色々解決
夕食中、男同士なので、仕事の話は直ぐに出たが、流石に核心にまでは触れなかった。
しかし、翌日の競馬には誘われたので、それには乗ってやった。
真行寺の息子は、外交官という情報は流しておいた。
これで明日、真行寺が競馬で大負けして、金に困っていると匂わせれば、息子から国家機密を盗み出して流せば、金が入ると誘って来るかもしれない。
そうしたら儲けものなので、麗子にも、その作戦を話しておく。
隣も寝た様だし、麗子の株の売り買いも終わったので、寝る事になったが、ベットはキングサイズのダブルベット1つしか無い。
「ベット、使えよ。」
「あんたどこに寝るんだい。」
「俺はここでいい。」
真行寺がソファーに座ったまま言うと、麗子は無表情にベットの右端に座って言った。
「あんたみたいにでっかいのが、ソファーで寝られる訳ないじゃないか。
年なんだし、こっちで寝な。
アタシの隣が嫌だってんなら別だけど。」
「ーいや…。」
「じゃ、早く寝な。」
麗子はそう言うと、真行寺に短刀を見せ、枕元に置いて、向こうを向いて横になった。
続いて、電気を消し、真行寺も横になったが…。
ーね…眠れない…!
寝ようとすればするほど緊張して来て、眠れなくなって来た。
「ー麗子…。」
小さな声で呼んでみると、短刀片手に振り返る。
「なんだい。」
「いや、あの…。」
「………。」
ーあああ…。凄え緊迫感…。
「ーな、なんでもない…。おやすみ…。」
「ああ。」
翌日、朝食の後、4人で真行寺の車で競馬場へ行く。
川島夫婦はタクシーでホテルまで来た様で、足は無い。
しかし、結論からいうと、計画は上手く行かなかった。
競馬場に入った途端、勝負師の顔付きになった麗子が気にはなったものの、そのままにしておいたら、案の定大勝ちしてしまい、真行寺の損失など、軽く補える額を稼いでしまったからだ。
「お前さあ…。昨日の計画話したろ…?」
ホテルに帰って来てから、ご機嫌の麗子に言うと、少しバツが悪そうな顔にはなったものの、やっぱり開き直った。
「あたしゃ、株の相場師だよ。言わば、勝負師だ。わざとだろうが、負けるなんて出来ないんだよ。」
真行寺は、麗子の子供の様な顔を見ていたら、怒る気も失せて、笑い出してしまった。
「ああ、そうだな。ごめん。」
てっきりいつもの様に喧嘩になると思っていた麗子は、拍子抜けしている。
「でも、向こうは警戒心は解いてるし、素人だ。仕掛けなくても、尻尾は出すだろう。」
真行寺は柔らかい表情のまま、穏やかにそう言うと、隣の盗聴に戻った。
麗子は何故か困った様な顔になり、窓辺に座り、パソコンに株価を開いたまま、ぼんやりしていた。
ーどうしたんだ…。なんかいつもと違うな…。相変わらずちゃんと本心言ってくれねえし…。
気になりつつ、盗聴していると、川島の電話が鳴った。
日本語で話し、誰かと会う約束をしている。
明日の朝4時に海岸で落ち合うらしい。
「来た。これだ。ー麗子。」
「なんだい。」
「夕食の最中、間で抜けて、隣の部屋を調べて、データを確認する。上手く繋いでくれ。」
「はいよ。」
真行寺は龍介に報告を入れた。
夕食が始まって直ぐ、真行寺は早速作戦を開始した。
「麗子、薬持って来たか。」
「持って来てないね。」
「ダメじゃないか。あれは食前に飲むんだろ。」
「後だって平気だよ。」
「ダメだ。ちゃんと正しい飲み方しないと。取って来てやるから、食べないで待ってなさい。」
「はいはい。」
真行寺は急いで戻り、川島夫婦の部屋に侵入し、データを探し始めた。
USBかMDカードで持っているはずだ。
ベットサイドの貴重品入れから、直ぐに見つかる。
ー素人だなあ。こんなとこ入れちゃって…。
早速持って来たパソコンに、そのUSBを差し込むと、持ち出し禁止のデータがたっぷり入っていた。
真行寺の荷物に入っていた、空のUSBの山の中から同じ物を出し、すり替えて、部屋を出、麗子に飲ませる薬を持って、何食わぬ顔で戻る。
麗子は薬の類いは飲んでいないので、サプリメントだが。
「ほら。」
「ありがと。ああ、こちらさん、あなたが体格いいのはなんでかって。剣道やってて、今もやってるって言ったら、お願いがあるそうだよ。」
「ほお。なんですか。」
「いえ、あの…。実は、商談を控えてまして…。
その相手がちょっとヤバそうな人っていうか…。
何するか分からないような所がある人なので、ボディーガードについて頂けないかと…。」
