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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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任務のお陰で、ちょっといい感じ?

真行寺はカチンコチんになりながらも、しっかり麗子をエスコートして乗せた後、暫く走ってから、車を停め、またご丁寧にエスコートして降ろすと、車の中を捜索し始めた。

シートの裏、ミラーの裏、その他諸々。


「なんだい。盗聴器かい。」


「ああ。龍介が気前がいいのは分かってるが、飛行機代出してやってまで瑠璃ちゃんを連れて来たってのが引っかかる。

これが本当にリアルな仕事なのかも怪しい。」


しかし、見つからない。


「おかしいな…。なんか臭うんだが…。」


「あんたが見て無いんじゃ、本当に無いんじゃないのかい?」


「いや、でも盗聴器臭がする…。」


「なんだい、そりゃ。」


「ーまあ、仕方ないか。じゃあ、乗って。」


またドアを開けてエスコートしようとすると、麗子に迷惑顔で見られる。


「いいよ。若い子じゃないんだから、そんな事しなくたって。」


「着物じゃ乗り降りし辛いだろうと思ったんだよ。苦じゃねえから、一々気にすんなっ。」


「ああ、そう。そりゃどうも。」




「流石お父さん、どこに隠したんだよ。」


龍介と瑠璃は勿論盗聴していた。


「本とねえ。でも臭うって何?なんかそういう雰囲気みたいなのが分かるものなの?」


「こういう仕事長いと、なんかカンみたいなの物で分かるらしいぜ。」


「へえ…。」


という訳で、爺婆ロマンス応援隊の龍介と瑠璃の盗聴は、順調な滑り出しを見せた。




再び重苦しい沈黙が流れた後、真行寺が気弱な声で言った。


「ー喧嘩腰でなく、普通に話さないか…。本当に仕事だったら困るし…。道中は長い…。」


反抗するかと思った麗子だったが、意外と素直な反応をした。


「そうだね…。疲れるし。」


ほっとした様子で、真行寺は麗子に自分のスマホを渡した。


「龍彦からデータが来た様だ。読み上げてくれ。」


「はいよ。男の名前は、川島治。36歳。

妻、亜紗見と休暇を取って、今日からに滞在。

蔵に出入りしてる建材関係の会社の技術者だ。サトウ建材だって。」


「宇宙の星作る方に関わってんだな…。超トップシークレットだ。」


「そうだね。結構な給料貰ってるのに、借金まみれだそうだ。」


「それでまとまった金を欲して悪事に手を染める可能性ありって事か。

持ち出し禁止のデータ持ってたら、黒って事だな。こりゃ本物かもな。」


「あんたは、女癖の悪さ置いとけば、国防大臣やってた男じゃないか。

いくら爺さんでも、ヤラセの仕事なんか直ぐバレちまうし、たっちゃんは実際忙しいんだろ?本物だろうさね。」


「なんだか段々分からなくなってきたな。」


「スパイの考えてる事は分かんないんじゃないの?親でもさ。」


「それは言えてるな…。」


また沈黙。


「あ…あのさ…。」


「なんだい。」


不機嫌そうな声では無いので、ちょっぴりほっとする。


「悪かった…。」


「ーなんの話だい。」


「大学4年の時…。

うちで待ってて貰ったのに、あんな醜態晒す事になって、裏切ったみたいになってしまって、本当に悪かった…。

ずっと謝りたかったんだ…。ごめん…。」


麗子は黙ってしまった。

チラッと見ると、怒っている様子は無い。

窓の外の風景を見ている。


「あの時ね、こっちの田舎の方に来てみたかったんだよ。

でも、行き方が分からなくてね。

ロンドンだけで終わっちまった。

なんか佳吾がどっかしらに居るのは面白かったけどね。」


「う…。」


「あんたが佳吾に頼んだんだろ?」


「う…うん…。嫌だったか…。」


「いや、別に。面白かったって言ったじゃないか。」


再び沈黙。




「なんか会話が長続きしねえな…。」


やきもきする龍介に、瑠璃が笑いかけた。


「でも、言い合いじゃないからいい感じなんじゃない?早速、お爺様が素直になった感じだし。」


「まあね…。」


「ホテルに入っちゃったら、もう盗聴は出来ないわ。どうするの?」


「お父さんが自然に任せろ、多分どうにかなるってさ。」


「へえ…。そういうものなんだ…。ホテルの監視カメラでもハッキングしましょうか。」


「したって、廊下だけだろ?

