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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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色々解決

夕食中、男同士なので、仕事の話は直ぐに出たが、流石に核心にまでは触れなかった。

しかし、翌日の競馬には誘われたので、それには乗ってやった。


真行寺の息子は、外交官という情報は流しておいた。

これで明日、真行寺が競馬で大負けして、金に困っていると匂わせれば、息子から国家機密を盗み出して流せば、金が入ると誘って来るかもしれない。

そうしたら儲けものなので、麗子にも、その作戦を話しておく。


隣も寝た様だし、麗子の株の売り買いも終わったので、寝る事になったが、ベットはキングサイズのダブルベット1つしか無い。


「ベット、使えよ。」


「あんたどこに寝るんだい。」


「俺はここでいい。」


真行寺がソファーに座ったまま言うと、麗子は無表情にベットの右端に座って言った。


「あんたみたいにでっかいのが、ソファーで寝られる訳ないじゃないか。

年なんだし、こっちで寝な。

アタシの隣が嫌だってんなら別だけど。」


「ーいや…。」


「じゃ、早く寝な。」


麗子はそう言うと、真行寺に短刀を見せ、枕元に置いて、向こうを向いて横になった。

続いて、電気を消し、真行寺も横になったが…。


ーね…眠れない…!


寝ようとすればするほど緊張して来て、眠れなくなって来た。


「ー麗子…。」


小さな声で呼んでみると、短刀片手に振り返る。


「なんだい。」


「いや、あの…。」


「………。」


ーあああ…。凄え緊迫感…。


「ーな、なんでもない…。おやすみ…。」


「ああ。」




翌日、朝食の後、4人で真行寺の車で競馬場へ行く。

川島夫婦はタクシーでホテルまで来た様で、足は無い。


しかし、結論からいうと、計画は上手く行かなかった。

競馬場に入った途端、勝負師の顔付きになった麗子が気にはなったものの、そのままにしておいたら、案の定大勝ちしてしまい、真行寺の損失など、軽く補える額を稼いでしまったからだ。