「陰で商談を見守ってればいいのかな?でも、そんな商談、大丈夫なんですか。」
「ええ、大丈夫なんです…。」
「本当に?なんだか心配だな。悪い事なんじゃないの?」
「悪い事なんかじゃないですよ。お互いの利益になるし、自分の幸せを追求してるだけなんですから。」
川島は大威張りで言った。
ここまで罪の意識もなく、自己中心的だと、怒るより先に、吐き気を催す位だ。
真行寺も麗子も、ムッとなりそうなのを堪えた。
「そう。ならいいけど。」
「すみません。相手に見つからない様に、こっそりお願いします。」
「なんだい、あいつは!本当、イマドキで嫌んなっちまうね!」
部屋に入るなり、麗子は巾着をベットに叩きつけて怒った。
「全くだな。ついでに痛い目に遭わせてやろう。」
「そうしときな。でも、あいつ、2度とシャバには出てこれないだろ?」
「まあね。明日の朝は、ちょっとした捕物になる。部屋から出るなよ?」
何故か返事をしない麗子。
「麗子~?」
「はいよ。」
なんだか嫌な予感がしないでもない様な…。
翌朝4時。
真行寺は気配を消して、岩場の陰に潜んでいた。
川島が暫く待っていると、男が2人現れた。
ロシア人だ。
川島がUSBを渡し、男の一人がパソコンに繋ぐ。
「なんのマネだ。」
男が川島に、パソコン画面を見せる。
中身は当然空だから、川島は慌てる。
「え!?そんな筈は…!」
「お前、日本の公安か。」
ロシア人2人が銃を出し、川島を撃とうとする。
「ひいいいー!!!」
腰を抜かし、這いつくばって逃げようとする川島。
「まだ助けてやんないのかい。」
今度は真行寺が腰を抜かしそうになった。
麗子が真行寺の隣に、しゃがんでいる。
「何をしてるんだ!危ねえから部屋居ろって言ったろ!?」
「見たかったんだよっ!あのバカが痛い目に遭うのがっ!ほら!そろそろいいんじゃないのかい!?」
どうも不自然な言い訳に聞こえたが、真行寺は満を持して、今まさに川島を撃とうとしているロシア人の銃を持つ手を撃った。
当然、もう1人が、真行寺を撃って来る。
利き腕を撃たれた奴も、片方の手で撃って来るし、緊迫した銃撃戦になって来た。
その3人の銃撃戦のど真ん中に川島が居る。
「真行寺さん!助けてえええ!」
「誰がお前みたいな最低人間助けるか!命が惜しけりゃてめえでなんとかするんだな!」
「うわあああー!」
川島は動く事も出来ず、そこでジタバタもがいているだけだ。
弾倉を変え、麗子に身を小さくさせて、自分を盾にして守りながら撃ち続け、岩場に隠れながら応戦。
ロシア人2人が倒れた所で、デビットと図書館の人間数名が来た。
「あら、グランパ凄~い。まだまだ現役ね。」
「遅くねえか、デビット。」
「ごめんなさいね、ちょっと手間取っちゃって。」
そして、3人を連行しながら、ニヤっと笑った。
「しっかり急所外してあるのね。流石だわ。」
みんな居なくなり、真行寺は麗子を振り返って見た。
「ーごめんね…。来ちまって…。」
麗子の口からごめんというのは、初めて聞く。
「どうして来た…。」
「あんたも年だしさ…。このまま死んじまったら嫌だなとか考えてたらさ…。」
「心配してくれたのか…。」
その途端、キッと真行寺を睨みつける。
「そんな訳ないだろっ!あんたの事、心配なんて!」
真行寺はニヤーっと笑った。
「そおかあ?真っ赤だぜ、顔。」
「うるさいよ!」
「任務も終わったし、帰るか?それとももう少し滞在して、この辺観光してみるか?」
「うん…。」
「どっちの『うん』だよ。」
「観光…。」
「じゃ、そうしよう。少し歩くか。」
「ん。」
真行寺は自然に麗子の手を取り、海岸を歩き始めた。
麗子も怒らず、黙ってついて行く。
「私も悪かったよ…。」
「何が?」
「あの時…。結局は他の子と手を切ったんだから、それであんたを信じれば良かったのに…。短気起こしてごめんね…。後悔してる…。」
「ーじゃ、おあいこだな。」
「まあそうだね…。」
「ー俺たちは、あと何年生きられるか分かんねえけど、一緒に居てみるか。死ぬまで。」
「……。」
「今更か?」
「いいや。いいよ。でも、その代わり。」
「ああ、何。」
「絶対にアタシより先に死なないでよ。」
真行寺は幸せそうに笑って頷いた。
「ああ。1分でも1秒でも、お前の後に死ぬよ。」
「約束だからね。」
「本と寂しがりだな。」
「うるさいよ。」
いつもの言い合いの様相を呈して来たが、いつもとは違う。
2人は幸せそうに笑って、言い合いを楽しんでいた。




