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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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越田と会う…

竜朗には帰って貰い、3人だけで越田の自宅を訪れた。


「初めまして。加納です。ごめんな…。直ぐ動かなかったばっかりにこんな事に…。」


越田は、怒っている様子は無かった。

でも、にっこり笑って許してくれるという感じでも無い。


「別に君達のせいとは思ってないよ。

相談した時は、鉄道マニアの心配事程度な感じだったし、僕らは英の人間じゃない。

でも、運動オンチの鉄道オタクの戯言(たわごと)だ、どうせ大した事じゃないってバカにして、忘れてたって面はあるんじゃないのか。

だから、君達はもう動いてくれないと思って、横田と2人で、あの光がなんなのか突き止めようと行ったんだ。

まあ、結局こんな事になっちゃって、何も分からずじまいだったけど。」


龍介は、腹を括って、正直に越田と向き合おうと思った。


「そこまでバカにしてたつもりは無い。

ただ、あの時、純粋な鉄道活動というのが、正直、バカバカしいとは思った。

そんな事の為に、行事が目白押しで、ただでさえ忙しいのに、動くのは面倒臭えなと思ってしまった。

でも、心霊騒ぎなんかになったら、他の乗客も迷惑だろうし、京急側も困るだろうから、落ち着いたら掛かろうとは思った。

でも、君が言う様に、そのまま忘れてたのは事実だ。

試験が終わったら早速調査すると約束しておきながら、忘れ去って、やきもきさせて、危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ないと思ってる。ごめん。」


最後のごめんで再び頭を下げると、越田は慌てた様子で龍介の肩にそっと手を置いた。


「驚いた。すごい正直で。

生徒会長に、剣道部主将、写真部部長までやってるって聞いたから、もっと弁が立って、言いくるめられるのかと思った。」


龍介が顔を上げると、越田は微笑んでくれていた。


「わざわざ家まで謝りに来てくれたのか…。

有難う。

まあ、入ってよ。

調査の為、僕の話も必要だろ?

直前に撮った写真もプリントアウトするからさ。」


「有難う。本当ごめんな…。火傷はどう?」


「まあ、ちょっとは痛いけど、大丈夫だよ。ママー。」


その瞬間、龍介達3人は青い顔で仰け反ってしまった。

全員、同じ思いが頭を駆け巡っている。


ーママだと!?この年で!?朱雀位かと思ってたぜ!


仰け反る3人を不思議そうに見ながら、越田は母親に龍介達を紹介。

対して、龍介達は、(ほう)けた顔のまま、なんとか挨拶を交わし、二階の越田の自室に通される。

ママと呼ばれた母親は、いきなり現れたイケメン3人衆に喜び勇んでいた様だが、そんな事は知った事では無い。

3人の母親達より、20位年上に見える、おばちゃんおばちゃんした人だったが、それもどうでもいい。

確かに、英は質実剛健をうたっているだけに、入って来る子も、雄々しいタイプが多い。

課外活動もハードな物が多いので、身体の弱い子や、運動嫌いの子も入って来ない。

従って、多分だが、同学年で、母親の事をママと呼ぶ子は居ない。

居たとしても、人前ではママとは言わない。

反して、聖ガブリエルは、勉強や研究活動に重きを置いており、課外活動も普通だし、体育会系の部活動も盛んでは無いと聞いてはいる。

聖ガブリエルの体育会系の部は、県の大会でも、いつも最下位だし。

ひ弱なガリ勉の学校というイメージが有名な学校ではあり、今初めて会った越田も、そんな感じだ。

しかも、17にしてママと言う…。

勉強一筋の母子一体型のガリ勉像が、自ずと浮かんでしまうのは、先入観の問題だけでは無い気がしてしまう。


呆然としながら、越田の部屋に通されて、またしても絶句して固まる3人。

今度は、初めて見る、コテコテの鉄ちゃんの部屋にカルチャーショックを受けている。


凄いとしか言いようが無い。

写真部部長で、そこそこの腕とセンスを持つ龍介からしてみたら、かなり下手くそな、見た事無い様な電車や汽車の写真が大きくプリントアウトされ、壁から天井から、家具が無いところ全てに貼られ、その合間に、古い駅の看板だとか、多分、レバーというのか?運転手が操作する何かとか、計器板とか、昔の特急の正面に付けられていたっぽい、丸い看板みたいなのとかが、所狭しと飾られている。

本棚も、勉強関係以外は全て鉄道関係の本…。


ー凄い…。凄すぎる…。これが鉄道マニアというものなのか…。インテリアのイの字も無えな…。


3人共、母が家の中を整理整頓して、綺麗に飾るのが好きなので、自分達の部屋でも、インテリア性と、機能性と煩く言われて育ったせいか、そこそこのインテリアセンスは持ち合わせているので、この雑多な倉庫の様な環境にも度肝を抜かれていた。


