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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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正体は分かったが…

越田の家を出ると、3人揃って、何の相談もする事も無く、自販機でブラックコーヒーを買い、電車に乗った。

言わずもがな、口の中が甘ったるくてしょうがなかったからである。


「しかし、ああいう手作りの味ってのは驚いたな。デパ地下の味じゃん。」


人心地ついて、龍介が言うと、激しく頷く2人。

亀一も堰を切ったように言い始める。


「ほんとだよ。うちのお袋は、お菓子ってのは作らねえけど、慣れ親しんだしずかちゃんの味にしても、加奈ちゃんの味にしても、唐沢や鸞ちゃんのだって、同じ物作ったって、どっか違って、なんか顔が浮かぶ味がすんのに、なんだあれは。」


「確かにきめ細かくて、母さんよりはずっと上手いんだろうとは思うけどな…。不思議な物食べた…。」


「あれは手作りの有り難みって無えだろ…。」


寅彦の言葉に深く頷き、やっと本題に入る。


「あ、あまりの衝撃に忘れる所だった。で、きいっちゃん。」


「ああ、そうだった。ママベッタリにも衝撃受けて、馬鹿になった様な気分だな。

あれは、スポックさんが持っていた、要注意読本という冊子に出てて、訳して貰った所、敵性宇宙人の項目にあった。」


「敵性宇宙人?」


「そう。スポックさんの星の技術力だと、結構離れてる、違う銀河でも行けるだろ?

そん時に、この光を見たら逃げなさいと書いてあった。」


「逃げなさいって…。対策は…。」


「ある訳ねえだろ。スポックさん達だぜ?戦いは好まない。

寄って、逃げるだけなので、姿形も見た者は無く、この光だけ。

話に寄ると、この光で攻撃してくんだそうだ。」


「ーつまり、その攻撃的な宇宙人が何故か上り方面の電車のみを攻撃していて、それを写真に収めた越田も襲ったと?

