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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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若干バレバレだが…

翌日、瑠璃に会うと、もう既にあらかた調べておいてくれた。


「流石にグランパの同期の方はみんな凄い人達で、うちの理事長を始め、経済界や官僚のトップばかりだけど、特に、この元国家公安委員長の方は剣道部で一緒だったし、未だに時々連絡を取り合ってらっしゃるようよ。」


「有難う。じゃ、アポ取ってみよう。」


龍介が電話し、真行寺の孫だと名乗ると、快く自宅に招いてくれたので、早速出向いた。


「突然すみません。」


「構わんよ。真行寺が目に入れて泳がせる位可愛がってる龍介君だろう?

一度会ってみたいと思ってた。」


元国家公安委員長の長谷部という老人は、真行寺よりは年相応に老けてはいるものの、なかなか矍鑠(かくしゃく)とした格好いいお爺さんだ。


「学生時代の真行寺は、顔と頭はいいが、所謂、最低男だったな。

モテるのをいい事に、そこら中の女の子に手をつけて。

まあ、プレイボーイだ。

でも、よく見ていると、ちゃんと断れないだけなんだ。優しいんだよ、女性に。」


「いやあ…。ちゃんと断った方が親切だと思うんですが…。」


「はははは。君の方が大人だね。

まあ、そんな訳で、断れない真行寺には、実は入学当初から好きな女性が居た。

それが春日麗子さんだ。」


「へえ…。」


「ところが、麗子さんも顔と頭はいいが、えらい気が強くてね。

諸刃の剣だな。どこ触っても、こっちが怪我するタイプ。

真行寺は、初めて自分から人を好きになったもんだから、どうしたらいいか分からない。

頑張って麗子さんに話しかけてみると、ドスケベに用は無いなどと悪態を吐かれ、言い合いになっておしまい。

小学生より酷かったね。いつも喧嘩になってんだもん。

その癖、その後の、真行寺の落ち込み様ったら無い。やけ酒。

そしてまたどうでもいい女の子を相手にしてしまう。以下繰り返し。」


「何をしてんですか、グランパは…。」


本気で呆れかえっている龍介を見て、長谷部は吹き出し、腹を抱えて笑った。


「はははは!こりゃ、トンビが鷹だな。

まあ、そんな感じ。

しかし、真行寺もこれではいかんと、卒業前に漸く気づいた。

麗子さんに、あの女の子達とはきっぱり別れるし、2度とそういう事はしない。

君一筋に生きて行くと、俺なら顔から火が出そうな事を麗子さんに言って、一応、愛の告白をした。

麗子さんも、実は真行寺が好きだったんだろうな。うんて言ったんだ。

それで、真行寺は、女の子達全員集めて、もう付き合えないと宣言したまでは良かったが、女の子達に泣かれたりすると、グラグラと…。

それで結局、自宅まで追いかけられてしまった。

自宅には、麗子さんが待ってたんだ。

そして、玄関先で揉め出し、事情を麗子さんから聞いていた父上は大激怒。

女の子達には、父上の方から、息子の事は諦めて欲しいと言って貰って、決着はついたが、麗子さんは完全にしらけてしまった。

自分で決着もつけず、結局は父上任せだったからな。

そして、怒った父上は自分だけならまだしも、麗子さんの顔にまで泥を塗りおって。もう貴様を殺して俺も死ぬと、日本刀を抜いて、追いかけ回し…。

で、麗子さんは去り、卒業するなり、長岡と結婚してしまったと。こういう訳だ。」


「そりゃ、グランパが悪いですね。麗子お婆さんが怒って、見限って、当然だ。」


「その通り。でも、真行寺にしてみたら、本気だった。

もう少し猶予というか、待って欲しかったんだな、麗子さんに。

せめて、一件の直後に結婚しなくたっていいじゃないか、しかもあんなポワンとした男って、2週間はやけ酒してたな。」


「はああ…。それで、過去の様々な失態と、傷が疼くので、麗子お婆さんに会うと、あんな状態に?」


「だろうな。相変わらずガキだな。」


「2人を仲直りさせたいんですが、どうでしょう?