「お前さあ…。昨日の計画話したろ…?」


ホテルに帰って来てから、ご機嫌の麗子に言うと、少しバツが悪そうな顔にはなったものの、やっぱり開き直った。


「あたしゃ、株の相場師だよ。言わば、勝負師だ。わざとだろうが、負けるなんて出来ないんだよ。」


真行寺は、麗子の子供の様な顔を見ていたら、怒る気も失せて、笑い出してしまった。


「ああ、そうだな。ごめん。」


てっきりいつもの様に喧嘩になると思っていた麗子は、拍子抜けしている。


「でも、向こうは警戒心は解いてるし、素人だ。仕掛けなくても、尻尾は出すだろう。」


真行寺は柔らかい表情のまま、穏やかにそう言うと、隣の盗聴に戻った。

麗子は何故か困った様な顔になり、窓辺に座り、パソコンに株価を開いたまま、ぼんやりしていた。


ーどうしたんだ…。なんかいつもと違うな…。相変わらずちゃんと本心言ってくれねえし…。


気になりつつ、盗聴していると、川島の電話が鳴った。

日本語で話し、誰かと会う約束をしている。

明日の朝4時に海岸で落ち合うらしい。


「来た。これだ。ー麗子。」


「なんだい。」


「夕食の最中、間で抜けて、隣の部屋を調べて、データを確認する。上手く繋いでくれ。」


「はいよ。」


真行寺は龍介に報告を入れた。




夕食が始まって直ぐ、真行寺は早速作戦を開始した。


「麗子、薬持って来たか。」


「持って来てないね。」


「ダメじゃないか。あれは食前に飲むんだろ。」


「後だって平気だよ。」


「ダメだ。ちゃんと正しい飲み方しないと。取って来てやるから、食べないで待ってなさい。」


「はいはい。」




真行寺は急いで戻り、川島夫婦の部屋に侵入し、データを探し始めた。

USBかMDカードで持っているはずだ。

ベットサイドの貴重品入れから、直ぐに見つかる。


ー素人だなあ。こんなとこ入れちゃって…。


早速持って来たパソコンに、そのUSBを差し込むと、持ち出し禁止のデータがたっぷり入っていた。

真行寺の荷物に入っていた、空のUSBの山の中から同じ物を出し、すり替えて、部屋を出、麗子に飲ませる薬を持って、何食わぬ顔で戻る。

麗子は薬の類いは飲んでいないので、サプリメントだが。


「ほら。」


「ありがと。ああ、こちらさん、あなたが体格いいのはなんでかって。剣道やってて、今もやってるって言ったら、お願いがあるそうだよ。」


「ほお。なんですか。」


「いえ、あの…。実は、商談を控えてまして…。

その相手がちょっとヤバそうな人っていうか…。

何するか分からないような所がある人なので、ボディーガードについて頂けないかと…。」


「陰で商談を見守ってればいいのかな?でも、そんな商談、大丈夫なんですか。」


「ええ、大丈夫なんです…。」


「本当に?なんだか心配だな。悪い事なんじゃないの?」


「悪い事なんかじゃないですよ。お互いの利益になるし、自分の幸せを追求してるだけなんですから。」


川島は大威張りで言った。

ここまで罪の意識もなく、自己中心的だと、怒るより先に、吐き気を催す位だ。

真行寺も麗子も、ムッとなりそうなのを堪えた。


「そう。ならいいけど。」


「すみません。相手に見つからない様に、こっそりお願いします。」




「なんだい、あいつは!本当、イマドキで嫌んなっちまうね!」


部屋に入るなり、麗子は巾着をベットに叩きつけて怒った。


「全くだな。ついでに痛い目に遭わせてやろう。」


「そうしときな。でも、あいつ、2度とシャバには出てこれないだろ?」


「まあね。明日の朝は、ちょっとした捕物になる。部屋から出るなよ?」


何故か返事をしない麗子。


「麗子~?」


「はいよ。」


なんだか嫌な予感がしないでもない様な…。




翌朝4時。

真行寺は気配を消して、岩場の陰に潜んでいた。

川島が暫く待っていると、男が2人現れた。

ロシア人だ。

川島がUSBを渡し、男の一人がパソコンに繋ぐ。


「なんのマネだ。」


男が川島に、パソコン画面を見せる。

中身は当然空だから、川島は慌てる。


「え!?そんな筈は…!」


「お前、日本の公安か。」


ロシア人2人が銃を出し、川島を撃とうとする。


「ひいいいー!!!」


腰を抜かし、這いつくばって逃げようとする川島。


「まだ助けてやんないのかい。」


今度は真行寺が腰を抜かしそうになった。

麗子が真行寺の隣に、しゃがんでいる。


「何をしてるんだ!危ねえから部屋居ろって言ったろ!?」


「見たかったんだよっ!あのバカが痛い目に遭うのがっ!ほら!そろそろいいんじゃないのかい!?」


どうも不自然な言い訳に聞こえたが、真行寺は満を持して、今まさに川島を撃とうとしているロシア人の銃を持つ手を撃った。

当然、もう1人が、真行寺を撃って来る。

利き腕を撃たれた奴も、片方の手で撃って来るし、緊迫した銃撃戦になって来た。

その3人の銃撃戦のど真ん中に川島が居る。


「真行寺さん!助けてえええ!」


「誰がお前みたいな最低人間助けるか!命が惜しけりゃてめえでなんとかするんだな!」


「うわあああー!」


川島は動く事も出来ず、そこでジタバタもがいているだけだ。

弾倉を変え、麗子に身を小さくさせて、自分を盾にして守りながら撃ち続け、岩場に隠れながら応戦。

ロシア人2人が倒れた所で、デビットと図書館の人間数名が来た。


「あら、グランパ凄~い。まだまだ現役ね。」


「遅くねえか、デビット。」


「ごめんなさいね、ちょっと手間取っちゃって。」


そして、3人を連行しながら、ニヤっと笑った。


「しっかり急所外してあるのね。流石だわ。」


みんな居なくなり、真行寺は麗子を振り返って見た。


「ーごめんね…。来ちまって…。」


麗子の口からごめんというのは、初めて聞く。


「どうして来た…。」


「あんたも年だしさ…。このまま死んじまったら嫌だなとか考えてたらさ…。」


「心配してくれたのか…。」


その途端、キッと真行寺を睨みつける。


「そんな訳ないだろっ!あんたの事、心配なんて!」


真行寺はニヤーっと笑った。


「そおかあ?真っ赤だぜ、顔。」


「うるさいよ!」


「任務も終わったし、帰るか?それとももう少し滞在して、この辺観光してみるか?」


「うん…。」


「どっちの『うん』だよ。」


「観光…。」


「じゃ、そうしよう。少し歩くか。」


「ん。」


真行寺は自然に麗子の手を取り、海岸を歩き始めた。

麗子も怒らず、黙ってついて行く。


「私も悪かったよ…。」


「何が?」


「あの時…。結局は他の子と手を切ったんだから、それであんたを信じれば良かったのに…。短気起こしてごめんね…。後悔してる…。」


「ーじゃ、おあいこだな。」


「まあそうだね…。」


「ー俺たちは、あと何年生きられるか分かんねえけど、一緒に居てみるか。死ぬまで。」


「……。」


「今更か?」


「いいや。いいよ。でも、その代わり。」


「ああ、何。」


「絶対にアタシより先に死なないでよ。」


真行寺は幸せそうに笑って頷いた。


「ああ。1分でも1秒でも、お前の後に死ぬよ。」


「約束だからね。」


「本と寂しがりだな。」


「うるさいよ。」


いつもの言い合いの様相を呈して来たが、いつもとは違う。

2人は幸せそうに笑って、言い合いを楽しんでいた。



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