あんたはホテルに入ったら、サポートに徹してなさい。

やるのは元顧問。

それにしちゃ簡単な仕事とはいえ、麗子お婆さんはその道のプロって訳じゃない。

一応、本物の任務なんだから。」


「はーい。」




イーストボーンのホテルに着くと、真行寺は早速、龍彦が車に用意してくれていた荷物を開け、中身をチェックする。


それと同時に龍介から連絡が入る。


「グランパ、川島は隣の部屋に予約取ってる。まだチェックインしてない筈だ。」


「龍介が司令か。龍彦はどこまで安く済ませる気なんだかな。」


真行寺の声が笑っている。

ご機嫌は良さそうだ。


「分かった。盗聴器設置したら、ロビーに居て、軽く接触してみよう。」


「お任せします。」




真行寺は、川島の部屋に侵入し、盗聴器を設置すると、直ぐに戻って来て、迷った挙句、麗子の手を取り、強引に腕を組ませた。


「なんだいっ。」


予想通り怒られる。


「夫婦なんだから、多少なりともくっ付いてねえとだろう!?」


「アタシらの年代で、そんなベタベタしてる夫婦居ないよっ!」


「仲良し老夫婦に見せて、向こうを安心させる作戦なんだよっ!いいから、俺の言う通りにしとけ!」


麗子は渋々腕を組みながら、真行寺をギロリと睨んだ。


「ドサクサに紛れて、これ以上おかしな事したら、短刀抜くからね…。」


「おま、お前、短刀なんか持って来てんのかよ!よく飛行機通ったな!」


「機内荷物に入れなきゃ持ち込めるだろ!?短刀くらい当たり前じゃないか!女1人で海外旅行なんだから!」


ー相変わらず物騒な女だぜ…。


既に揉めつつも、ロビーへ仲良く連れ立って行き、紅茶を飲んでいると、川島夫婦が到着。


「奥さん、随分と派手だね…。ブランド品尽くめじゃないか…。」


「それで借金まみれなのかもな…。整形もしまくってるようだし…。」


「顔かい?確かに不自然だね。」


「顔も身体もって感じだな。」


「よく分かるねえ。流石エロジジイ。」


真行寺は麗子を一睨みすると、また腕を組んで、川島に近付き、話しかけた。


「日本人の方?」


「ええ、そうです…。ああ、あなたも!?」


こういった観光地らしい観光地でも無く、主に外人ばかりのところだと、日本人に会うと、何故かホッとするのが通常の心理で、真行寺はそこを突くらしい。


「ええ。いつまでここに?」


「4日程です。いやあ、安心しました。僕、英語が苦手で…。」


「それならいくらでもアテにして下さい。私は海外勤務が多かったので、妻も私も英語は得意なんですよ。」


「わあ、助かります。正直、食事も憂鬱だったんです。」


じゃあ、何故こんなところまで来たのか。

矢張り、怪しい。


「ではお近づきの印に、夕食をご一緒に如何かな?」


「是非!な!?」


川島が妻に同意を求めると、川島の妻、亜紗見は、ロマンスグレーの真行寺に早速興味を示した様で、愛想良く、お願いしますと言った。


部屋に戻ったら、直ぐに盗聴器の音声を聞く。

亜紗見は、真行寺が素敵だとか、そればかり言っている。

ところが、川島の方は、別段妬くわけでも無い。


「ちょっと遠いけど、真行寺さんに言ったら、一緒に行くって言ってくれないかな?」


「ー何?こんな所に来てまで競馬なの?」


「本場だぜ!?行ってみたいじゃないか!」


「真行寺さんが行くなら、私も行ってもいいわ。

どうせ、こんな田舎、ショッピングなんか出来ないし。

ねえ、本当に大金になるんでしょうね?代わりに命取られたりしない?」


「しないだろ。俺殺したって、得になんかなりゃしない。情報流し続ければ、その都度大金は入って来る。向こうは欲しい情報を得られる。お互いの為にも、俺は生きてた方が得。

そして大金持ちだ。」


真行寺の眉間に皺が寄った。


「ビンゴだな。しかも、亭主はギャンブル依存症か。」


「それじゃあ、いくらお金があっても足りやしないね。」


「うん…。しかし、情報漏洩に、なんの罪悪感も無い。どうなってるんだ。」


「最近の若いのにはよくあるんじゃないのかね。」


「そうだな…。図書館に居たら、ボコボコにしてクビだけどな。さて、相手は誰かだな…。」




龍介は瑠璃に宿泊者を調べさせ、一応、龍彦に確認して貰ってから、真行寺に電話した。


「確認した所、宿泊者の中に、怪しい奴は居ないよ。」


「ーそうか。まあ、そうだろうな。一緒に泊まってたら、却って足が着く。外から来るんだろ。」


そうこうしている内に、約束の食事時間になった。


「な…仲良く頼むぜ…。」


冷や汗をかきながら、また腕を組む真行寺を、面白そうに見ながら、麗子が頷いた。






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