「びっくりしちゃった?落ち着かないかもしれないけど、座って。

今、ママが飲み物持って来るから。」


立派にバリバリにとまでは言わないが、髭だって生えているし、同い年である亀一は実質結婚して子供が産まれるというのに、人前でも平気でママと言い、ママ頼み…。

薄ら寒くなって来たが、龍介は用件に入った。


「じゃ…じゃあ、順を追って、話して貰えるか?」


「うん。何度か、あの光を見てて、雑色を出て、直ぐの線路脇から出てるのが分かったんだ。

それで、そこが撮れるポイントを探して、電車が通るのを待ってた。

電車が通らない限り、あの光は出ないんだ。

しかも、品川方面行きだけ。

横浜方面には無いからさ。

帰りにも必ず先頭車両に乗って見たり、写真撮ってるんだけど、1度も無いんだ。」


「その…写真なんだが…。」


「あ、加納君、写真部の部長なんだよね。どうかな、僕の写真。」


(にこや)かに聞かれ、言いづらい事この上無かったが、龍介は良くも悪くも嘘がつけない。

仕方が無いので、なるべく言い方を柔らかくして言ってみた。


「せめて、カメラを構える時は真っ直ぐに。

お前の写真、必ず、微妙に右に傾いてる。

それから、黄金ルールというのがあって、水平線や、縦に線の様な物が入る場合、絶対ど真ん中には入れない事。

ほんの少しでいいからズラす。

それから、なんでもかんでも欲張って入れない方がいい。

情報過多になって、何を伝えたいのか分からなくなるから…。」


越田は素直な性格なのか、不機嫌になる事も無く、感心していた。


「へえー。凄いね、写真部の部長は。専門家みたいだ。分かった、気をつけるよ。」


ママという名の母親が、ジュースとケーキを持って入って来た。

高校生の男なのに、ジュースとケーキ…。

コーヒーや紅茶とケーキでない所もなかなかにカルチャーショック…。


「素敵ねえ。英学園の人はイケメンさんが多いのかしらあ。」


「ママ、あっち行っててよ。大事な話してるんだから。」


「はいはい。ごめんね、大希君。」


ー何…。なんなの、このベタベタした感じ…。幼稚園児じゃあるまいし…。大希君て…。あああああ…。


震えと冷や汗まで出てきた龍介達。

ここは速攻で済ませて、早い所出なければ、身が持たない。


「そ、それで…。」


「何度か失敗したんだけど、漸く写真が撮れたんだ。光の。

それをデジカメで確認しようと、横田と2人でカメラを見てたら、なんか熱いって思った時にはもう、光が直ぐ近くに来てて、僕、咄嗟にカメラ庇ったんだ。

そしたら、僕を襲うみたいに、その光が向きを変えて、僕の頭に来たから、腕で頭を覆ったら、火傷してて、横田が急いで救急車を呼んでくれたって感じ。

光はその時にはもう無くなってた。

あ、写真、プリントアウトするね。食べてて。ママが作ったんだ。結構美味しいよ。お店のみたいに。」


頂きますと、プリントアウト出来るまでの間、その美味しいというパウンドケーキを口に運んだが、3人の口には合わず、顔を見合わせてしまった。

確かにお店の物の様だ。

しずかと違って、丁寧に作っているし、素材にもこだわってる感じもする。

多分、技術は相当高い。

でも、甘味もお店のレベルなので、かなり甘く、それだけで、甘い物が苦手な3人は辛い。

そして、その味には、なんの個性も無いのだ。

ここまで個性っていうものは消せるのかというくらい、無個性な味がする。

しずかが、料理の味は性格が出ると言っていたが、これは、無個性な人と取ればいいのだろうか。

物凄く上手だとは思うのだが、工場の味がするのである。

とても全部食べきれる味では無かったが、手をつけてしまったので、ジュースで流し込んでどうにか食べ切った頃、写真が出来た。


オレンジ色の光は、以前越田が車内から撮った物とは違い、より大きく、そして、ボワーンとした光では無く、円錐の様な、くっきりとした形で、電車の横を斜めにかすっている様に見える。

尖った方が電車の方を向いており、攻撃している様に見え無くもない。


写真を見た亀一は、何かを思い出した様子で、

龍介に小声で呟いた。


「この形で思い出した。これ、スポックさんが持ってた冊子にあったんだ。」


「宇宙関係って事か?」


「うん。外出たら話す。」


龍介達は鳥肌を立てながらも、母親にもきちんと挨拶をし、漸く越田の家から出られた。





















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