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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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やっぱり居た!

雪はどんどん酷くなり、嵐山はさあーっと通り過ぎただけで、太秦に行ったが、予約時間から遅れてしまい、次の予約が入っているという事で、ここも結局、さあーっとしか見られなかった。


「初めての観光なのにね。」


鸞が苦笑混じりに言った。

そう。

英に入学して、5年目にして、漸くの純粋な観光なのだが、無残に散った。


バスに乗り込む頃、雪は更に酷くなっていた。

太秦を出て、似たような観光バスとすれ違う。

次の予約をしている高校生かもしれない。


「なんだか、あの黒い雲、あのバス追い掛けてるみたいじゃない?」


瑠璃が言った。

確かに、その観光バスに近付くにつれ、雪は酷くなり、離れるに従って、小降りになって来ている。


「まさか、佐々木が乗ってるんじゃああ!?」


亀一が叫ぶと、龍介はまた笑った。


「んな訳ねえだろ。

大体、金沢から京都ってルート取るなんて、うちの学校位だろ。普通、京都奈良だろ?

大丈夫だよ、そんな戦々恐々としなくたって。」


「いいやっ!なんか嫌な予感がする!」


「あんた科学系なくせに、意外とそういう事言うよな。」


「佐々木に会いませんように、会いませんように…!」


「そんな…。」


龍介は笑っているが、亀一としては、気が気ではない。

大体、悟が起こすトラブルは、いつだって、龍介が迷惑を被っている。

口では直ぐに悪態をついたり、偉そうにしている亀一だが、元来、仲間意識は強い。

龍介が危険な目に遭う度に、内心、寿命が縮む思いで心配しているのだ。


お菓子の八ツ橋で有名な聖護院に泊まり、枕投げをしながら、亀一はまだブツブツ言っている。


「大丈夫だよ。そん時はそん時。」


龍介が言うと、寅彦も頷いた。


「まあ、どうにかなんだろ。それにいくらなんでも、遭遇する事は無えだろ。」


枕投げは、部屋のメンバーが龍介達とラグビー部なもんだから、凄いスピードで斜めにバシバシ飛んで来ているのだが、普通に話せてしまう3人のクオリティ。


ガチャっとドアを開けた先生の顔面に枕が当たり、流石に全員固まってしまった。

先生は枕を握り締め、静かに言った。


「静かに枕投げって、訳分からんな、お前らは…。投げずには居れない気持ちは分かるが、早く寝なさい…。」


「はい…。すみません…。」


龍介達の担任の先生は、静かに怒りを溜めながら怒るので、いつ大爆発を起こすのだろうかという不安から、別の意味で少し怖い。




翌日は班行動で、予め調べると決めていた事柄を調べに行って、体験して、後ほどレポートにまとめるという事をやる。

龍介達は、枯山水の成り立ちや作り方を選び、龍安寺に行った。

石庭のお話を聞き、実際に体験させて貰ったりして無事終了。

人気のある寺なので、ご迷惑にならないよう、なるべく早く済ませたので、随分早く終わった。

龍安寺から聖護院のホテルまでは、そんなに距離は無い。

ブラブラとお土産を買いながら歩いて、帰るつもりだったが、雪はどんどん酷くなって来た。


「タクシー拾って帰るか。」


龍介がそう言ったのは、小さな橋のたもとだった。

龍介達は雪中行軍もした事があるので、平気だったが、女の子達が心配だったからだ。


「でも、半分は歩いてきたわ。大丈夫よ。」


鸞がそう言い、瑠璃も頷いたので、また歩き始めようとした所で、龍介は足を止めた。

橋のたもとで、固まっている高校生がいる。

顔を覗き込んで、驚いた。


「佐々木?何してんだ。」


亀一が後ろで何か喚いて、龍介を引っ張るが、龍介は悟の顔が気になった。

真っ白い顔で、虚ろな目をしていて、とてもじゃないが、平気そうに見えない。


「か…のう…。」


「どうした…。」


龍介はそう言いながら、悟の手元を見て、流石に言葉に詰まった。

悟の手は、得体の知れない世界に入ってしまっていた。

瑠璃の母が言っていた、薄いカーテンの向こう側の世界ー即ち、お化けの世界に手を引っ張られていたのである。


「こっち来い!」


龍介は悟を引っ張った。

だが、龍介の力を持ってしても、悟の手はそこから抜けない。

状況が分かった亀一達も、龍介が引っ張られては堪らないと、龍介毎引っ張り始めるが、凄い力で逆に引っ張られた。


「用件を言え!なんか用事があるんじゃないのか!」


龍介がカーテンの向こう側に向かって叫ぶと、カーテンの向こう側に、衣冠束帯の男性が現れた。


「笛を…返せ…。」


「笛?佐々木、笛ってなんだ。」


悟はおずおずとポケットから小さな古い横笛を出した。

衣冠束帯の男性は、その笛を取ると消え、龍介達を引っ張っていた力もなくなり、カーテンの向こう側の世界も目の前から消えた。


「なんだ、あの笛。」


「なんでもない。」


悟は目を伏せ、立ち去ろうとするが、亀一より先に、鸞が悟の前に立ち塞がった。


