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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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作者発見

亀一達は2度目なので流石にそこまでは驚かなかったが、竜朗と柏木は、放り投げられた、ずぶ濡れの真行寺と龍介を見て、半狂乱に近い状態で驚き、慌てて保温シートを2人に掛けた。


龍介はさっきの真行寺同様、歯をガチガチ鳴らしながら、タンザワッシーに言った。


「ぞれじゃ、あいござんみづげどくがら、まだぼんだらぎで…。」


人間には何を言っているのかサッパリ分からなかったが、タンザワッシーには分かったらしく、あおんと返事をすると、消えてしまった。

タンザワッシーが消えると、龍介が何か言った。


「どらあ。」


暫くして、寅彦がキョトンとした目で自分を指差しながら振り返った。


「お、俺かあ!?」


龍介は頷き、話し始める。


「ダンザワッジーをがいだじとが、だんざばごにがんげいじでるがら…。」


「龍…。着替えてあったまってからゆっくり聞くから…。何言ってんだか分かんねえし、鼻水垂れてるぞ…。」


龍介もイケメン台無し状態。

タンザワッシー、恐るべし。


「着替えたら温泉行こ!今日はそこ泊まろ!ああ、良かった!2人とも帰って来て!」


見るからに喜び一杯の竜朗がそう言って、柏木は帰り、5人で近くの温泉宿に入り、漸く温まって、夕食を囲みながら、いつものかっこいい龍介と真行寺に戻り、一同ある意味ほっとした。

ただ、真行寺のおでこに、未だに葉っぱが付いているのは、かなり気にはなったのだが、敢えて聞かない竜朗。


「だからさ、俺はあいこさんて人の事、丹沢湖周辺で聞き込みしてくるから、ある程度定まったら、寅、調べてくれる?」


「おう。」


「きいっちゃんは俺と聞き込み。グランパは無理の無い様にドライバー。明日の予定はこんな感じでどう?」


真行寺は笑顔で頷くと、竜朗の視線が思いっきり自分のおでこに集中しているのを見て、意地悪く笑って聞いた。


「気になるんなら聞けよ。」


「いや…。受け入れ難そうなので…。」


「俺もそうだったが、もう現実って受け入れちまった方が楽だぜ?」


「うう…。」


「なんかたんこぶだけじゃなく、血圧もいい感じなんだよなあ。凄え葉っぱだぜ。」


「は、はあ…。」


戸惑う竜朗は戸惑ったまま夕食を済ませ、戸惑ったまま寝て、そして翌朝帰って行った。




翌朝、龍介と亀一、直ぐに調べられる様に寅彦も付いて、聞き込みに回った。

丹沢湖周辺には、いくつかの飲食店、記念館、宿泊施設などがあり、先ず近いところで、ボート乗り場から始めた。


「あいこさんという、絵の上手な人を知りませんか?幼稚園で自作の絵本で読み聞かせをしてたみたいなんですが。」


こんな具合で龍介が聞くが、分からないと言われてしまった。


龍介は、次の飲食店に向かいながら思った。

タンザワッシーの世界には、丹沢湖に似た湖があり、その水辺の丘でタンザワッシーは暮らし、丘の逆側には真行寺が初めて行った時見た、平原が広がっていた。

そのタンザワッシーの世界の丹沢湖の風景は、ボート乗り場から見る景色とは違う。

タンザワッシーの世界の丹沢湖と似た様な感じで見える所を探した方が早いかもしれない。

龍介は記憶を辿りながら、景色を見て回り、そして見つけた。

その風景の前には飲食店がある。

早速入り、店員のおばちゃんに聞くと、いきなり暗い顔をされてしまった。


「あいこさん、何かあったんですか。」


「うーん、あのね。愛ちゃんは確かにここに勤めてたんだけど、突然辞めたいって言い出して、それっきり来なくなっちゃったのよ。

ここから見る丹沢湖が1番好きだって、絵本まで描いて、自分ちの近くの幼稚園に読み聞かせに行ったりしてさ。

凄く上手かったから、絵本が売れて、作家さんにでもなるの?って聞いたら、そうじゃない、絵本は相変わらず採用されない。そうじゃなくて、もう丹沢湖が見たくないんだってさあ…。

あんなに好きだったのに、どうしちゃったんだろうと思ってね…。」


「本当、どうしたんでしょうね…。」


「ねえ…。住まいはこの近くのアパートだから、私も顔見に行ったりしたんだけどさ…。どうしたのよって聞いたんだけど、答えてくれなくてね。」


おばちゃんに礼を言い、あいこさんのフルネームを聞いた龍介達は、店を出て、車に戻って、寅彦に調べて貰う事にした。


「倉田愛子、35歳。独身。現在無職。確かに以前はそこの食堂で働いてたな。アルバイトだけど。

何度も絵本の持ち込みを出版社にしてるけど、断られてる模様。

週に一度、食堂が休みの日には、丹沢幼稚園でボランティア活動。

やっぱ、タンザワッシーの産みの親で間違いなさそうだな。

なんであいこさんは、急に丹沢湖が嫌んなっちまったのかな。

タンザワッシーの舞台にする程気に入ってたのに。」


寅彦がそう言うと、龍介は頷きながらいつもの様に明快に、且つ冷静に答えた。


「そこを解決しない事にはタンザワッシーの世界がなくなっちまう。

タンザワッシーの世界が存在してる、消えかかってるって事を説明した上で可能な限り、その原因を解決しよう。」




という訳で、おばちゃんから聞いた愛子のアパートに向かう。


呼び鈴を押し、暫くすると、ガチャリとドアが開き、チェーン越しに何か真っ黒い物が覗いた。


「あ、あの、突然すみません。

僕は英学園高校1年の加納龍介と申します。

あなたが描いている絵本の事で、お話とお願いがあって来ました。

き、聞いて貰えませんか。」


流石の龍介でさえ、時々口籠ったのには訳がある。

その真っ黒い物は、愛子の様なのだが、よくよく見ると、見た事も無いくらい虚ろな目をしており、見える範囲だけでも、髪はボサボサ。

性別も判別不能な位、構っていない様子が伺えたからである。


「ー絵本の事…?」


愛子がぼそぼそと聞き返した。


「はい。あなたが描いた恐竜は、丹沢湖に時々現れ、接触を試みた所、あなたが続きを描いてくれなくなったので、タンザワッシーの世界が滅びかけていると訴えたかったのが分かりました。

あなたに続きを描いてくれと頼むと約束してしまったので、ここに…。」


ドアが乱暴にバタンと閉まった。

荒唐無稽な話に、作者と雖も、信じてくれず、変な人扱いされたのかと思っていると、チェーンを外す音がし、ガバッと開いた。


「入って。因みにタンザワッシーじゃなくて、コウタって言うの、あの子。」


愛子の虚ろな目が輝きを取り戻していた。






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