宇宙人襲来かよ。」


「いや、それはどうなんだか。越田はともかく、あんな火傷する様な電流を電車に浴びせたら、電車止まっちまうよ。」


「うーん、正体が掴めても、なんだかさっぱり分からんな。」


パソコンを広げていた寅彦が言った。


「親父が管理してた、あそこの監視カメラデータが来た。

越田が襲われれた後は異常無し。

ただ、熱の無いオレンジ色の光は、上り方面電車が来るたびに光ってはいる様だ。」


「つまり、電車は攻撃しておらず、越田は攻撃されたって事か…。分かんねえなあ…。」


事件の話が行き詰まると、どうしても話が衝撃を受けた事に戻ってしまう。

本当に、余程のカルチャーショックだったらしく、3人の頭から越田家で目にした全てが離れない。


「聖ガブリエルの連中って、みんなああなのかね…。」


寅彦の呟きに唸る2人。


「だろうな…。なんかもう1人の横田だか横川だとかいう奴も同じ様な感じだったって瑠璃が言ってたし…。」


亀一の眉間に深い皺が寄る。


「俺の息子は絶対、聖ガブリエルには入れねえ…。」


龍介達も激しく頷いて賛同。


「あ、きいっちゃん、スポックさん達に、一応、聞いてみてくれる?さっきの敵性宇宙人の事。」


「了解。」


龍介に言われ、亀一がスポックにメールしていると、寅彦が唸った。


「なんか問題か?」


龍介が聞くと、苦笑して首を振る。

それを見て、察した龍介も苦笑して言った。


「異次元世界よりびっくりな奴だったな。」


「ほんとだよ…。頭から離れねえ。しかもあのコテコテの鉄ちゃん部屋。」


「言えてんな。暫くふとした瞬間に苦しめられそうだぜ。」




雑色駅で降りると、真行寺は駅前の喫茶店に入っているというので、龍介達もそこに向かう。


「ケーキかなんか食うか?」


3人して目を剥いて断る。


「いや!しょっぱいもんで!」


「なんかあったのか…?まあ、いいや、座んなさい。」


3人揃ってコーヒーとハンバーグランチを頼んだ。


「越田君ちでまずいもんでも食わされたのか?」


流石真行寺、察しがいい。


「いや、決して不味くは無い。不味くは無いんだけど、不思議な極甘ケーキを頂いて、カルチャーショック。」


「不思議な極甘ケーキかあ…。

まあ、しずかちゃんのにしても、加奈ちゃんのにしても、瑠璃ちゃんや鸞ちゃんのまで、甘さ控え目の美味しい手作りお菓子だもんな。

それしか食ってねえもんな。龍介達は。

よその家のはレシピ通りだとすると、甘さはしずかちゃんのケーキの約2倍だって、しずかちゃんが、前に言ってたぜ。」


2倍で納得する3人。


「で?そっちはどうだった?」


龍介達の報告を聞いた後、丁度スポックからの返信があり、亀一が読み上げた。


「『彼らの事は本当に分かっていないのです。

1度だけ、警告も無しに、あのオレンジ色の光で攻撃され、宇宙船の一部が溶けるという事件が起き、それ以来、オレンジ色の光を見たら逃げるというのが、決まりの様になりました。

相手の事を調べ様にも、見えるのはオレンジ色の光のみで、それが、何処かから放出されているというのしか分からず、他には一切何も見えず、交信を試みても無反応なので、触らぬ神に祟りなしという感じになっています。

だから、我々も、何も知らないのです。

ごめんなさい。』

との事です。」


「うーん…。難しい案件だな。相手の姿は見えず、いきなり電流で攻撃して来るしな。

今のところ分かっているのは、オレンジ色の光は何かから出てるという事と、人間は攻撃したが、電車は攻撃していないと。

そんな感じだな。」


「そうだね…。寅。はっきりした光の出るポイントは割り出せる?」


「そりゃきいっちゃんだな。角度とかなんとかとか物理学だもん。」


それじゃあと、亀一が寅彦のパソコンを受け取り、計算を始める。

真行寺がサンドイッチを食べ終え、タバコに火をつけながら言った。


「熱に対抗出来る消防士のより凄えという防護服を頼んどいた。えらい重さだけどな。

そろそろ来るだろう。

それと、捕獲銃も頼んでおいた。

それでそのポイントが分かったら、行くしかないな。」




30キロはある感じの、えらい重さの防護服と、捕獲銃も届き、龍介達は、亀一が割り出したポイントに向かった。

京急には事情を説明し、線路内に入れて貰う。

ポイントは、丁度柱の陰だった。

ポイントに近づくなり、早速攻撃の光が出た。

龍太郎の新作、CーBDーTという盾でその攻撃を受けつつ近づく。


「龍、CーBDーTったあ、なんだ…。」


聞く亀一に、龍介は悲しそうに答えた。

分かってしまうのが、段々悲しくなってきてしまったらしい。


「超防弾盾だと思うぜ…。」


「ついて行けねえな…。俺はあそこに入って、上手くやっていけるのだろうか…。」


亀一の苦悩と、龍介の悲しみはさて置き、光の攻撃の合間に、人の姿の様な物が見えた。


「今だ!」


真行寺の号令で、捕獲銃を放ち、それを捕獲。

初めの内は、捕獲網がもぞもぞと動いている様にしか見えなかったが、何か機械の様な物が落ちて、龍介の方に転がって来ると、次第に姿が見えて来た。

それはピッタリとした銀色のウェットスーツみたいな物を着た女性だった。

姿が見えると同時に、声も聞こえ始めたが、例によって、聞いた事も無い言語で、全然分からない。

試しに、スポック達から借りて来た、自動翻訳機をその女性に当ててみたが、スポック達の言語とも違うらしく、翻訳出来ない。


「困ったな…。お嬢さん、落ち着いて。話をしよう。」


真行寺が宥めるが、ワアワア泣いて、何かを探している。


「これか?」


龍介が手に取り、見せると、頷いて、手を伸ばす。


「でも、これで攻撃の光出して来たり、姿消すんだろ?それは困る。攻撃しないでくれるなら、返すけど…。」


泣いて暴れる女性宇宙人。


「グランパ、どうする?」


「うーん、タンザワッシー語が分かる龍介でもお手上げとなると…。」


真行寺はしゃがみこみ、メモ帳を取り出し、絵を描き始めた。

流石、龍彦の父。

結構上手い。


真行寺はオレンジの光を描き、女性宇宙人見せた。

女性宇宙人は黙って、見ている。


「これ、ダメ。」


真行寺はその上にバツを付け、次に、越田が怪我をしているところを描いた。


「こうなっちゃうから。だから、えー…。」


再び、光にバツが付いた物を見せながら、龍介が拾った機械を手に、


「この光攻撃止めてくれるなら、これは返す。」


と、繰り返すと、女性宇宙人は頷き、真行寺から、メモとボールペンを取り、何やら描き始めた。

女性宇宙人が描かれ、地球人や、多分スポック達に吹き出しで話しかけている様子が描かれ、スポックや地球人は、はてなマークの様な物を出して無視して行ってしまうという感じの絵だった。