まだそんなモヤモヤと、お互いに角突き合わせてるって事は、やっぱり好きなのでは?」


「だろうね。今だって、会えば必ず、麗子さんの話題は出る。

どうしてあんないつまでもいい女で、気が強いんだかと…。」


「やけ酒ですか。」


「おう。分かってきたな。その通り。

君の自慢と麗子さんの話がメイン。

間に少し龍彦君としずかちゃんの話って感じだな。

ただまあ、爺さんと婆さんだからなあ。

それに、元々、2人して素直じゃない。

仲直りさせて、あわよくばくっ付けてやるというのは、厳しいんじゃないのか?」


「そうですか…。」


ずっと黙っていた瑠璃が遠慮がちに口を開いた。


「2人っきりで逃げられない状況にしてみたら如何でしょうか。

モヤモヤ抱えてるなら、必然的に、そういう話になるのでは?」


「おや、お嬢さん、策士だね。それはいいかもしれない。でも、そんな機会あるのかな?」


龍介はふと何か思いついた様子で、ニヤリと笑った。


「やってみます。」


龍介は長谷部の家を出るなり、優子に電話し、計画を話す。

優子はノリノリで引き受けてくれた。


電話を切った優子、バッとリビングを見る。

麗子は拓也とテレビゲームで伊達政宗になっており、夢中。


「もおお!上手く技がはまらないね!」


「婆ちゃん、その技タメが長すぎるから使わない方がいいよ、初心者なんだから。」


「だって、これが1番かっこいいじゃないか!」


という訳で、周囲は全く目に入っていない。

これはチャンスなので、亀一と栞をそっと呼ぶ。


「ちょっといらっしゃい。」


「はい。」


素直に返事をし、立ち上がる栞の横で、亀一は身を固くした。

優子のこのトーン、長岡家名物のお説教部屋で3時間コースの時と同じである。


「何…。俺、何にもしてねえぞ…。」


「いいから、ちょっといらっしゃい。」




場所はお説教部屋だったが、内容はお説教ではなかったので、ほっとしたものの、亀一は困った様な顔になった。


「あのさあ…。グランパと再婚したとして、麗子ババアは幸せになれるのかよ。

今の俺たちから見るグランパは、かっこいいし、仕事出来るし、動きもそこら辺の刑事より遥かに勝ってて、大変頼もしい。

お爺ちゃんとしても、父親として見ても、理想的な人だと思う。

だけど、その大学時代の話聞いてると、男としちゃあ、最低の部類だろ。大丈夫なのかよ。」


「だって、その時だって、君一筋に生きて行くって言ったじゃないの。大丈夫よ。

それに、私、何度も、私に、『和臣でいいのかい。』って聞いたお義母様の顔が忘れられないの。

きっと、後悔なさってるんだと思う。

ああいう方だから、後悔がこんがらがって、真行寺顧問に対する怒りになっちゃってるのかもしれないわ。」


「はああ…。」


乗り気でない亀一とは裏腹に、栞はやる気になっている。


「それで何をすればいいんですか、お母様。」


優子は膝を詰め、小声で計画を語った。




「どうしたんだい、栞ちゃん…。」


ゲームが終わって、ハッと気がつくと、栞がぐったりとソファーに横になり、亀一と優子が介抱している。


「それがね、お母様。

急につわりが酷くなっちゃったみたいで、さっき凄い勢いで戻しちゃって、何も食べられないって言うんです。」


「あらら…。それはいけないね。

栞ちゃん、痩せてるから、子供に栄養やろうとして、栞ちゃんの身体に負担が行っちまうよ。

何か食べれそうな物はないかい。」


心配そうに聞く麗子に、栞は弱々しい声で言った。


「しずかおば様のバナナケーキが食べたいです…。あれなら食べれそう…。」


「んー、アレなら確かに栄養価も高いし、アレが食べられりゃ、心配は無いけども…。

でも、しずかちゃんの味を再現出来る人は…。」


そこで間髪を容れず優子が言う。


「居ませんわ。

という訳で、お義母様、ご面倒ではございますが、イギリスまで取りに行って頂けないでしょうか。」


「ーへえっ!?」


麗子がびっくりしている。

滅多に見られないので、亀一は吹き出しそうになった。


「しずかちゃんにはもう頼んであります。

飛行機も取りました。

今日の午後の便で、今から出れば間に合います。

栞ちゃんはもう飛行機は心配ですし、亀一も栞ちゃんを置いて行くわけにはいきません。

私もクリスマスに年末年始で、宇宙人の方々をお招きする準備が。

というわけで、お義母様、お願いいたします。」


麗子は呆然と優子を見つめた後、ニヤリと笑った。


「何の策だか知らないが、他ならぬ優子ちゃんの策なら乗ってやろうかね。

いいよ。行って来よう。」


なんだかバレバレである。


「お袋、準備周到過ぎんだよ…。もう少し自然にやれよ。」


「う…。だって…。」


「まあ、いいさ。じゃあ、イギリス行って来よ。」


こうして、バレバレなのが若干微妙ではあるものの、麗子は優子に送られ、空港に向かった。



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