龍介くん寝込む
「なんか今回は謎が多かったなあ…。
あの笛の男の亡霊が、エネルギーを蓄えるのに、諏訪湖に行って、そのエネルギーは人間が居ると早いからという事で、佐々木を呼んだのは、諏訪湖は瑠璃の言う通り、日本のへそで、なんか不思議な力があるからだとしても、そもそもエネルギーって何なんだよ。
生命エネルギーじゃ、死んでんだから、ゼロだし、あの男は、佐々木が奪ったって言ってたぜ。」
瑠璃と悟は大丈夫だったが、龍介が珍しく風邪をひき、翌日休んだので、亀一は見舞いに来ていた。
鸞と瑠璃は移ったら酷くなるからと、龍介に玄関で追い返されている。
「そのエネルギーってえのは、未発見の電流の様だ。
唐沢のお袋さんが言った通り、霊体は電流の集合体の様なんだな。
佐々木の身体からは、もう無くなっちまってたが、おかしくなってる間は、その電流が脳に流れ続けてたから、あんなおかしくなってたんだろう。」
「なるほど。その電流の力で笛吹いて、嫁を探してたという事か。」
「変態が笛、上手かったって?唐沢がびっくりしてたぜ。」
「そう。上手かったんだよって、佐々木はお前らの間でも変態になっちまったのか。」
笑いながら言って、咳き込む龍介の背中をさすりながら亀一は心配そうに答える。
「だって、あんなカッコで登場すんだもん。
先生にボコボコにされるわ、見た目どう見たって変態。
でも、お前大丈夫か…。
嫌な咳だな…。しずかちゃんの気管支炎の時と同じ咳じゃねえかよ…。」
鸞を送って帰ってきた寅彦が、仏頂面で代わりに答えた。
「その通り。気管支炎だよ。
熱も9度越えてるしな。
全く無茶するから…。
変態にセーター貸さなきゃ良かったんだよ。」
「変態にセーター貸したって、瑠璃抱えてたから、あったかかったぜ?」
「そうでも!
その後、亡霊とやり合ったり、お前、タンザワッシーに連れて来られる時、唐沢にダッフルまで着させたろ!?
お陰で唐沢は殆ど濡れずに無事だったが、あの寒風でシャツ1枚でずぶ濡れだなんて!」
亀一も一緒になって、睨みつける。
「全くだ。大人しくしてろよ。ちゃんと治るまで。」
「それが暇で…。あ、きいっちゃん、久しぶりに3人でゲームする?」
「しねえ!寝てろ!」
熱に強い龍介、妙なハイテンションで暇だ暇だと言うので、寝かせておく為に話し相手になるしかない。
「しかし、セーターにトランクスだけの変態の方はピンピンしてるらしいからな。
なんとかは風邪ひかねえって本当だな。」
龍介の布団を掛け直し、亀一が言うと、隣に座った寅彦も言った。
「そう。龍はバカじゃねえって立証した訳だが、ここで大人しくしねえのはバカだからな。
先生帰って来るまで見張ってる。」
「俺も。」
「もう…。つまんねえの…。
あ、麗子お婆さん、葉っぱつけて治ったって。グランパからメール来た。」
「あの麗子ババアが葉っぱつけて大人しくしてる所想像すると、笑えるなよな。」
言えてると、3人で笑って、また咳き込む龍介。
寅彦が深刻な面持ちで亀一に進言。
「きいっちゃん、笑わせちゃいかん。」
「いかんな。深刻な話をしよう。」
「それ、病人にどうなんだよ。」
「ーそれもそうだな…。
しかし、あの電流は惜しい。人体に影響は無いのに、電気機器は一発でオシャカに出来る。
軍用にしたら、凄え兵器になるぜ。」
「人体に影響あんだろ。みんな佐々木みてえなバカになっちまったらどうすんだよ。」
龍介に言われて納得。
「本当、あのバカ加減は…。
怒りを抑える事が出来ず、蹴り飛ばして、諏訪湖に放り込んでしまった。
死ぬかもとか、一切考えなかったな。
まあ、偶然とはいえ、それで正気に戻ったけど。」
「珍しいな、龍がそこまでっつーのは。でも、冷たい水に浸かって、電流がなくなったのか…。」
考え始める亀一に寅彦が言った。
「でも、諏訪湖の底には、その電流があんじゃねえの?
そこで英気を養わねえとって、笛の男が言ってたんだろ?