「そうか…。どこの星の人間とも言葉が通じないのか…。それで、あなたはどうしてここにいるの?何をしたいのかな?」


真行寺は女性宇宙人の絵の横に自分を描き、頭を撫でてるところを描き、吹き出しを作ると、その中に、家の絵や、宇宙船の絵などを描いて、クエスチョンマークを付けた。


女性宇宙人は嬉しそう笑った。

落ち着いてみると、かなりの美人で、グラマラスときている。

なかなか魅力的な女性なので、亀一と寅彦は意味深に笑って、真行寺を見ていた。

亀一は栞とのデート中に、プレイボーイ爺さんをして、若い女の子を連れて歩いている真行寺に遭遇した事がある。

その若い女の子は、そういう感じだった。

背がすらりと高く、スタイル抜群の巨乳で、モデルの様な美人。

なんだか全身作り物の様に思えたが、後で聞いたら、遊びにはその方がいいんだそうだ。

本当の好みにしてしまうと、遊びでなくなるので、面倒だとか。

という話を、龍介にはショックが大きそうなので、寅彦にだけしてあったので、2人で、よしんば引っ掛けるつもりではと、意味深に笑って見ていたのである。

真行寺がその視線に気づき、ギロリと2人を睨んだ。


宇宙人女性は、一生懸命、答えの絵を描いている。

家は遠くの星にあるという感じの絵に続き、そこから、調査の為、地球に来た事。

ところが、宇宙船が故障。

川に落ちてしまい、宇宙船は完全に動かなくなり、この機械だけ無事だったので、どうにかして星に帰る方法は無いかと、彷徨っていたら、凄まじい音を立てて走る塊を発見。

それを頂戴して、星に帰ろうと思い、オレンジの光の機能の1つである、航路設定の光を出して、星の航路に変更させて、飛び乗ろうとしたのだが、航路の変更もなかなか出来ない。

持ってきた食料(錠剤らしい)も尽きてしまったし、困ったなと思っていたら、向こうから光が出たので(恐らく越田が写真を撮った時のフラッシュだろう)、攻撃されたと思い、反撃したーというのが分かった。


どうも、この女性宇宙人の星は、スポック達の所の様に、全てにおいて、科学が発達しているわけでは無いらしい。

宇宙船や、多機能のオレンジの光。

姿を消せる機械の機能。

それに、食事は錠剤で賄えるなど、近未来的な事は沢山あるが、自動翻訳機も無い様だし、電車も知らない。

多分、歴史上に電車は無いのだろう。

カメラのフラッシュも知らない。

江戸時代の人間が偏った発展をした文明社会に生きているかの様だ。


真行寺は、スポック達宇宙人仲間がいる所に連れて行くから、ここを離れようと説得を試みたのだが、女性は頑なに首を横に振った。

そして描いた。

真行寺にピッタリくっ付く自分の絵を…。


「ええええ!?俺と一緒に!?ちゃんと、着いて行ってあげるから、それじゃダメか?」


絵に描くと、泣く女性。


「モテモテですね、グランパ。」


揶揄う亀一に怒る余裕も無い。


「参ったなあ…。取り敢えず、お腹空いてるでしょ?普通のごはんは食べられる?」


また絵で聞くと、頷く女性宇宙人。


「じゃあ、どっか入るとして、その前に着替えないと目立ち過ぎるから…。龍介、なんか買って来て。服。」


「えええ…。この辺、分かんねえよ…。」


「なんかしらあるだろ。はい、きいっちゃんも。」


という訳で、一応危険は去ったが、言葉が全く通じない、真行寺しか信用しなさそうな女性宇宙人と、まだまだ問題が残る中、一行は二手に分かれた。








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