱ関係者だったか。そんで、現理事長は?」
「国会図書館に毎年結構な額の寄付をしてる。で、レストラン経営の筈なんだが…。」
「うん。」
「海外にしても、国内にしても、店舗のセキュリティーが半端じゃない。
そして、警備員は、元自衛隊とか、警官とか、そんなんばっかだ。」
「なるほどね。レストランも経営はしてるが、内実は、図書館とか、情報局の仕事でも使ってんのかもしれねえな。
街中の図書館なのかもしれない。
だから、学校にしても、やたら監視カメラの数は多いし、警備員さんも常駐なんだな。」
「狙われる可能性のある子弟ばっかだからと。」
「そんな所だろう。
それに、あの過酷なカリキュラムも、鍛える一貫つーんなら、分かる気がする。
それに、俺たちが右翼に連れ去られた事件の後、更に詰所まで設けて、警備員さんを増やしたのも、過剰反応じゃねえかと思ったが、そういう事なら納得だ。
で、寅、これは難しいかな。
父さんが言ってた、例の機械を開発できそうな人物ってのは…。」
「うーん、厳しいな…。そもそもそういう電流ってのが、物理とか、どういう区分に入るのかも、俺には分からない。」
「そうだな…。俺もちょっと分からんな…。」
「龍は熱のせいで頭回んねえんだよ。飯食って、薬飲んで寝よう?」
「いや、食うと吐きそう。薬だけ飲んで寝る…。」
「お前、昨日から殆ど食ってねえじゃん…。大丈夫かよ…。」
「大丈夫、大丈夫。1週間食わなくても死なねえ…。」
「それ、体脂肪がある奴の話じゃねえの…?龍って体脂肪10いくつじゃなかったっけ?まあ、いいや。兎に角、寝なさい。」
「ん…。寅も有難う…。もう調べなくていいから…。」
「うん。分かったから。」
翌朝も微熱がある状態のくせに、学校に行く気の龍介。
「龍。本とに肺炎でも起こしたらどうすんだい。やめときな。
葉っぱの効力無くなっちまったんだろ?替えの葉っぱも無いんだしよ。」
竜朗がかなり強い口調で言うのだが、聞こうとしない。
タンザワッシーの葉っぱは効力が無くなると、自然と剥がれ落ちてしまう。
そのままずっと着けて居れば、剥がれる頃には治ったのだろうが、貼っては剥がしを繰り返したせいもあるのだろうし、それ以前に、そのまま真面目に貼っておけば、完治したものを、剥がして動いていたから、完治する前に効力が切れてしまったのだろう。
「ヤバイから手え引けって爺ちゃんも言うんだろ?きいっちゃんを説得しないと。」
「それは麗子さんに頼むから、お前はうちにいな。」
「大丈夫だよ。微熱なんだし。」
「龍!食欲無くなってんのに、倒れたりしたらどうすんだい!」
「大丈夫だよ。行ってきます。」
「こらあ!龍!」
珍しく愛する爺ちゃんの言う事も聞かず、行ってしまった。
寅彦が慌てて追いかけながら竜朗に言う。
「なんとか保健室で寝かせとく様にしますから…。」
「悪いな。頼んだぜ。」
「龍、大丈夫かよ…。あんだ、その顔色は…。」
電車で合流するなり、亀一が言うと、平然と返した。
「平気。」
「平気って顔じゃねえって…。」
心配する亀一の横で、瑠璃は泣き出さんばかりである。
「もう…。死んじゃったらどおするのよお!」
「死なねえよ。こんなの位で。」
龍介は笑って、瑠璃の頭を撫でるが、鸞も深刻な顔で、心配そうに言う。
「うちのお父さんもそう言って、気管支炎悪化させて、呼吸困難になって、死にかけたのよ?。大事にしないと、駄目よ?」
「はい。授業中は保健室で寝てます。」
うんうんと、激しく頷いて、強引に龍介を座らせた。
「龍、昨日の件だけど…。」
「アレは、相当ヤバイ話らしく、父さんからも、爺ちゃんからもストップがかかった。
多分、学校側からも、もう手え引けってお達しが来るだろう。
きいっちゃんも、動かない様に。」
「でも、監視カメラの映像は?」
その質問には、寅彦が答える。
「解析途中で、先生に没収された。お手上げだ。」
「本とだろうな?お前の事だから、直ぐにコピーとってんじゃねえのか。」
「本と。」
亀一は納得していない様な顔をしていたが、龍介の体調も最悪だし、父親としての自覚と覚悟も芽生えて来たのか、それ以上は何も言わなかった。
学校に着くなり、龍介は校長に呼ばれた。
「加納君。依頼しておいて申し訳ないんだが、この件は、警察に任せる事にしたから、もう調べなくていいからね。
寧ろ、捜査の邪魔になるから、何もしない様にして下さい。ごめんね。」
龍介は教室に1度戻り、寅彦にそっと言った。
「やっぱ、校長から待ったが入った。警察に頼むって言ってたけど、図書館だろう。繋がってんな。やっぱり。」
「なるほど。こっちは、監視カメラの解析済んだぜ。」
「じゃ、後で保健室来て。」
「了解。」