折角電流溜めても、冷たい水で洗い流されちまうんじゃ、プラマイゼロじゃん。」
「いや、寅。多分、その冷たい水で電流がなくなるのは、人間だけなんだ。
霊体が電流の塊だとしたら、また別の話なんだろう…。
そうだ!諏訪湖だ!諏訪湖の調査だ!」
龍介が途端に嫌そうな顔になった。
「やめとけ、きいっちゃん…。あと2カ月で赤ちゃんだって産まれるんだし、今寒いから…。」
「春休み!」
「春休みに産まれるんでしょお?側に居てやんなくてどおすんだよ。春休みだってまだ寒いよ。」
「じゃあ、ゴールデンウィークだな!家族旅行がてら!」
「生後1カ月の赤ちゃんの旅行なんて大変だぞ。まだ首座ってねえんだからさあ。」
「龍!」
「あんだよ。」
「何故お前は俺の研究の邪魔をする!」
「俺は事実を言ってんだよ。」
「やかましい!余計な御世話だ!俺は行く!絶対俺が調べる!」
「んじゃ、そん時は俺たちも連れてってね…。Xファイルでやろうね…。」
「おう!決まりだな!」
「結局きいっちゃんは、病気の時ですら、龍に保護者させてますよ。」
竜朗が帰宅した時には亀一は帰り、龍介は眠っていた。
「まあ、しょうがねえな、そこは。
亀一と龍は双子みてえなもんだもの。
寅んトコだって、双子だけど、ちゃんと寅が兄貴やっちまってるだろ?
そうなっちまうんだろう。」
「そうですねえ…。」
竜朗は龍介の額に手を当てた。
「うーん…。下がんねえな…。」
「夜になって、また上がって来ちゃったみたいです。」
「そうなんだよな…。しずかちゃんもそうだった…。」
心配そうに龍介を見つめた後、寅彦に笑いかけながら、頭を撫でた。
「ありがとな、寅。もういいよ。後は俺が見てる。」
「なんかあったら、直ぐ声かけて下さい。」
「おう。ありがと。」
その頃、真行寺は、麗子と2人で、雪だるまの様に、こんもりとダウンジャケットやマフラーで防寒して、丹沢湖に居た。
「本当に来るのかい?そのタンザワッシーとやらは。」
「来るはず。他ならぬ龍介の危機だからな。」
「もしかして、龍介の近所の水辺とかって可能性は無いのかい。送って来てくれた学校のプールとか。」
ハッとなって固まる真行寺…。
「ほらあ。あっちで待ってた方が良かったんじゃないのかい?」
「ーい、いや…。知り合いが居る所に来るから…。」
「そう。まあいいけどね。こういうのも面白いから。あ、コーヒー湧いたよ。」
麗子はピクニック気分で、コーヒーを沸かし、マグカップとクッキーを真行寺に手渡した。
「ありがと。」
2人で並んでコーヒーを飲みながらクッキーを食べていると、ザッパーンというお馴染みの水音と共にタンザワッシーが現れた。
「おお!タンザワッシー!待ってたぜ!」
「あおん!」
タンザワッシーは、2種類の葉っぱを出した。
「あおん。あおん。」
1枚を咥え、真行寺のおでこの辺りを差し、もう1種類の方を、胸の辺りを差しながら咥えた。
「こっちをデコに貼って、こっちを胸に貼るんだな?気管支炎だから。」
「あおん!」
ご機嫌良く答えるタンザワッシー。
「凄いねえ。会話が成立してるじゃないか。」
楽しそうな麗子はタンザワッシーの頭を撫でた。
「この間はありがとね。熱下がったよ。いい子だね、あんた。」
「あおん。あおん。」
タンザワッシー、ご機嫌。
麗子に頬ずりして、真行寺にも撫でられて、礼を言われ、真行寺にも頬ずりして帰って行った。
「ねえ、タンザワッシーの作者の子は、こんな恩恵受けてないんじゃないのかい?なんで、龍介やあんただけなんだろうね。」
「産みの親にあまり感謝してねえのか、産みの親はそう困った事態にならねえのか…。
まあ、タンザワッシーも、タンザワッシーの世界も、救ったのは龍介だからな。」
「あんたも分かんないなりに助けてやったから、こうして助けてくれてるんだろう。うん。なんか長生きして得した気分だね。あんな可愛い幻想生物に会えるなんて。」
「そうだなあ。じゃあ、帰るか。」
「ん。龍介に届けてやらないとね。」
翌朝、龍介は大分気分良く目覚めたが、おでこと胸の葉っぱで力が抜けた。
ータンザワッシーのお陰で、病気になっても、直ぐ治るのは有難いけど、うちは童話の様だな…。
「龍、熱下がった様だが、学校どうする。今日はまだ休んどくかい?」
竜朗が体温計を見ながら聞くと、苦笑している。
「葉っぱつけて学校行くのはもう嫌だ。」
「そらそうだな。葉っぱ落ちるまで休んでな。」
「うん。」
しかし、学校では問題が起きていた。
「これは生徒会長が居ねえとダメだな…。」
生徒会室で、副会長の亀一が言うと、皆、唸りながら頷いた。
龍介はまた葉っぱをつけて登校する事になりそうだ。