「ちょっと待ちなさい。なんでもないって事ないでしょう。あなた、さっきのお化けさんの持ち物奪い取ったって事なんじゃないの?」


「ー奪い取った訳じゃないよ…。落ちてたの、拾っただけだよ…。」


「いい年して、そこら辺に落ちてたからって、あんな曰くありそうな物無闇やたらと拾うなって言ってんの!もう!行きましょう!」


鸞が怒ってとんでもない方向へ歩き始めてしまったので、寅彦が慌てて回収に走っている。


「まあ、鸞ちゃんの言い方はキツイけど、一理あるな。気をつけろよ?」


「うん…。」


まだ顔色の悪い悟を心配そうに見ながらそう言う龍介を、亀一と瑠璃が引っ張った。


「行くぞ、龍。」


「行きましょ、龍。」


悟は何も知らない様子のクラスメートが合流したので、龍介もやっと動いた。


「私、ああいうタイプって、イライラしちゃうのよっ!龍介君、よく平気ね!」


鸞のお怒りはまだ収まらない様子。


「まあ、俺もイラッとはするけど、目の前で困ってられるとねえ…。」


「助けないで、ほっときなさいな!いい薬になるわ!」


「はいはい。分かったから、そう怒らないで。美人台無しだぜ?」


「お父さんみたいな事言わないでっ!」


すると、後ろに誰か立った。

振り返ると、雪だるまの様に雪を積もらせた、担任の先生だった。


「何を怒っているんだ、京極は。美人が台無しだぞ。」


「先生まで…。いえ。龍介君達の小学校時代のお友達に偶然会ったんですけど、余計な事して、トラブル発生しそうになってたので…。」


「そうかあ…。そういうのは、なかなか直らんからなあ…。そいつはもしかして、県立古淵高校か?」


「先生、何故それを?」


龍介が雪を払ってやりながら聞くと、先生は礼を言いながら話し始めた。


「あそこの高校、うちの卒業生の俺の元生徒が教員やってるんだよ。

それで、この時期に、金沢の兼六園と、東尋坊、京都ってルートで修学旅行させてみるんだって言ってたからさ。」


「そうなんですか。」


「会えるといいなって言ってたから、京都中歩いてみたんだが、生徒には会えても、奴には会えんかった。」


「それで先生は雪だるまに…。」


「ははは。まあね。ささ、なんか本当に酷い天気になって来た。早く戻ろう。」




ところが、かなり離れた所を研究対象に選んだ子達が帰って来られなくなってしまった。

先生達が連絡を取ったり、迎えに行ったりして、みんな無事に帰って来たものの、1番遅かった赤松達の班は、8時近くに漸く夕食になった。


「大変だったな。」


龍介が労うと、赤松は苦笑で答えた。


「欲張ったのが悪かった。だけど、俺たちはいいんだけどさ…。」


「ん?」


「帰って来る時に、古淵高校の先生に会ったんだ。凄え慌てた。なんか2人程、行方不明になっちまったらしくて、見なかったかって…。」


龍介達全員の脳裏に悟が浮かんだ。


「どんな奴だって言ってた?」


「背は166位。筋肉質だけど、細身で、眼鏡の奴と、背は170位。天パで長めの髪の、細〜い女の子みたいな感じの男で、名前何つってたかな…。」


「佐々木悟と柏木朱雀じゃないか?」


「あ、そう。そう言ってた気がする。」


食堂の椅子から立ち上がり、動き出そうとする龍介を亀一と瑠璃が止めた。


「止めとけ、龍!いくら朱雀が一緒でも、俺たちも旅行中だ!先生が捜索なんか許す訳ねえだろ!」


「そうよ!それに、佐々木君は…!」


口籠る瑠璃の顔を覗き込み、龍介は静かな声で聞き返した。


「佐々木はなんだ、瑠璃。」


「ー佐々木君は…。あの時、笛を返しても、取り憑かれた目をしてたわ…。私達が助けられない所にいるかもしれない…。」


「だとしても、一回助けたよな?」


「そうでも、ここはよく知ってる街じゃないわ!

なんか居るとしても、相模原よりずっと年季が入ってて、太刀打ち出来るような単純な物じゃないと思う!

相模原で通用する事が、ここでも通用するとは限らない!」


「カーテンの向こう側に行っちまったとしても、こっち側に居るとしても、この寒さの中、無事に一晩越すのは難しい。行く。」


「駄目だ!」


「駄目よ!」


赤松達も、なんだか分からないが、全員で止めだすと、龍介の携帯が鳴った。


「ー朱雀!?」


「龍!?助けて!」


「何処にいる!?」


「それが分からないんだ!

気が着いたら、凄い山奥みたいな所入っちゃってて、悟はボーっとしちゃって、様子がおかしくなってるし、いくら歩いても、出られないんだ!」


「カーテンの向こう側か?」


「僕もそう思った。でも違うみたい。お化けは一切居ないんだ…。怖いよお…。どうしよう…。」


「そっちの先生には?」


「連絡した…。そこを見つけ出して、警察と来てくれるって言ってたけど…。もうそれから2時間も経ってるんだ…。でも、まだ来ない…。」


龍介はテーブルの上に紙を広げ、朱雀に言った。


「大丈夫。絶対助けてやる。出来る限り、ありったけ見える風景を言え。」


亀一は諦めともつかない大きなため息をつき、瑠璃と寅彦は苦笑しながらパソコンを広げた。

















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